第三百三十話 白刀・天狐
今日で『異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする』は2年目を迎えることができました。
沢山の出来事があった2018年でしたが、その全ては読んでくださる皆様の力無くしてはありえない未来でした。
本当にありがとうございます。感謝の極みです。
残り1ヶ月、全力で走りきり、2019年も頑張りますのでどうぞ、よろしくお願いします。
では本編をどうぞ。
「ふんふん、ふふん……」
今、僕はかなり機嫌が良い。
「ふっへっへー」
何故ならば、さっきのお店で刀を貰ったからだ。
あの後、ちょっと市場巡りをしてみたのだが、すぐに市場の端まで行ってしまったので、来た道を戻ったらおじさんに声を掛けられた。
「おぉ、さっきの」
「あ、どうも」
「さっきはありがとうな。お陰で助かったよ」
あの冒険者も危ない事をする。こんな人の多い中で人を斬ろうなんてきっと頭がおかしかったのだろう。
おじさんに呼び止められてから他愛のない話をしていたが、僕は並べられた刀が気になってしょうがなかった。
「はっはっは、そんなに気になるかい?」
「えぇ、まぁ。こういうのは持ってるんですけどね」
背負っていた虚ろの鞄から足切丸を取り出す。
「ほう……小太刀か。お前さんもお前さんで珍しいもんを持ってるな」
「昔、武器屋で買ったんです。その武器屋の店主も何処かで買ったそうですけど」
カシルの店で買った足切丸。彼が買った物を買ったので中古品である。
「ふぅむ……お前さんは刀に興味があるようだし、さっき助けた礼もまだだったな」
あ、この流れは……。
「よし、どれでも好きな刀を1本、持ってっていいぞ!」
「いいんですか!?」
「あぁ、此処で恩を返しとかなきゃ男が廃るってもんだ! 勿論剣帯も付けるぞ!」
「ありがとうございます!」
やったぜ! 人助けって大事だな、ほんと。
ってことで僕は早速鞄から鑑定眼鏡を取り出してじっくりと選び始めた。勿論、おじさんにはよく見えるようにと断ってからだ。
それから1本1本手に取ってじっくりと選ぶ。そして選んだのがこの刀、『白刀・天狐』だ。白鞘と白い柄巻きが目立つ純白の刀だ。だが鍔は金色だ。白金というのは豪華なイメージだな。みすぼらしいと言われた僕もこれで豪華な男となった。
刃渡りは70cm程。平均的な長さと言える。反りもあり、切ることに特化した形状だ。まさに刀だな。
『白刀・天狐 かつて白天狐と呼ばれた異常進化個体の白変種を素材として作られた刀』
と、鑑定眼鏡には表示される。正直、これを読んだ時点でこれ以外の刀は目に入らなくなった。何でこんなもんが朝市に並んでるんだ……こんな曰く付きの刀なんて滅多に無いだろう。妖刀だぜ妖刀。
しかし、異常進化個体の刀というのはちょっと怖い。アサルトコボルトの呪われた剣の事もあったしな……まぁ、あれは僕が殺して作った剣だったから、僕が呪われたと思ってるが。
ということでおじさんからはこの白刀・天狐をいただいた。ちょっとおじさんが悔しそうな顔をしてたけど、まさかこれを手に取るとは思わなかったんだろうな。ま、貰っちゃうけどね!
「……って事があってな、それで手に入れたのがこの刀。良いだろー?」
「それより私にお土産は?」
「……」
ダニエラと合流して今までの経緯を話したのだが、串餅の事が気になってしょうがないらしい。僕は無言で鞄から取り出した串餅を手渡す。
「ほほぅ、これが……いただきます。あむ……んむぅ、伸びるんだな……それに甘くて旨い」
「それは良かった。で、どうだ? この白刀・天狐。綺麗だろ」
「もぐもぐ……そうだな。力強さを感じる。異常進化個体が素材だったか? 呪いが無いと良いが」
何だかんだで話を聞いていたダニエラさん。うん、その呪いだけが不安なんだよな。
「調べたいからそれ食べたら付き合ってくれよ」
「あぁ、もしもの時はその腕を切り落としてやる」
「出来れば穏便によろしくね」
これからまだまだ使う腕だ。片手じゃダニエラのでかい胸も揉めん。
□ □ □ □
ダニエラが食べ終えたのでちょっと町の外まで出て人気のない場所までやってきた。辺りは雪に包まれた岩場だ。リトゥン大河からはそれ程離れてないので水の流れる音が聞こえる。
「此処なら問題ないだろう」
そう言ってダニエラが死生樹の細剣を抜く。
「よし、いいぞ」
「いや、怖いんだが」
絶対何かあったら斬るだろそれ。
「何かあってからじゃ遅いだろう?」
「とりあえず何かあってから考えよう?」
「仕方ないな……」
即腕斬りはやめてほしい。何か打開策があるかもしれないし、もしかしたら何もないかもしれないんだから。
という事で革製の剣帯から刀を抜く。
この剣帯もおじさんがくれたものだ。侍のように帯に差すのではなく、異世界風の革ベルトっぽい剣帯だ。腰に巻いたメインのベルトから伸びたサブの小さなベルトが鞘の位置を調整してくれる。
「……よし」
白鞘から抜いた白天狐の刀身は白銀だ。調べて見るとこの刃は異常進化個体《白天狐》の尾の骨で出来ているそうだ。強く、靭やかな骨がそのまま刃となれば強靭なのは明らかだ。
ぎゅっと両手で鞘を握り、ゆっくりと魔力を流してみる。
「フッ……!」
体内で練り上げた魔力を手を通して刃へと送り込む。
「……」
ジリ、とダニエラが細剣を構えながらゆっくりと此方へにじり寄る。近寄んなと目で訴える。
暫く魔力を流してみたがアサルトコボルトの時のような瘴気は溢れ出てこなかった。これは成功なのでは?
