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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二十五話 覚悟と号泣

 ベオウルフが濁流の中に沈む。凝縮された土石流のような攻撃にダニエラ渾身の一撃だ。これで効いていないなら化物だが……。


「倒……した、のか?」


 ダニエラが僕の側に来て問う。だがそれは死亡フラグだ。思わず身構えてしまったのが奇跡的に最適解だった。


 気付けば僕の体は壁をぶち抜いていた。


「はっ……、が……っっ」


 息が出来ない。きぃん、と耳鳴りがする。視界がモ白く霞む。全身の感覚も消えたように重い。


「……ぎ、……さぎ………アサギ……っ!!」


 ダニエラが僕を呼ぶ声がする。聞き間違いではないだろう。この場で僕を呼ぶのはダニエラしかいない。


「アサギか……貴様、人間のくせにやるではないか……」


 誰、だ……? 突然の声に急速に意識が覚醒していく。最初に視界に入ったのは天井だった。そして影。次に衝撃と重みが僕を襲った。


「ぐぅ、あ……てめぇ……!」

「この我をここまで傷付けたこと、褒めてやろう」


 ベオウルフが僕をその脚で押さえながら上から喋りかけてきやがった。


「くそ、アサギを離せ!」


 視界の端でダニエラが矢をつがえる。


「おっと、其奴を放てば貴様の相棒は死ぬぞ?」

「はが……っ!」


 ベオウルフがずん、と体重を乗せてくる。死ぬほど重い。


「ちぃっ……」


 舌打ちしながらつがえた矢を矢筒に戻すダニエラ。しかし腰の剣に添えた手は離さない。


「くそが……何なんだてめぇ……」

「いやなに、群れの仲間がどんどん減っていくのでな。どんな輩が来たのか見に来ただけだ。あぁ、勘違いするなよ。我はお前を恨んでなどいない」


 どういうことだ? 僕達がフォレストウルフを狩っていった仕返しではないというのか?


「逆襲か何かかと思っているな? 違うぞ、アサギよ。我は強い奴に興味があっただけだ。群れの仲間が死んだのは弱かったからだ」

「じゃあ、僕達も殺すのか……?」

「おかしなことを言う。殺すのは殺される覚悟があってのことだろう?」


 正論だ。あれだけのフォレストウルフを殺しておいて自分が殺されそうになったら臆するのは間違いだ。相手が魔物だから、なんて言い訳は出来なかった。返す言葉のない僕は黙り込む。

 だが黙って殺されるだけじゃあまりにも情けない。


「フォレストウルフを多く狩り、お前をここまで追い込んだのは僕だ。僕だけ殺せ」

「アサギ……!?」


 ダニエラは僕を助けてくれた。誘ってくれたんだ。どうにか助けたい。ダニエラの声を無視してベオウルフをジッと見つめる。


「どうやら本気らしいな?」

「殺される覚悟なんて出来やしない。だけど彼女を助けられるならどうなってもいい」


 それは本心だ。如何に正論を吐かれようと考えが変わる訳じゃない。あっさり死を受け入れられる訳がない。

 だけど僕の命でダニエラが助かるなら? それなら話は変わってくる。元々死んだ身だ。拾った命の価値は僕が決める。

 ベオウルフが僕を睨みながら口角を歪ませる。


「ふふふ、お前の目に嘘はなさそうだ。いいだろう、一思いに殺してやる」

「アサギィ!!」


 ダニエラが震えた声で叫ぶ。ベオウルフの約束が本物であることを祈りながらダニエラへ微笑む。そのまま僕は目を閉じ、死を待った。


 あぁ、二回目の死は熱と寒さの中に沈まなくて済みそうだ。この大きな脚で一撃の下にこの身が弾ければ痛みなんてない。思えば死んでやってきたこの世界で僕は前の世界よりも生き生きしていた。


