第二百三十六話 Cグループ予選
第1回HJネット小説大賞に応募していましたが、見事に一次選考を通過しました。これもブクマ、評価してくださった皆様のお陰です。これからも応援よろしくお願いします。大賞目指して頑張ります。
それでは本編をどうぞ。
気持ちを切り替えて観戦に専念する。そうは思ってもやはり先程のイライラは解消出来ない。今もまだ燻っている感じだ。
「そうイライラしても仕方ないぞ。私があんな何処の馬の骨とも分からん奴に靡くわけないだろう?」
「分かってるさ。でもいきなり現れてダニエラにあんな『俺のものになれ』みたいな事言ったんだ。腹も立つ」
「確かにそうだな。私も長く生きてきたが、あんな無礼な人間は初めてだ。白エルフであることに誇りを持っているような口調だったが、私に言わせればそんなものには何の価値もない」
そういえばやけに白エルフであることを自慢していたな。選ばれた種族とか。エルフ自体、あまり見掛けないが白エルフはそんなに数が少ないのだろうか?
「ただ古代エルフの直系と言われているだけだ」
「待って、それは結構凄い事なのでは?」
初耳だよ! 1000年前に滅んだ古代エルフの直系? マジかよ……。
「もう血も薄れて何の関係も無いがな」
「そうだとしても、やっぱり血統は大事だよ……」
主人公に必須のものじゃないか……こう、純血だから偉いとか強いとか始まるんだろう?
「ま、気にしても仕方ない。古代魔法なんて使えないしな」
「そうかもしれないけどさ……」
なんかこう、開花させたいと思ってしまうのは大きなお世話なんだろうか。何か特殊なアイテムとか力で古代の血が目覚める的な……。
いや、お節介か。ダニエラが求めていない贈り物をしても喜んでは貰えないな。
「それよりレモンは何処だ?」
「ん? あぁ、きっと前の方に居るはずだが……あ、居た」
灰色の髪は意外と目立つね。小さな灰色の頭をはっきりと確認した。キョロキョロと周りを見て僕達がやって来るのを待っているみたいだ。いやぁ、健気で可愛いな。ダニエラとはまた違った可愛さがある。
「ほら、席取ってくれてるんだ。早く行くぞ。お前が見えにくいって言ったから見てみろ。最前列だぞ」
「居た堪れない……」
ギュッと胸元で手を握ったダニエラが苦しそうに俯く。そう思うなら早く行ってやろうぜ。
僕はダニエラの手を引いて、座りきれず立ち見を決行している観客の間を縫うように歩き、最前列のレモンの元まで向かった。
「あ、先輩、遅いですよ!」
「悪い悪い。変な白いのに絡まれてな」
「え゛、今ちょっと噂になってるアドラスに絡んだ冒険者ってアサギ先輩なんですか……?」
こらこら、馬鹿を見るような目で見るんじゃあない。
「彼奴がダニエラを奪おうとしたんだ。反抗するのは当然だ」
「あぁ……アドラスは白エルフを囲うことで有名ですから……」
「やっぱりな……碌でもない奴だ」
本当に許せんな。本戦で当たったらフルボッコだ。
「私も声を掛けられたんですが目を擦ってから『すまない、見間違いだった』って言われました」
「……」
「まぁでもアサギ先輩が居たらダニエラ先輩も安心ですよね」
「まったくその通りだ。それとレモン、昨日は悪かったな……私が余計なことを言った所為で最前列まで行かせてしまった」
ペコリと頭を下げるダニエラだが、レモンは慌てたようにわたわたと手を振った。
「いえそんなっ! 偶々一番前が空いてただけですから!」
「そうか……すまんな。ありがとう、レモン」
「ふぁ……ダニエラ先輩……」
顔を上げたダニエラがそっとレモンの灰色の髪を撫でる。優しく何度も撫でればレモンは蕩け表情でダニエラを見上げた。いいね!
「あ、試合始まるぞ。間に合って良かった」
「よしレモン。もっとこっちに来い。一緒に見よう」
「はいっ、ダニエラ先輩!」
肩に手を回してレモンを引き寄せるダニエラ。レモンもそっとダニエラに手を添えて仲睦まじい雰囲気だ。僕は寂しく観戦するしかない。目の保養にはなるけどね!
