第二百五十三話 オークション会場へ
アドラスは急激な魔力欠乏という事で医務室へと運ばれた。僕はまぁ、全力ではあったが余力は残しておいたので選手席へと戻ってきた。
「おかえり」
「ただいま」
ダニエラとの短いやり取りを店長が羨ましそうに見ている。
「勝って当然、って顔をしてるね」
「はは、負ける訳ないじゃないですか」
彼奴はダニエラに手を出した。それだけは許せない。僕がどう言われようと、そんな事はどうでもいいが、それだけはどうしても許せなかった。まぁ、あれだけの事をやらかした上で僕なんかに負けたんだ。もう、今までのようなでかい顔は出来ないはずだ。
「アサギさんって本当に凄い人だったんだな。俺、感心しちゃったよ」
「ハインリッヒさんだって推薦貰えるくらいに強いじゃないですか。僕だって今回は偶々ですよ。アドラスとの相性が良かった」
「ははっ、嫌いな癖に相性バッチリってのも笑えるね」
「あはは」
拍手しながら僕を迎えてくれたハインリッヒさんはバシバシと僕の背中を叩きながら言う。いやしかし本当にアドラスとの相性はバッチリだった。反属性とか色々あるけど、ぶっちゃけ水なんて全力で凍らせてしまえば勝てる訳ないんだよなぁ。
まぁ、勝って兜の緒を締めよとも言うし、今後の試合展開はちゃんとチェックしないとな。なんせアドラスとハインリッヒさんの戦闘は諸事情で見られなかったのだから。
「あー、トーナメント表すぐ忘れちゃうな。次誰だっけ?」
「あぁ、私だ。だが……」
ダニエラが立ち上がる。が、すぐに席に座った。
「ん?」
「いや、試合相手が居ない」
「……あー、レヴィさんか」
戦闘狂、『白露』のレヴィはバンディの槍を腹部に受けて医務室送りになっていたっけ。今頃アドラスとよろしくやっているんじゃないかな。
でもそうすると次の試合が出来ない。怪我ってどれくらいで治るんだろうか。僕がレックス達とワイバーンを仕留めた時は割と酷い怪我で衛兵隊詰所の医務室に運ばれて、次の日の昼過ぎにはある程度治っていたが……。
そんな事を思い出しながらどうなるのか待っていると、医務室のある方の扉から数人の人間が出て来て、舞台袖の審判と何やら話し込んでいる。その後、出てきた人達が引っ込み、どうしたものかとキョロキョロしていると、皇帝の方に誰かが耳打ちをしていた。隣のダニエラの肩を叩き、皇帝を指差して一緒に眺めていると、何度か頷いた皇帝が立ち上がった。
「聞けェ! 先の試合を戦い抜いたレヴィ=バディは思いの外、傷が深いッ! このまま試合を続行するのはフェアではないッ! よって、試合は明日へと延ばす事にしたッ!」
なるほど、塞いだ所で大立ち回りして傷が開いてしまっては意味がない。そんな状態で負けたら悔いも残るだろう。戦闘狂だし。
「明日に開催を予定していた決勝戦も見送る事になるッ! 更にもしもの事を考え、1日の休日を挟み、3日後に決勝戦を行うッ! 今年の武闘会は2日間の延長だッ!」
祭が続くということでワーッと観客席が沸いた。お祭り延長ってテンション上がるよね。僕もワーって言いに行きたい。が、立ち上がろうとしたところでダニエラに腕を捕まれ、引っ張られてよろけて席に座る。
「なお、トーナメント後に開催を予定していた帝都オークションだが、帝剣武闘会の予定を変更させたので2日後の休日に開催となるッ!」
あー、なるほど。最初はトーナメント後だったのが、本戦延長。そして予備日を入れて決勝戦になったから間の休日が開催日と被ったのか。傷を癒やして英気を養う予備日がオークションと……休む暇ないやんけっ!
