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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百九十話 村内戦闘

 夜の見張りからの報告は何もなく、静かな夜そのものだった。僕もダニエラも朝までずっと眠り、体を休めていた。野営でぐっすり眠るというのも中々難しいものだが、優秀な冒険者に囲まれているお陰でそれも可能だった。


 翌朝、ついに作戦が決行される。湖は氷雪期ということで表面は凍っている。しかし、川は流れている。湖に流れ込み、氷の下を通って他の川から流れ出ていく。なので、湖上は問題なく進める。

 野営を片付けた僕達はナミラ村へと向かう。勿論、湖上で僕達の姿を遮る物は何もない。何時襲われても対処出来るように周囲を警戒しながらの進軍だ。各々が得物を手に、可能な者は《気配感知》を使い、湖上を進む。幸いにも襲撃はなく、気配すらもなかった。そして僕達は川へと辿り着く。


「此処は任せるぞ」

「任せてくれ」


 アドラスが脇に移動し、道を譲る。僕は手に『氷剣(フロストソード)』を生成した。シャン、と鈴のような音を鳴らして発生した剣を川へと半分だけ沈める。そして、氷剣を媒介に氷の魔力を流し込んだ。


「『氷縛り(フロストヘイム)』」


 前方に伸ばした魔力の作用により、一人分より少し幅広い道が出来上がる。氷剣を媒体にしたのは、手を付けてやるのは冷たいからだが、上手く出来たようだ。隣で見ているアドラスは何か嫌な事でも思い出したのか、苦虫を噛み潰したような顔をしているが、どうしたのだろう。何故かは分からないが、僕も気分が良いな。


「い、行くぞ!」


 咳払いをして前を進むアドラスの後ろをニヤニヤと笑いながら歩く僕。呆れ顔のダニエラと楽しそうに微笑む店長。その後をぞろぞろと翡翠達が続く。


 周囲はアドラスが得た情報通り、茂みが多い。その向こうは上り坂になっており、視認されるのは……ふむ、どうだろうな。状況にも拠るだろう。一応、川の端、茂みの傍を凍らせて道にしたから多少はバレにくいはずだ。しかしあの坂、踏み外したら川まで一直線に転がり落ちてしまうな……意外とそういう整備はしないものなのかもしれないな。柵とか、そういうのがあれば危険も減るだろうが。


「此処から暫く行くとナミラ村だ。この辺りはもうゴブリンの支配圏だ。慎重に進むぞ」


 各々が首肯し、道を進む。滑りやすい氷の上だから進軍速度が落ちるのは仕方ないにしても、転ぶのだけはやめてほしい。その所為で氷が割れる……なんてしょぼい魔法は使っちゃいないが、重鎧装備の人間が転んだら分からないからな。




 リヴィエ湖畔からナミラ村へと続く支流の上を遡ること約30分。《気配感知》がゴブリンの気配を捉えた。


「アドラス」

「分かっている」


 アドラスも《気配感知》持ちらしく、ピタリと止まって考えている。殺すか、見逃すか。


「……よし、斥候術に長けている翡翠が何人か居たな。様子を見てきてもらう」


 まずは確認か。アドラスの声に何人かの翡翠が手を挙げたので氷道の幅を限定的に広げてやる。向かってきたのは3人の冒険者だ。男が1人、女が2人。


「私達は斥候主体のパーティーよ。だから確認なら任せて」

「頼んだ」


 リーダーは今話した短髪の女のようだ。3人は慣れた感じで茂みを抜けて坂を上っていく。僕やアドラスが感じた気配は坂の向こうにあった。数は3匹。この程度なら一瞬で始末出来るが、後の事を考えると、此処は力を温存させて翡翠達に任せたい。


 そんな事を考えているうちに3人が坂を登りきった。身を伏せて様子を見ているのが分かる。実際には《神狼の眼》さえ使えば良いのだが、それでは彼等の活躍を奪ってしまう。人を育てるのもまた、先を進む者の役目なのだと、最近は考えていたりする。ダニエラが僕に、そうしたように。


 3人は数分で戻ってきた。実際に目で見て確認したところ、ゴブリンは3匹とも武器は勿論、防具も身に着けていたようだ。革製のものだそうだ。これは何か。動物を殺して剥いだ物だそうだが、そうだとすれば、それだけの知恵と技術があることになる。やはり入れ知恵した奴が居るってことだろうな。


「殺しますか?」

「……いや、後で始末する。その3匹が見張りだとすれば、数が減った事で不都合が起きるかもしれん」


 知恵が何処までのもの分からないから、人を相手にするくらいの気持ちでやってちょうどいいくらいだろう。ならば、人数が減るのは問題だ。数が減って異常を知られればこの作戦は失敗になる。ただただ殲滅するだけでは必ず後ろを取られるだろうからな……慎重に、確実に、始末するべきだ。


