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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百五十五話 決勝戦

「大変長らくお待たせしました。本日の目玉商品でございます」


 メルカリードの合図と共にステージの袖から立派な台に乗せられた僕の自動人形が運ばれてきた。会場の何人かはそれを見た途端、立ち上がる。他にも歓喜の声や、盛大な拍手が鳴り響いた。僕自身、あれは良い物だと自負している。超レアだとも思っている。だからこそ、この反応は心地良かった。


「手付かずの遺跡より発掘された此方のオートマタ。なんと予備の炉心(コア)が4つもございます。全てセットで、金貨1000枚からスタートです!」


 おぉ、随分攻めるねぇ……これで買い手が付かなかったら次回に持越しだ。そして次回がいつあるのか、僕は知らない。最悪、鞄に詰めていかなければいかないが……。


 ドキドキしながら会場に耳を澄ましていたが、ちびちびとした入札があった。せめて先程の鎧セットを落とした金額、金貨1800枚は越えて欲しいところだが……。


「金貨2000」


 1人の男の声に会場がざわついた。僕もざわついた。最低ラインは越えたぜ!


「金貨2100!」


 また1人、声をあげる。身なりの良い男だ。でっぷりと太っていて、貴族感が凄い。

 暫く、2000の男と貴族の男が張り合う。会場からは溜息が聞こえてくるので、持ち込んだ予算をオーバーしたのがよく分かる。2000枚以上持ってきていることに驚きだ。


「金貨3500よ!」


 と、此処で突如謎のお姉さんが緊急参戦してきた。とんでもない額とともに殴り込んできた。男と貴族は一瞬静かになったが、慌てて財布と相談を始める。


「金貨3500が出ました! 他に居ませんか!」


 メルカリードの煽りに2人は慌てて手を挙げて金額を釣り上げてくる。


「3800!」

「なら4000だ!」


 男が悔しそうに頭を抱え、これならどうだと貴族がお姉さんを見る。が、お姉さんは強かった。


「5000」


 溜息混じりにそう告げて、見事自動人形は金貨5000枚で落札されたのだった。



  □   □   □   □



「ではアサギ様、此方が落札価格の金貨5000です。手数料として2割頂いて、アサギ様の受け取る額は4000枚となります。よろしいでしょうか?」

「はい、ありがとうございます」


 メルカリードから金貨500枚ずつ入った革袋を受け取り、虚ろの鞄の中へと詰めていく。最初のメルカリードの予想通り、自動人形は金貨5000枚となった。そこから1000枚引かれようが、十分な儲けだ。これなら本当に遊んで暮らせそうだった。


 金貨を受け取り、会場を出ると店長とダニエラとレモンが楽しそうに話していた。いつの間にか外は日が傾き、西日となって町を朱に染めている。


「あ、帰ってきた」

「お待たせ」

「ダニエラがな、今日は儲かったから飯でもどうだって」

「いいんじゃないですか? レモンも来るよな?」

「お供しますっ」


 今日くらい、盛大に飲んで食って騒ぎたい。明日は決勝戦だからあまり無理はしたくないが、まぁ、今日は特別な日だ。豪遊とまではいかなくても楽しむには良い日だった。




 何となくダニエラが先頭を歩き始めた時点で予想はついていたが、来た店は『肉肉肉肉』だった。好き過ぎでは?


「さ、どんどん食おう」

「良い店だね」

「お肉っ、お肉っ」


 女子3人は肉を目の前にして興奮している。僕もまぁ、肉は好きなので食うけど。しかし肉ばかりというのも体に良くない。ということで野菜を頼んだのだが、焼こうとしたらダニエラに肉の先制攻撃を食らい、野菜は敗退。端の方で弱火でじっくり焼かれることとなった。


「野菜が食いたければ野菜屋に行け!」

「うるせー、野菜くらい食わせろや!」

「なんだと……?」

「アサギくん、ダニエラの言う通りだ」

「そうですよ、アサギ先輩」

「嘘やろ……」


 騒がしくも楽しく戦場という名の網の上を蹂躙し、しこたま肉を腹に詰めた僕達はその場で解散することになった。レモンは宿場街の良い宿に。店長は帝都到着時は金欠だったので酒場兼宿屋に。そして僕とダニエラは軍の宿泊施設まで戻った。


 夜の色も濃くなるが、帝都はまだまだ眠らない。綺羅びやかな町並みを眺めながら重い体を運ぶ。こういう光景ってあんまり見ないな……1日働いて、夜は酒場というのがどの町でも共通した流れだったが、何だかんだ明日の事を考えて早めの就寝を心掛けていた。しかし此処、帝都は明日の朝まで関係なく飲み明かそうという強い意思を感じた。帝剣武闘会というお祭り期間だからかもしれないが……なんというか、騒ぎ慣れてる感じがした。

