第二百六十四話 薬品店から服飾店へ
アエネウスと別れ、帝都を進む。ギルドで渡された地図を頼りに角を曲がり、突き当りにその店はあった。
「『ハーヴィ薬品店』……うん、此処だな」
地図から顔を上げて掲げられた看板と違いが無いかしっかり確かめる。うん、間違いない。此処がギルドから紹介されたポーション屋だ。
「じゃあ行くか」
「あ、待ってくれよ」
地図で確認してたらダニエラがもう扉に手を掛けていた。コミュ障のくせに行動派なんだよな……どうせ中に入ったってやり取りするのは僕なんだ。
ダニエラに続いて店内に入ると、ちょっと薄暗い感じの内装だった。日が当たると変化する薬品とか聞いたことあるから、そういうのもあるのかな……入り口から奥へと並べられた棚には種類豊富な薬品が、様々な形の瓶の中に色とりどり入って陳列されている。マッドな感じがして結構好きかも。
ちょっと狭い間隔の棚の間を進み、店の奥に行くとカウンターがあった。しかしそこに居るはずの店主が居ない。無人だった。
「うーん……どうしたもんか」
「奥に居るな」
「え?」
ジッと店の奥を見るダニエラ。何で分かるんだろうと振り返ると、ダニエラは僕を見て溜息を吐いた。
「気配感知のスキルがあるんだから活用しないとな」
「あっ」
すっかり忘れていた。スキルレベルが低い時は町中でも使って熟練度を稼いでいたけれど、ダニエラとほぼ同じくらいにまで上がってからは町中ではオフにしていたから気付かなかった。いやー、宝の持ち腐れって嫌だね。勿体無い勿体無い。うん、確かに店の奥に居るね。1人のようだ。ならば呼べば気付くだろう。ダニエラは……もう例の呪いが発動している。
「すみませーん」
仕方ないので僕が呼ぶ。どうやら聞こえたらしく、気配が此方へと向かって動き出した。うんうん、一回で来てくれるのっていいね。何度もすみませんすみませんと呼ぶのは好きじゃない。悪いことしてないのに謝ってるみたいだし。
「はいはい。何をお探しですか?」
出てきたのは人の良さそうなお爺さんだった。ふっさふさの白い髭がチャーミングポイントだ。
「えっと、普通のポーションと状態異常回復系のポーションをいくつか欲しいんですけど」
「品質はどうされますか?」
そうだ、品質があるんだ。基本的に色が鮮やかになる程品質は高くなる。明るい緑が傷に効いて明るい黄色が体力が回復する。飲んで傷が治り、元気になるというのは不思議なものだが、これこそ異世界って感じだ。今更だけど。
「品質は高めでお願いします」
「はい、畏まりました」
頷くとお爺さんはカウンターから出て来て店内を移動し始める。後を付いていくと色鮮やかなポーションが並んだ棚に到着した。と言っても高品質ポーションは防犯の意味もあるのか、カウンターのすぐ傍だった。目につく場所にないと盗られるしな……。
「えー……」
其処からまずは緑ポーションと黄ポーションを手に取るお爺さん。
「此方の品質はどうでしょう?」
「えっと……」
知った風な顔をしているが、あんまり詳しくない。ここはダニエラ先生に聞く場面だ。
「どう?」
「なかなか良い品質だと思う。色鮮やかだし、これなら千切れかけても治ると思う」
確かに綺麗な緑だとは思ったが、それ程までに高品質とは……お幾らなんですかね……?
「これ1本で幾らですか?」
「金貨30枚ですね」
わーお。いや、四肢欠損間際から復活出来ると思えば安い方か?
「アサギ、買おう。店主、幾つか貰おう」
ダニエラが即決するってことはこれは良い買い物なのだろう。そうと決まれば財布の紐を緩めるとしよう。
結局緑と黄のポーションを6本ずつ買い、火傷に効くという赤ポーションを3本、凍傷に効く青ポーションを6本、気付けになる紫ポーション3本、それと懸念していた石化解除の白ポーションを4本買うことになった。それも高品質で、その分
値は張ったが良い買い物をしたと思う。ダニエラに聞いてみたところ、麻痺等の状態異常はあるが、それに対するポーションというのはあまり無いそうだ。まぁ、痺れてたらポーション飲めないよねって感じらしい。相方が居るなら話も変わってくるが、基本冒険者というのは自分の身は自分で守るものだしな。でもダニエラが痺れてたら僕は身を挺してでも守る準備があるぞ。
しかしそれ以外のポーションとして意外だったのが、病気に効くものがあったことだ。今の所、幸運にも病気とは無縁の生活を続けているが、風邪になんてなったら大幅な足止めだ。治療院はあるが、それだって主に傷の治療だしな。自分がそうなっていないから何とも言えないが、恐らくはこの世界の病気、ウィルスに対する対抗手段というのはあまり無いと言っていいだろう。その中でこのポーションを手に入れられたのは幸運だったと思う。
「ありがとうございました。これで安心して旅が出来ます」
「いえいえ、怪我と病気にはお気を付けて」
さっくりと大枚叩いてポーションを購入した僕達は、ハーヴィ薬品店を後にする。優しいお爺さんが扱う高品質ポーション屋さん。流石はギルドのお墨付きと納得の品揃えだった。
□ □ □ □
宿への帰り道、そういえばなんだか肌寒くなったなぁと感じたところでダニエラと話した事を思い出した。確かそろそろ氷雪期だったっけ。
「そうだな。雪が降って気温が下がる。水は凍るし手足は悴むし、冒険はきつくなる」
ということは、だ。必要だろう防寒着。まぁ、ダニエラは良い感じのマントを皇帝様から貰ったし、僕も氷系魔法の使い手だしアイスドラゴンの軽鎧もあるからある程度は調節出来る。とは言っても、不安はある。買っといた方が良いかもしれない。
「私はある。翡翠風龍のマントが」
「はいはい綺麗綺麗」
ドヤ顔で腕輪から出して身に纏うダニエラに若干カチンと来ながら自分の防寒対策を考える。やっぱりマントは必須だろう。調整出来るとは言っても魔力消費あっての調整だ。減るか減らないかで言えば、減らないに越したことはない。
「僕も何か買うか……」
「翡翠風龍のマントくらいの物があればいいな」
「ある訳ないだろ……」
そんなもんが巷に転がってたら世の中どうなってんだって話だ。でもそれくらいとは言わず、良い物を身に着けたいよな。初期投資を怠ると損をするのはどの世界でも同じだ。ここは防寒性バッチリでついでに防御性も高い物を買うことにしよう。
という訳でやってきた帝都お馴染みの服屋さん『ソリチュード服飾店』。
「あったかいマントください」
「君も突然だね」
此処に来たら欲しい物は見つかるのだ。突然来てもそれは変わらない。そんな期待を込めて一投目から大暴投だ。魔の女ならキャッチしてくれる……。
「出来れば防御力も」
「あー……ちょっと待っててくれ」
アマリリスさんはそう言うと腕を組みながら何処だっけ……と言いながら奥へと消えていった。良かった、あの感じはありそうだな。でも本当に急に来たのに在庫あるなんて此処は優秀なお店だよ。氷雪期前だから皆、こぞって買いに来て売り切れてると思ってたんだけどな。夏場に家電製品屋さんからエアコンや扇風機が無くなるあれだ。まぁでも此処は良い店だからこそ、それなりに値は張るし、それで買いに来ないのかもしれないな。
そんなことをボーっと考えつつ、可愛らしい服をジッと見て何かを考えるダニエラを見ながらアマリリスさんを待つことにした。
※石化解除のポーションを追加しました。




