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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百八十八話 次から次へと騒動が起きるのは主人公補正か

改めて報告です。

この度、本作の書籍化が決定しました。

読者の皆様が支えてくださったお陰です。本当にありがとうございます。

現状出せる詳しい情報は活動報告にてお知らせしていますので、ご確認よろしくお願いします。



それでは本編をどうぞ

 ダニエラには事細かに報告した。最後に拾った号外記事を見せると『よくやった』とお褒めの言葉をいただいた。


「1人でよくやったと思うよ。全員捉えて引き渡すのは難しい。氷竜の装備も無しにそれだけの魔法を使えたのはアサギに確かな下地が出来上がっている証拠だと私は思う」

「調子に乗る訳じゃないが、自分でも結構やれたと思うよ。苦手な火魔法使い相手に上手く立ち回れたしね」

「これからは氷竜装備に拘る必要もないんじゃないか?」


 脱氷竜。しかしあの装備のバフ効果は中々手放せない。あれがあるからこそ、奥の手である『氷凍零剣(ニヴルヘイム)』が使えるしな。いざ、やばい状況になった時にあれが使えないというのは不安しかない。まぁ、あれに頼らずに戦うというのも大事なことなのかもしれない。


 ダニエラと夕食を食べながらそんな話をしていると、他の客の話し声が聞こえてきた。


「おい聞いたか? 例のやつ」

「あぁ。スタンピードだろ」


 その単語にピクリと耳が反応する。


「北のアレッサ山脈の森なんて誰も行かないからな……」

「まぁ、ゴブリンだって話だ。ランブルセンの奴等も出張ってくるだろうし、大丈夫だとは思うが」


 アレッサ山脈周辺には深い森が広がっている。彼等の話だと此処、フリュゲルニア側の話ようだ。しかしあの辺のゴブリンというとフォレストゴブリンか。樹液大好き系魔物だった記憶だが。


「すまない。その話、詳しく聞かせてくれないか?」


 と、珍しくダニエラが他人に話し掛けた。


「お、おぅ。いや、アレッサ沿いの森からゴブリンが溢れてきたって話だ。周辺の村の人が逃げてきたから間違いは無いぜ」

「その村というのはアレッサ山脈から南東の村か?」

「いんや、帝都から真っ直ぐ北上した村だな。アレッサから南東っていうと……センカ辺りか。其処じゃなかったはずだぜ」

「そうか。邪魔して悪かったな。あぁ、其処の店員。此方の2人にエールを」

「畏まりました!」


 情報を貰ったダニエラが2人にエールを奢る。手慣れてる感が凄い。


「悪いな、ねーちゃん」

「ありがとな」

「此方こそ有り難い情報だった。邪魔して悪かった」


 そして僕の居る席へと戻ってきた。小走りにやってきた店員さんが男達にエールを渡している。

 いやぁ、コミュ障を自称していたダニエラがこんな……成長を感じる。


「……ん? あ、その顔。私が知らない人に話し掛けてることに驚いているな?」

「あぁ、スピリスでのしどろもどろが嘘みたいだな」

「ふっ、私だってやる時はやるさ。というか、いつも情報収拾をしている時はこうして食べる場所で集めている。情報収集の時だけは饒舌なんだ」

「それって自慢出来ることか……?」


 ふふんとドヤ顔で胸を張るダニエラ。時も場所も関係なく出来るのであれば自慢だが……聞き上手を演じるというのであれば自慢だが。ならばこれは自慢なのかもしれない……。



  □   □   □   □


 翌日、ギルドに行って本格的に情報を集めるが、やはりスタンピードということで話題はそればかりだった。手分けしてギルド内の冒険者達から話を聞き、欲しがる者には適当に食い物を奢ってやる。そして1時間もしないうちに詳しい情報が出揃った。


「えーっと……逃げてきた人達の村が帝都から真っ直ぐ北のナミラ村。ナミラ村には申し訳ないがセンカ村じゃなくてホッとしたな……それで何だっけ。村と帝都の間に湖があるんだったな」

「そう。名前はリヴィエ湖。割と広い湖だそうだ。村の人間はその湖を迂回して帝都まで来たという話だ。ちなみに全員無事らしい。よく逃げ切れたものだと軍人も驚いていたそうだ」


 帝都の北区は僕達が泊まっていた軍部が殆どだ。つまり、北門は基本的に帝国市民は使わない。外部から来た人間も基本的に西か東へと迂回する。それをせずに北門に来たことで話は少し大きくなったらしい。僕はその辺、疎いのであまり聞こうとはしてなかった。ぶっちゃけレゼレントリブルの件が終わって気が抜けていた感もあるし、それで思うところがあってギルドへ来たが情報収集もせずにクエスト板を見て邸宅警護を選んでギルドを出た。スタンピードの話なんて全く聞きもしなかった。


 転がり込むように北門にやって来た村人達は口々にゴブリンスタンピードが発生した事を門番をしていた軍人に話す。軍部はすぐに防備を硬めた。しかしそれは帝都のだ。村を守る人間は居ない。勿論、村に人間は居ないが彼等が生まれ育った村だ。思い入れもあるだろう。僕だって働いていたコンビニをゴブリンに占拠されたらブチ切れて乗り込んでいくだろう。

 軍は帝都を守るしかない。彼等の職務だ。なら村を守るのは? 僕達、冒険者だ。村人達からの依頼はゴブリンに奪われた村を守ってくれというものだ。持ち寄った資金を報酬に冒険者を雇う。更に其処へ帝国からの援助も加えられる。帝都を離れられないからこその支援だろう。


