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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百五十八話 帝剣武闘会は終わる

 優勝はダニエラ。僕は準優勝という形で帝剣武闘会は幕を閉じた。この結果に僕としては満足だったし、何の悔いもない。とても清々しい気持ちで舞台の上で表彰された。


「この度は歴史に残る名戦を見ることが出来た。非常に満足している」


 優勝者に送られるトロフィーも持った皇帝様は、実は意外と物静かな話し方だったりする。あの大声から熱血軍人系皇帝様だと思っていたが、まぁ、ギャップ萌えというのもあるだろう。こう言っては不敬ではあるが、親近感が持てた。これが帝都市民の心を掴んで離さない秘訣なのだろうか。


 皇帝ヴェルドレッドはトロフィーをダニエラに渡し、拍手をする。すると会場から割れんばかりの歓声と拍手が鳴り響く。何処からか紙吹雪なんかも舞い降りてきて、凄く綺麗だし盛大だ。改めてこの武闘会が歴史ある立派な行事だと感じた。


「さて、トロフィーは優勝者に送られる称号のようなものだ。実際の賞品はまだ他にある。此処で渡してもいいが、出来れば帝城にて直に渡したい。今は帝都の門を広く開いているので良からぬ事を考える者も、中には居るかもしれないからな」


 と、後半は小声で話す皇帝。厳重な警備をしていてもそういうことは起こってしまうようだ。きっとお祭りのテンションというのもあるかもしれない。


「分かりました。後日帝城へと向かわせてもらいます」

「うむ。まぁ、貴殿らに敵う相手はその辺には居ないだろうがな」


 そう言ってカラカラと笑う皇帝だった。



  □   □   □   □



 帝剣武闘会は閉会し、僕達選手は後夜祭のようなものに呼ばれることとなった。会場は帝城の敷地内にある一角だ。大きな屋敷のようだが、誰の家だろう?

 後夜祭は帝城の人間も参加し、盛大に行われた。とはいえ、僕もダニエラも満身創痍だ。適当にお茶を濁して帰らせてもらおうと2人で話し、実際良い感じに盛り上がってきたところで会場を後にしようとしていたところで、ある人物が僕達を引き止めた。


「もう、帰るのか?」


 振り返った所に居たのはアドラスだった。急速な魔力欠乏によって倒れた彼ではあったが、今はもう復調し、2本の足で立っている。その周囲には彼と同じ白エルフの女性が何人か居るが、何も言わずに立っているだけだ。


「僕達、体がボロボロでさ……決勝戦が延長されたからこれ以上の延長は出来ないってことで無理矢理表彰されたんだ。だから帰って休むことにした」


 あれだけ敵対していたというのにスラスラと言葉が出てきたのは、アドラスの様子が以前とは違っていたからかもしれない。前のようなギラギラした様子もなく、落ち着いた表情をしている。


「そうか……決勝戦、私も見ていたよ。とても素晴らしい戦いだった」

「ありがとう」


 短く、だがしっかりとアドラスを見て礼を言うダニエラ。


「あれだけの力、相当鍛錬を積まないと発揮出来ないだろう。いや……二人旅だったか。長い道のりを共にしていたんだろう。そうとも知らず、無礼な事をした。すまなかった……」


 と、アドラスはゆっくりと、深々と頭を下げた。思わずダニエラと顔を見合わせてしまう。


「アサギ殿にも失礼な事をした。過去の事を引きずり出し、煽るような事をして許されるとは思っていない」


 頭を下げたままアドラスは続ける。だけど、僕としてはもう終わったことだったし、気になんて全然してなかった。


「許してくれとは言わない。この首を差し出せというのなら喜んで差し出そう」

「待て待て、僕達はそんなの一つも気にしてなんかいない」

「いや、アサギ。割と私は気にしている。お前の古傷を抉るような真似をしたんだ」

「それに関しては何も思ってない。思ってないんだ、ダニエラ」

「むぅ……」


 僕の為に怒ってくれるのは嬉しいが、終わった事を蒸し返す気はさらさらないのだ。


「アドラスも頭を上げてくれ。お前の仲間がオロオロしっぱなしだ」

「む……いや、しかし」

「良いって言ってるんだ。上げてくれ」


 おずおずと、此方の様子を見ながら頭を上げてくれたアドラスに、周囲のエルフ達がそっと寄り添う。俺様感バリバリではあったが、身内には割と優しいのかもしれない。そうでなければこうして寄り添うことなんてないしな。


「僕とダニエラは2人で1人だ。お前がその仲間達を大事にしているように、僕もダニエラを大事にしている。その事を忘れないでくれれば、もう何も言わないし、仲直りも出来る。そうだろう?」

「……確かにそうだが、それで良いのか? 私を許してくれるのか?」


 親に怒られた子供のように、上目遣いで僕を見るアドラスが何だか可笑しくて笑ってしまった。ダニエラもそれに釣られて笑っている。


「良いって言ってるだろう? ほら、もう気にすんなって」

「そうか……そうか」


 ダニエラに撃ち抜かれた足を引き摺りながらアドラスの元に寄り、肩を叩く。するとアドラスを噛みしめるように呟き、しかししっかりと聞こえる声で言った。


「ありがとう……本当にすまなかった」



  □   □   □   □



 そして全てが終わった。オークションも、帝剣武闘会も。


 後日、帝城の謁見の間で行われた賞品の受け渡しは、皇帝の過密スケジュールの所為か、手早く行われた。


「来たか。では賞品の授与だ。優勝したダニエラには金貨3000枚と、この腕輪を授ける。これは『虚ろの腕輪』といって、生きている人間以外ならほぼ全ての物が収納される。このようにな」