「……ふむ。問題ないように見えるが」
「そうみたいだな。よし、さっさとその剣を仕舞え、ダニエラ」
「お前の為に抜いたんだぞ」
「僕の為に僕の腕を切り落とそうとするな!」
有難迷惑にも程があるわ!
「しかし特に変化もないんだな。ちょっと刃が白銀に光って見えるが……」
と、何となく振ってみた、その時だった。三日月型の白銀の光が飛んでいって岩場にあるでかい縦長の岩が真っ二つになった。
「……」
「……」
ほう、飛ぶ斬撃ですか……。
「これさ、遠くから斬ってたら無敵じゃね」
「自然破壊神みたいになるから却下」
「ですよねー」
飛ぶ斬撃って聞くと格好良いけど、実際使うとなると時と場所が限定されて使いにくいな。でも呪いはなかったし、刀自体は良い物だから今後も使っていくとしよう。あんまり魔力は通さずに、な。
□ □ □ □
街に戻ってきた僕達は適当に見つけた食堂に入ることにした。ちょうど昼時だったしな。
「じゃあ僕も同じもので」
「かしこまりました」
注文を終えた僕達は水を飲んで一息つく。
「ダニエラは市場で何を買ったんだ?」
「新鮮な肉と屋台飯。後は珍しい魔道具を少しな」
「魔道具?」
僕が買った刀みたいな輸入品のような物だろうか。
「どんな魔道具なんだ?」
「風鉱石と火鉱石を使った魔道具で、使うと暖かい風が出てくる。それと風鉱石と水鉱石を使った魔道具で、細かい水を飛ばして空気を潤してくれる」
「なるほどな……」
温風ヒーターと加湿器か。そういうのもあるんだな。加湿器は良いな。宿に置きたいね。
「アサギは串餅と天狐以外に何か買ったか?」
「スパイス系とかしか。僕が行った方向ハズレだわ」
「アサギは探すの下手くそだからな」
「何をぅ」
そんな事ないわ!
その事に対して抗議しようとしたところで頼んでいた料理がテーブルの上に置かれた。旨そうな肉だ。ダニエラと一緒に頼んだ香草焼き。最近ダニエラは肉と一緒にパンを食べる。あの時の店でハマったらしい。それは僕も一緒なので、ダニエラと一緒にパンと食べる。
肉は良い。口の中に入れれば幸福度が上がる。噛めば倍々で増えていく。胃に入れればプラス1万点だ。ダニエラに言われた言葉なんて肉を目の前にした時点で忘れていた。
暫く無言で肉とパンを口の中に交互に口に運ぶ。旨い物を食べている時に喋る余裕はなかった。
「買う物は全部買った感じか」
「んー……まぁ、そう……だな。他に買う物あったか?」
一足早く食べ終えたダニエラが食後の果実水を飲みながら尋ねてくる。肉汁たっぷりのパンを口に運び、指についた汁を行儀悪く舐め取りながら思案する。もう買う物もないだろうと思いつつ、買い忘れがないかダニエラに聞くが、ダニエラは首を横に振る。
「じゃあ今日はもう帰るかー」
「明日に向けて準備だけはしっかりしておこう」
「だな」
僕も食べ終えたのでお会計をして店を出る。日は頂点から少し下り始めたところだ。ゆっくりと腹ごなしに散策でもしながら帰るか……。
ググッと背伸びをし、氷雪期の冷えた空気を吸い込む。体の中から冷えていく感覚に何処か清涼感を覚えながら歩き出すとダニエラが隣に並び、グイ、と腕を組んでくる。
「……」
「何だ?」
「いや、何も」
『恥ずかしいんだが』と目で訴えるがダニエラは気付かないふりをした。と同時に更にギュッと腕を抱き込み、黙って歩けと目で訴えてくる。
それに僕が抗える訳もなく、宿まで帰る腹ごなしの散歩は沢山の寄り道を挟んでのデートとなるのだった。
白変種とアルビノは別物です(ドヤ顔)




