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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百五十九話 短い帝都暮らし

「いやぁ、凄いもん貰っちゃったな」

「全くだ。こんな事になるとは夢にも思わなかった」


 僕は鎧の魔剣(グラム・パンツァー)とは反対の右腰に下げた黒帝剣(ヴェルノワール)を。ダニエラは右手に付けた虚ろの腕輪を見て言う。風龍のマントは目立つし汚したくないとのことで腕輪の中だった。賞金も合わせて金貨4500枚。先日のオークションでの売上4000枚と合わせて9500枚だ。ダニエラの風龍の軽鎧一式の為に金貨を大量に消費したが、そんなの目じゃないくらいの儲けだった。


「ぶっちゃけ遊んで暮らせるよな」

「普通に暮せばアサギが死ぬまでは楽に暮らせるな」


 けれど、そんなものは求めていない。僕達は世界を旅する約束なのだ。


 帝城は帝都の中央にあり、入り口は東西南北に用意されている。ただし、帝城自体の入り口は東にある。太陽と共に出陣する為、だそうだ。験担ぎのようなものかもしれないな。


 僕とダニエラは北側の城門を抜け、真っ直ぐに宿泊施設を目指した。連日のイベント続きで正直休みたかったのが理由だ。受付のハイペリカムさんに戻ったことを告げる。


「戻りました。ハイペリカムさん」

「……君は律儀だね」


 椅子に座り、手にしていた本から顔を上げたハイペリカムさんはいつも通りの気怠げな様子で僕を見上げる。


「報告してくれなくても、其処に鍵が掛かってるから持っていって良いっていつも言ってるんだけどね……」

「あはは、まぁ、いいじゃないですか」


 この宿泊施設に来てからのいつもの光景だった。それは帝剣武闘会を終えても変わらない。


「あぁ……そうそう。帝剣武闘会が終わっただろう。一週間もすれば宿も空くだろうから、そっちに移ってもらう事になると思うよ」

「え、そうなんですか? 此処、凄く過ごしやすくて気に入ってるんですけど」

「此処はね、軍の施設だから……本来は一般人が泊まる場所じゃないんだよ」


 それが許されてるのは、僕が帝国軍暗部のテムズさんの部下さんから貰った帝国軍人優先券のお陰なのである。この券で優先して優遇してもらえる。そしてそれは形を変えて僕とダニエラの腕に小さな腕輪として装備されている。


「まぁ、移動しなきゃいけないなら仕方ないか……」

「君、言われなかったら実際住むくらいの気持ちでいただろう?」

「勿論ですよ」

「はぁぁ……」


 盛大な溜息を吐かれ、しっしと手で払われる。仕草自体は雑だが、これが彼の平常だと理解しているので、では、と手を上げてから鍵を持って部屋へと向かった。


 ガチャリとロックを解除して扉を開けると見慣れた白い部屋が広がる。改めて見ると僕とダニエラの荷物で散らかっている……ここ最近忙しかったからな。引っ越さないといけないのであれば片付けないといけない。


「アサギ、アサギ」

「ん?」

「見ろ。此奴は素晴らしいぞ」

「なに……うっわ!」


 虚ろの腕輪を付けたダニエラが手を床に翳しながら散らかった荷物をどんどん吸い取っていた。お前は掃除機か……。


「こら、汚れ物の服も一緒に吸い込むな」

「後で纏めて洗濯したらいいじゃないか」

「雑なんだから……」


 皇帝様にこの光景を見せてやりたい。きっと与える人物を間違えたって頭を抱えることだろう。


 ダニエラ掃除機が活動限界になり、床が綺麗になったところでベッドへと倒れ込んだ。まだ日は高いが今日はもう動きたくない。明日の朝まで眠りたい。それくらい疲労が溜まっていたのだ。


 しかし色々あった帝都生活も目標は達成した訳だし、これからどうしよう。そう隣に居るダニエラに尋ねると、ダニエラも少し考える。


「……そうだな。概ねの目的は達成した訳だし、帝都を出てもいいかもしれない」

「目的地はあるのか?」


 目的もなく歩けば遭難するし、危ない。食物だっていつまでもあるわけでもない。


「見つかるまでは帝都に滞在するというのはどうだ?」

「それしかないか……」


 店長が言っていた『ダンジョン』というのも気になるが、そういうのは全然知らない。この近辺にあるのであれば、潜りたいところだが。


 そんな未来の事をボーっと考えているうちに僕達2人は睡魔に不意打ちを食らい、夢の世界へと旅立った。



  □   □   □   □



 それから1週間が過ぎ、お祭り騒ぎだった帝都も落ち着きを見せていた。僕達は宿泊施設を出て、空いた宿場通りの宿の一室へと引っ越した。静かで落ち着いた雰囲気の良い宿だ。


