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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百四十七話 ダニエラの見解

 ゆっくりと山を登るだけでも人は高山病になる。空気の薄さとの戦いは過酷だ。


 しかし此処は魔法の世界。風魔法の力を借りれば空気の問題も対処が可能かもしれない。


 そう思いながら下山してきた訳だが、拠点構築に勤しんでいると思っていたダニエラは何故か雪だるまを作っていた。計5体、大小様々な雪だるまが乱立していた。


「ダニエラ?」

「これは……そう、デコイだ。数の暴力だ」

「いや違う。これは雪だるまだ。雪だるまに暴力は似合わない」


 遊んでやがった。人が吐き気と目眩で苦しんでるっていうのに、此奴は……。聞けば除雪していたら大きな丸い雪玉になったところで何となく作り始めてしまったとか。


「周辺捜索も終えて暇だったしな……」

「はぁ……」


 唇を尖らせて逆ギレならぬ逆拗ねをキメるダニエラに呆れて溜息しか出ない。……が、気持ちは分からなくもない。この周辺は魔物も居ないみたいだし、遠くを探索するには時間が遅い。もう少ししたら西の空も赤くなってくる頃だろう。中途半端な時間がダニエラの遊び心に火を付けてしまっても、文句は言えまい。いや、言えるが。


「それで? この私を叱るアサギは何か収穫があったんだろうな?」

「何で上から目線なんだよ……まぁ、妙な事はあったよ」


 もう一度溜息で抗議の意を示してから先程見た光景を話した。山にしては妙に壁じみた山肌……あれは一体何だろう?


「ふむ……もしかしたらこの山は山じゃないかもしれないな」

「はぁ?」


 どう見たってこれは山だろ……と見上げてみる。どう見ても山です。


「アサギは知らないか? 隕石という空から落ちてくる石の事を」

「そりゃ知ってるけど……ちょっと待て、これがクレーターだって言いたいのか?」


 こくりとダニエラが頷くが、素直に納得出来る話じゃない。実際にクレーターを見たことがない身としては言葉に重みが全くないが、この山がクレーターだなんてありえない信じたい。


 とんでもない高さだった。上を見ても岩。右を見ても左を見ても岩。こんな視界いっぱいの壁が隕石の衝突で出来たクレーターだなんて、星に穴が空いても不思議じゃない。


「或いは、魔法で作られたか……それとも火山か」

「まだそっちの方が信憑性はあるだろうな……」


 カルデラの方がまだ良い。魔法ならまぁ、ありえなくもない。


 しかしクレーターか……中央には隕石が落ちてるのだろうか。カルデラなら、活火山か休火山か気にしなければならない。死火山なら最高だな。魔法だったら、古代エルフの所為にしておこう。誰も怒らないし、解決しない。問題の先送りは最高の解決法だ。欠点は解決しないことだけだ。


「また明日調べてみるよ。あぁ、そうそう。それでダニエラの力を借りたいんだが」

「私はこれでも忙しい身だが?」

「じゃあ雪だるま作ってんじゃねーよ。実はな……」


 その後、高山病対策としてダニエラが同行することになった。風の魔法で身を守るシールドを生成してもらう。陣地は無人になるが、誰も居ないし貴重品だけ持っておけば何かあっても被害は少ない。


「じゃあ夜が明けたら実行だ。頼むぜ相棒」

「了解だ。任せろ相棒」


 何だかんだ言っても暇だったのか、やる気満々なダニエラだ。これは明日が楽しみである。あの山の向こう側には何があるのか……アーサー達はどうやってこの先へと行ったのか……何だか眠れなくなってきた。


「なぁ、今から行かないか?」

「やだ」

「……」



  □   □   □   □



 翌朝、僕は早速準備をしてダニエラを待つ。


「早く早く」

「んんぅ……うるさいな……くあぁ……はふ……」


 瞼を擦りながらでかい欠伸をかますダニエラを急かすが、マイペースを信条としているダニエラは動かない。


「ほら早くしてよ」

「こういうときだけはげんきなんだから……」


 むにゃむにゃとぶー垂れるダニエラを急かして急かして急かした結果、驚くことに30分で支度を終えて準備万端になった。ダニエラの準備速度でこれは最速タイムなのでは?