 と、腕輪を身に着けた皇帝がダニエラに渡す金貨3000枚を腕輪の中に収納する。


「良い物だ。大事に使って欲しい」

「ありがとうございます」


 腕輪を受け取ったダニエラはその場で身に着ける。うん、よく似合う。まぁ、虚ろの鞄もあるからこれで2倍、物が入るようになる。旅が楽になることは確実だった。


「もう一つ。君は確か風属性の使い手だったな。これはかつての皇帝が遠征の果てに討伐した翡翠風龍(グリーンドラゴン)の素材から作ったマントだ。これを身に着けた者は風に愛され、どんな困難にも立ち向かえる事が出来る。アサギのように空を舞うことも可能だ。マント自体に宿った魔力で行うことが出来るので、君自身が魔力を消費することはない」


 翡翠風龍グリーンドラゴンと言えばウィンドドラゴン種の最上位の魔物だ。色付きは最強の称号だと前に聞いたことがある。そんな素晴らしい物がダニエラに……非常に羨ましい。

 マントは、翡翠風龍の素材ではあるが、色は純白だった。その上で翡翠の模様が、豪華ではあるがしつこくない程度にあしらわれている。見せびらかすような豪華さもなく、かと言って貧乏臭さもなく、ダニエラのような美しい女性に似合う素敵なマントだった。


「これは……」


 早速身に付けたダニエラは驚いた顔でマントを見る。ふわりと香り立つように翡翠の魔力が漂う。マント自身が、ダニエラを認めた瞬間だった。


「うむ、よく似合う。グリーンドラゴンを討伐したのはかつての女皇帝、ヴェルグリース様だ。君と同じ風属性の使い手で、グリーンドラゴンすら上回る実力の持ち主だったそうだ」


 風属性最強種すら上回るとか怖すぎる……。


「では次にアサギだ」

「あ、はいっ」


 ボーっとダニエラを見てたら皇帝に呼ばれた。不敬罪で殺されちゃう……!


「ははっ、見惚れるのもいいが、まずは私からのプレゼントを受け取ってくれ。準優勝者の君には金貨1500枚と、この剣を授ける」


 台に乗って運ばれてきた綺羅びやかな金貨と、1本の剣。片手直剣で鞘の色は黒だった。


「黒帝剣ヴェルノワール。これもかつての皇帝の品で歴史ある品だ」

「い、いえ、陛下、流石にこれは……」


 皇帝所縁の品ってだけで優勝者って凄いなと思っていたのに、僕は準優勝者。これは流石に受け取ることを躊躇してしまうレベルだ。


「良い。私が見るにあの試合はほぼ互角の物だった。ダニエラの呼んだ精霊という地の利とも言える手段がなければ、勝っていたのは君だと私は思っている。ならば、それ相応の品を渡すのが、私の役目だ」


 そう言われてしまえば、何も言い返すことが出来なかった。しかもさらっと精霊を使役していたことを看破していたというオマケ付きだ。恐る恐る、台の上の黒帝剣を手に取る。


「う……っわ……」


 手に吸い付くとような柄の質感。ただ、革を巻いただけじゃない。その先の鍔は実戦向けの造りで、豪華さなど欠片もない。ただ一つ、黒い宝石のような物が付いているだけだった。


「それは黒帝と呼ばれた異端皇帝キサラギ様が手にした剣だ。皇帝の血筋ではない異端の皇帝として歴史に名を残しているが、実力は過去最高だったと言われている」

「異端皇帝……キサラギ……?」


 キサラギって、如月か……? ひょっとしてそれは……。


「抜いてみると良い」

「はい……」


 如月という名について考えようとしたところで皇帝が言う。言われた通りに抜いてみると、鞘と同じ黒い刃が現れた。刃は両刃。しかし根本の片方は櫛状の溝がある。ソードブレイカー、という単語が脳裏をよぎる。


「大昔の戦争の時代、黒帝はその剣一つで戦場を駆け抜けたそうだ。彼の通った後には砕かれた剣が散乱していたらしい」


 この部分で剣を砕いたと、そういうことらしい。


「素材は黒妖星石(コクヨウセイセキ)と呼ばれる鉱石だ。地中の奥深くにのみ存在すると言われている。キサラギ様はこの石を『星の核』とも言っていたそうだ」


 そんな物をどうやって手に入れたのかは分からないが……ともかく、これがとんでもない名剣だということだけははっきりと分かった。鞘に戻し、鎧の魔剣とは反対側に下げる。


「ありがとうございます。有難く頂戴します」

「うむ。ではこれにて賞品授与は終了だ。このお祭り騒ぎは大体あと1週間は続く。帝都を楽しんでいってくれ」


 柔和な笑みを浮かべて皇帝は言い、席を立つ。


「ではな。ゆっくりと話したい所だが忙しくてな。すまない」

「いえ、そんな」

「じゃあ、また会おう」


 そう言うと皇帝は足早に謁見の間から去っていった。残された僕達は帝城の人の案内に従って帝城を後にした。僕の分の金貨は勿論、ダニエラが仕舞ってくれた。

 こうして、帝都での行事は全て終わったのだった。

次回の更新は11月25日21:00の予定です。

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