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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二十六話 森の武器、ダニエラの過去

新年、あけましておもでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 部屋から漏れ出る光が崩れた岩の影を伸ばす。その影を踏みながら僕達は部屋へと入っていった。


「これは……」

「古代エルフの……」


 ダニエラがソレを見て呟く。目の前の物は古代エルフに関係する物のようだ。


「でもこれ、1000年以上前の物、なんだろう? こんなに綺麗に保存されているものなのか?」

「それこそが超魔導時代と言われる所以だ。保存魔法、環境魔法が現在のレベルとは段違いだ。だから劣化もしないし、壊れもしない。だからこの武器達は1000年前と同じ姿で残るんだ」


 そう、部屋に安置されていたのは武器だった。両刃の直剣。片刃の短剣。大きめの刃の槍。透き通るような翠の短弓。刃物に関してはどれも弓のような美しい翠色だった。弓は刃が無いからそれ自体が翠なんだろう。恐らくそういう金属なのではないかと思う。

 つまり、よく撓るし、そして硬い。普通の金属ではないのは明らかだ。


「古代エルフの武器、か。綺麗だな。まるで芸術品だ」

「アサギの感想は間違ってない。武器として使えば最高の物だ。劣化しないということは刃毀れもしないということだからな。大まかな手入れは必要ない。そしてその時代の産出物は工芸品としても非常に価値がある。貴族連中はこぞって集めたがる。観賞用としてな」


 なるほどな……つまりお値段としてもそれなりにする訳だ。売るつもりはないが。というかそもそも……


「持って帰っていい物なのか?」

「構わんだろう。この地を治める領主が何か言うかもしれんが、今まで見つかっていない遺跡から出た物だ。冒険者が探索して見つけたものだから、欲しいなら買い取るしかないだろうな」

「なるほどな。じゃあ頂いていくとするか。が、今は剣の動きを極めたいからダニエラが貰ってくれないか?」


 そう言って腰に下げた剣をぽん、と叩く。大将に武器も頼んでいることだし、それに大将にも言われたことだ。良い武器は人を育てない。僕にはこの武器はまだ早い。


「いや、私は……」


 ダニエラは自身の武具を見る。愛着がある武具なんだろう。持ち替えることに思うところがあるんだろうな。


「とりあえずそんなには持てない。持つだけならアサギにも頼めるだろう?」

「仕方ない。戦闘になったら邪魔かもしれないけど、いずれ色んな武器で戦うつもりだから多く持った状態で動く訓練でもするか」

「その必要はないぞ」


 今まで空気だったベオウルフが割り込んでくる。


「フォレストウルフの群れなら引き上げさせた。我の戦闘に巻き込むつもりもなかったからな。多少空気が変わるが南の森に向かわせた」


 あそこはゴブリンの森じゃないか。戦争でも始まるのか?


「元々此処もゴブリンが多く居た森だ。我が来たことで空気が変わったみたいだが、何、向こうもまた我の眷属の森になるだろう」


 フォレストウルフが好む魔素というのはベオウルフの発する魔素が原因だった。南のゴブリンの森はフォレストウルフの森に変わるだろう。北のフォレストウルフの森の魔素も変わる。つまり追い出されたゴブリンは北の森へ行くことになる。入れ替わりだな。

 頭の中の地図に情勢の交代を書き記しながら古代エルフの武器を手にする。リィン、と鈴のような音が聞こえる。色々武器の位置を変えながら装備していき、最終的に僕が直剣と槍と弓を。ダニエラが短剣を持つことになった。


「悪いなアサギ。矢筒のことを忘れていた」


 弓はダニエラに持ってもらう予定だったのだが、既に装備していた矢筒が邪魔になったらしい。古代エルフの弓には矢筒のオプションは無かったが。


「戦闘はない予定だからとりあえず僕が持つさ。とりあえず町に戻ってから考えよう」


 僕達は古い時代の武器を手に、遺跡を後にした。色々あったが、これで強化合宿は幕を閉じる。




 と思ってた時期が僕にもありました。


「そうだそうだアサギ。貴様に渡すものがる」


 いつの間にか傷が殆ど治っているベオウルフが、拠点へと帰ろうとしている僕を呼び止める。


「いい加減お前のせいで疲れたから帰りたいんだが」

「まぁそう言うな。我くらいのクラスになると色々知識が増えてな。どういう仕組みかは分からんが、付与というのが出来るらしい」

「付与?」

「うむ。我、ベオウルフの付与だ。有難く受け取り、そしてそれを使いこなして再び相見えた時は存分に戦おう」


 僕の返答を待たずしてベオウルフは深く息を吸い込み、大きく、長い遠吠えをする。するとベオウルフから放たれた鳴き声が粒子となり僕に降り注いだ。森色の粒が僕の体に吸い込まれて、唐突に理解する。奴同様、仕組みは分からんが新たなスキルを会得したのが分かった。


