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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百四十話 水龍討伐とイジリスの花

 これからどうしようかという話になった。


「俺ァ今すぐにでも瑠璃水龍の首を落としたいんだがな」


 そう言うのは雪猫様だ。完全に凍らせたつもりではいるが、確実に息の根を止めたい気持ちは僕もある。死んでるとは思うが、水龍最強種ともなれば凍らせただけでは死んでないかもしれない。


「だがあんなにガッチガチに凍らされちゃあ俺にも手出しは出来ん。アサギやれよ」

「……分かりました」


 ちょっとまだ本調子ではないが、もし生きていられたら困る。此処が踏ん張り所だ。仰向けに転がっていた体に力を込めて、立ち上がる。あの氷をも切り裂く剣となると、藍色の大剣の水刃化しかないだろう。今の状態で何処までやれるか……。


「どっこいしょ……っと」

「ジジ臭い……」


 剣を担いだらダニエラに嫌な顔をされた。うるさいぞ300歳。


 ひゅるりと風を吹かせ、両足に《神狼の脚》を纏う。風の力だけで滑るように移動し、ダニエラと雪猫様が空けた氷穴を下る。


「それにしても凄いな……」


 瑠璃水龍がブレスを吐き出した際、奴の魔力が雪猫様の魔力を上回った所為で氷の壁が溶けていたのを見たが、今はガチガチに凍っている。僕が魔力変換でブレス攻撃に使った魔力を変換しながら氷魔法、『氷凍零剣(ニヴルヘイム)』を行使したからだ。


 氷の壁から視点を凍ったブレスに向ける。まるで巨大な氷の槍だ。見上げると氷凍零剣とぶつかった地点から放射状に広がっている。氷の傘を通して再び晴れた陽の光が降り注ぐ。


 眩しさに目を細め、目を逸らす。次に目に入ったのは凍った瑠璃水龍だった。


「わぁ……」


 初めて見る水龍。敬いたくなるような厳かな雰囲気が、凍った姿からも伝わってくるようだ。長い瑠璃色の体は《神狼の眼》で水面に浮かんだ影だけ見たが、実際はそれよりも細く見える。首を残して体が凍っている状況を見るに、雪猫様の凍結攻撃から無理矢理抜けようとしたのが伺える。

 四肢は今まで見た竜種と同じように指と爪がある。違いと言えばその指の間の水掻きだ。薄いようだが、かなり強靭なはずだ。

 ブレスを吐き出す顔がはっきりと見えてきた。まるで自分が凍らされているとは気付いていていないような顔だ。ジッと見つめてみるが視線が合うことはない。


「よし……!」


 藍色の大剣を構え、少しだけ回復した魔力を流し込むと刃の根元から水が溢れ、ゆっくりと刃を覆っていく。それが切っ先まで届いた時、水刃化は完了した。それを振り下ろし、瑠璃水龍の頭を首から切り取る。芯まで凍った食品を切るような感触に嫌な顔をしながら氷穴に落ちていく首を追いかけ、回収して虚ろの鞄へ仕舞った。血は一滴も流れなかった。



  □   □   □   □



 氷穴から抜けると小島に上陸したダニエラと雪猫様の姿が見えたので僕も小島へと降りた。くしゃりと踏んだ草が割れる感触。小島の外周辺りまで凍っていたようだ。


「おかえり。ちゃんと死んでいたか?」

「あぁ、芯まで凍ってたよ。じゃあ湖の氷を解除するよ」


 氷凍零剣で凍らせた湖だ。僕の魔法で凍らせたのだから解凍も出来る。小島の上から手を伸ばし、凍った湖面に手を乗せ、氷の中にある僕の魔力を操作して溶かしていく。


「……うん、この様子なら5分もすれば全部溶けるだろうな」

「じゃあ溶けたら瑠璃水龍を回収してこないとな」

「……ん?」


 当然のようにダニエラが腕を組みながらアスル湖を覗き込む。それって誰が行くんですか?


