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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百六十九話 明け方の出会い

 最終的に作ったソースを加えて良い感じに混ぜるとシチューは完成した。日も暮れてパチパチと爆ぜる焚き火の明かりだけが周囲を照らす。人も増え、物資も増えた所為か普通のキャンプに見える。いつもはダニエラと二人だから旅感があるが、こうして4人になった光景を見るとレジャー感が出てくる。しかし周りに居るのは動物ではなく魔物だ。気を引き締めておかないと……危ない事になる。


「出来たぞ」

「待ちくたびれた」


 真っ先にダニエラが焚き火の傍で僕が買ってきた赤い食器を取り出す。ちょっと大きめのそれに出来上がったシチューを流し込んでやる。少し多めに。

 次に店長の食器にシチューを入れる。店長のは木で出来た器だ。使い込んだ感じが素敵。物持ちが良いのだろう。


「シチューは久しぶりだね……以前、牧畜が盛んな町に滞在した時に食べた以来だよ」

「そんな所があるんですね」

「あぁ、広い草原の中心にある町でね。羊や牛が沢山居てとても長閑な町だった」


 平原都市を思い出す。彼処はほぼほぼ完成された都市だったけど、店長の居た町はもっと牧歌的な場所なんだろう。牧畜には魔物の脅威が付き物だ。以前訪れた村ではレッサーワイバーンの脅威があった。牧畜で町を運営出来るということは、それだけの平和を維持出来る何かがあるということだ。パワースポット的に魔物が出ないのか、それ等を撃退出来る力があるのか……。


「其処の町長が冒険者ギルドのマスターを兼業してる二つ名持ちだったんだよ」

「あー……」


 戦力の方が正解だったようだ。面白い町もあるもんだな……。

 店長の話を聞きながらレモンの器にもシチューを注ぎ込み、最後に自分の器にもシチューを注ぐ。


「じゃあ食べよう」

「いただきます」

「いただきまーす!」

「もぐもぐ」


 お行儀の悪いダニエラさんは平常運転で旨そうに食べてくれる。店長は味わうように食べ、レモンは楽しそうに食べる。見た感じ、不味くはないみたい。その様子を見ながら自分の器の中のシチューを口へ運ぶ。……うん、旨い。まろやかな舌触りと牛乳の甘みと、鶏ガラの旨味が旨い。レポーターのような感想は他所にお願いします。とりあえず、旨い。

 流石にシチューだけでは食い足りないと思い、用意しておいた物を切り分ける。それは帝都で購入した香辛料をちょっとずつ味見しながら作ったオリジナルスパイスで味付けした鶏肉だ。フライパンの上で余熱調理していたそれを部位分けして鞄から出した皿に乗せて配る。


「それがずっと気になっていたんだ」


 皿を受け取ったダニエラがこれまた嬉しそうに一口囓る。


「ん……! これは旨いな。プリプリの鶏肉の食感と油の旨味は然ることながら、このスパイスの暴力的ではあるが計算された味付けが最高だ。食が止まらなくなる……。ピリッとした辛さと油の甘みが合わさって、文句なしに旨い。シチューのあっさりとした、でも奥深い旨味と合わさるのは鶏の風味があるからか? 最高の組み合わせだな……!」


 食レポのような怒涛の賛辞に気恥ずかしさを覚えながら、鶏を囓る。うん、ばっちり火も通っていて旨い。見ればレモンも店長も無言で忙しなく鶏とシチューの間を往復していた。これだけ喜ばれると料理人、冥利に尽きるね……冒険者だけど。



  □   □   □   □



 その後も黙々と食は進み、皆がお腹いっぱいになった所で一息ついた。爆ぜる焚き火を眺めながらこれからの事を考える。レゼレントリブルの状況はどうなっているんだろうか。もう町が反転し終えているのであれば、気を引き締めていかないといけない。地上は高レベルの魔物の巣窟と化しているだろう。それが町の外に放たれれば、それこそ大被害の始まりになる。いや、もしかしたらもう外へと排出されているかもしれない。

 4人となったことで、流石に二人旅のようなフットワークの軽さはなくなるが、それでも急ぐに越したことはない。明日の旅程を少し早める事を提案した方がいいかもしれない。そう思った僕は早速その事を3人に話してみる。


