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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百七話 前線と村

お盆休み前ということでバタバタしてしまい、投稿が遅れました。

ちなみにお盆休みも忙しかったりします。

ゆっくりになってしまいますが、どうぞよろしくお願いします。

後書きでは少しお知らせも。



では本編をどうぞ。

 肉の焼ける音。賑やかな談笑。


 それら全てがゴブリンスタンピードの最前線で聞けるとは思いもしなかった。まぁ、それらの要因を持ち込んだのは僕なのだが。




 アドラスが集めた冒険者達と補給物資を分けながら、今日くらいは労いだとアドラスがBBQを始めた。木箱の中には酒もあり、見張り役が睨む中、皆がそれらを飲み始めた。

 ダニエラには風魔法の結界を張ってもらい、匂いが漏れないように。見張り役に選ばれた不運な翡翠は壁に立って周囲を睨み、苛立ちから雪を蹴っている。


「悪いな、こんな時に見張らせて」

「アサギさん……いえ、これも仕事ッスから」

「まぁまぁまぁ、そう不貞腐れないで、これでも食ってくれよ。僕が焼いたんだぜ」

「……旨そうッスね」

「旨そうなんじゃなくて、旨いから」


 そうやって僕も何だかんだと気を回しているうちに夜も更けていった。久しぶりの酒に酔ってしまった者をテントの中に放り込み、見張りが交代したところで僕は1人、《神狼の脚》でナミラ村へと向かった。やっぱり心配だったし、どんな様子かちょっとだけ確認してすぐ戻ろうと予め決めていたからだ。


 僕は隣で船を漕ぐダニエラにそっと毛布を掛けてテントを抜け出す。見張りの人間に、ちょっと出てくる旨を伝えてから、僕は再びナミラ村へと向かった。



  □   □   □   □



 体の調子もだいぶ戻ってきた。本気とまではいかないが、通常戦闘するぐらいの風速ならずっと飛ばしてても違和感はなかった。お陰様であっという間にナミラ村へと到着する。


 村の中心より少し奥まった場所にある村長の家からは薄っすらと明かりが漏れている。多分、蝋燭の明かりだ。

 家まで近付くと雪の上に足跡があった。森からやってきて、家の回りを1週してから扉の中へと向かってる。マーセルとシルケットだろう。中から小さな話し声がと笑い声が聞こえた。仲良くやっているらしい。


 僕はヒュゥ、と短く口笛を吹く。すると中の話し声が一切聞こえなくなり、そっと扉が開かれる。


「こんばんは。様子を見に来たんだけど」

「アサギさん!」


 扉を開けたのはシルケットだった。そのすぐ後ろでマーセルが剣を構えている。ひょいと覗き込むとフェルズは布団を被らされて椅子の後ろでしゃがんでいた。


「あれ、アサギにーちゃん」

「よう、良い子にしてたみたいだな」

「うん!」


 コツコツと爪先で床を叩いて雪を落としてから中へと入る。マーセルはふぅ、と安堵の息を漏らしながら剣を鞘に収めた。


「びっくりした!」

「悪かったな。何も言わずに来て」

「そうですよ。でも心配してくださってありがとうございます」


 シルケットが嬉しそうに微笑む。


「まぁシルケットには世話になったからな。ほら」

「うわ……!」

「美味しそう!」


 僕は背負っていた虚ろの鞄から焼いた肉や野菜、魚を取り出す。勿論、今夜のBBQで調理した物だ。それをこっそりくすねて虚ろの鞄の中に入れていた。離れた場所で頑張っている三人への労いの為に。


「これはシルケットのお父さんが集めてくれた物だからな。それを僕が調理した。沢山あるから食べてくれ」

「いただきます!」

「いただきまー!」


 フェルズとマーセルが早速肉にかぶりついた。シルケットはその様子を見て少し慌てている。


「あの、わざわざすみません」

「良いんだって。シルケットのお陰なんだから。外は僕が見張るからゆっくり食べてくれ」

「ありがとうございます。いただきます」


 頷くとシルケットも食べ物が広げられたテーブルへと向かった。それを見届けた僕は再び扉を開けて外へと出る。今夜は雲のない良い月夜だ。見晴らしは良く、風もなくて静かで気持ちの良い寒さを感じる。


 そんな夜闇にゴブリンは潜む。それらが徒党を組んでこの村を再び襲った時、彼女達は助からない。それはとてもふざけた話だ。そんなのは許されない。


「ふぅ……」


 白い吐息を吐いて集中し、《気配感知》を広げる。クレープ生地のように、村を中心に薄く伸ばしていく。

 雪原から森へ、森からその奥へ。


 薄く広げた感知エリアでは魔物と動物と人の区別がつかない。とにかく、何かが居るということだけが分かる。


「すぅ……」


 冷えた空気を鼻から吸い込む。冷たさに脳が覚醒していくのがよく分かる。


「……こんなもんか」


 一通り調べたが、特に気になる反応は無かった。周辺には何も居ない。それが分かっただけ安心出来る。

 こんな冷たい夜は動物も巣穴に戻るだろうし、そんな動物を追うゴブリンも居ないだろう。地上に出ている奴等は冒険者が大体駆除しただろうし……。


 それに今、あの廃墟都市郡は凄惨なことになっているはずだ。外にゴブリンが出てくることはまずないだろう。そんな余裕なんてない。なんせ、食料がないのだから。


「アサギさん?」

「あ、なに?」

「全部いただいちゃいましたけど……どうかしましたか?」


 いつの間にか扉を開けて此方を見ていたシルケットが怪訝な顔をする。


「いや、何もないよ。あぁ、周辺には何も居なかった。暫くは大丈夫だから安心していい」

「何から何までありがとうございます」

「いやいや、食べ物はシルケットのお陰だから」


 頭を下げるシルケットに苦笑する。お世話になってるのは此方の方だ。


「これ、食材。置いてくから大事に食べてくれ。フェルズの事を頼む」

「分かりました。前線でお役に立てないのは辛いですが、此方は任せてください」

「うん、頼りにしてる。じゃあおやすみ」


 鞄から木箱を出して僕は前線へと戻る。明日は廃墟都市郡の様子を見てこようと思う。早くこの戦いを終わらせたいからな……襲撃出来そうなら、そのまま攻めたいくらいだ。

 フェルズの為にも、村の皆の為にも、帝都の人間の為にも。そして死んでいったクイーンズナイトゴブリンの為にも。

 このゴブリンスタンピードを早く終わらせたかった。

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