「よし行こう、すぐ行こう、早く行こう」

「これ以上私を急かしてみろ。今すぐお前の周りの空気を薄くしてやる」

「ごめんなさい」


 流石に急がせ過ぎたみたいだ。よく見たらちょっと寝癖が残っている。それを見た途端に何だか申し訳ない気持ちになってきたのでそっと手櫛で梳いてなじませる。


「ななな何だ急に!」

「え? いや、寝癖が」

「ね、寝癖か……ビックリした。いきなり撫でるな……」


 顔を真っ赤にしたダニエラが一人で怒っている。撫でられて照れるような年でもないくせに……。まぁ機嫌が戻ってくれるのなら問題ない。漸く全ての準備が終わったみたいなので出発出来そうだ。


 ダニエラを抱えて白銀翆の風を両の脚に纏う。ふわりと巻き上がる風が僕とダニエラを空へと誘う。上昇をし始めたのを確認したダニエラがそっと魔力を漲らせる。色は翡翠。風の魔力。


「『風壁(ウィンドシールド)』」


 ダニエラが術名を唱えると皿型の翡翠の盾が現れる。それが無数に展開され、僕達を球状に包む。


「名前こそは『風壁』だが私が調整したオリジナルだ。風の精霊の手を借りて外の空気を中へ運び入れ、中の空気を外へ出す。これで新鮮な空気がずっと吸えるぞ」

「有能過ぎて語彙がなくなるわ……」


 凄すぎてもう……。精霊さんと仲良くなれるダニエラが羨ましい。僕のことが好きな氷の精霊さんと水の精霊さんは何処に居るのか。


 ゆっくりと上昇を始める。最初は真っ直ぐ真上に。ある程度昇ると、ちゃんと見えていた地上がぼんやりとした白いキャンパスになってくる。はっきりしていた木々はやがて地面と同化し、此処が遥か上空でああることを気付かせる。


「ふむ……今の所は問題ないようだな」

「ダニエラのお陰だよ」


 あっという間に昨日とほぼ同じ高度までやってきた。緩やかな斜面となっていた山肌は此処からだと離れて見える。つまり、僕が見ていた景色だ。防壁のような高い急斜面。ダニエラのクレーター説を聞いてから見ると、その存在の大きさみたいなものが腹の奥に響いてくる気がする。


「これがクレーター……まさかな」

「例えば元々山があって、其処に大きな星が落ちてきたというのはどうだ?」

「あー……」


 ダニエラの新たな説を聞きながら頭の中でシミュレートしてみる。勿論、《器用貧乏》じゃなくて持ち前の知識でだ。


 大きな大きな山があって、その中心に隕石が落ちてきたら……山肌を削り飛ばし、大きく抉ったら……んー……どう考えても無理だ。鋭角の隕石だったら? とか、山に当たった瞬間に大爆発した、とかならまだ可能性はあるかもしれない。


「それなら山肌は不均等なままだろう。此処まで綺麗に壁状になるか?」

「それは……」


 確かに変だ。まるで衝撃に押し出されたかのような形。それが経年劣化で多少不均等になった、と言われれば納得出来てしまう。それだけの条件が揃ってしまっている。


「ま、もしくは凄く不思議な形の山ってことくらいだな」

「それは何かアレだな……ガッカリだな」

「ははは、分からないことなんて、得てしてそういうものだ」


 そうかもしれないな……でもそういうものであっても、楽しいし、ワクワクする。それが冒険だ。


「んじゃあまずは……」

「山越えだな」

「よし!」


 この景色の先を見たい。勿論、アーサーも探すけど、この冒険の続きが気になって気になってしょうがない僕は、自然と両足に力が入ってしまう。


 ぐんぐんと高度を上げ、いつの間にか吹雪の中へと入り込んでいた。ダニエラの魔法のお陰で雪が侵入してくることはないが、一寸先が真っ白で何も見えない。


「山肌に沿って移動した方がいいな……」

「よし、ゆっくりと前に進むぞ」


 先程より山は少し離れているはずなので、ゆっくりと前へ進む。完全に視界が白に染まっているので怖いな……。霧であれば濃くても少し先なら見えるが、雪山だし空中だし障害物がないから距離が掴めない。自然と進む速度も落ちていく。


「アサギ、槍を前に出せばいきなりぶつかることはないぞ」

「でもそれだとダニエラをしっかり抱えられない……」

「問題ない。私がしっかり抱き着く」


 言うや否や腕を首の後ろに伸ばして絡めて、ギュッと抱き着いてくる。


「うへぁ」

「どういう声だ……」


 ダニエラの色々と大きくて柔らかいものが密着することで押し潰され、服越しであるが感触が伝わってきて変な声が出た。


「色々と拙くないか……」

「言ったろう。何も問題ないと」

「そりゃお前は何も問題ないかもしれないけどな……」


 此方は健康優良成人男性なのだ。問題しかない。


「ほら、槍を出せ」

「おいおい、こんな場所で自慢の槍を出せだって?」

「アサギの短槍に用はない。長槍の方だぞ」

「……」


 自慢の槍も鼻っ柱も折られ、嘆息しながら霧氷石の槍を取り出し、前方に構える。まぁ、これでいきなりぶつかるということもないだろう。もう一度溜息をついた僕はそっと速度を上げた。

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