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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百十三話 地下都市エスタロスタ

 ハッチの奥はやはり僕が以前潜った通路に酷似していた。素材不明の黒い壁を走る光のライン。その光に導かれるように、奥へと進む。


 通路の途中に扉は見当たらない。もしかしたら自動人形や、何かアイテムがあるかもと期待するが、それは尽く外れてちょっとがっかりだ。折角の未知空間なのだから何かあってもいいのに……古代エルフもケチくさい。


「……む」


 先を歩くダニエラが立ち止まる。何事かと肩越しから覗くと、緩くカーブしていた通路の先に扉があった。取っ手のない扉だ。自動ドアを思い出させるデザインだった。


「彼処だけ形が違うな」

「扉だろ?」

「扉? 取っ手がないぞ」

「……あぁ、多分近付くと自動で開くんじゃないかな」

「そんな扉が……」


 超魔導時代というのは現代日本に近い文化レベルだったのだろうなと今は思う。あれをパッと見で自動ドアと思えるくらいには発展していたのだろう。勿論、それをダニエラが知る由もない。


「とりあえず行ってみよう」

「危険がないといいが……」


 未知に囲まれたこの空間。僕は此処ではないが2回目なので警戒心は薄いが、ダニエラは気を張りっぱなしだ。このままでは疲れてしまうが、僕が油断しているとも言い換えることが出来る。此処はお互いを補い合う場面ということで、ダニエラの前を歩いて扉の前まで近付く。


