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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百四十三話 二刀流対槍

大変長らくお待たせしました。久し振りの更新です。遅れてしまい申し訳ありませんでした。


前回のあらすじ


アサギ会場入り

3人目の推薦選手

謎の選手と既視感

 気になることはあるが、いよいよ闘技場の舞台に出る。先頭はもう顔を出しているのか、爆発したような歓声が此処まで聞こえている。


「緊張する……」

「胸張って行こう。自信を持て、アサギ」

「よし……」


 深く息を吸い、全部吐き出す。そして顔を上げれば目の前は開け放たれた扉だった。




 人生でこんな大きな声に包まれたことはない。


 経験したことのない音の暴力に一瞬、怯んだ。声は圧となって僕を痺れさせた。


「すっ……ごいな……」

「大歓声だ。期待に応えて手を振ろうか」


 ダニエラは余裕の表情で手なんか振ってる。女性の声援が増した気がする。


 良いな、僕も振ろう。会場の皆さんに向けて手を振ってみる。すると不思議なことに野太い歓声が増えた。解せぬ。


 そんな歓声、声援の渦に包まれながらも僕達は舞台に上がる。改めて周りを見る。円形の闘技場、その中心の舞台を囲うように設置された観客席には数え切れない数の観客がこれでもかと声を張り上げている。とてつもないな……。


 係員の指示に従い、舞台に上がった僕達は横一列に並ぶ。何が始まるんだろうと待っていると会場の声が小さくなった。そして全員が一方向を見る。其処は観客席の上段だが一部、別のスペースが出来上がっている。特別席だろうか。周囲は軍人が囲っていてアリ1匹入り込む余地はなさそうだ。


 その席の奥は出入り口があるらしく、壮年の男性が出てきた。高齢に見えるが背筋はまっすぐで力強さを感じる。予選開始の時に見た男、皇帝様だ。


 と、思い出してると皇帝様は周囲を睥睨してからバッと両手を広げた。


「これより、帝剣武闘会本戦を開始するッ!! 優勝者には豪華な賞品が用意されているッ!! 皆、正々堂々と戦うのだッ!!」


 会場全体に響くような大きな声で本戦開始の宣言をする。周囲の観客の声は激しく、ひと目で皇帝が愛されているのが分かる。


「皇帝ばんざーい!」

「ヴェルドレッド様ー!」


 そんな声が大音量で交差する。皇帝ヴェルドレッド。姿も名前も強そうだ。


 皇帝は本戦開始を伝えると椅子に腰を下ろした。その皇帝の周囲に座る何人かの男達はこの国の重鎮だろう。錚々たる顔触れだ。


 皇帝の宣言が終わった所で僕達が何人かの係員達が何かを配っている。腕輪、だろうか。見ていると1人に一つずつ配っている。そしてその順番が僕に回ってきた。


「此方、身代わりの魔道具となります。万が一があるといけませんので必ず身に付けてください」


 これが身代わりの魔道具か。一見すると幅1cm程のその辺にも売っていそうな銀色のシンプルな腕輪に見える。しかしその裏側にはびっしりと幾何学模様が描かれていた。


「今の時代はこうなっているのか……」


 腕輪を身に着けたダニエラが言う。イヴに奪われたという身代わりの魔道具。ダニエラが持っていたのはどうやら腕輪型ではないらしい。


「私が手に入れたのは首飾りの形だった」

「へぇ……」


 色々な形があるようだ。身代わりになってくれる腕輪を見ていると係員の声が響く。


「これより本戦でのルールを説明します。勝利条件は対戦相手の場外判定、降参、気絶のどれかです。例外としては審判からのストップとなります。身代わりの魔道具が破壊された時点でも試合終了となります」


 身代わりの魔道具が破壊されるということは一度死ぬということだ。死ぬレベルの攻撃は自動的に魔道具が肩代わりする。


「それでも攻撃した場合、失格となります。相手は殺害した場合は帝国の法に従い、死罪となります」


 そりゃそうだな。


「試合時間は50分です。それを越えた場合は審判の判定となります。ルール説明は以上となります。常識に従って戦ってください。では1回戦を開始します。マカデニア=ニッケ選手とバンディ=リー選手以外は退場を!」


 その声に皆、舞台を降りていく。残るのは二刀流、マカデニアと槍使いのバンディだ。選手は闘技場の端の特別席に移動する。野球場の選手が待機するような席だ。そこで皆仲良く観戦することになる。てっきり待合室に戻されると思っていたが、此処で観戦出来るなら退屈しなくて済みそうだ。



  □   □   □   □



 審判を挟んで両者が立つ。西方は青いバンダナに動きやすい軽鎧を身に付け、腰には二本の剣を下げた男、マカデニア=ニッケ。対する東方には、此方も動きやすい軽鎧を身に付け、シンプルながらも使い込まれた槍を手にした女、バンディ=リーが立っていた。


 マカデニアは剣を抜き、薄っすらと笑う。この本戦での彼のランクは下から数えた方が早いEランク。対してバンディはBランク。しかし多くの冒険者のような行き詰まりではない。予選を圧倒的なバトルセンスで生き残った猛者だ。力を磨けばAランクは間違いないポテンシャルを秘めている。


 そんな相手に、マカデニアは笑う。


「へへ、へははは」

「何が可笑しい?」


 細く綺麗な眉をピクリと跳ねさせながら訝しげにバンディは見やる。


「いや、これは笑うしかねーって……俺みたいなのが、アンタみたいな猛者を相手にするんだぜ……」

「そうだな。相手の隙ばかり狙う君には荷が重い対戦相手だろう」

「へへへははははは! そう、そしてそんな相手に俺は勝っちまう」

「何?」


 訝しげだった顔が一転、無表情になる。が、その表情の下には酷く静かな怒りが見て取れた。バンディの言葉からして、彼の予選をチェックしていたようだ。確かに相手の隙を突く漁夫の利スタイルは賛否両論なのは間違いないだろう。僕としてはバトルロイヤル形式なのだから背後も気にするべきだとは思うが、騎士道的考え方の人間には良く映らないだろう。


