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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百八十一話 災害は終わり、帝城にて

「……という事がありました」

「なるほどな」


 今までの経緯を報告しています。上社朝霧22歳。夜勤アルバイターをして地域の皆様に愛されて続けてきた男です。今では異世界でしがない冒険者をしています。

 そんな男の相手をしている男は一国を預かる男。ヴェルドレッド=パウゼンツィオ=フリュゲルニア皇帝陛下だった。しがないアルバイターを経てしがない冒険者となった身では絶対に謁見出来ない相手だったが、ダニエラの我儘から帝剣武闘会へと参加し、運良く準優勝に落ち着いた結果、会う機会が設けられて、顔と名前を覚えられてしまったのだ。


「あの地が古代エルフの実験施設の成れの果てだったとは、予想もしていなかったな」

「今から589年前に施設への侵入があって、以前のレゼレントリブルの形になったそうです。詳細は此処に書き記してありますので、目を通してもらえると」

「助かる。しかし君達には世話になったな。帝剣武闘会も盛り上がったし、未曾有の災害の対処もしてもらった。褒美として……」

「爵位でしたらお断りしますが」

「ははは、冒険者を国が縛ることは出来んよ。また物を贈らせてくれ」


 ダニエラの鋭い断り文句に皇帝様が苦笑いする。ダニエラ、相手は皇帝だぞ……まぁ、爵位は僕もお断りだが。しかし断るのであれば、物もそうだ。


「僕達は冒険者ギルドの依頼として関わったまでです。何かを受け取るのであれば、ギルドの報酬だけです。陛下から直接何かを頂くことは出来ません」

「ふむ……それも道理か。しかしアサギよ。軍まで動かしたとなると、これは冒険者ギルド内で収められる話ではない。ならば特別報酬があって当然ではないか。違うか?」


 ドヤ顔で僕の顔を覗き込む皇帝。そうまでして何かを渡したいというのは、何か裏があるのではないかと疑ってしまう。相手は僕みたいな木っ端冒険者では到底太刀打ち出来ない、本物の為政者だ。


「ははは、疑ってるな? だが裏はない。この帝城にはかつての皇帝の遺品や宝物が数多く埃を被っている。それらは展示物ではなく、道具だ。私の代ではそれらを有能な人間に分け与え、国を、世界を豊かにしたいと思っているのだよ。準優勝でありながら帝国所縁の剣を渡されるなど、おかしいと思っただろう? だが、それが私のやり方なのだ」


 深く椅子にもたれ掛かり、優雅に足を組んだ皇帝が、僕が持った疑念、持っていた疑念について教えてくれた。確かに準優勝であの剣はランクが高すぎだと思った。受け取れないと、実際に言ったくらいだ。


「あの時はああ言ったが、君は将来有望な人間だ。冒険者を国が縛ることは出来ないとは言ったが、いつか別の形で助けてもらえたなら、私はそれで満足なのだよ」

「そうまで言われて、受け取らないのは不敬罪になりそうですね……」

「はっはっは! そうなったら罰として貴族にして私の国で働かせよう」


 そんなのは御免だ。貰える物は有難く受け取ろう。


 そんなやり取りの後、皇帝が人を呼ぶ。以前は見なかった人だ。白髪のおじさんだが、目付きは鋭い。きっと大臣とか、そういう人だろう。

 大臣(仮)の後ろには軍服を来た人が居て、何かを手にしている。それを大臣(仮)に渡し、それを大臣(仮)が皇帝に渡した。無駄なやり取りに見えるが、意味があるのかもしれないな。


「さて、ではこれをアサギに」

「これは……?」

「前回は片手剣を渡したので今回は両手剣だ」


 そう言ってニヤリと笑う皇帝陛下。武器は足りているのだが、まぁ、男の子だし? 武器は幾らあっても嬉しい。

 皇帝陛下直々に手渡してくれた両手剣を恭しく受け取る。鞘に包まれたそれは僕の持つ藍色の大剣(シュヴァルツ・テンペスト)よりは細身だ。あれ程幅広の大剣はあまり無い。


「抜いてみてもいいですか?」

「構わんよ」


 どうぞ、と促してくれた皇帝陛下に頭を下げてから鞘と柄を握り、ゆっくりと引き抜いた。


「これは……片刃ですか」

「珍しいだろう。これも皇帝所縁の品だ」


 基本的にこの世界の剣は西洋剣、つまり両刃の剣だ。足切丸のような謎の片刃剣もあるが、誰もが皆手にしているのは両刃の剣だった。その中で片刃はやはり目立つ。ルーツは分からないな……過去に日本人が転移、或いは転生してきて知識チートを駆使して作り上げた刀が、今日に至って少数ではあるが存在を確認されてる……なんてこともあるかもしれない。足切丸に関しては絶対日本人が作ったと思ってるけどね。日本語だし。因みに僕には刀の知識はない。現代日本を生きてて詳しい人間なんて、職人か拗らせたオタクくらいのものだろう。格好良いってことくらいしか分からないな。


