第二十九話 湧き上がる疑問
筆が乗ったので本日二話目です。
さて、約束した武器の引取も終わった。飯はさっき屋台で食べた。色んな屋台の飯を抱えて公園方面にダニエラが歩いていった気がするが気の所為だ。気の所為ったら気の所為だ。
次にやること、それを思い出しながら奴の台詞も思い出す。
『『森狼の脚』、上手く使えよ』
そう、ベオウルフの付与だ。付与とは何なのか。それを確認するために一度、春風亭の自室へ戻る。
「ステータスオープン」
◇ ◇ ◇ ◇
名前:上社 朝霧
種族:人間
職業:冒険者(ランク:E)
LV:33
HP:324/324
MP:295/295
STR:129 VIT:122
AGI:375 DEX:162
INT:134 LUK:14
所持スキル:器用貧乏,気配感知,森狼の脚,片手剣術,短剣術,槍術
所持魔法:氷魔法,水魔法,火魔法
受注クエスト:なし
パーティー契約:ダニエラ=ヴィルシルフ
装備一覧:頭-なし
体-革の鎧
腕-革の小手
脚-なし
足-革の靴
武器-鋼鉄の剣
-鋼鉄の短剣
装飾-なし
◇ ◇ ◇ ◇
ふむ、やっぱりという感じだな。スキルとして表示されている。
此奴がユニークスキルかただのよくあるスキルなのかで言えば、明らかにユニークスキルだ。そこら中の人間がベオウルフに付与されてちゃ敵わない。
使い方に関しては《器用貧乏》のお陰で理解した。この《森狼の脚》というスキル、結果的に言えば僕にぴったりのスキルだった。
いつも通り、4分割された脳内映像では僕の脚に銀と翠の混じった風が渦巻いている。そのまま走り出したイメージの僕はまさに風の如く、飛ぶような速さで動いていた。別の映像では飛びながら空中で方向転換なんかしてやがる。ぶっ壊れスキルじゃないか……。
しかしぶっ壊れ過ぎだ。扱える自信がない。絶対こんなの酔うわ。主人公なら難なく扱うのだろうが生憎、主人公補正などない。
だがこれでスキルに関しては理解した。マジ凄いって理解した。
残った問題は付与だ。こんな事あるのか? あるなら誰に聞けばいい?
ゴロゴロとベッドで転がりながら悩む。
「はー、こういう時ネットがあれば調べられるのにな……」
延々と考え、悩み、ついついでかい独り言も漏らす。そしてそれで気付いた。
「調べるなら図書館があるじゃないか!」
図書館があるかは分からないが。何ならどこぞの本屋でもいい。もう太陽も頂点を過ぎているが思い立ったが吉日、僕は部屋を飛び出して宿の女将であるマリスさんを探す。しかし宿の中には居なかった。諦めて外へ出ると何てことはない。お洗濯中でした。
「マリスさん」
「おや、アサギ。どうしたんだい?」
大きなシーツを洗濯紐に引っ掛けながらマリスさんが振り返る。
「ちょっと聞きたいんだけど、この町に図書館とか本屋さんってない?」
「んー……本は貴重だからね。そういうのは王都にでも行かなきゃないんじゃないかね」
ガーン、だな。そうか……現代日本と違ってこの世界には印刷技術なんてもんはまだ無いんだな。恐らく手書きなんだろう。無いなら仕方ない。行くか? 王都。
「でも本好きな爺さんならこの町に居るよ」
「えっ、本当?」
「あぁ、まぁちょいと変わり者だけどねぇ」
そう言ってくっくと笑う。どんな偏屈じじいでもばばあでも良い。紹介してほしい。
「その人に会うにはどうしたら良いかな」
「安心しな。あたしが手紙を書いてやるよ」
流石マリスさんだ。顔が広い。僕はお礼を言って再び出掛ける準備をする為に自室へ戻る。用意して降りてきた時には手紙は書き終えていて、マリスさんが手渡してくれた。ついでに地図も貰えた。
「はいよ。行っといで!」
「ありがとう、マリスさん。行ってきます」
僕は会釈して宿を後にした。さて、どんな人がいるのだろう。
□ □ □ □
「何じゃあ、お主は。何の用じゃ?」
「はい、マクベルさんが本の蒐集が趣味と聞いて。実は調べたいことがあるのですが伝手がなく、泊まっている宿の女将のマリスさんに聞いてみたらここに行くと良いと聞きまして」
「ほう、マリスの知り合いか。主の名は?」
「アサギ=カミヤシロと申します」
「アサギか。良い名じゃ」
というやり取りがあった。
マリスさんに紹介された本好きの爺さんこと『マクベル』は、大変お年を召した方だ。白髪を後ろに流して、手には杖。腰は曲がっているがまぁ、元気そうだ。
彼の家は町の外れにあった。防壁近くだが、空いたスペースに無理矢理建てたような大きな家。そこに彼は一人で住む。と言っても何人かの召使いさんがいるようで、応接室に案内してくれたのも召使いさんだ。本部屋に行く途中も何人かとすれ違い、会釈を交わす。窓にはカーテンが掛かり、薄暗い。本の為だろうか。
「ここが蔵書室じゃ。丁寧に扱うんじゃぞ」
「えぇ、勿論。ありがとうございます」
マクベル手ずから開けた部屋に入り、言葉を無くした。息を呑むとはこの事か。目の前には膨大な書物が所狭しと並んでいた。思わずマクベルを見返すと、彼は我慢しきれずといった感じで呵々大笑する。
「かっかっか! 良い顔じゃのう! 驚いたか? えぇ?」
「……言葉もないですよ。この量は流石に予想外です」
「かっかっかっか!」
ご機嫌な爺さんだ。こんな爺さんがどうしてこれだけの書物を? 単に金持ちの爺さんなのか?
「くっく、分かるぞ、その顔。『何でこんな爺がこれだけの本を?』と考えているんじゃろう? まぁ、金じゃ。後は伝手じゃ。儂は元王宮司書でな。引退時に写本された後の本をごっそり安値で買い取ったんじゃよ」
「なるほど……」
この時代、きっと古書でも貴重だろう。だが司書と金というアドバンテージがこれだけの蒐集を手助けしたんだろう。納得出来る話だった。
「隠居している身だがこれでも元侯爵家の人間。多少の融通は利くしのう」
何と、お偉いさんだった。途端、しどろもどろになるのは安い賃金で働いていたアルバイターの性だろうか。
「かっかっか! そうかしこまらんで良い! 今の儂はただの本好きの爺さんじゃよ。それに儂が侯爵だった訳じゃあない。政治より本が好きで、無理を言って司書をやっとったんじゃ」
僕は侯爵とかそういう位の話はただ偉い人間だという認識しかない。この爺さんの言うような無茶が通せるような世界かは知らないが、マクベルが言うならそうなのだろう。
「さて、儂のつまらん話より本じゃ。本より優先する話などこの世にはないもんじゃて」
本当に本が好きなんだな。じゃああまり待たせても悪い。早速本題を切り出すとしよう。
「実は付与というものについて調べたいのです」
「付与、のう。また面白い話を調べに来たんじゃの。さて、それならば此方に……」
歩き出した本好き爺さん、マクベルの後を追う。さて、付与について分かることはあるのだろうか。僕は期待に胸を膨らませながら薄暗い部屋の中、彼の後をゆっくりと付いていった。
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※ステータス表記を誤りましたので、修正しました。




