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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百六十話 身の振り方を考える

 次の目的地である迷宮の町の名は『レゼレントリブル』というらしい。不思議な長い名前だが、結構古い町だそうだ。様々な冒険者が訪れては、帰ってこないというダンジョンの町。と、帝国軍北区管理部所属のリコリス=ラディアーレは言う。


「……そんな町のダンジョンが攻略されたという報告は帝都にも届いています。何でも、その際に町の7割がダンジョンに侵食されたとか」

「7割? 半分と聞いていたのですが……」

「始めは半分でした。ですが、今もダンジョンの侵食は進んでおり、最新の情報では7割と聞いています」


 そんなことってあるのか。ダンジョンコアに触れた人間がどうなったかは分からないが、大変な事になっている。しかし触れた本人もこんな事になるだなんて夢にも思わなかっただろう。苦労して潜って、数々の罠や魔物を掻い潜って辿り着いた場所のお宝がまさか罠だったとはな……。


「アサギ様もそちらへ?」

「えぇ。ダニエラが行きたいって駄々を捏ねるので」

「そんなことはした覚えがない。嘘を言うな、アサギ」

「……」


 なんとも都合の良い頭の造りだ。解剖して調べてやりたい。




 リコリスさんにレゼレントリブルの情報を得た僕達は、続いて旅の準備へと取り掛かる。僕は身の回りの物。ダニエラは食料担当だ。


「いいか。野菜も絶対に買え。あれば魚もだ。香辛料も揃えておくんだぞ。屋台飯だけとかやり直させるからな」

「分かった分かった。子供じゃないんだ。そんなに釘を刺さなくてもおつかいくらい問題ないさ」

「おつかいって表現がもう危ないんだよなぁ」


 調達と言え、調達と。お小遣い貰ったキッズ感覚で旅の準備をされたら死ぬわ。


「じゃあ僕は修理に出してた装備を受け取ってから色々買って帰るから、夕方には宿に戻ってるんだぞ」

「あぁ、了解だ」

「大丈夫かなぁ……」


 意気揚々と歩き出したダニエラの後ろ姿を眺めながらポツリと呟く。彼奴にお金を持たせると屋台街で全部無くなりそうで怖い。


 ま、いつまでも見送っていても仕方ない。僕は僕でやることがある。


 決勝戦ではダニエラの魔法で装備をボロボロにされたので、いの一番に『ソリチュード服飾店』 へと持ち込んだ。幸いにもダニエラの装備を作った際の残りと、装備自体の魔力で修復は可能とのことだった。作業時間は1週間掛かると言われたので、アマリリスさんにはお祭りを早々に切り上げてもらうことにしてもらった。


「お、来たね」

「お疲れ様です。装備はどうですか?」

「時間掛かったけど修復は完了したよ。まったく、どういう戦い方をしたら竜種装備があんなボロ雑巾になるんだろうね」

「ははは……」


 その点に関して僕から言うことは何も無い。


 装備を受け取り、始めて着た時のように試着室でアイスドラゴンの軽鎧も身に付けてサイズを確認する。


「うん、問題ないな」

「ま、そうだろうね」

「ありがとうございました。お代は幾らですか?」

「金貨200だよ」

「作って貰った時より高いんですけど」

「修復作業というのは大変なんだよ。その所為でお祭りに参加出来なかった。迷惑料だよ」

「……」


 職人である前に商人でもあるアマリリスさんは実に商売上手な人だった。準優勝して金貨を貰っているのも分かってて言ってるんだろうな、これ。


「……で、もう旅立つのかい?」

「えぇ、まぁ。南方のレゼレントリブルという町が賑やかになってるそうなので行こうかなと」

「彼処は今、大変らしいよ。気を付けて行くんだよ」

「ありがとうございます。まぁ、準優勝しましたから怖いもんなしですよ」

「ははっ、そういう油断が命取りなんだからね!」


 肝に銘じているとも。勝って兜の緒を締めよとは殺伐とした異世界で生きていく上での重要なコツだ。まぁ負けたんだけど。



  □   □   □   □



 装備を受け取ったついでにいつも旅では欠かせない端切れを沢山買い込んで店を出た僕はその足で雑貨屋さんへと向かう。東区は商業区なので色んなお店が集まってて買い物が楽で良いね。


「何処かに良い店はないものか……お?」


 店を探していると、何だか見たような顔の人が歩いているのが視界の端に入ってきた。見た感じは冒険者だ。身軽な動きの出来る装備と槍を装備して串焼きを手に歩いていた。


「おーい」

「……あ、アサギさん」


 一緒に本戦まで行ったバンディ=リーだった。会場の外で会うのは始めてだ。


「買い物?」

「はい。アサギさんもですか?」

「うん。もうちょっとしたら帝都出るからね。てか傷大丈夫?」


 体の傷というより心の傷の心配だが。あの戦闘狂さんとの勝負は結構見ててそわそわしてたからなぁ。


「あー……はい。試合直後は体の震えが止まらなかったんですけど、今はもう」

「見てるこっちが怖かったからね……」

「あの人は……はい……」


 思い出したかのように空いた手で腕を擦るバンディだ。不躾だったかもしれない。


「あぁ、邪魔してごめんね。もう暫くは帝都に居るつもりだからまた見かけたら声でも掛けてよ」

「分かりました。あ、今更ですけど準優勝おめでとうございます」

「あはは、ダニエラには勝てなかったよ……ありがと。んじゃまた」

「はい」


 実際、面と向かって会話するのは初めてだったけれど、良い子だった。早くAランクまで上がってきて欲しいもんだ。


 バンディと別れてから旅に必要な物資の買い込みを再開した。綺麗な布は買った。次に必要なのは食料だが、これはダニエラに一任している。不安だが。じゃあ何を買うかというと、旅の便利グッズだ。とはいえ、照明の魔道具はオークの根城からしこたま頂いてきたので必要ない。


