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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百二十九話 市場騒動

 ぐっすりと眠った僕とダニエラは翌朝、日の出と共にとは行かなかったが市場に繰り出すことが出来た。寝る前は酷い頭痛と疲労でクッタクタだったが、一晩寝たお陰で調子を取り戻せたのは若さのお陰だろうか。


 アスクの市場は川沿いに広がっている。船で運んできた荷物を細く突き出た桟橋で受け取り、そのまま併設された倉庫へと運ばれる。


 勿論、荷降ろしの際は衛兵さんが立ち会い、検査を受けているので禁止されている品は入ってこない。危ない薬品とか、それこそ毒とかだ。ダニエラが持っている鎖縛石なんかも本当は規制品だ。

 大昔はその鉱石の特性で力ない者が縛られ、悪い人間に捕まって酷い事になったからだ。


 当然だがダニエラはそんな事は絶対にしないし、運良くウィンドドラゴンを仕留められて素材が手に入ったのですぐに装備は変わり、今では倉庫の肥やしとなっている。売るに売れないし、困ったもんだ。


 そんな市場へとやってきた僕達だが、すでに人で賑わっている。割れんばかりの声で値段を落とす商人や、商品を巡って言い争う客。一見すると暴動一歩手前みたいだが、誰も動じていない様子を見ると、これが日常であることが伺える。


「さて、何から買う?」

「まずはお前に旨い物を食わせる為のスパイスだ」

「究極のスパイスは空腹と聞いたことがある」

「じゃあ飯抜くか?」

「はは、冗談だろ」


 肘で小突くダニエラ。でも目が笑ってない。お前が言った冗談だろ!


 並んで歩くには少し狭い人並みを縫うように進み、目的に店を幾つか物色した。風に飛ばされないように木箱に入った粉末状のスパイスを枡一杯で量り売りする店や、実や種のようなまだ擦り潰す前の状態の乾燥させただけの物も色々と試し買いしてみた。すりこ木と乳鉢もセットで売っていて、商売上手だなぁと関心しつつ、それらも購入。金銭感覚の話なんて無かった。


 殆ど僕の趣味で買って歩き回ったが、まだまだ時間はたっぷりある。


「朝食でも食うか」

「それなら……」


 提案してみるとダニエラがフッと振り返る。そっちに良い店があったらしい。市場だからと言って物を売るだけじゃない。それらの客目当ての屋台も出る。大人しく着いてきたのはそれ目当てだったのかもしれないな。


 今度はダニエラが先導してくれるのでその背中について行くと、ジュウジュウと焼ける音と香ばしい匂いが漂ってきた。若干歩き疲れた体がそれをすぐに求め始める。


「それを2つくれ」

「はいよ!」


 ダニエラの後ろから覗き込むと、焼きそばのような食べ物だった。ソースは異世界風だ。野菜とか肉とか入っていてとても旨そうだ。漂うスパイスの香りから辛い系に思える。


「合わせて銅貨40枚だ」

「確認してくれ」

「えーっと…………うん、ぴったりだ。まいどあり!」


 40枚をちまちま数えなければいけないのがちょっと煩わしい異世界。過去の勇者でも貨幣の改革は出来なかったと見える。


「はい、アサギの分」

「ありがとう。何処で食べる?」

「こういうのはその辺で食べるから旨いんだ」

「一理ある」


 場の空気ってのはとても大事だ。その場の空気と一緒に食べると食材の味を何倍も引き上げてくれる。

 実際に食べた異世界風焼きそばの味はとても旨かった。これは貯め買い決定だね。あとやっぱり辛かった。



  □   □   □   □



 朝食を食べた僕とダニエラは、今度はお互いバラバラに物色することにした。


「何か面白い物があったら知らせてくれよ」

「あぁ。アサギも何か旨そうな物があったら買ってこい」

「うん、分かった」


 たまにはお互いの時間も大事にしないとな。


 ということでデザート代わりに甘ダレの掛かった餅みたいなのが串に刺さった珍しい串焼き(要ダニエラ報告案件)を咥えながらちょっとうろうろしてみている次第なのだが……。


「てめぇ! 其奴ァ俺んとこの商品だろうが!!」

「うるせェ! 何処にそんなもん書いてあんだよ!?」


 めっちゃ喧嘩している現場に出会してしまった。見た感じでは冒険者っぽい男がお店の商品を勝手に持ってったみたいだ。万引きだな。僕も仕事柄、万引き話は店長から聞いた事がある。


