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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百五十一話 アサギ対アドラス開戦

 実はしっかり試合を見ていたダニエラに試合内容を聞きつつ、バンディとレヴィの試合を見る。


「あははははははは!!」

「くっ……!」


 引くぐらいの戦闘狂っぷりのレヴィ選手だった。やっぱり戦闘狂じゃないですか!


 Aランクで二つ名持ちのレヴィの猛攻に防戦一方ではあるが、何とか食らいついているバンディも中々見所があるのではないかと思う。巧みな槍捌きはもうAランクに追いついていると言っても過言ではないだろう。レヴィがAランクの中でも二つ名持ちということで頭一つ分抜きん出ているという仮定で考えればバンディはもうAランクレベルの実力だと考えられる……のかも。


 そんなバンディの起死回生の鋭い一撃がレヴィの腹部を貫いた。最初の試合で見せたあの神速の突きだ。低い姿勢から繰り出された突きが真っ直ぐにレヴィの腹部へと突き刺さる。

 しかしレヴィはそれに怯むこと無く、逆に笑みを深めて槍を掴む。


「ひ、ふひ、あひひははははははは! 良い! イイ! いいですよぉ!」


 ドン引きレベルの戦闘狂っぷりで逆手に持った氷細剣を、恐怖に歪むバンディの額に突き立てた。


「試合終了! 試合終了です!」


 ガチガチと肩代わりして震える魔道具がレヴィが勝利したことを告げた。狂気的なレヴィに危機感を覚えていたのは僕だけじゃなく、審判も必死に試合終了を告げて割り込む。よく割り込めるなぁと感心するね……。


「……もうお終いですか」

「はっ……はっ……」


 汗びっしょりで浅い呼吸を繰り返すバンディ。氷細剣を抜かれ、魔道具が砕け散った。そして汗以外の水分で服をぐっしょり濡らしながらそっと額に触れる。勿論其処はつるつるの綺麗な額だ。たまご肌だ。安堵の息を漏らしながら崩れ落ちたバンディ。


「はぁ……つまらないです」


 試合が終わり、フラフラと此方に戻ってくるレヴィだが、審判が慌てて彼女を引き止める。腹に槍が刺さりっぱなしだもんな。仕方ないね。

 もう一度溜息をついたレヴィは医務室へと連れて行かれた。


「……で、ハインリッヒは水の中で呼吸が出来なくなって棄権した」

「そっか……」

「聞いてたか?」

「ん? あぁ、まぁ」

「聞いてなかっただろ」

「聞いてた聞いてた」


 僕の生返事にダニエラの向こうに居たハインリッヒさんが胡乱げな目で見つめてきた。


「アサギさんって結構酷いところあるよね……」

「え? あはは。いや、そんなことないですよ。お疲れ様です、ハインリッヒさん」

「うん……」


 濡れた青髪を掻き上げていたハインリッヒさんががっくりと項垂れ、パサリと髪が顔を覆った。



  □   □   □   □



 ダニエラの2回戦目。相手は火魔法使いのニュート=エランギュート。ダニエラにしてみれば取るに足らない相手だ。彼の奥の手でもある『火走り(イグニッションロード)』もダニエラの生成した風の結界に阻まれてダニエラには届かなかった。魔法理論的には反属性ではないが、圧倒的な実力差がそれをやってのけてみせた。

 結局魔法が通らずニュートはリタイアを宣言。完封したダニエラには会場から盛大な拍手と声援が浴びせられた。主に女性ファンからだったのは言うまでもない。


 さて、此処でトーナメント表を思い出す。次は勿論、僕対アドラスだ。それが終われば次はダニエラ対レヴィだ。そして決勝戦。ダニエラが3回戦うのに対して、僕は、まぁ、順調に勝ち進めば試合回数2回で決勝戦へと進める。ちょっと僕側は試合回数が少ないのだ。これは参加人数や、前回優勝者を少し贔屓した設定だから仕方ない。伝統なのです。と、ダニエラの試合中に気になって武闘会開催委員的な人に聞いて確認した。

 其処で初めて聞いたのだが、決勝戦は見せ場、メインということで翌日に行われるらしい。選手がお互いに休息を取って、万全の状態で試合に臨む為という開催側の配慮らしい。


「試合に関するルールは事前に会場でしっかり説明したはずですが……」

「あ、すみません。居なかったんで」

「……」


 呆れた目で僕を見る委員の人(軍の人/女性)。ちょっとゾクゾクする。いいね!




 そんな感じで試合は僕の番となった。声援に包まれながら舞台に上がり、アドラスと対峙する。


「ふん、これで漸くダニエラは正式に私の伴侶となるわけだ」

「ならねーよアホ」

「ははっ、強がりは今のうちだぞ」


「黒兎」


 ……???