「金もあるし、何か便利そうな魔道具でも集めようかな……」


 無駄遣いは買った物を無駄にするから無駄遣いなのだ。買い集めてもそれが使える物であれば、いくら買っても無駄遣いではない。そう自分に言い聞かせながらとりあえず雑貨屋さんに行こうとしていた事を思い出し、まずは雑貨屋さんに向かい、それから魔道具屋さんに行くことにした。



  □   □   □   □



 『赤色雑貨店』という看板は血のように赤い。備え付けられた扉も赤だった。店内も勿論赤色で、商品ももれなく赤色だった。店を出てもまだ目が痛い。


 雑貨屋ではダニエラと一緒に使おうと思って食器類を色々買った。色々買いはしたが、全部赤色だ。いや、よく見れば濃い薄いの違いはあるかもしれないが、目が痛いのでちょっとよく分からない。


「コップに、スプーン、フォーク、お皿……スープ用のお椀も赤か……」


 鞄にそれらを詰め込み、グリグリと目頭をもみほぐしながら魔道具屋さんを探す。しかし本当に目が痛い。……と、グリグリしながら歩いていたら向かってきた人と肩がぶつかってしまった。完全に僕が悪い。


「すみません、大丈夫ですか?」

「あー……くっそ、いてぇなぁ……」


 しぱしぱする目で呻く相手を見る。冒険者っぽい服装の男だ。ちょっと汚れた感じだが……。


「怪我はないですか?」

「怪我ァ? あぁ、骨が折れちまったよ!」


 と、急に左腕を押さえた男が元気よく吠える。当たったのは僕の右肩だったから多分ぶつかったのは同じ右肩だと思うが……。


 男はいてぇいてぇと喚き散らす。周囲の人達は何事かと此方の様子を伺うが、それだけだ。まぁ、僕でもそうするだろう。面倒事は御免だ。でも何故かニヤニヤと笑っているのが気になる。


「おいてめぇ、どうしてくれんだ!」

「すみません。治療魔法は使えなくて」

「なら治療院に行かなくちゃいけねぇよなぁ?」

「すみません、場所が分からないです」

「んなもんどうだっていいんだよ! 必要なのは金だ。分かるだろう?」


 分かりやすい展開に内心溜息をつく。しかしこんな奴にお金を払うのも勿体無い。頑張って稼いだ金だ。それに、あまり調子に乗られても良い気分はしない。


「あーそうだ。うちの家に伝わる治療法があるんですよ」

「はぁ?」

「患部は冷やすのが一番って」


 左腕を押さえている男の右手にそっと手を添えて、氷属性の魔力を流す。ひんやり気持ち良いだろう。ついでに周囲の魔素を集めて氷を作ってやる。右手と左腕をがっちり固めてあげた。なんて優しいんだろう。


「な、なんだこれ! おい!」

「うん、骨折した患部を冷やして固定。完璧だ。もう大丈夫ですよ」

「くそっ! 野郎!」


 唯一動く足で僕を蹴ろうとするが、ひらりと躱す。当てが外れた男は反動ですっ転び、無様なうつ伏せ状態となった。すると周囲の人達がドッと笑いだした。


「情けねぇ野郎だ! 銀翆に敵う訳ないのに!」

「知らないのか? その男は帝剣武闘会の準優勝者だぞ!」


 指差して笑ったり、手を叩いて笑ったり。転んだ男は顔を真っ赤にするが、立てずに歯を食いしばっていた。何だろう。僕とこの男のやり取りだったはずだが、野次馬が笑うのを見ているとちょっとムカつく。まぁ、僕もこの舐めた男へ一矢報いてやろうとやったことではあるが、ムカついたので《神狼の脚》を一瞬だけ発動させ、周囲へと拡散させる。瞬間風速的に吹き抜けた風は周囲の笑い声を吹き飛ばした。


「……僕も悪かったよ。腕は大丈夫なんだろう?」

「あ、あぁ……」


 氷に触れて属性を変換させて水へと変える。両手が自由になった男は立ち上がると渋々ながらも頭を下げた。


「悪かった」

「お互い様だ。僕もちゃんと前を見てなかった」


 これで一件落着だと言わんばかりに周囲に視線を走らせると、野次馬達はそそくさと解散していった。僕も野次馬根性がある方ではあるが、あぁはなりたくないな。


「じゃあ僕は行くから」

「あぁ……」


 男と別れて通りを歩き出す。改めて自覚したことだが、帝都では僕も一定の立場というものが出来ているようだ。帝剣武闘会準優勝者というレッテルが、否応なしに持て囃し、相手の立場を考えずに味方へとなってしまう。僕とあの男だけのやり取りだったはずなのに、いつの間にか周囲は人が沢山居た。あれじゃあ、あまりにも男が惨めすぎた。


「僕ももう少し考えて行動しなくちゃな……」


 今もまだ目はちかちかするが、それよりも頭が痛かった。

次回の更新は11月29日21:00の予定です。

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