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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百六十七話 レゼレントリブルへ

 翌日に帝都を出ることにした僕達は、ギルドを出て一旦宿へと戻った。その場でチェックアウトの手続きをして、明日には出られるように準備を整え、その日は適当に食事をして眠った。……が、ダニエラから夜のスポーツのお誘いがあったので軽く運動した。


「暫くお預けになるからな」

「知らんがな……」


 ダニエラ的には死活問題らしいが、僕はまぁ……なんて思っていたが、武闘会やオークションと様々なイベントがあった所為で暫くしてなかったので不覚にも夜遅くまで盛り上がってしまった。お恥ずかしい。

 しかしお陰様でぐっすりと眠る事が出来たので、見事に二人共寝坊し、チェックアウトギリギリに宿を出て、ダニエラの熱い要望で《気配遮断》、《神狼の脚》を行使してギルド前まで向かい、店長達と合流した。


「重役出勤とはいいご身分だね?」

「申し訳ありません……」

「ま、少しの遅刻は許そう。給料から天引きしておくよ」

「もうバイトじゃないんですけど……」


 そんなやり取りにこの上ない懐かしさが込み上げる。もう戻れないあの日常……ちなみに僕は無遅刻無欠勤だった。




 今日は昨日よりも肌寒い。早速僕は虚ろの鞄を下ろし、昨日買った防寒具を取り出して身に付けた。ダニエラもいつの間にか防寒具を身に着けている。あの腕輪マジで狡いな……。嫉妬の視線を送りながら、僕達は屋台飯で腹を満たしながら南門を目指す。急いで来たのに南門周辺の宿場街を抜けるのはちょっとモヤモヤする……が、寝坊したのは自分なので全部飲みこんで足を動かした。南門集合でええやんけ!


 店長とレモンはいつでも町を出られるようにと普段から旅の準備はしているそうで、防寒具もしっかりと用意していた。店長はそもそも寒い所からやってきたのと、カプリコーン=シュタイナーとして動く為の変装用の衣装があったのでそれを防寒具として使うらしい。2人とも中くらいのリュックに最低限の荷物を詰めて僕とダニエラの後ろに続いた。


「それにしてもアサギ君達と一緒に旅をすることになるとはね……人生分からないもんだ」

「私も先輩達と一緒にーっていうのは予想外ですねぇ」


 2人が感慨深く呟くが、何となくこうなるんじゃないかなーという予感は前からあった。店長と出会って何事もなくではまたというのはまず無いだろう、と。そこにレモンがやってくるのは完全に予想外だったが。しかしダニエラとの二人旅も良いが、こうして二人以上の旅というのも経験しておいて損はないだろう。スピリスに行くまでにフィオナを加えた三人旅を経験したが、ほぼ平原を駆け抜けた記憶しかない。


「じゃあ南門を抜けたらそのまま真っ直ぐ道なりに進んで森を抜けてレゼレントリブルだ。馬車は残念ながら町が危険ということで公式には出てない」

「公式には?」


 遠足のガイドを始めたダニエラに質問する。


「違法……と言うと言い過ぎだが、馬車自体は出てる。ただし相場の5倍でな」

「うげぇ」

「御者にとってそれだけの危険と、行く者にはそれだけの収入の可能性があるということだ。ピンチはチャンスと昔から言うだろう?」

「言うっちゃ言うけどな……」


 多分だけどそれは勇者語だ。


「ま、それは高いし、私達なら問題なく森は抜けられる。アサギが高い金を出して買ってきた結界の魔道具のお陰で夜も安心だしな」

「やばい魔物が出たら流石に無理だけどな……ま、それだけの奴が出たら普通に気付くけど」


 言ってからフラグじゃないかと危惧するが、此処には帝剣武闘会本選出場者が3人も居る。レモンだって長年、衛兵隊を勤めて盗賊や魔物の駆逐を生業にしていた。まず此処で躓くようなことはないだろうな。