 コンビニが駅前にあったこともあって人が多く、ちょっとばかり治安も悪かったので多少だが被害はあった。


 僕がたまたま夕方のシフトで出勤した時、バイト仲間に万引き事件があったことを聞いたのだ。その話を店長にすると、防犯カメラの表示されたPCを操作し始める。


 ディスプレイに表示された防犯カメラで見ると、雑誌を抱えたおじさんが目にも留まらぬ速さで店外へと走っていった。


 そしてそれを見た店長がレジ台を飛び越えて全速力で追い掛けた。


 いや拙いだろそれはと思ったがその3分後、店長がおじさんの首根っこを片手で掴んで引きずって帰ってきた。


「いや追いつくって。おじさん片手って」

「鍛えてるからな」


 そう言って店長は笑っていたが、僕には到底真似出来ないと思った。ていうか良いアルバイターは真似しちゃいけません。


 閑話休題そうじゃなくて


「この辺でこの剣扱ってるのはうちだけだ! 周りの商人だって承知してる! それが何よりの証拠だ!」


 おじさんは武器商人のようだ。日本の朝市に行っても野菜や魚が多いからあまり意識しなかったが、この異世界では朝市に武器も並ぶ。輸入品だな。その珍しい武器を歩きながらスッた……という顛末が見えてきた。


「るっせェなぁ……だからそんな証拠が何処に書いてあるってんだ? 此処か?」


 と、男は確かめるように剣を鞘から抜き、陽の光に照らすように掲げる。


「馬鹿野郎、刃に店名なんて……」


 一瞬、男の目がジロリと店主を睨んだ。


「あっ」


 これアカンやつや。僕は咄嗟に《神狼の脚》を発動させた。


「何処にもねぇなぁああ!!」

「なっ……!?」


 陽光を反射させながら店主へと振り下ろされた剣を僕の『氷剣』が阻む。甲高い金属音が響くと共に静寂が浸透していく。


「ふぉいふぉあえ、あふあいはお」

「……はぁ?」

「んっ……んぐんぐ……っごくん、っはぁ。……おいお前、危ないだろ」


 餅咥えたままなのを忘れていた。詰まらないように慌てず急いで飲み込んでばっちり決め台詞だ。


「……何だてめぇはよぉ! 何処から湧いて出やがった!?」

「通りすがりの冒険者だよ。同業者が迷惑掛けてるから成敗しに来ました」

「うるっせぇぇ! みすぼらしい格好した貧弱が偉そうによぉ!」

「みすぼらしい!?」


 確かに今日は市場巡りが目的だったのでお散歩用の服だけどその辺は買えない竜種服だぞ! シンプルな無地がお気に入りなのにみすぼらしいだとこの野郎!


「はい怒りました。ベーコンの元へと連行します」

「訳分からねぇことばっかり言いやがって……えっ」


 服を馬鹿にされたので空いている方の手で魔法を生成。男を氷で梱包した。貴族邸に侵入した彼等にやったやつと一緒の魔法だ。

 じわじわと、しかし急速に広がる氷に男は慌てて離れようとするが『氷剣』から流した魔力で腕からも梱包を進めていく。


「や、やめ……!」

「これに懲りたら他人のファッションセンスは馬鹿にしないことだな」


 罪状は万引きだったがそんなのは二の次だ。僕は僕の服を馬鹿にする奴は許さないのだ。


 見事首から下を梱包された男は出せ出せとと騒ぐが、それも最初だけ。だんだん冷えて元気が無くなってきた。まぁすぐには死なないのでベーコン呼んで連れてってもらおう。


「はいおじさん、剣」

「……っあ、あぁ、ありがとう。君凄いな……」

「まぁね」


 謙遜する時代は過ぎた。今は自分の力を認めていく時代だ。難聴鈍感系主人公は流行らないのだ。まぁ僕に主人公補正はないのだが。


 と、おじさんと事件の流れを軽く聞いていたら人並みを押しのけてベーコン達が走ってきた。ご丁寧に荷車も引き摺っている。ベーコンと目が合ったので手を挙げると軽く頷かれた。流石に今日は真面目な仕事モードか。


「此処で暴れていた冒険者が氷で梱包されて転がっていると聞いたんだが」

「おう、それな」


 僕は梱包された唇真っ青な男を指差す。


「仕事柄、報告はしっかりしろと言い聞かせているが、今日ほど耳を疑った日はないぜ……」


 呆れ顔で溜息を吐くベーコン。暴れていると聞いたからか物々しい雰囲気だったが、梱包冒険者を見て毒気が抜けたようだった。


「んじゃよろしく。僕は市場巡りするから」

「あまり厄介事に首を突っ込むなよ、アサギ」

「僕が居なかったらおじさん、危なかったんだぞ」

「それについては感謝する。……が、友人としての忠告だ。危ない仕事は俺達に任せとけ」


 ふらりと人波に紛れようと歩き出した僕はベーコンの忠告を聞いて立ち止まった。


「……悪かったよ。今度からは圧倒的武力で殲滅する」

「そうじゃねーよバーカ! ったく……明日は見送らせろよ」

「あぁ、呼びに行くよ。ありがとな」

「此方こそだよ」


 ベーコンが差し出す手をぎゅっと握る。……うん、誰も怪我が無くて良かった。一安心だ。


 出鼻は挫かれたが、市場巡りを再開するとしよう。要ダニエラ報告案件をもっと探さないとな。


 ……それにしてもあのおじさんのお店の剣は初めて見たな。いや、初めてでもないか。


「刀か……久しぶりに見たな」

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