 さてさて閑話休題。今は剣だ。手にした剣は片刃。刃渡りは流石両手持ちの大剣だけあって1mを少し越えている。重いが振り回せない程の重さではない。細身だからだろう。この剣に同じ片刃を足して両刃の剣にしたら藍色の大剣と同じくらいの重さになるだろう。

 柄の部分は革が巻かれている。しかし全く劣化している様子がない。何の革だろう。多分、新しく巻いたとかではないと思う。


「気付いたか。その革ははるか昔に南の森で暴れていた狼の革だ。身の丈4mという体躯でありながら風よりも速く走ると言われた巨狼。おまけに頭が2つあったと言われている」


 頭が2つの狼……。


「南に住む者の間ではオルトロスと呼ばれていた魔物だ」


 そうだろうな。頭が2つの狼と言われればオルトロスしか思いつかない。オルトロスはケルベロスの弟と言われている。その南の森に、兄貴は居なければいいが。


「そしてその刃は、オルトロスの血、骨、肉、革……それらを魔石に練り込んで作り上げたのがこの剣。名を双頭の狼(オルトロス)という。そのまんまだな」

「あはは……」


 作り上げた鍛冶師のネーミングセンスがゼロだったのだろう。しかし血も肉も骨も革もとなると……ちょっとアレだな。アサルトコボルトの剣を思い出して不安になる。あれは僕への恨みで呪剣となった曰く付きの剣だ。因みにまだ虚ろの鞄に仕舞ってある。この剣も相当恨みが詰まっているだろうな……双頭だけに。


「……あれ。でも双頭なのに刃は1つなんですね。二枚刃とか、そういう験担ぎ? みたいな作り方しそうですけど」

「あぁ、本来は対になる剣があったらしい」

「らしい?」

「現在は行方不明だ。過去の皇帝が私と同じく、優秀な人間に授け、そのまま行方が分からなくなってしまったそうだ」


 それは……何だか受け取るのが怖くなる。アサギに渡した所為で無くしてしまったとか言われたら嫌だな。


「ははは、君はすぐ顔に出るな。気にしなくていい。剣は使ってこそ意味がある。君の手から他人の手に渡ったところで損にはならない。尤も、持ち主が善人であるなら、だがな。しかしそれも手放した持ち主の責任にはならんだろう。奪われたなら、また別だが」

「すみません……大事にしたいと思います」


 最後の言葉で結局責任が伸し掛かってきた。奪われるようなヘマをするつもりはないが……そうだな。大事に扱いたいと思う。


「うむ。そうしてくれると剣も喜ぶ。では次にダニエラだ。君は武器はそれ以外使わないそうだな」

「はい。母の形見です」

「なるほどな。やはり武器を用意しなくて良かった。おい」


 頷いた陛下は後ろに立つ大臣(仮)に合図を送る。するとまたその大臣(仮)の後ろの軍服を来た男から何かを大臣(仮)が受け取り、それを皇帝に差し出していた。


「それは?」

「これは以前、オークションで落札した物だ。皇帝所縁の品ではないが、有用な物には間違いない。そして、これは君にピッタリの品であるはずだ」


 四角いトレーに上には布が敷かれ、そしてその布の上には緑色の指輪が乗っていた。指輪……指輪だと?


「これは風魔石をそのまま指輪にした物だ。更に特殊な加工と付与で魔力、威力が共に上昇する。君の風魔法にさらなる成長を齎すだろう」


 僕だってまだダニエラに指輪を送ってないのに!


