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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百十話 塔の天辺

 塔ということは縦長の建物だ。僕は上を見上げ、《神狼の脚》で攻め入ろうとするが、すぐに断念した。少し登った先に天井があったからだ。まるで階段と階段の間の踊り場のように、其処にフロアが築かれている。


「各階層に人員を割いて一気に殲滅するぞ!」


 アドラスの指示に頷いた僕達は階段を駆け上がる。幸いにも階段は広く、3人が横並びになれる程の幅だ。しかしだからといって3人が並んだら狭い。何せ僕達は剣を手に、盾を手に、弓を手に走っているのだから。なので2人ずつ並んで掛ける。


「ひぃ、ひぃ、つか、疲れる……!」

「何情けないこと言ってるんだ!」


 階段って何でこんなに疲れるんだろう。隣のダニエラに怒られるが、疲れることには変わりない。


「もう無理……すまんダニエラ……」

「ちょ、おいっ」

「……ふぅ……あー疲れた……」


 《神狼の脚》の私的利用だ。白銀翆の風に運ばれ、スイスイと駆け上がる。


「ずるいぞアサギ!」

「これは僕に与えられた権利とも言えるのでは?」

「こっちだってきついんだぞ!」


 白エルフも階段はきついらしい。これは勉強になったな。


 なんて馬鹿なやりとりをして緊張をほぐしていると階段の終わりが見えてきた。他より明るい踊り場的フロア。そのエリアに冒険者が躍り出る。


 其処に広がっていたのは地獄とも言える光景だった。広い円形のフロアには夥しい量の血。そして散らばる手や足や頭。それらを握り、惚けた顔で此方を見る黒いゴブリン達。


「ハイゴブリンだ!」


 冒険者の1人が指を差して叫ぶ。その声に突き動かされるようにハイゴブリン達が雄叫びを上げて此方に向かってくる。まるで人間のように腰に下げた剣を抜いて。


「散開しろ!」


 アドラスの声に予め組むように言われていたパーティーで別れ、各個撃破していく。当然のように剣を振るうハイゴブリン相手に苦戦する翡翠達をフォローしながら僕とダニエラは相も変わらず遊撃としてフロアを駆け抜けた。


 流石に全員対ハイゴブリン数匹ともなると戦闘は呆気なく終了した。冒険者根性丸出しの何人かが討伐証明となるらしい左手を切断して革袋に詰めていた。


 それを視界の端で見ながら怪我人が居ないか声掛けしていると、階段を下りてくる足音が響いた。

 それは先程と同じハイゴブリンだ。階下の騒ぎを聞きつけて様子を見に来たようだった。


 このままでは階上の魔物が全員此処に集まってしまう。そうなったら連戦だ。僕やダニエラ達はどうにかなるかもしれないが、翡翠達には少し荷が重い。


「突破しろ! 魔物を全員呼び寄せては混戦になる!」


 倒しても倒しても溢れるようでは終わりが見えない。士気も下がる。それを危惧したアドラスの指示に戦闘が再開される。

 僕が先陣を切り、店長が影で絡め取り、ダニエラが撃ち倒す。階段はそれで突破出来た。だが登りきった2層目のフロアにはまだまだハイゴブリンが沢山居た。


「よし、君らは先に行け。此処は私に任せてほしい」


 と、店長が何本も影を伸ばしながら言う。すでに『影踏』は展開されている。フロアを覆った店長の影がハイゴブリンを縫い止める。其処に翡翠達が止めを刺していく。

 しかしそれでも全てを縫い止めることは出来ず、何匹かは脱出し、剣を振り上げて襲ってくる。それを店長が影短剣で応戦する。


 そうして戦いの間を走り、僕とダニエラ、アドラスは此処、3層目へとやってきた。この先へ続く階段はない。



  □   □   □   □



 まるで王様のようにでかい椅子に座り、踏ん反り返る其奴がハイゴブリンよりも明らかに格上の存在だと分かる。

 まず体色が黒くない。赤黒い。


「ハイレッドゴブリンか……」


 クイーンズナイトゴブリンと間違えた種だ。奴も赤黒かったが、それとはまた別の異常進化を果たした個体だった。目の前のゴブリンは、ユニーク個体だ。


「まぁ、奴が居なければ頭になるのは此奴だろうな」

「てことは、だ。頭を潰せばどうにかなるかもしれないな」


 僕達が危惧していたのは、クイーンズナイトゴブリンという頭角が居なくなったことで、リーダー無しの状態で此奴等が生活していることだった。そうなったらもう何処までも戦うしかない。生きるのに必死な連中相手に、だ。