「『森狼の脚』、上手く使えよ」


 それだけ言うとベオウルフは口角を歪ませ、風のように去っていった。


「はぁ……騒がしい奴だったな」

「生きているのが奇跡だな……」


 ダニエラと二人で溜息を漏らす。そういえば気になることがあった。


「ダニエラ、さっきはえらく動揺してたが大丈夫か?」

「あ、あぁ……そうだな……。流石に動揺し過ぎた。修行が足りなかったな」

「修行云々じゃないだろう……何か、あったのか?」


 行間には『昔』という単語が入る。


「アサギには話しておいた方が良いか……とりあえず、拠点に戻ろう」

「だな……」


 疲れた体を動かし、僕達は再び、というか漸くというか、拠点を目指し始めた。



  □   □   □   □



 道中、フォレストウルフによる襲撃はなかった。気配さえ無かったからな。ベオウルフが言っていたのは本当だったのだろう。焚き火に火を点け、残っていた食材でもう一度料理を作っているとポツポツとダニエラが語りだした。


「あれはもう、70年前になるな」

「ちょっと待て」


 前過ぎないか? 今いくつだ。


「アサギ、そういうのはマナー違反だぞ。とりあえずもうすぐ200とだけ言っておくが」

「十分だよ……」


 ダニエラさん、もうすぐ200の大台突破だそうです。


「一族がな、魔物にやられたんだ」


 スタンピード。それが原因だったそうだ。それ自体ならよくある話らしい。が……


「竜種のスタンピードは滅多にない。そもそもあまり増える種族じゃないからな。厄介な魔物だし、幼体の時点で討伐対象になる。成体の竜種なんて軍を出さなきゃ討伐もままならない。そんな成体のスタンピード。一族は壊滅したよ」


 それを目の前で見ていたダニエラ。家族と逃げようと慌てて自宅の外に出た瞬間、暴走した竜種に目の前で家族を踏み潰されたらしい。四散した父と母の血と臓物を浴びて半狂乱になりながら自宅へ引き返し、地下の食料庫に身を隠していたそうだ。濃い血の匂いが竜種の鼻から逃れられたんじゃないかとダニエラは言う。


「しばらくは恐ろしくて外にも出られなかった。幸い、食料庫だったから食うには困らなかった。きっちり2週間分だ。どうにか狂いそうだった気持ちを取り戻し、抑えつけた。そして日々、節約しながらも食い尽くしたのが事故から1ヶ月後だ」


 久しぶりの地上は地獄のようだったという。時間が経っても消えない血の匂いと腐臭。魔物に食い散らかされた死体という地獄のような光景にダニエラは空の胃に残っていた胃液を吐いた。

 それでも生き残ったダニエラは下敷きになった家の中から引っ張り出した父が自分に買ってくれた防具を身に付け、形見になってしまった母から譲り受けた武器を手に、白エルフの集落から脱出したらしい。


 そう言ってダニエラは木に立てかけた武具を見る。そうか……あれはそういう物だったのか。古代エルフの武器を貰ってくれと言った時のダニエラの表情を思い出した。

 煮えたスープを器によそってダニエラに差し出す。受け取ったダニエラは優しく微笑む。


「あの時の光景はまだ脳裏に残っている。忘れたように過ごしていても、未だに夢に見ることがある。その日の朝は決まって涙で濡れているんだ。過去になった出来事だが、きっと私は死ぬまで覚えているだろう。忘れることはあっても、無くなることのない記憶だ」


 ダニエラがあの時、僕に縋り付いた光景を思い出す。僕を押さえつけていたのはベオウルフの脚だった。踏み潰されそうになった瞬間が、ダニエラの過去の記憶と重なったんだろう。それを思い出しながらちらりとダニエラを盗み見る。スープの入った器を両手に持ちながらゆっくり飲む彼女が泣き疲れた童女のようにも見えた気がした。


 僕も出来上がったスープを飲む。疲れた体に染み渡るスープは、最後まで味が分からなかった。

新春スペシャルということでちょっと増量です(入り切りませんでした/心の声)

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