 そんな眠らない町を眺めているとダニエラから声が掛かる。


「アサギ、明日の決勝戦だが」

「あぁ、うん。結局ダニエラと戦うことになっちゃったな」

「そうだな。だが私はこうなるのではないかとある程度は予想していた」

「へぇ……」

「それで、だ。アサギ、明日は手を抜かずに私と戦って欲しい」


 声音があまりにも真剣だったので並んで歩いていた僕は立ち止まってダニエラの顔を見る。ダニエラは声だけでなく、表情も真剣そのものだった。


「軽く流しておしまい、じゃ駄目なのか?」

「あぁ。私はお前と本気で戦いたいんだ」

「でも僕は……」

「傷つけたくない、か?」

「まぁな。自惚れている訳ではないけれど、僕だってダニエラに傷を負わすことぐらいは出来るつもりだ」


 これまで一緒にやってきたんだ。それくらいの自己分析くらいは出来る。


「だろうな。私もアサギを傷つけることくらいは訳はない。それを踏まえて、本気で戦って欲しい」

「どうしてそこまで僕に本気を出してほしいんだ?」


 身を守る為、生活する為に剣を取ったが、僕は誰かを傷つける為に戦ってきた訳じゃない。


「お前と一緒に此処まで来ただろう。どれだけ強くなったか見てみたいんだ。お前も、私もな」

「ダニエラはずっと一人旅だったんだっけ」

「あぁ。極力戦う事を避けてきた。危険と分かってて首を突っ込む必要はないからな……だが、こうして二人旅になったことで私もかなりレベルを上げた。その確認もしたいんだ。防具も揃ったしな」


 危険を全て排除するには、それ相応の力が必要だ。か弱かったダニエラにはそれを成す力が足りなかったということだ。

 確かにフィラルドで会った頃のダニエラは極力魔法を使わないようにしていた。目をつけられるからと仮面もしていた。まぁ、新しい町に入る時とかは大体仮面装備だが……。それでも僕という相棒を得てからは安心してくれたのか、そういう危機感を良い意味で取っ払ってくれている。嬉しいことだ。そうして得た力を、確認したいというのであれば吝かではない。身代わりの魔道具もあるしね。考えてみれば、うってつけの舞台ではないだろうか。


 その考えに至った僕はダニエラに了承の返事をした。それを聞いたダニエラは嬉しそうに笑い、


「よし、もう一件行くぞ!」


 と、僕の腕を掴んで宿泊施設へ続く道から外れた。勘弁してください……。



  □   □   □   □



 翌日、絶対酷いことになっていると思い寝たはずだったが意外にも頭はすっきりしていた。胃もたれもしてないし、寝違いもしてない。頗る健康だった。


「おはよう、アサギ」

「おはよ、ダニエラ」


 既に起きていた隣のダニエラがふわりと僕に覆いかぶさる。


「んー……二度寝したい……」

「駄目だって。決勝戦しないと」

「そうだな……はぁ、起きるか」

「ほら、どいてくれ」


 むにゃむにゃと呪文を唱えるダニエラをどかせて洗面所で顔を洗う。出てきた頃にはダニエラは着替えて装備を身に着けていた。


「似合うな……その鎧」

「高かったからな。似合ってくれないと困る」


 ダニエラが着ている服は『白百合服飾店』謹製の風龍素材の服だ。デフォルトで風属性上昇が付いている。そこへ昨日競り落とした風龍素材の軽鎧一式……そこから小手と、ダニエラは靴も装備していた。これで風魔法行使の効率と威力は劇的に上昇するだろう。


「顔洗ってくる」

「あぁ」


 僕と交代にダニエラが洗面所に入っていく。さて、僕も着替えようか。


 虚ろの鞄からいつもの装備を取り出す。風龍のインナー。ポンチョ。ズボン。そして腰マント……。ダニエラは風龍で揃えているが、僕の場合はそうじゃない。氷竜の軽鎧がある。軽鎧と小手と脛当てを身に着ける。


「武器は……」


 藍色の大剣(シュヴァルツ・テンペスト)鎧の魔剣(グラム・パンツァー)足切丸(アシキリマル)霧氷石の槍(コキュートス・ランス)。手持ちの武器も増えてきたもんだな……。オークションで何か良いのがあれば良かったんだが、無かった。見た目ばっかりの武器防具ばかりだったな……風龍装備と店長の弓だけが、実戦向きだった。


「これにしよう」


 ダニエラも片手直剣での戦いは散々見てきただろう。なので藍色の大剣を肩から下げることにした。背中に下げて抜くなんて出来ないので肩掛けバッグのように下げることにしてるのだ。ちょっと場所を取るけど、まぁ仕方ないよね。


「ん……大剣か」

「うん。店長と戦った時に片手剣の真髄は見せたつもりだよ」

「確かにあれは脅威だった。私には防げないだろうな」

「そういう風に作った剣術だからな……」


 僕の中でダニエラが最強なんだ。ダニエラに勝てるように考えないと誰にも勝てない。


 さ、そろそろ時間だろう。時計を見ると朝食を少し過ぎたくらいだ。昨夜はしこたま食ったのでお腹は空いてない。それは珍しくダニエラも同じようで、朝食をねだることなく部屋を出た。

 会場に着くまでの間会話はなく、だけど別に険悪という訳でもなく、お互いに集中しているのが肌で感じ取れた。


「じゃあ、始めようか」

「全力で来い、アサギ!」


 そして舞台の上で対峙する。一緒に旅してきた仲間に、人生を共にすると誓った恋人に、僕は大剣の切っ先を向けた。

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