「ありがとうございます。とても良い物だ。ですが受け取れません」

「ダニエラ……?」


 思わずダニエラを見る。ダニエラは僕を見て苦笑する。


「まだ此奴から指輪を受け取っていません。皇帝陛下直々の贈呈であっても、まずはアサギから指輪を受け取りたい。なのでその品に関しては辞退させてもらいます」

「ふむ……これは失礼した。既にその契りは交わしているものだと。しかしアサギよ、奥ゆかしいのも考えものだぞ? こんな事、女性に言わせてはいけない」

「はい……すみません……」


 いつか、渡す時が来たらなんて思っていたが、それを前倒しで言われるとは思いもしなかった。しかも陛下に言われた。情けない……。


「そんな情けない顔をするな、アサギ。陛下、私達には私達のペースというものがあります。奥ゆかしさもまた、アサギの魅力の1つです。急かすようなことでもありません」

「おっと、藪を突いてしまったか? はは、いや失礼した。私が口を出すような事ではなかったな。では代わりの物を用意しないとな。ふむ……何か良い物はないものか」


 風魔石の指輪は却下となり、陛下が代替品を思案し始めた。幾つもある品の中からダニエラにピッタリの品を、脳内で吟味しているのは流石と言わざるを得ない。

 その間、僕達は用意されたお茶を啜って待っていた。しかし陛下はなかなか目録の海から戻ってこなかった。忙しい身なのを知っている立場としては、少しソワソワしてしまう。と、そんな様子が伝わってしまったのか、大臣(仮)が考え込む陛下に耳打ちをした。


「陛下、あの魔道具でしたら役立つかと……」

「ん? ……おぉ、アレか! 旅をする二人には打って付けの品だな。いや、戦闘にばかり割いていたので気付かなかった。やはりお前は有能だな」

「有難き幸せ」


 どうやら品が決まったらしい。ダニエラの装飾品では無さそうだが……。


「喜べ、素晴らしい物を思いついた。お前達に特別な馬を授ける。都合により2頭だが気にするな。お前達にピッタリの品だからな。よし持ってこい」


 それだと僕だけ2つ貰うことになってしまうのだが……気にするなとはそういうことか。馬をダニエラにだけ渡したら僕は全力疾走しなくてはならない。かと言って、僕に渡した物を返せとは立場上言えない。それで気にするな、か。僕が指輪を渡すのが遅かった所為でこんな事になってしまうとは……いやはや情けない限りだ。


 しかし馬がこの城の中に居るのだろうか。いや、馬小屋とかはあるかもしれないが、持ってこいって言ってたよな……此処にか?

 と、首を捻っていたら軍服を来た男が扉を開ける。そして連れられてきたのはなんとまぁ、メタリックな馬だった。生物ではない。


「驚け、これは古代エルフ時代に作られた馬型の魔道具だ。恐らくは軍馬扱いされていたのだろう。その辺の馬よりも体躯はしっかりしているし、動きも素早い。鞍もセットで発掘されたので乗り心地も問題ないだろう。なんと言っても疲れないからな。幾らでも走る事が出来るぞ。とはいえ、魔力を充填しないと駄目だがな」

「それは……良いのですか? こんな貴重な物を、一介の冒険者に渡して」

「気にするなと言っただろう。それは全てに於いて気にするなという事だ。私が渡す。お前達が受け取る。それだけだ」

「畏まりました。謹んで受け取ります。ありがとうございます」

「うむ。さて、漸く品を渡せてスッキリした。思ったよりも時間が掛かってしまったな……そろそろ私は行くとしよう」


 チラ、と僕を見てニヤリと笑う陛下。僕は眉をハの字にしながらぺこぺこと頭を下げる。


「ははは、ではまた会おう」

「ありがとうございました!」

「ありがとうございました」 




 こうして帝城での報告は終わった。報告だけのつもりが、思いもよらない物を受け取ってしまった。何だか、こうして物を渡されてしまうと恩返しをしなければいけないような気持ちになってしまうのは僕が異世界人だからだろうか。感謝と恩返しは日本の心……とか、思いながら城から出る道を歩く。

 因みに馬は鞄に中に収納出来た。自動人形と同じ造りで炉心を操作すると動くようだ。つまり動くが、無機物。人工皮膚の類は無かったところを見ると、大昔は使い捨ての魔道具だったように思える。


「良い物を貰ったな」

「そうだな……押し付けられた気分だけど」

「これをやるから必要な時は力を貸せ、か? まぁその考えが無いということは無いだろう。この帝都の危機には馳せ参じる必要はありそうだ。馬まで貰ったしな」

「あの馬だって貴重品だろう。馬を使う仕事をしている人間は喉から手が出る程欲しい物だろう」


 そう思うと迂闊に使えない気分だ。人の目に触れれば、必ず話題になるだろうし良からぬことを企む人間も出てくるだろう。


「そういう人間を炙り出し、始末するのも仕事のうちなんじゃないか?」

「そこまで考えてるとしたら……皇帝ってのは恐ろしい人物だよ」


 実際の所は分からないが……まぁ、ダニエラの考え通りではあると思う。国に蔓延る膿を始末する……国を思う為政者であれば、当然か。何だか上手いこと手の平で踊らされた感が半端ないが、貰ってしまったものは仕方ない。これからの旅に役立てる他ないだろう。まったく、裏はないと言いつつこれだ。と、溜息を吐きながら帝城の門を潜り抜けた。

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