 こうして中々旨い報酬のクエストがクエスト板に貼られた。


「『ナミラ村解放戦線』とはまた随分と大層な名前のクエストだな」

「村長のネーミングだそうだ。まだ年若い村長らしいぞ」


 若気の至りというやつだろうか。まぁ嫌いではない。寧ろ好きだ。

 『ナミラ村解放戦線』はゴブリンスタンピードの鎮圧を最終目標としているので参加可能ランクが限られている。最低でも柘榴石……Cランクからだ。例えFランクから討伐出来るゴブリンとはいえ、数が大問題だ。それに、ゴブリンにも種類があるらしい。僕は基本的にフィラルド周辺や、旅の途中で出会ったゴブリンしか見てこなかったが、スタンピードのような状況では弓を持ったゴブリンや、魔法を使うゴブリンも現れるらしい。特殊な環境で育ち、派生して成長していった結果だろう。


 コボルトスタンピードを未然に防いだ過去があるが、あれはあのまま放置していたら同じくイレギュラーなコボルトも増えていっただろう。そう思うと今回のスタンピードを未然に防げなかったのは痛手である。


「よし、登録しに行こう」


 ダニエラが席を立ったので後を追う。今回は特別クエストなのでクエスト板に受注票はない。特別に設けられたカウンターでの登録をする。見ればそれなりの人数が並んでいる。皆、Cランク以上。腕に覚えのある冒険者の集まりだ。高価な装備や、使い古した装備に身を包んでいる。そんな中僕は部屋着で並んでいる。イキり散らすにも程があるが、元々情報収集するつもりで来てたから仕方ない。意識が低かった。


 お陰様で周りの視線が痛い。


「なんだ彼奴……やる気あんのか?」

「村の人達が困ってるっていうのに……」


 しかし一部では逆に異端児を見るような目で見る者も居た。


「あの装備でスタンピードを……?」

「傷一つ負わないという自信の現れかもしれない」

「ていうかあれアサギじゃね?」

「あー……」


 何だろう。気付いてもらえたのは少し嬉しいが、身バレした途端に残念な奴を見る目に変わった。どういう事だ……。


「アサギ、知らないだろうから教えてやるが……」

「なんだダニエラ」

「お前がズボラな格好で帝都を彷徨(うろつ)いているのは割と噂になっている」

「えっ」


 ズボラだと!? 竜種装備やぞ! 部屋着だけど。


「帯剣もせずにフラフラと歩く姿はまるで無職だと……」

「そんな根も葉もない噂……」

「花も咲く程に真実だ」


 ラフな格好というのはこの世界では受け入れてもらえないらしい。着やすく、動きやすく、着心地も良い。何故受け入れてもらえないのか。ジャージも着られないぞ。


「無理に決まっているだろう。襲われたらどうするつもりだ?」


 ダニエラの言葉が真理だった。武器を持った人間や、悪いことを考えている人間が多いこの世界にちょっとコンビニに行く感覚で外に出る方が異常だった。改めて言われてなるほどなと納得した。というか納得するのが遅かった。


「私ですら帯剣はしている」

「確かに」

「服はお互いに竜種ではあるが、武器を持つというのは牽制にもなる。アサギも持つべきだ」

「そうだな……今度からそうするよ」


 重い剣をぶら下げて歩くのもまた生きる上で大事なコツということのようだ。これからはしっかり守って堅実に生きる事を約束します。


 痛い子を見る目も列が進むと減っていく。そして遂に視線を撲滅したところで僕達の順番が周ってきた。ポケットからステータスカードを取り出し、ダニエラのカードも受け取ってカウンターに置く。


「アサギ様にダニエラ様ですね。この度は受注ありがとうございます。お二人は紅玉なので受注制限はクリアしていますので、このまま登録させてもらいます」

「よろしくお願いします」


 紅玉はAランクの事だ。そしてBランクは翡翠だ。


「紅玉の冒険者は遊撃及び殲滅をお願いしています。翡翠、柘榴石の冒険者は漏れたゴブリンを討伐してもらう予定です。何か質問はありますか?」

「えーっと、紅玉の冒険者って何人居ますか?」

「はい。『流転』のアドラス様。リンドウ様の2人です」


 ほほぅ、帝剣武闘会メンバーじゃないか。これは熱いね。しかしハインリッヒさんだけは参加していないが、帰っちゃったのかもしれないな。一緒に戦いたかった。


「他に何かありますか?」

「いえ、大丈夫です」

「畏まりました。此方も登録が完了しましたのでお返しします」


 こうしてスタンピードの参加が決定した。実際にスタンピードに参加するのは初めてだ。


 改めて思うが、この帝都に来てから色々な騒動が発生している。何かが、始まろうとしているのか。それとももう始まっていて、僕達はその渦中に飛び込んでいるのか。何か、想像もつかない出来事が起きるような予感がして不安だ。ひょっとしてこんなに騒動が巻き起こるのは主人公補正か?

 いや、きっとラフな格好をしているからそんな気持ちになっているんだ。そう思った僕は気合を入れ直し、ダニエラに断りを入れて一先ず宿に戻り、装備の確認をすることにした。これから始まる激戦を乗り越える為には、身に着ける物を万全の状態にしておかないといけない。

 激しい波を乗り越える為の大事なコツだ。この解放戦線、無事に乗り切りたい。

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