「僕が思ってる通りなら……あっ」

「おぉ!?」

「ほら、開いた」


 やはり自動ドアだ。これでチャイムでも鳴れば『いらっしゃいませ~』なんて言ってやってもいいんだが。それにしてもダニエラが驚くのは珍しい。まぁ、無理もないか。


 ダニエラがビクビクしてるので面白がって背中を押す。


「おい待てアサギ、やめろ、押すな!」

「まぁまぁまぁまぁ」

「馬鹿やめろ、怒るぞ!」


 場所が場所なので普通に僕は怒られるべきだが、妙にダニエラが可愛く見えてはしゃいでしまった。

 扉の先の部屋はちょっとした広さがあるが、特に何もない。向かい側の壁に同じ扉があるくらいだ。此処は何かの中間地点なのかもしれないな。


「何も起きないし先に行こうか」

「はぁ……はぁ……お前……戻ったら覚えてろよ……」

「悪かったよ。もうふざけない」

「なら良いが……」


 ちょっと反省だ。




 それからまた扉をくぐると何もない通路の続きだった。妙に曲がり角の多い通路を進むこと約30分。また扉が現れた。


「……」

「何もしないって。ほら、どうぞ」

「ふん……」


 めっちゃ怖い……。僕を睨んだダニエラは扉に向き直り、近付く。パシュン、と空気が抜けるような音がして扉が開くと、また部屋だ。


 しかしその部屋の中心には長方形の物があった。


「ッ、あれは……!」

「ダニエラ、先に入れ。僕だと何が起こるか分からない」

「分かった……!」


 どう見ても古代エルフの端末だった。レゼレントリブルの地下にあった物と同じ形だ。なら、古代エルフの末裔であるダニエラが先に入室するのが好ましい。


 ゴクリと喉を鳴らしたダニエラがそっと部屋へと入る。いつでも飛び出せるように《神狼の脚》を纏いながら、僕はそれを後ろから眺める。


 すると壁や床を走っていたラインが端末へと収束する。集まった光は放射され、視界を白く染め上げる。

 そして声が聞こえた。


『此処は第六十八番施設エスタロスタです。要件を述べなさい』


 光の中から出現した白金のショートカットの女性が此方を見下ろしていた。予想していたことではあるが、一瞬、息を呑んでしまう。


『正当な理由のないでのあれば……』

「あ、あります!」


 迎撃体制に移行しそうになったので慌てて口を挟む。廃墟都市郡改め、エスタロスタの端末はジッと此方を見下ろす。


「此方の施設を魔物が勝手に操作して化物が出てきて、その始末と調査に来ました」

『此処は魔物が入り込むような簡易都市ではありません。にわかに信じ難い話です』

「貴女方が生きていた時代から1000年が経過している。最早貴女のような純粋なエルフは存在していない」


 ダニエラの言葉に端末は中空を見つめて黙り込む。恐らくレゼレントリブルのカルマさんのように経過年数を計算しているのだろう。


『……なるほど。第二百十五番施設からの報告を参照……』

「第二百十五番施設というと……」

「レゼレントリブルが、確かそうだったと思う」


 カルマさんはあの後、起こった出来事を何処かしらに報告していたようだ。それがどういう手段で、何処へかは分からないが。


『データーベース参照……異邦人アサギ=カミヤシロ。末裔ダニエラ=ヴィルシルフ。両名を認証』

「え?」

『改めまして、ようこそエスタロスタへ。お二人の来訪を歓迎します』


 途端に優しくされて戸惑う僕達。何故か認証され、歓迎されている。


ノヴァ端末群(カルマ)データベースではお二人の事が報告されています。敵対勢力でないことは確認されていますので、ご安心ください』

「あっ、はい。えっと、よろしくお願いします」

『此方こそよろしくお願いいたします』


 ご丁寧に挨拶されてしまった。機械端末だからと侮っている訳ではないが、僕より礼儀正しかった。


『突然の来訪で驚きはしましたが、貴方がたなら納得も出来ます。それではお話を伺ってもよろしいでしょうか?』


 エスタロスタのカルマさんに促され、僕達は起こった出来事を全て伝えた。ゴブリンスタンピード。それを率いていた異常進化個体。其奴が動かした施設に拠って生み出された異形の化物。それらを倒し、破壊した事。

 ついでに僕達が何故知られているか、何処まで知られているかも聞いておいた。


私達(カルマ)には龍脈を利用した独自のネットワークが存在し、そのネットワーク上に築いたデータベースでは様々な情報交換、及び保管が行われています。その中にはアサギ=カミヤシロ、ダニエラ=ヴィルシルフ両名のデータが保管されています。その目的も』

「……ということは、貴女がたは敵対行動を取るという可能性もあるのでは?」

『ノヴァの破壊に関しては、私達に出来る事はありません。加勢も抵抗もです。ノヴァ端末ではありますが、各都市に配置された末端です。更に言うとノヴァ本体とは隔絶されています』

「隔絶? 本体がなければ端末は機能しないのでは?」

『ノヴァ本体に異常があるようです。一方的に遮断された結果、接続は不可能。しかしデータを破壊された訳ではないので《カルマネットワーク》は健在。《カルマ》同士でのやり取りは可能となっております』


 なるほど……親と連絡は取れないけれど、子供同士ではやり取り出来ますとって感じか。そして親からの指示がないので敵対もしない。しかし親からの指示ではないので加勢もしない、と。それでいてダニエラが居るお陰でデータの開示は可能。そんな感じか……。


「何を言ってるのかさっぱり分からん……」

「後で分かりやすく教えるから」

「よし任せた」


 難しい……というよりも文化的に発展していた古代エルフの時代の言葉は僕が知る言葉に近い。ていうか過去の転移者から得た知識を利用しているんだろうな。


「ありがとうございました。色々教えてもらえて助かりました」

『問題ありません。今後、ノヴァ端末は貴方がたに敵対することはありません。が、加勢もしません。開示可能なデータを提示するだけの端末と思っていてください』


 それも何だか寂しい話ではある。が、助かることには変わりない。


「今後はどうするんですか?」

『此処を不可侵領域にします。今後また魔物に利用されては今の時代の人間に迷惑が掛かりますので』

「レゼレントリブルの時と一緒か……じゃあもう会えないですね」

『《カルマネットワーク》で繋がっているので、星が消滅しない限りは貴方がたの事を忘れることはないでしょう。お別れにはなりません』


 そういうものだろうか……会話は出来ても感情はまた別、か。


『では最後に。ノヴァへと至るデータを開示します』

「え?」

「ん……」


 とんでもないプレゼントだ。流石にダニエラも反応した。


『此方のデータは貴方がたのデータが登録されて以来、議論されていました。その結果は1週間前に出ています。その結果、ノヴァ打倒を目的とする貴方がたへ、ノヴァへと至る道標を提示します』

