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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百九十一話 翡翠の活躍、そして殲滅

「その家の中の、入ってすぐ右の部屋に2匹。隣の家に1匹隠れてるぞ」

「了解っ」


 活発そうな雰囲気の短剣使いマーセルが元気よく返事し、2匹居る方の家へと向かい、その後を真面目そうな雰囲気のシルケットが追う。その後について行き、2人が無事に討伐出来るかを見る。

 部屋の出入り口の左右に分かれて隠れ、待ち伏せしているゴブリン。しかしマーセルがそっと顔を覗かせて確認するという事をせず、ノンストップで部屋へと転がり込みゴブリンの虚を突いた。そしてすぐに反転。隙だらけの首を狙う。逆手に構えた短剣が難なく細い首を分断したことでもう片方が激昂し、マーセルに襲いかかる。しかしシルケットがそれを許さない。周りの見えないゴブリンの無防備な背中へ、片手剣を突き立てた。


「うん、問題ないな」


 その様子を見て頷く僕。この2人、かなり連携がとれている。お互いにお互いの事をちゃんと見ている。多分、元からパーティーだったのだろう。

 僕はそんな2人を見ながら、《気配感知》でもう片方のゴブリンを確認する。1匹の方は今の音を聞いてそわそわしている……そんな感じだ。此処から見えるお隣さんの窓から此方の様子を見ようと顔を出し……


「それは甘い」


 氷矢で額を射抜いた。


「よし、次行こう」

「はい……なんか、アサギさんを見てると自信なくしますね」

「うん……これでも帝都在住の翡翠としては上から数えた方が早いくらいの位置には居るんだけどね」

「慣れだよ、慣れ。僕だって最初はフォレストウルフに追い掛けられて半泣きだった」


 フィラルドの街に転がり込んだあの時を思い出す。あれはマジで死ぬかと思った……。


「うっそだー! 二つ名持ちでそんな速いユニークスキル持ちなのに!」

「俄には信じ難いです!」

「いや本当。15匹くらいに追われてたからね。助けてーって叫びながら街に逃げ込んだ」


 そう言っても2人は信じようとしない。まぁ、あの頃は本当に何も出来ない一般人だった。今と昔を比べれば、確かに僕でも信じないだろう。


「……って、ほら次行くんだって!」

「あ、はい!」

「はい!」


 雑談している場合じゃなかった。さっさと村内のゴブリンを殲滅せねば。


 慌てて家を飛び出し、周囲の気配を探る。ふむ……翡翠組の方に多くゴブリンが集まっているように見える。ダニエラの方は、何とかなる数だ。ちょっと道中のゴブリンを減らしながら翡翠組に顔を出しに行こう。

 その提案に2人は頷く。すぐに行動を開始した僕達は手の届く範囲に居るゴブリンをビシバシと殲滅させつつ、翡翠組の下へと向かう。位置的には村のほぼ中心だ。それほど広くないこの村ではあるが、だからと言って貧乏な村という訳ではない。それぞれの家も、掘っ立て小屋のような質素なものでもないし、此処から見える中心部では物見櫓のような、少し高い建物も見える。お祭りとか、していたのだろうか。


 櫓に近付いてみると様子がはっきりと分かった。彼等は村の中心に躍り出た事で周囲から湧いて出たゴブリンに囲まれた形だった。だが所詮はゴブリン対翡翠。上手く完全包囲を避けながら順調に数を減らしている。むしろ、騒ぎになって集まるゴブリンを効率良く減らしていた。中々上手いやり方を見つけたようだ。

 だがそれは危険な綱渡りだ。この場に上位種が居たら一気に崩壊し、命を失うことになる。幸いにもこの場にはそんな気配は感じられない。


「よし、加勢するぞ!」

「はい!」


 上位種が居ないからといって安全な訳ではない。一刻も早くこの戦いを終わらせる。マーセルとシルケットの2人が果敢に攻め込むのを見て、全員無事に帝都に帰りたいという気持ちが強くなった。


「ハァッ!」


 黒帝剣でゴブリンの構えた槍を両断し、振り上げて逆袈裟に切り捨てる。背後で剣を振り上げたゴブリンを蹴り飛ばし、左の手に生成した氷剣を射出。脳天をかち割る。1匹では無理と判断したのか、複数の個体が押し寄せてくる。それを《神狼の脚》で空へと躱し、背後をとって切り捨てて瓦解させた。