 そのまま僕達は北上し、ついに桟橋に辿り着いた。この桟橋こそが、ナミラ村の生活の場。この桟橋から上がり、進めばそのすぐ先にはナミラ村がある。此処に来るまでに幾つもの反応が僕の感知エリア内にあったが、そのどれもが3匹以上のパーティーだった。つまり、ゴブリン達は稚拙ながらも装備を整え、徒党を組み、外敵から身を守っているのだ。これが異常であるのは明らかだった。その一端を掴んだ斥候パーティーの報告に、翡翠達は生唾を飲み込んでいた。


「いいか、此処で怖気づいても意味はない。此処まで来たら殲滅以外に道はない。分かるな?」


 アドラスの言葉に翡翠達が頷く。


「作戦は伝えておいたから問題ないな? ではこれより作戦を開始する。『大河の城壁(シュトロームディマウアー)』」


 呟くように発せられた呪文により、支流の川が氾濫する。しかし強大な魔力に拠って制御された氾濫は坂を上り、二手に別れ、そして一瞬にしてナミラ村の周囲を包囲した。それを走りながら確認する僕とダニエラ。その後に続く翡翠達。


 坂を上りきって目に入った光景は水に囲まれた20以上の木製の建物だった。乱立するように建てられたそれがナミラ村だ。その家屋の中、外。物陰からはゴブリンの反応が沢山感知出来る。


「村の中はゴブリンだらけだ! 僕の後に2人、ダニエラの後に2人、残りは固まって殲滅だ!」


 叫ぶように指示をして近くに居た女性の翡翠2人に視線を飛ばす。頷き、走り寄るのを確認してまずは近くの家屋の裏に居るゴブリンへと向かった。


 家屋の裏では家畜だった牛が腹を破かれ、絶命していた。その周囲に5匹のゴブリン。其奴等は驚いたように、或いは呆然とした顔で村の周囲を覆った水壁を見上げていた。その間抜けの首を、抜いた黒帝剣を振り抜く。それで2匹の首が宙を舞った。続いて2人の翡翠が短剣と片手剣でもう2匹の命を奪う。その間に発生させた氷剣が残りの1匹の胸を貫いていた。


「その調子だ。次!」

「はい!」

「はいっ!」


 まずは幸先の良いスタートだ。この調子で村内のゴブリンを殲滅して、早ければ店長組の応援も可能となる。《気配感知》では周囲のゴブリンの反応が順調に消えていく。アドラスの魔法に驚いた隙を狙って上手く事が運んでいる。


 しかしそれも最初だけだ。異常を異常と認識出来たゴブリン達は慌てて武器を取り、固まって行動を始める。そうなれば最初のように一方的な虐殺は出来ない。倒せない訳ではないが、2回3回と剣を打ち合う回数が増えてきた。


「ハァッ!」


 気合の声と共に力づくで剣を振り切る。その際、手首を少し返すことを《器用貧乏》が教えてくれる。それだけで黒帝剣はゴブリンの剣を砕き、速度を落とすことなくその身を裂ける。青い血を撒き散らしながら切り裂いた反動で踊るように回転して地面へと転がっていく。本当にこの剣は凄い。


「くっ……!」

「アサギさんっ!」


 苦しげな声と必死な声に振り返ると片手剣1本でゴブリンの剣2本を受け止める翡翠の姿が見えた。その隣では短剣でゴブリンの剣を打ち払うもう1人の翡翠。其奴を沈めてから助けるには少し時間が掛かるだろう。なので此処はグッと足に力を込め、大地を踏みしめ、駆け出す。出した最初の一歩が地に着く前に、その足を白銀翆の風が覆った。すると体は重さを忘れたかのように吹き飛び、その伸ばした足が地面に着陸する前にはゴブリン3匹の胴は上下に分かれていた。振り切った剣に付着した血を払い、2人が無事なことを確認すと、2人は呆けたように僕を見上げていた。


「す、凄い……」

「これが『銀翆』……」

「そんな大したものじゃないよ。ほら行くよ。えーっと……」


 と、此処に来て僕は2人の名前を聞くことを失念していた事を思い出した。


「あ、あたし『マーセル』っていいます!」

「『シルケット』です!」

「じゃあ改めて。僕はアサギ。こんな場で自己紹介するのもアレだけど、頑張ろう」

「「はい!」」


 良い返事をする2人に、僕は何となくバイト先に居た後輩を思い出していた。これは上に立つ者として頑張る場面だ。らしくはないが、張り切らせてもらうとしよう。

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