「まずは森の手前まで行く。翌日に森へ入り、その日のうちに抜けて休み、3日目午後にはレゼレントリブルに入る予定だ。一応無理のない速度と時間を計算した」

「……うん、大丈夫だと思うよ。レモンは大丈夫かい?」

「大丈夫ですよ、リンドウさんっ」


 僕に確認が来ないのは《神狼の脚》があるからだろうな。このスキルがどういう物かは3人とも知っている。魔物由来……というとレイチェルにぶっ飛ばされそうだが、その辺の話は一応した。すげぇ奴の弟子になって教わった、とだけ。色々説明が面倒臭い奴だからな……しかも、それ程詳しくは聞いていない。『プライバシーの保護じゃ!』とどつかれたから聞いていない。


「じゃあそんな感じで。ま、気負わずに楽に行こう。四人旅は私も久しぶりだから楽しみたい」

「私も久しぶりだ……道中はアサギ君に色々お話してもらおうかな」

「話す程の事なんかないですって」


 悪戯を思いついた目の店長に脇腹を突かれるが、波乱万丈なエピソードなんてものは生憎持ち合わせていない。


「とりあえず、昨晩の事について聞こうか?」

「さ、行きましょうか。レモン、置いていくぞー」

「あ、待ってくださいよーっ!」


 意外と子供っぽく屋台に齧り付くレモンに声を掛けて我先にと南門を抜ける。門番さんにステータスカードを提示している間、店長とダニエラが何やら楽しげに話していたが、生憎僕には《神狼の耳》はついてなかった。



  □   □   □   □



 門を出た先は見通しの良い平原だった。ところどころに丘があり、景色はスピリスによく似ている。その平原の真ん中を土色の道が割いている。踏み固められた道だ。馬車の往来もあるのでそれなりに広く、そして硬い。


「帝都では道路の舗装の計画が立てられているそうだよ」


 店長の言葉に、此処が石畳になった未来を思い浮かべる。道が舗装されれば通行が楽になり、往来が増える。往来が増えれば人が増え、其処に収入が発生する。帝都は益々大きく、立派な都市になるだろうな……この道の途中にも宿場町みたいなのも出来たりして、帝剣武闘会のシーズンは混雑したり……あぁ、それはとても素敵じゃないか。


「そうなると往来も増えるし、ますます帝都は人で溢れかえるな」

「でもそれって良いことですよね!」


 ダニエラとレモンも同じ感想を抱いていたので、うんうんとしたり顔で頷く。帝都は歴史の長い都市だが、これからもっともっと発展していく事はまず間違いなかった。ランブルセンの王都も、同じくらい栄えていたらと思う。いつか行ってみたいしな……。


 平原の街道を進むのは楽だった。見晴らしも良いし、定期的に人が通る事もあって魔物も居ない。これが商人だとかそういう非戦闘職の人間であればまた違ってくるかもしれないが、この先にあるのは戦闘職の巣窟と言ってもいい町だ。バリバリの戦闘職の歩く道に、気軽に魔物もやって来ないだろう。

 ワイバーンも来ない長閑な街道を進むこと数時間。次第に平原の風貌は草原へと変わり、やがて木々が目立ち始めた。


「ちょっと注意していこうか」


 最年長(とか言ったらぶっ飛ばされる)のダニエラの指示に各々は防寒具の前を開いて得物に手を掛ける。本日の僕の武器は鎧の魔剣だ。定番ともなったこの武器は本当に扱いやすくなった。もう体の一部と言っても過言ではないね。今なら背中に背負っても納刀出来るんじゃないだろうか。っていうくらいリーチや重心を把握している。剣自体も頑丈で、流石は鎧に使う鉱石で作った剣だと改めて思った。鎧甲石で作った鎧はさぞかし丈夫なのだろうな。


 《気配感知》を周囲と上空に広げて索敵しながら草原を進む。すると遠くの方で少し反応が引っ掛かった。スキルレベルが同じダニエラもピタリと足を止める。


「向こうの木と岩の裏に反応だ。ゴブリンだな」


 流石に魔物の種類までは当てられなかった。ゴブリンの反応は分かるが、ちょっと遠過ぎだな……そこはレベルに依存しない経験でダニエラの勝ちだ。

 さて、帝都を出て最初の魔物だ。幸先の良いスタートを切る為には油断なく、それでいて大胆に攻め込むのが大事だ。レゼレントリブルでの成功を祈りつつ、僕は腰に下げた相棒を抜き放った。

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