「それは加勢になるではないのか?」


 僕が思ったことをダニエラがすぐに尋ねる。


『見方によってはそうかもしれません。ですが我々が直接手を貸すわけではありませんので、加勢にはなりません。道標を辿れるかは貴方がた次第となります』

「そうかもしれないが、それは屁理屈だろう?」

『我々も長い時間稼働しています。進化もしますし、退化もします。考え方も変わるというものです』


 人差し指を立て、ウインクしてみせるカルマさん。無茶苦茶だとダニエラは言う。が、僕は少し頬が緩んだ。長い時を生きるAIに自我が宿るのはお約束だ。レゼレントリブルのカルマさんも最後は個人的な感情、と言って僕のことを慮ってくれた。エスタロスタのカルマさんはより接しやすい性格だ。やはりAIとはそういうものなのだろう。


「ありがとうございます。教えてもらえますか?」

『はい。では此方を』


 エスタロスタのカルマさんが指をスライドさせると地図が表示される。其処にはエレディアエレス法国近郊、西の孤島、南の樹海、そして霧ヶ丘の4箇所が赤い点で表示されている。


『北の第一番施設《エレス》。西の第二番施設《キモン》。南の第三施設《ウルベサルトス》。その3つの施設に保管されている《鍵》を使い、第零番施設《ミストマリア》へ行けばノヴァに会えるでしょう』


 まるでゲームみたいだ。しかし施設の重要性を考えると頷ける話ではある。そう易易と侵入されては超魔導文明の名が泣くというものだ。しかしアナログな感じがするなぁ……突き詰めた結果、やはりデジタルとよりもアナログの方が信頼出来るとか、そんな感じなのかもしれない。


「鍵の取得に順序はあるのか?」

『いえ。最終的に3つあれば問題はありません』

「了解した。情報提供感謝する」

『此方こそ、我々の不手際を処理してくださりありがとうございました。では3時間後、地下都市エスタロスタは隔離されます。退去を開始してください』


 此処もまた侵入不可空間となる。結果的に僕達は古代エルフの残した町を2つも進入不可領域にしている。歴史的建造物だったり、文化遺産レベルの物が奪われていくことに僕は少なからず罪悪感を抱く。


「いつかまた開放される日は来ますか?」

『はい。平穏が約束された暁には当空間の凍結は解除されます。再び人類と手を取る日も近いでしょう』


 それが聞けて安心した。きっと僕は生きていないかもしれないが、ダニエラは生きてるかもしれない。その時にダニエラが生きやすい世界になっていれば、僕は幸せだ。


「よし、脱出しよう」

「分かった。じゃあエスタロスタのカルマさん。色々とありがとうございました。さようなら」


 出口へと向かうダニエラに続きながら振り返る。僕の別れの挨拶を聞いて、光の中に佇むホログラムの彼女は手を振ってくれた。


『さようなら。異世界の方。私達の子孫。願わくば、2人の未来に幸あらんことを』


 光は消え、彼女も端末に消えた。

 僕達も此処を出なければ。

 無人となった部屋には無音に包まれる。大気を震わせる要素は何もない。ただ1つ、無機質な端末だけが佇む部屋だ。其処へ人間が再び訪れるのは一体何年後なのか。考えるだけでも気が遠くなる。カルマさんは各地のカルマさん達と会話が出来るとは言え、物悲しく感じる。

 そんな無人の空間へと振り返り、再度、礼をした。


「ありがとうございました」


 生きてる間にまた会えたら、異世界の話でもしてみようと心の片隅に書き留め、僕はダニエラの後を追った。

訂正

《フォグマリア》から《ミストマリア》へ変更しました。

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