「ふむ……確かにアサギの言う通りかもしれないな」

「しかしこの先は森だよ。いくら多少の人間の手が入っているとはいえ、歩いて1日。駆け抜けるにしても半日は掛かる。森を抜けても町まではそれなりにあるんだろう?」

「はい。確か歩いて半日ちょっと……だったっけ? ダニエラ」


 店長の問いに答えながらも自信がなかったので後半はダニエラへ問いかける。


「そうだ。朝出て午後を少し過ぎた頃に到着の予定だな」

「じゃあどんなに急いでも1日早くなるだけですねー……」

「其処で、僕とダニエラの出番ですよ」

「私か?」


 僕は考えていた計画を3人に話す。


「ダニエラが風の魔法で3人を持ち上げて、僕が《神狼の脚》で森を越える。ってのはどうだろう?」

「ふむ……私を含めてリンドウとレモンを持ち上げるのだな?」

「重さが無ければ、僕が引っ張ることが出来る。流石に3人抱えての行動は難しいからな」

「でもそれならひとっ飛び出来そうだね。アサギ君のスキルの凄さは身を以て体験しているからね」


 苦笑しながら言う店長に曖昧な笑みを返す。あれは超本気の状態だったからね……超々本気になればもっと凄い……はずだけど。このスキルの限界がまだまだ見えないのが我ながらちょっと怖いね。発想が貧困だから切っ掛けがないと壁を越えられないのが悲しい。ギブミーアイデア!


「じゃあ明日はそれで行こうか。で、森を越えたらどうする?」

「多分問題ないと思うから町まで行っちゃおうかと思ってる」

「大丈夫なのか?」

「多分ね。ダニエラは?」

「私も問題ない。装備のお陰で風魔法の行使がより良くなっている。優勝して良かった」


 翡翠風龍のマント、恐るべし……。ダニエラの風魔法は既に達人レベルだ。それが更に効率よく運用出来て、恐らく威力の方も増しているだろう。いやぁ、これは逆らったら勝てないわ。そもそも武闘会で勝てなかったんですけどね。


 ま、とりあえず明日の予定は決まった。今夜は、明日の為にということで僕とダニエラはぐっすり眠らせてもらえる事になった。店長とレモンが交代で見張りをしてくれるそうだ。結界の魔道具もあるし、今夜はぐっすり眠れそうだ。




 ……と思っていた時期が僕にもありました。


「アサギ君! 起きろ!」


 大慌ての店長の声にガバッと起き上がり、鎧の魔剣を手にテントから飛び出る。周囲はやや明るくなってきたか。夜明けが近い。視線を眼下へ、そして《気配感知》を作動させる。眼下へ下ろした視線が、自然と森の方へと動いた。


「すまないな。私の気配感知は君やダニエラのように高性能ではない。この距離になるまで分からないんだ」

「いえ、全然問題ないです。昔の僕なんかよりよっぽど高性能ですよ」


 死線を越えたお陰でスキルレベルが上がったが、堅実な旅を続けた店長にそれは期待出来ない。無茶なんてするもんじゃないからな。


 店長の気配感知が察したのは高レベルの魔物の反応だった。今は森の中。真っ直ぐではないが、徐々に此方へと近付いている。この右往左往とした動きのお陰で店長の感知エリア内になかなか侵入しなかったのだろう。

 ダニエラはもうテントから出て死生樹の弓を構えている。レモンは得物の槍を手にしている。衛兵隊仕込みの槍術だ。お手本のチャンス。

 僕は鎧の魔剣を抜き、店長も腰に下げた短剣を2本抜く。帝剣武闘会では闇魔法の影短剣を使っていたが、此方は実体のある短剣だ。


「これか? ダンジョン産の短剣だ」

「良いですね、それ。対になってるんですか?」

「まぁな。箱から2本出てきたし」


 なるほど、ダンジョン産の物は箱に入っているのか。確かに僕が見つけた鑑定眼鏡は箱に入っていた。自動人形は放置されていた物だったけど。そもそもあれは古代エルフの建物だ。あれがダンジョンだったのか、それ以外の目的の建物だったのかは分からないけれど。

 さて、そんなことより魔物だ。僕の気配感知ではもう、森から顔を出す頃だ。それは、数分と待つことなく現れた。


「うわぁ……リアルで初めて見た……」


 思わずポツリと溢してしまう程に、それは見たことが無いのに見たことがある姿だった。

 頭には太くて立派な2本の角。モサモサの髪は背中を覆うように生え、体は筋骨隆々。太い腕の先には両刃のこれまた大きな斧が。粗末な腰布から生える足もまた立派なものだった。


「ミノタウロス……ってやつか」


 鼻息荒く周囲を見回す魔物はミノタウロスだった。

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