□ □ □ □
そして迎えた予備日。オークション開催日。今日はダニエラと、出先で遭遇したレモンと一緒に会場へやってきた。
え? ダニエラの試合? そんなものはダニエラの勝利に決まっているだろう。いやぁ、しかしまさかレヴィがあんな奥の手を使ってくるとは思わなかった。お陰でダニエラは危うく敗退するところだった。しかしダニエラもそこは実戦経験を活かして予想外の立ち回りで反撃を繰り出し、見事にレヴィを場外まで吹き飛ばした。風魔法にあんな使い方があるとはな……僕も色々勉強になった。
でもやはりレヴィも中々のものだった。お陰でダニエラは昨日は医務室で夜を明かした。今も頭に包帯を巻いているが、もう傷はほぼほぼ塞がっていることだろう。明日の僕との決勝戦には、支障はないはずだ。
「いやーそれにしてもアサギ先輩、凄かったです! 私、アサギ先輩の背中側最前列に居たのですが、本当にやばいと思いました!」
「もうそれ聞くの5回目だって……」
「でも本当にあの瞬間、私はアサギ先輩に救われたんですよっ」
「はは、それはまぁ、良かったよ」
出くわしてからのレモンはずっとこの調子だ。興奮冷めやらないとは、まさにこの事だろう。
「ダニエラ先輩の試合も素敵でした……私、惚れ直しました……」
うっとりとした表情で言うレモンの瞳はハート型だ。直したということは元々惚れていたのだろうね……いや、何も言うまい。ダニエラだから仕方ない事だ。
「まぁ、私はそれなりに長生きしてるからな。レモンも鍛えればあれくらいどうということはないぞ」
「私なんかにはとてもとても……ずっと衛兵やってた人生ですから」
「僕なんて雑貨屋の店員だったんだ。レモンも鍛えれば僕よりも強くなるさ」
「えっ、雑貨屋さんだったんですか!」
コンビニって言ったって転移者にしか分からない。レイチェルは転生者だけど。
「そうそう。だからレモンもこれから頑張っていけばいいさ」
「そうですね……ちょっと自信出てきました!」
うんうん、やる気になってくれて良かった。実際、長命種のエルフなのだから時間はたっぷりある。死ななければ長生き出来るのだから、敵を排除出来るくらいには鍛えた方が良いに決まってる。
そんな会話をしながらやってきた会場はこの間見た時と変わりなく建っていた。今日は開催日ということもあって人も多い。異世界特有の裏オークションとかではないから人も普通に来るみたいだ。レアな掘り出し物とかあるかもしれないし、入札しなくても見てるだけで楽しそうだ。
とりあえず3人で受付に立って出品者であることを伝える。
「えっと、出品者のアサギですけど」
「あ、はい。聞いております。……えっと、そちら様方は?」
「連れです。一緒に入っちゃ駄目ですかね?」
「申し訳ございません。ステージの広さも限りがございますので……」
「あー。そうですよね。すみません」
それもそうだ。出品者が座って、オークショニアが居て、品物が出てくるんだ。助っ人のバニーガールも居るかもしれない。そんな場所にぞろぞろと座ってたら邪魔でしょうがないな。
「ですが関係者ということで裏から入場することは出来ますよ」
「あ、じゃあお願いしてもいいですか?」
此奴はラッキー。入場料が浮くぜ。
「では此方の関係者専用の名札を……では、係りの者に案内させます。素敵な品との出会いをお祈りしています」
「ありがとうございました」
親切な受付さんに礼を言って3人で会場の、入り口とは反対側から入る。先を歩く係員さんはチラチラと僕を見るが、多分昨日の観客だろう。顔が売れてしまったなぁ。ま、今日また注目を浴びてしまうのだから今更だ。
「では此方が控室です。時間になりましたらお呼びしますので、それまでごゆっくりお寛ぎください」
「分かりました。ありがとうございます」
控室……またアドラスみたいなのが居なければいいが……。と、恐る恐る扉を開く。
「……あれ?」
「うん?」
控室には数人の出品者と、それらに混じって見知った顔が居た。
「何やってるんですか店長」
「金策」
1回会うと何処でも会うもんだなーと思いながら、僕は扉を押し開くのだった。