 この一週間の間は僕もダニエラも特に何もすることなく、ダラダラと過ごしていた。町に出れば優勝者準優勝者コンビということで人の波に飲まれる。夜に飯でも食うかと出掛ければ酒を浴びるように飲まされ、ダニエラは腹いっぱい飯を食わされた。お金は皆が支払ってくれるので何だか申し訳なかったが、これもまたお祭り騒ぎの習慣みたいなものだと受け入れるしかなかった。


 そんな騒ぎも日に日に落ち着きを見せてきて、帝都市民の皆さんも本来のお仕事を始めて静かになりつつあった。昨日なんかは久し振りにランブルセン料理屋行ったが、静かなものだった。


 引っ越しを終えたのが今日だが、この辺りはレモンの宿が近く、割と歩いていたので改めて散策するほどでもないということでゆっくりとした時間を過ごしていた。

 窓の傍ではダニエラがジッと虚ろの腕輪を見ている。ボーっとその姿を見つつ、絵が描けたらなぁなんて思っていると、突然ダニエラの手に細剣が現れた。


「おぉ」

「見てろ」


 ダニエラが言うと同時に細剣が消え、その手には弓があった。


「腕輪か」

「あぁ。これで遠近の攻撃の入れ替えがスムーズになった」

「それ羨ましいなぁ」


 片手剣から大剣に、大剣から槍にと換装出来たらどんなに良いだろうか……。そんな使い方が出来るとは、ダニエラも考えたものだ。


「あげないぞ。これは私が優勝したから貰えた物だ」

「分かってるよ……」


 とはいえ、そんなものを見せつけられたら素直に悔しい。虚ろの鞄でどうにか出来ないものか……。


 賞品といえば、僕も皇帝から貰った黒帝剣(ヴェルノワール)がある。鞄から取り出して改めて眺めていると、光すら吸い込みそうな黒が格好良い。


「しかし本当に帝剣が賞品だとは思わなかったな」

「あぁ。私もビックリした」


 帝剣武闘会が始まる前に賞品は何だろうという話をした時に、『帝剣という宝剣があった気がする。もしかしたらそれかもな』なんて会話をしたが、まさかまさかのピタリ賞だ。


 黒帝剣の刃は鎧の魔剣よりも長い。両刃ではあるが片方の根本はソードブレイカー。この剣は対人武器だな……。盗賊相手であれば本来の効果を発揮出来るのではと思う。まぁ、そんなことに使いたくはないが。


 この剣を持っていたのは異端皇帝と呼ばれたキサラギという人だ。僕の予想があっているのなら、それは間違いなく日本人だ。黒帝とも呼ばれたそうだが、それは恐らく髪色からだろう。日本人なら髪は黒いからな。はぁ……かたや黒帝。かたや黒兎。来る場所が違うだけでこうも扱いが違うとは……主人公補正というのはつくづく人を不幸にするぜ。


「そうだ、アサギ」

「なに?」

「この間ちょっとギルドまで散歩してたんだが、其処で面白い噂を聞いたぞ」

「面白い噂?」

「あぁ。なんでも、帝都の南には迷宮の町があるらしい」

「迷宮の町?」


 町が迷路みたいになってるんだろうか。住みたくはないな。


「そう。町の地下が迷宮になっているそうだ」

「え、それってもしかしてダンジョンってやつか?」

「ダンジョンだ。でな、噂の内容はそのダンジョンに関わる話なんだ」


 町の地下がダンジョン。そのダンジョンに関係する噂……。


「最近、そのダンジョンが攻略されたらしい」

「なんだ……えー、行こうと思ったのに。意味ないじゃん」

「待て、話は最後まで聞け。実はこのダンジョン、最奥にコアがあったそうなんだが、それに触れた途端にダンジョンの構造がまるっきり違うものになったらしい。噂では町の半分がダンジョンに飲まれたそうだ」

「それってやばくない?」

「やばい。やばいからギルドではその町の調査を募っている」


 結構な大事だった。ダンジョンの最奥を探索したら町半分を飲み込んだとか洒落にならないな……お宝があるものだと思って調べたら罠だったなんて……。


「次の目的地が決まったな」

「えー、行くの……? ヤバい雰囲気が凄いんだけど」

「こんな面白そうなのを無視するなんてありえないな」


 どうやらダニエラは行く気満々らしい。宿だって借りたばかりなのに。宿代だけ払い続けるなんて勿体無いな。


「行きたい」

「いや、でもさ」

「行きたい」

「だから」

「行きたい」

「……」


 駄々をこねるダダエラ……。帝剣武闘会に出ることが決まった時のダニエラもこんな感じだったな……じゃあもう、行く以外の選択肢なんてないじゃないか……。


「分かった。行くか……」

「アサギ大好き」

「はいはい……」


 ダニエラの駄々で次の目的地が決まった瞬間だった。

 しかしダンジョンに飲まれた町か……悲しいかな、浪漫溢れる響きに僕の好奇心は刺激されていたのだった。

次回の更新は11月27日21:00の予定です。

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