「すげぇ……」


 そんな声が聞こえたが、構ってやれるほど、実は余裕でもない。難なく殺しているが、焦っているのだ。何故かと言うと、先程から妙な気配を先程から感じていた。あのポイズンゴブリンのような、ユニーク個体の気配だ。

 気配を探り、目で追うが発見には至れない。妙な魔道具でも持っているのかと疑ってしまう程に存在が希薄だ。まるで、空気や地面に溶け込んでいるような……。


「アサギ! 下だ!」


 不意に耳に刺さるダニエラの声に、反射的に空へと逃げる。すると寸前まで希薄だった気配が如実になり、地面が大きく凹んだ(・・・)

 唐突に窪んだ地面に魔力を感じる。これは、土魔法だ。なら、僕が感じた気配とは……。


「ゴブリンマジシャンが居るぞ!」


 翡翠の声に疑問は解消された。魔法を使わない、低能な種に反して魔力を持ち、簡単ながらも魔法を使う個体。ギルドの資料室で見た記憶がある。

 その個体は群れの中に居たわけか。道理で見つからないわけだ。直前まで魔力を抑え、隙を突いて一気に魔法を発動させ、一網打尽。それがゴブリンマジシャンの手口だろう。僕相手でなければ、成功していたかもしれない。


 そして作戦が失敗したゴブリンマジシャンは一目散に逃げ出す。上手く身を隠す事が出来れば、まだチャンスはあるだろう。

 しかしそれをみすみす見逃すような人間は、此処には居ない。


「グギュ!」


 ダニエラの放った矢がゴブリンマジシャンの背中に突き刺さる。その矢の後を追うように、次々に矢が突き刺さる。ハリネズミのようななったゴブリンマジシャンは大した活躍もせず、息絶えた。


「大丈夫か?」

「あぁ、助かったよ」

「気にするな。……ふむ。村内の殲滅は完了したようだな」


 近付いてきたダニエラに礼を言い、周囲を確認する。確かに大規模な戦闘は終わっていた。翡翠組に拠って集められた個体は皆の活躍で全て討伐されていた。村内の気配も確認出来ない。あるのは僕達、冒険者の気配だけだった。


「よし、誰かアドラスに報告してきてくれ。残った人間は装備の確認後、村外のゴブリンの殲滅に向かう!」


 既に弓の弦のチェックをしているダニエラに代わり指示を飛ばすと2人、翡翠が僕達が歩いてきた川の方へと走った。残りは全員その場で装備が壊れてないか、怪我はないか確認し合う。見た感じでは全員問題なさそうだ。

 僕はその場で虚ろの鞄から鎧の魔剣を取り出し、黒帝剣とは逆の右側に佩いた。外は村内よりも敵が多い。マーセル達は翡翠組に任せて僕は単騎で向かうつもりだ。


「ダニエラはどうする?」

「リンドウを探して加勢しつつ、外の翡翠を援護する。アサギは単独行動か?」

「言い方悪いな……皆の手が届かない場所を掻いてやるんだよ」

「ふふ、冗談だ。任せた」

「任せろ」


 ダニエラが伸ばした拳に自身の拳を打ち付ける。それと同時にアドラスの水魔法の壁がスルスルと川へと戻り、消滅した。これでナミラ村は解放されたことになる。後は、残党刈りだ。


「よし、全員私に続け!」


 僕に変わってダニエラが指揮を執り、チェックを終えた翡翠達がダニエラの後に続いて走り出した。

 さて僕も……と《神狼の脚》を纏ったところで声を掛けられた。


「アサギさんはどうするんですか?」

「ん? あぁ、僕は村外全域のカバーだよ。マーセルとシルケットはダニエラに続いて加勢してやってくれ」

「1人は危ないよ!」

「大丈夫大丈夫。いざとなったら逃げる」

「それはそれで酷くない……?」


 ドン引きするマーセルの肩を叩いて冗談だと笑ってやる。


「ま、ダニエラもアドラスもてん……リンドウさんも居る。それでも危ないと思ったら逃げるんだぞ」

「分かりました。アサギさんもお気を付けて!」

「全員無事が目標だからね!」

「りょーかい!」


 愛すべき後輩の激励に力が湧いてくる。一気にナミラ村の上へと飛び立ち、吹きすさぶ風に戸惑う2人を眼下に、僕は村の外へ向かった。

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