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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百八十二話 今後の方針、気になるクエスト

 結局のところ、良い物を貰ったところでそれが餌になり、帝国に蔓延る悪い子達が僕達に集まってくる、と。それは陛下にしてみれば都合の良いことかもしれないが、一介の冒険者にとっては迷惑極まりないことである。

 かと言って必要ない物ではない。便利な物には違いない。その辺りは上手く出来てるなぁと思う。しかも直接頼んでないから何も言えない。流石は為政者って事か……。


 なんて、夕食をダニエラと食べながらボーっと考えていたらメインの肉にダニエラのフォークが伸びる。


「駄目だぞ」

「チッ……」

「チッてお前……」


 貪欲過ぎるだろアラサー女子。


「どうせ昼間の事でも考えていたんだろう?」

「まぁな」

「考えるだけ無駄だろう。貰える物は貰い、阻む者は排除する。そうして平穏無事な日常というのは得られるものだ」

「まぁそうなんだけどね……そうだ。今後の予定を立てたいんだけど」


 半分に切った肉をダニエラの皿に移してから提案する。美味しそうに肉を頬張るダニエラはゆっくり噛んで飲み干してから頷いた。


「ご馳走様。さて、どうするか」

「んー……何も考えてない」

「じゃあ腹ごなしにちょっと考えてみるか」


 それからダニエラと向かい合って色々と打ち合わせをする。今後帝都を出るから旅の準備は必要だ。その買い物をしなくてはならない。だが何時その時が来るのか。それはまだまだ未定だ。

 なので、暫くは此処で生活してみようという形で話は決まった。ちょっと冒険者らしくクエストでもして、帝都を散策して、そんな穏やかな生活もしてみたい気もする。


「じゃあそういう方向で行くか」

「了解。はぁ、腹いっぱいになったから眠くなってきた……」

「ん……もう寝る時間だな。じゃあまた明日だな」

「ん。おやすみー」

「おやすみ、アサギ」


 寝る前のキスをして布団に入る。今日はちょっと色々頭を使いすぎた……偉い人に会うと頭ばかり使って大変だ。僕には合わない。気軽に旅をしているのがお似合いだと身に沁みた一日だった。



  □   □   □   □



 翌朝、食堂で朝食を摂る。帝都を出てレゼレントリブルへと向かう為に宿を引き払った僕達だったが、帰ってきた頃には帝剣武闘会の余熱も冷め、宿の空きも余裕があったので南門に一番近い宿に泊まる事が出来た。同時に氷雪期が本格的になり、帝都は雪に覆われ始めた。肌寒く感じる日は多かったが、ついに冬がやってきたという事だろうな。


 ギュッギュと鳴る雪を踏みしめながら町を歩く。吐く息は白く、指先は冷たい。靴の中の爪先も冷えて辛い。昔から末端冷え性なので慣れたものではあるが。

 隣を歩く人は、今日は居ない。別行動です。偶には1人になりたい時もあるよね。お互いの時間を大事にする事は長く付き合う秘訣だと僕は思う。


「思うに人間というのはお互いに消費ゲージのようなものがあって、コミュニケーションを取るたびにそれを消費しているんだ。顔を合わせる機会が多い程、消費は激しい。ゲージがゼロになれば、お別れだ。ゲージは会わない期間に多少回復する。そうして消費と回復を繰り返しながら人は共に生きていくんだろうな」


 つまり頻繁に連絡を取らせたり、会おうとするとゲージがガリガリ削れて終わりになるんだ。良い距離感というのが大事なんだろうな。


 そんな事を考えながら歩いていると暖かそうな格好をした若い男女が向かいから歩いてくる。あの人達もゲージを消費しながら付き合っているんだろうな。


「何あの人……」

「超見てくるね……」


 ボーっと見てたら気持ち悪がられた。辛い。



  □   □   □   □



 今日はギルドにやってきた。ちょっとクエスト板を見てみようかと散歩がてらやって来た訳だ。レゼレントリブルの事件を解決してからは見ていなかったので、最近はどんなもんかなと。


「んー……特に目新しい物はないかな」


 氷雪期だからか魔物の出現も少ない……気がする。ゴブリンとか、ああいうのは寒さに弱いのだろうか。ウルフ系なら、元は動物が魔素の摂取で魔物化したと聞いたから何となく弱そうだけど。


「偶には討伐以外のクエでも探すか……」


 暇なので小遣い稼ぎ程度に出来るものを……お?


「『邸宅警護』?」


 最近、不審な人間が自宅の周りを彷徨いているので調査して欲しい、という内容のクエストだ。うーん、帝剣武闘会も終わったし、観光客は帰っていったと思うが。帝都の人間の中で不審者でも居るのだろうか。いや、全く居ないなんてことはないだろうけれど。さっきまでの僕は不審者だったし。


「張り付き調査って訳でもないのか」


 期間は一晩となっている。人を変えて顔を覚えられないようにということかもしれないな。不審者が出る日に当たればラッキーといった感じかな。


「うーん……面白そうだ」


 不審者の捕縛なんて楽しそうじゃないか。危険はあるだろうけれど、まぁ、何とかなるだろう。自惚れている訳ではないけれど、どうにか出来る自信はある。そういう自力がついてきたと思っている。

 よし、受けよう。と、クエスト表を取った僕は意気揚々とカウンターへと向かい、無事に受注完了した。完了してからダニエラに相談しなきゃと考えたが、事後報告でも問題ないだろう……多分だけど。


「まずは依頼者に会って話を聞くか」


 それから宿に戻ってダニエラに報告して、夜になったら調査しよう。うん、それで良いだろう。良いはずだ。お互い大人なんだから問題ないだろう。


 そう言い聞かせても、何故か背中が薄ら寒い僕だった。

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