 だけどリーダーがいれば、少し状況が変わってくる。ある程度統率されたコロニーの頭を無くせば、下は混乱するだろう。魔物に其処までの知恵があるかは分からないが、目標が出来るのは此方としてもやりやすい。


「よし、私とダニエラが援護する。アサギは奴を」

「了解だ!」


 3層、最上階での戦闘が始まる。鎧の魔剣を手に《神狼の脚》を使い、群れる配下のハイゴブリンを飛び越え、一気にハイレッドゴブリンに肉薄する。


「ハァッ!」


 長々と戦う意味もない。さっさと終わらせる為に首を断ち切ろうと剣を振り下ろす。が、予想より素速い動きでそれを躱される。


「ギャギャギャギャ!」

「笑ってんじゃねぇよ!」


 顔を歪ませ、笑うハイレッドゴブリン。魔物に笑われたのは初めてかもしれない。しかしこんなに表情豊かな魔物というのも珍しい。……だからユニーク個体なのかもしれないな。


 《神狼の脚》を駆使し、背後に回って剣を振る。しかしそれを阻む強靭な爪。ちくしょう、どうなってんだこの爪は!

 きっとただ剣を振るだけでは駄目だ。何か意表を突く必要がある。きっと此奴はクイーンズナイトゴブリンが現れるまでは此処のリーダーをしていたんだろう。それだけの強さがあった。


「グギャァァア!!」

「チッ……!」


 剣を弾かれたことで脱出しようとしたら逆に攻め込まれる。久しぶりの苦戦だ。なんとか捌けてはいるが、隙が見えない。


「しつ、こい……!」

「グッ……!?」


 床に流した紺碧色の魔力による氷魔法『逆さ氷柱(アイシクル・インヴァース)』で不意を突く。床から発生した氷柱がハイレッドゴブリンの足を貫いた。なるほど、爪は強靭だが皮膚なら攻撃も通るのか。思わずニヤリと笑みを浮かべてしまう。


「グルルル……!」


 その顔を見てか、ハイレッドゴブリンが忌々しそうに顔を歪める。図らずも挑発してしまったか。僕らしくもない。


 しかし散々爪で防がれていた鬱憤は溜まっている。此処らで一つ、反撃しないとストレスで倒れてしまうだろう。


「さぁて、行かせてもらうぞ!」

「グルルァ!!」


 《器用貧乏》先生を起ち上げ、脳内映像を再生。これから行うことの予習を済ませる。ふむふむなるほど、出来なくはない。よし、やらせてもらおう。


「『氷剣(フロストソード)』×3!」


 僕の周囲に使い慣れた氷剣が3本、生成される。それらは宙に浮かび、僕の動きに追従する。手に握らない剣に、ハイレッドゴブリンは警戒しているようだ。しかし警戒したところで意味はない。これから起きる攻撃は絶対に躱せない。


「食らえ!」


 鎧の魔剣で爪を弾き、その隙を突いて浮いた氷剣が攻撃する。


「ガゥア!?」


 見事に脇腹へと剣先が突き立てられる。鮮血が吹き出し、床を濡らす。


 これがこのゴブリンを殺す剣だ。戦い慣れた相手なら、意表を突くしか、僕には勝ち目はない。


「ハァア!!」


 明らかに先程より動きの悪くなったハイレッドゴブリンに、背後から剣を振り下ろす。首を狙う剣筋。しかし死に物狂いのゴブリンはそれを何とか避ける。が、氷剣がそれを許さない。


「ギャガァァ!」


 前方へと転がるように避けたゴブリンの足を、床に縫い止める。これでもう此奴の動きは完全に封じた。残った腕で上体を支え、起き上がろうとするが、それ以上の事は出来ない。


「これで、終わり……!」


 3本目の剣を手に取り、ハイレッドゴブリンの首筋にそえる。もう観念したのか、身動きは取らなかった。此奴も生きるために必死だっただろう。だがそれは僕達も同じだ。だから戦い、そしてこうなった。


 僕は手にした2本の剣でハイレッドゴブリンの首を刎ねた。

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