「今なんて言った……?」

「ふふふ……黒兎、と言ったんだ。お前の愛称だろう? お前の事が気になって気になって、少し調べさせてもらったよ」


 頭が沸騰しそうになる。全て終わった過去だ。区切りを付けて、その終わり方に納得もした事件だ。全部終わったことだし、今更その事を引き合いに出されたところで『あぁ、そんな事もあったよね』と話せるくらいには立ち直った。


 でも、相手が悪かった。


「その黒い髪。逃げ足の速さ。あぁ、言われればなるほどと納得出来る愛称じゃないか。愛称を付けた奴に拍手を送りたいな」

「……」


 目の奥が熱くなり、後頭部が痛くなってきた。嘲笑うアドラスの顔が憎くて憎くて仕方なくなる。試合だって事を理解している自分が奥に引っ込んで、痛めつけてやりたいと思う僕が出てきそうになる。


「ははっ、良い試合が出来そうだな? え? 黒兎」

「……」


 なーんちゃって。


 僕だってもうガキじゃない。怒りました。殴ります。なんてそんな事はしません。しませんとも。そんなキッズじみた事をこの試合会場でやるような事はしませんとも。ちょっと前に割と本気でキレかけたけど、そんなことは無かった。無かった。


「すぅー……はぁぁ」


 深呼吸、深呼吸。気持ちを落ち着けて試合に集中しよう。これだってわざわざ苦労して調べてまで行うアドラスの作戦だ。よっぽど僕の事を警戒していると見える。

 だっておかしいじゃないか。試合前にわざわざよその国で起きた小さな事件まで調べているなんて、警戒していないとやらないだろう。優勝者のすることじゃない。優勝者なら圧倒的戦力で潰せばいいはずだ。


「逃げる為の算段はついたか? では始めようか」

「あぁ、お互い、悔いのない試合をしよう」

「ふはは、そうだな」


 剣を抜き。下段に構える。アドラスは流麗な仕草で青い両刃の剣を抜く。見た感じ水属性っぽいな。アドラスの二つ名は『流転』。変幻自在の水魔法が此奴の得意技で二つ名を得るに至った力だ。

 じわりと藍色の魔力が溢れ出る。濃い藍色だ。


「試合開始!!」


 審判の声と共にアドラスの足元から大量の水が溢れ出し、水流となってアドラスの周囲を覆った。


「水のないところでこのレベルの水流を……流石は『流転』といった所か」

「ふん、このようなもの、造作も無い。こんなので驚くなど、底が知れるぞ? 黒兎」


 濡れるのが嫌なのでフードを被り、氷属性の魔力を漲らせる。足元がパキパキと凍り始めた。それを《神狼の脚》の風圧で割りながら歩を進める。


「あははは、パフォーマンスに決まってるだろ。相手にもならないな!」

「何……!?」


 驚くアドラスの顔が超ウケる。一瞬で風速を上げて奴の背後へと移動し、剣を振り下ろした。


「あ?」

「ハッ、パフォーマンスに、決まっているだろう?」


 振り返ったアドラスが剣を受け止めた水流越しにニヤリと笑った。此奴、まさか見えてたのか? 今のが? 嘘でしょ。


「……ッ!」


 剣を引っ込め、再び移動し、今度はアドラスの横っ腹に突きを入れる。が、これもまた水流に阻まれる。それから僕を見て嘲笑うアドラス。


 それからも僕は《神狼の脚》を最大限に使い、様々な方向から剣で斬りかかるが全て防がれた。勿論、当てずっぽうに振ってる訳ではなく、《器用貧乏》による映像演算も使った割と本気のやつだ。僕の剣撃とは別に放った『氷矢(アイスアロー)』ですら防がれる。挟み撃ちにしたって全部防がれた。ちょっとこれはチート臭いのでは?


「何度やっても無駄だよ、黒兎。お前の攻撃は私の水が全て防ぐ。これはそういう魔法なのだと、いい加減に理解したらどうなんだ?」

「……そういう事かよ」


 水魔法によるオートガード。なるほど、それがこの魔法の正体か。防いでから笑うアドラス。此奴は僕自身の動きは見えてなかったんだ。全部、構築した魔法が防ぐから此奴はただ立ってるだけで良かった。全て、試合開始直前に準備は終わってたんだ。


「私がこの長い人生を使い、編み出した水魔法、『流れる大河の盾(ヴォーゲンシュトロームシルト)』が貴様の児戯にも等しい剣筋をあしらってくれるのだ」

「あっそう……じゃあ僕もそれなりの戦い方をさせてもらうよ」


 無駄に長い魔法名はオリジナル魔法だと言われなくても分かる。異世界式エキサイティング翻訳による中二臭い魔法名が耳に不法侵入してきて頭痛が痛い。


「お前に出来るのは逃げるだけだ」

「んなこたねーよアホ野郎。何調べてんだ?」


 黒兎だけが僕の特徴なはずがない。弱みだけを調べてきたのがお前の敗因……に、なるかもしれないな。と、強気になりきれないアサギ選手なのでした。

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