「さぁ、始めようぜ。アンタは俺の踏み台になるんだぜ」

「ふん、お前なんぞ数多く打ち倒してきた経験の一つにしかならない」


 マカデニアが数歩下がり剣を構え、バンディがバックジャンプで下がって槍を構えた。それを見た審判が天高く上げた手を手刀の形にし、そして振り下ろした。


「試合開始!!」


 開始の合図にまず行動を起こしたのはバンディだ。姿勢を低く、手にした槍を背に添えて走り出す。まぁ僕には追いつけないのは当たり前だが、一般のBランクの中では目を見張る程の速度だった。


「速いな」


 ポツリと隣のダニエラがこぼす。自分の速度に慣れてしまっている僕とは違い、ダニエラは一般的な感覚も持ち主だ。真っ白王子が鼻で笑っているが、青髪のハインリッヒはほう、と切り揃えられた髭の生えた顎をさすりながら驚いていた。


 バンディは速度を乗せた薙ぎを繰り出す。マカデニアは薄ら笑いを絶やさずに抜いた剣を舞台に突き刺し、柄を握って逆立ちのようにして躱す。槍は剣の腹を強く叩くが、折れはしなかった。中々良い剣を持っているようだ。

 しかし僕が驚いたのは其処ではなかった。あの速度を、正面から見て見切った事だ。あの速さを正面から見れば、それこそ弾丸のような速さだろう。それを見切り、的確に避けたあの動き。ただの漁夫の利スタイルと舐めて掛かるのは難しい。


 バンディは自分の攻撃が防がれたことに眉をしかめながらも距離を取った。


「ふん、まぐれか?」

「へははは、どうだろうな?」


 あれを実力と認めたくないのか、理解していないのか。それは分からないがバンディはくるりと槍を回し、下段に構える。


「なら、これならどうだ!」


 ヒュン、と空気を裂く音とともに鋭い突きが放たれる。槍術勉強中の僕とは雲泥の差だ。惚れ惚れするような突きはマカデニアの足を狙う。


「へっ!」


 それを逆手に持った剣で弾きつつ足を逃がすマカデニア。槍は虚しく舞台に突き刺さるが、バンディの攻撃は終わらない。先程マカデニアがやってみせたように武器を支点に体を持ち上げ、その靭やかな足でマカデニアの頭部を蹴り抜いた。


「おぉ!」


 思わず声が漏れる。綺麗に側頭部に入った蹴りにマカデニアは地面を転がっていく。元々あの突きは、それすらを含めたフェイントだったのだろう。メモしておこう。


 地面を転がるマカデニアは苦しげに顔を歪めながら見を縮めて身を守る。そのために剣を手放してしまったのは痛いが、再び剣さえ取れば戦えそうではあるが……まぁ、バンディがそれをさせないだろうな。もう詰みか。


「呆気ないな」

「1対1の戦闘なんてこんなもんだと思うが……」

「そうなのか? こういう試合って見ないからな」


 今まで絡まれたり等の多対1の野試合のようなことばかりしてたからな。まぁ、日本で見た柔道とかの試合も勝負自体は一瞬だった。その代わり何回かの試合を繰り返すが……。




「所詮、口だけか」


 突き刺さった槍を引き抜いたバンディがマカデニアの元へと歩み寄る。マカデニアはゆっくりと身を起こそうと四つん這いになる。が、ポタポタと血が流れ落ちた。強く頭を打ち、裂けたのだろう。左側頭部から血を流している。お陰で左目は開けられない。


「へっ、いってぇ……」

「よく頑張った、と褒めてやろう」


 槍を振り上げたバンディがマカデニアを見下ろす。それを見上げたマカデニアの手を僅かに揺れた。


「うっ!?」


 驚いたバンディが慌てて避ける。なんとマカデニアはあの状態から投擲用のナイフを投げた。遠目ではあったが僕にはそれが見えた。バンディはギリギリだったようだが、すんでのところでをそれを躱した。しかしお陰で体勢は崩れる。


「そこだぁ!!」


 マカデニアの笑みが消え失せ、初めて本気の顔で手にした投擲ナイフを投擲した。銀線はまっすぐにバンディの顔に向かって飛んでいく。会場から息を呑む気配がした。


「ぐぁっ!」


 しかし酷い結果にはならなかった。流石はBランクと言ったところか、間一髪のところでバンディが左手でそれを防いだ。ナイフは突き刺さり、手の甲から切っ先を覗かせる。大量の血がボタボタと舞台に流れる。


「へははははは!! 俺は投擲主体なのさ!!」

「なるほどな……それでその目を持つわけか……!」


 なんとあの二刀流はフェイクらしい。確かに二刀流独特の戦い方はしてなかったが……漁夫の利スタイルと二本の剣というインパクトの強さで気付かなかった。マカデニア=ニッケ、低ランクながらも油断出来ない男のようだ。


 突き刺さったナイフを引き抜いたバンディの腕がだらりと下がる。血は流れるが、その目は油断なくマカデニアを見据える。


「勝負は此処からだ! マカデニア=ニッケ!!」

「へへへ……へははははは! 楽しもうぜ!」


 意外な技を見せた投擲の男と槍の女の試合はまだ続くようだ。

これからまた不定期ではありますが、更新していきますのでよろしくお願いします。

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