 太陽のない時間に一人で働くのは寂しかった。


 太陽のある時間にダニエラと話すのは楽しかった。


 疲れた体で迎える朝が辛かった。


 疲れた体で迎える夜が楽しみだった。


 だが僕は死ぬ。次に目が覚めるのがあの霧の丘だったらどんなに良い事だろう。そんな走馬灯のような思いを胸に、僕はやってくる死を迎えた。





「と、思ったが気が変わった」

「ん?」

「ん?」


 僕の体を押さえる重みが消えた。


「あれ……? 殺すんじゃ……?」

「気が変わった、と言っただろう」


 変わったのか。なるほど、変わったのなら仕方ない。


「てめぇ! 僕の覚悟を返し『アサギぃぃ!!!』ちょ、ダニっ……」


 体液で顔が拙いことになっているダニエラが僕に覆いかぶさる。前が見えない。


「あ、アサギが死ぬかと思ったら……! うううぅ……っ!」

「ダニエラ……」


 僕のためにこんなに泣いてくれるなんて。正直嬉しい。こんな時は抱き締めてあげるのがコツだ。と思うのだが如何せん体が動かない。先程の一撃が今もダメージとして残っている。


「どうして殺さない?」

「何、我より強いとまでは言わんがここまで傷を負わせてくれたのはお前が初めてだ。殺すのは惜しい」


 ベオウルフはこの森の領域で生まれたそうだ。生きているうちに彼はフォレストウルフからベオウルフへと変わったそうだ。変わった理由は本人……本狼? には分からないと言っていたが……それでも長い人生……狼生? でここまでの手傷を負ったことはなかったそうだ。


「ワイバーン相手にもこんな傷は負わなかった。まぁ、奴等は単純な生き物だからな。奇襲とは恐れ入った」

「でもこんなの人間なら誰でも思いつく作戦だ。僕より強い人間なんて世の中沢山いるぞ」

「そうかもしれない。だが我はここしか知らない。だから修行の旅に出ようと思う。我より強い奴を探しにな」


 そう言って口角を歪ませる。いちいち顔が怖い。


「記念に殺すとかじゃないのか」

「お前はそんなに死にたいのか?」

「アサギを殺すなら私は死んでもお前を殺す」


 静かな遺跡にダニエラの声だけが聞こえた。


「我も命は惜しい。これ以上は危険だな」

「ふん……どうだかな」


 ジッとベオウルフを睨むダニエラだが、僕が肩を叩くと一歩引く。


「まぁ、殺さないっていうなら有難く思うよ。ここで死んだらダニエラが可哀想だ」

「確かにな」


 こうしてベオウルフとの遭遇戦は終結した。……ということで、いいんだよな?


「はぁ……何か安心したら力抜けてきた。あんまり力入ってないけれど」


 ぐったりしながら天井を見上げる。先程の一撃で天井が崩れたのか、月光が部屋を照らしている。雲が晴れたのか、一際明るくなったその光が部屋を隅々まで照らす。すると僕が倒れていた小部屋の端の壁の亀裂から淡い光が差し込んだ。何だろう、向こうにも部屋があるのだろうか。僕はよく見ようと身を捩る。するとダニエラが顔を上げた。


「アサギ……どうした……?」

「……いや、あそこさ。なんか光が……」

「ん……本当だ」


 二人して壁の亀裂を見つめる。


「どれ、我が崩してやろう」


 ベオウルフが気を利かせてくれたのか、ちょうど僕の頭の横にあった壁の破片を脚で蹴り飛ばす。思わずヒィッ!と声が出る。死ぬかと思った。

 破片は真っ直ぐ亀裂に向かい、轟音とともに突き崩した。淡かった光が月光と混じりながら僕達を照らす。僕は漸く動くようになってきた体でその小部屋を覗こうと立ち上がった。

コミケとかで更新止まりますが隙あらば更新します

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[一言] ベオウルフが喋ってることに一切のツッコミがないの草
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