今日はCグループの予選。出場選手の冒険者ランクはB。僕とダニエラがレプラントに到着した辺りの実力か。ワイバーンくらいならソロで倒せる猛者揃いだ。
「いやあれはアサギのスキル補正が強い」
「え、そう?」
立ち回りもグダグダだったし、何よりあれは直前までレックス達が削ってたお陰だと今でも思ってる。あの頃であれだから、ちゃんとした強い冒険者ならワイバーンも倒せるだろう。
そんな猛者達が今日は頑張って予選を戦っている。でも見間違いだろうか。ちょっと数が多い気がするんだが……。
「あぁ、それは見間違いじゃないですよ」
「そうなの?」
「はい。Bランクの冒険者って数が多いんですよ。Aランクに上がれない頭打ち。レベルと実力が伴わない人間が多いんですよ。なので、此処には80人の冒険者が集まっています」
「ひっどい言い草だな……」
レモンが言うにはAランクに上がれる冒険者と言うのは多くはないそうだ。確かにランクはレベルによっても上がるが、一番は貢献度。クエスト成功率だ。レベルばかり高くてもクエスト成功率が低ければギルドはランクを上げてくれない。
だからと言って、自分のランクより下のクエストをクリアしても貢献度としては意味がない。信用にも関わる。Aランククエストというのはとても危険が多いそうだから達成出来ず、Bランク止まりになる冒険者は増える一方だそうだ。
「そして、この帝剣武闘会で名前が売れればクエスト依頼が増え、ランクも上がると……最後の賭けのようにBランク冒険者はこぞって参加するそうです」
「なるほどな……考えように拠ってはこれは冒険者ギルドの救済措置とも言えるな」
「ですね。高ランク冒険者は多い方が良いですから」
ま、武闘会を勝ち抜いたからと言って実力が身に付くとは限らないけどな。如何にして相手の技や動きを盗めるか。それがBランク冒険者には必要なものだろう。
その点、僕は恵まれていたと思う。ベオウルフの眷属となり、特殊なスキルを身に着けた。冒険者人生の長いダニエラが傍に居てくれたのも大きいだろう。僕1人ではGランク……石のままだったはずだ。
ダニエラとベオウルフには感謝だな……ベオウルフの奴、今は何処に居るんだろう。
そんな思いを馳せている最中も戦いは広がる。総勢80人のバトルロイヤルだ。経験と実力が伴わないとは言われた彼等ではあるが、それなりの動きはしているようには見える。必死、というのもあるだろう。がむしゃらに勝利を目指す。今の彼等には勝ち抜くことしか頭にないだろう。
しかしそれでは視野狭窄になる。周りが見えていないと勝てる戦いも勝てなくなる。そこに気付けるかどうかだが……。
「おぉ……」
「アサギも見たか? あの槍使いの女」
「見た見た。中々やるな……」
1人の槍使いが器用に前後左右の敵選手を打ちのめしていく。突いた槍を戻しながら後ろの選手を攻撃し、剣を弾いた反動を殺さず、頭上で回転させて振り下ろす勢いに変える。見事な技だ。しっかり動きを《器用貧乏》でメモり、再生しながら見ていく。
防御に関しても見事だった。まず、柔軟な体が既に凄い。あんなに足を開いて地面に伏せるなんて……僕だったら悲鳴を上げてしまう。
相手の攻撃をしゃがんで避けながらも槍を振るう。打点が下がれば相手も避けにくい。足を取られて打ちのめされまた1人、敗退していく。
しかししゃがむだけではない。左右から来た攻撃は槍を地面に突き立てて上へと回避した。そこから自分を中心に円を描くように槍を振り、攻撃してきた2人が吹き飛ばされた。
そうしてバッタバッタと薙ぎ倒していく姿は圧巻の一言だ。カンフー映画を見てる気分だった。会場もどんどんヒートアップしていく。
槍を振るたびに選手がまた1人、また1人倒されていく。
「あの選手は発展途上ですね。頭打ちのBランク選手とは訳が違います」
「だな。あれはAに上がれる逸材だ」
レモンとダニエラの声に頷く。あの選手こそ、Aランクに相応しい人物と言える。自前の武器を握らせたらどんなに強くなるだろう……。
「しかし魔法は使わないようだな」
「槍1本で此処まで勝ち上がってきたんでしょうか……」
「かもしれないな。でないとあの槍の鋭さは説明出来ない」
見ていて気持ちの良い戦いだ。しかも槍術を勉強中の僕としてはとても勉強になる戦いだ。
だがそんな戦いにも終わりがある。剣を弾き、魔法を避けて舞台上を踊るように戦っていれば対戦相手は減っていく。ついに彼女の相手はあと1人となった。しかしこの帝剣武闘会、予選を勝ち抜けるのは2人だ。
つまり、舞台上に2人となった時点で試合終了となる。Cグループは槍使いの女と、生き残ったラッキーボーイの2人が本戦進出だ。
「あの男、もう負けそうな顔をしているな」
「ダニエラ先輩、あれが頭打ちですよ」
勝利に貪欲でなくては生きていけないのです。とレモンは言う。彼女の人生観だろうか。色々思う所はあるが、理解も出来る。それもまた生きていく上で大事なコツなのだろうと、僕は槍使いを見ながら思った。




