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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第三百四話 帝都への一時帰宅

 《神狼の脚》での空の旅。アサギエアーラインは魔物との遭遇もなく安心安全だ。ただ生身なので風が冷たい。体は防寒着のお陰で問題ないのだが、顔が寒い。首元のマントの布を口元まで持ってくるが目が乾燥する……。


「ふぅ……ミストナス商会か……」


 白い吐息と白銀翆の風をたなびかせながら僕は出発前に言われた事を思い出していた。



  □   □   □   □



 全部の準備が終わり、後を任せて帝都に向かおうと《神狼の脚》を発動させたところで名前を呼ばれて呼び止められる。僕の名前を知っている人は遺憾ながら沢山居るし、気安く呼んでくれる人も多い。が、この声には聞き覚えがあった。


「アサギさん……っ」

「シルケットか。どうかした?」


 一緒にナミラ村で戦った元気系女子マーセルの相方、大人しい系女子のシルケットだった。一端《神狼の脚》を解いて振り返ると膝に手をついて息を整えていた。よっぽど緊急の用事らしく、まさかゴブリンかと思い柄に手をかけるが、それをシルケットは慌てて制止する。


「ち、違うんです。魔物じゃなくて、アサギさんが帝都に行くって聞いて……」

「そうだけど……何か買ってきて欲しい物でもあった?」

「そうではなくて……これを持ってミストナス商会へ行ってください」


 そう言ってシルケットは小さいながらも装飾の多いナイフと手紙を渡してきた。


「高そうな物だけど……」

「それはミストナス家の紋章が入ったナイフと私から父への手紙です。其処にはゴブリンスタンピードと戦っている冒険者への物資の支援要求の旨が書いてあります」

「……もしかしてその商会って」

「はい、実家です」


 なんとまぁ、翡翠まで上り詰めた冒険者、シルケットは商会の娘だった。


 シルケット=ミストナス。聞けば商会の四女でミストナス家は帝都の住む貴族で貿易商だそうだ。今は長男と長女が商会を運営しているそうだが、父の力はまだまだ現役らしい。


「帝都の大通りに店を構えています。行けば分かるかと」

「其処でこのナイフと手紙を見せれば支援を受けられるんだな?」

「はい、間違いなく」


 自信満々に頷くシルケット。


「だって私、末っ子で可愛がられてましたので!」



  □   □   □   □



 そんな事を思い出しながら懐からナイフを取り出す。儀式用のナイフって感じだ。これで戦うのは勿体無いだろう。


「ふ、ふぁ……ふぇっくしょんっ! ……やっべ!」


 懐から冷たい風が入ってきて思わずくしゃみをしたらナイフを取り落としてしまった。慌てて降下して空中でキャッチする。


「こんなん雪原に落としたら洒落にならへんで……」


 心の方言男子が思わず顔を出すくらいには焦った。しっかり懐に仕舞って再び高度を上げる。今度こそしっかりと距離を稼ごうと前を見る。


「あ……ナミラ村だ」


 雪を屋根に乗せたナミラ村だ。見た限り平和そうだ。一応《気配感知》もしてみたが、人の気配も魔物の気配もしなかった。盗賊とか居そうだなと一瞬思ったがこの雪の中で出稼ぎをしてるような奴は居ないだろう。


 一瞬で村を通り過ぎ、後方に置き去りにする。次に見えてきたのは凍った湖、リヴィエ湖だ。僕達が縦断した足跡なんてとっくに消えてしまい、今は雪に覆われている。それでもうっすらと湖の形が分かる。上からだからかな?


 そんなリヴィエ湖も通り過ぎる。そしてすぐに帝城が見えてくる。その城下の帝都、そしてそれを守る防壁が。


「ふぅ……まずはギルドに行って報告だったか」


 シルケットに会う前にアドラスに言われた事を思い出す。確か言っていた気がする。


「気がするって事は言われたんだろう……しゃーねーな」


 報連相は社会人の義務だ。そして冒険者は異世界社会人だ。ギルドという会社に勤めて働く会社員なのだ。現代日本よりは血生臭いが、良い稼ぎなのだ。



  □   □   □   □



 門番にステータスカードを提示して一時帰宅のような感じで通してもらう。急いでいた僕はそのまま《神狼の脚》で建物を飛び越え、一応帝城や貴族街は迂回してギルドへ向かう。人混みをせっせと歩いている時間はない。


 ギルドに到着し、扉を押し開く。降りてきた勢いで開けてしまった所為か、結構大きな音がしてしまい、皆が此方を見る。ちょっと照れ臭いが、照れている場合じゃない。真っ直ぐ『質問・その他』のカウンターに向かう。


「おう、何だてめぇ、でけー音させて入ってくるたぁ生意気だなぁ!?」

「ごめん、急いでるから」

「んぅっ!!」


 何かでかい奴が絡んでくるが本当に急いでるので此方に向かって踏み込もうとした足を横から蹴って転がしてやる。ちょっとした対人戦なら《器用貧乏》先生で学習済みだ。

 転がした其奴は側頭部でも打ったのか唸ってるが知らん。早いとこ前線に戻らないといけないのだ。


 変な邪魔が入ったが難なくカウンターに辿り着く。何だか座っているギルド員さんが震えているが、僕は悪い冒険者じゃないので落ち着いて欲しい。なので出来るだけそっと自分のステータスカードを提示する。


「すみません、アサギ=カミヤシロと言います。ナミラ村解放戦線の途中で一旦戻ってきたのでその報告を」

「か、畏まりました!」


 ギルド員さんは慌てた様子で僕のステータスカードを持って奥へと引っ込む。


 そのまま待つこと数分、再び慌てた様子のギルド員さんが戻ってくる。


「あ、アサギ様。此方の応接室へ……」

「すみません、急いでるので口頭での報告がしたいのですが」

「ひっ……も、申し訳ございません。どうしてもギルドマスターが……」

「……」


 まぁこうなるだろうとは思っていた。忙しいからと抵抗してみるが、駄目だ。絶対面倒臭い事になるだろうなぁぁ。


 まぁ、仕方ない。ちょっと面倒臭いって気持ちが顔に出すぎたのかギルド員さんがぷるぷると震えている。途端に申し訳ない気持ちになってくる。


「分かりました」

「ありがとうございます! では私はこれで……」

「じゃあ案内をお願いできますか?」

「は、はい……」


 分かりましたと言った瞬間、これで解放されると嬉しそうな顔になるギルド員さんだが、そうは問屋が卸さない。案内させて巻き込ませてもらうぜ。勿論、途中までね。

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