「じゃあ5分休憩だ、アサギ。しっかり体を休めておけよ」

「マジかよ……」


 最近容赦というものがなくなってきた感がある。また僕に行かせるのか。回復した魔力は何処へ行く。湖の中か……。




 藍色の魔力を纏うことで少しでも水の侵入を防ぎながら湖底に沈む瑠璃水龍を回収した僕は漸く一息つける状態になった。焚き火を用意してくれていたダニエラには感謝だな。冷えた体がぬくもりを求めている。


「さてと……これで全部終わったようだな?」

「あ、はい。お疲れ様でした」


 寝そべっていた雪猫様が体を起こし、此方を見下ろしてくる。改めて見ると威圧感が凄い。流石白豹……ネコ科であって猫じゃない雪猫様は大きく欠伸をするとゆっくりと歩き始めた。


「昼間っから働き過ぎたな……家帰って寝る。邪魔な水龍を始末してくれてありがとな。達者で暮らせ」

「はい、雪猫様も」

「おう」


 それだけ言うと湖面を走っていった。唐突なお別れだ。そういうところは猫らしいと言えば猫らしいかもしれない。


「昼間から働き過ぎたか……一度は言ってみたい言葉だな」

「昼間働かないでどうするんだ?」


 ダニエラの疑問を無視して雪猫様のように草の上に転がる。あぁ、この焚火の暖かさと言ったら無いな……まるで炬燵のようだ……。



  □   □   □   □



 そんなぬくもりがもたらす睡魔に、知らず知らずのうちに僕は眠らされていたようで、ハッとして起き上がるとしっかりとテントの中だった。周囲を確認するとダニエラの温風の魔道具が置かれている。これのお陰で冷えずに済んだようだ。


 ゴソゴソと外へと這い出ると、すっかり夜になっていた。見上げると晴れた夜空に瞬く星々が僕を見下ろしている。


「起きたか」

「悪い、寝てしまった」

「昼間は働き過ぎたからな。仕方ない」


 おぉ……早速それを言われるとは。確かに僕はよく頑張ったと思うと褒めてやりたいところだが、起きたら夜はちょっとアレだな。寝過ぎだな。


 ダニエラの隣に腰を下ろし、ボーッと燃える薪を眺める。ボリボリと寝癖のついた頭を掻いているとダニエラが火掻き棒で薪を弄りながら話し始めた。


「この小島に魔物は居ないみたいだ。瑠璃水龍の所為で近寄れなかったんだろうな。だからアサギを置いて遺跡を見てきた」

「せめて結界の魔道具は置いていってくれたんだよな?」

「あぁ、其処は安心してくれ」


 何か安心出来ないんだよなぁ。


「遺跡は古い教会のようだった。レプラントで見たあの風化した遺跡よりは形は残っていたな。そしてあの時と同じように、レゼレントリブルの時のように地下への入り口があった」

「やっぱりあったか」

「あぁ、巧妙に魔法で隠蔽されていたがな。地下への入り口を確信していない人間が探しても見つからないだろうな」


 たまたま見つかるなんて事はないか。何時頃から瑠璃水龍が棲んでいたかは分からないが、それ以前に誰かが上陸してもただの古びた教会で片付けられただろう。


「中は?」

「まだだ。危険があるかもしれないからな。それと……」


 ダニエラがゴソゴソと僕の鞄を漁る。奥まで入れた手が出てきた時、握られていたのは赤い花だった。


「回収してきた」

「これがイジリスの花、か……綺麗だな」


 《神狼の眼》では見たが、実際に見ると綺麗だ。6方向に広がる真紅の花からは甘い匂いがしてくる。


「すぐに持っていこう。夜中でも行った方が良い」

「待ちわびているだろうしな。火は一応消していこう」


 ダニエラが風魔法で鎮火している間に身支度を整える。僕が居眠りしてしまった所為で待たせたけれど、これでやっとミシュカちゃんのお母さんが助かる。

 鞄を背負い、ダニエラの方を見ると手を伸ばしてきたので抱きかかえる。両足に白銀翠の風を纏いゆっくりと上昇する。キャスパリーグの方を見ると明かりが付いている。どうやらまだ寝るには早い時間らしい。


「よし、飛ばすぞ」

「あぁ、行こう!」


 風速を上げ、早く早くと急く気持ちを押さえながら僕達はまっすぐにキャスパリーグへと向かった。

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