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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百三十五話 恋のライバル

 まぁ僕の名前がバレたら芋蔓式にダニエラの名前もバレるだろうと考えると別に良いやと思えた。それよりも2日連続で来てしっかり顔を覚えられた事の方が僕にとっては頭が痛い。焼肉屋に2日連続は嫌すぎるな……。


「どんどん食え、アサギ。私の奢りだ」

「ありがとよ……」


 パーティーとはいえ報酬等で得た金は分けてそれぞれが管理している。なのでダニエラの奢り? パーティー資金だろ? とはならない。頑張って稼いだお金は自分で持ちたいもんな。


 今夜も分厚い肉が多い。店員さんは昨日の一件でダニエラの好みを把握してしまったらしい。胃に来る光景だな……モツとかないのかな。


 店員さんはどんどん肉を運んでくる。ダニエラの食いっぷりを知っているからだ。僕は昨日同様に焼きに徹してダニエラのご機嫌取りに夢中になる。


「アサギ、それもう焼けてるんじゃないか」

「いやまだだ」

「お腹空いた……」

「一番旨い時に食うのが一番旨いんだ」


 焼きに徹してたら焼き奉行になっていた。しかしお陰様でダニエラには好評なようで、『明日もアサギの焼いた肉が食べたい』と言い出した時は自分の行いに少し後悔した。でもまぁ、ダニエラの笑顔が見られるなら構わないか……後で野菜を食べさせよう。


 結局僕も匂いに誘われて腹いっぱいに肉を食べ、大満足して店を出た。長居していたから流石に先程の群衆はすっかり消えていた。周囲もやはり静かで、でも祭特有の空気だけは残っている。


「帰るか……」

「だな」


 重い体を揺らしながら歩く。肉を食べた後の満腹感は嫌いじゃないな……何だろう、何故肉だけ違うのだろう。美味しかったという記憶は確かに残るが……楽しかったというのもあるな。やはり好きな相手と一緒に焼いて食べるから良いのかもしれない。焼いてたのは僕だけだけど。


 夜空は澄んでいて月と星がよく見える。今にも溢れて落ちてきそうな、そんな光景。隣には肉臭いダニエラ。僕も肉の匂いに包まれている。

 でもとても心が落ち着く。ダニエラと一緒で良かった。


 そんな思いと肉の匂いに包まれながら、僕達は手を繋ぎながら仲良く宿泊施設まで帰った。



  □   □   □   □



 翌日、肉臭い服を施設の洗濯担当の人に預けてから闘技場へと向かった。昨日より早く起きたが洗濯物のやり取りで時間を食ってしまった。急いで行かないと。


「ほらダニエラ、急いで」

「まだ眠いんだ……」

「それは僕も同じだ」


 昨日も遅くまで話してたから何だかんだで寝不足になってしまった。こうして体を動かせば目も覚めるかと思ったが……ふぁぁ、眠い。


 眠いが、行かないと。今日もレモンが席を確保してくれているはずだ。昨日はダニエラが見えにくいと溢してしまったので、今日は前の方だろう。あの勤勉な後輩の事だ。きっと前の席を確保しているに違いない。


「やっと着いたか……」

「あ、おはようございます。アサギ様、ダニエラ様」

「おはようございますー。今日もお願いします」

「はい、畏まりました」


 顔馴染みになった担当さんに挨拶してステカを渡す。もう顔パスだけど、ルールは守らないとね。


「おや、君は白エルフかい?」


 と、担当さんの手続きを待っていると後ろから声を掛けられた。いや、内容からして僕ではないけれど……しかし内容が内容だけに思わず振り返る。


「げ、アドラス」

「ん? どこかで会ったかな?」

「あ、いえ……」


 色白白金髪イケメンのアドラスだ。思わず声に出してしまった。


「誰だ?」

「アドラス=ブラシルフ。君と同じ白エルフだよ」

「そうか。行くぞアサギ。レモンが待ってる」

「あ、あぁ」


 驚きのスルー能力に思わず声が上ずってしまった。向こうが名乗ってるのに名乗らない程の塩対応。僕だったらちょっと涙が出るな……。


「待ちたまえ。この私が声を掛けているのに無視とは度し難いな」

「どの私だろうが私がお前の相手をする理由がない」

「同じ種族が出会ったのだ。運命というものだろう?」

「馬鹿は休み休み言え。寝言は寝て言え。無駄な時間を使わせるな」


 バチバチと火花が散る。……ような雰囲気だ。向こうの接し方もイカれてるとは思うが、ダニエラの対応も苛烈だ。何だろう、馬が合わないという言葉がしっくり来る。


「そこの君」


 アドラスが僕を見る。


「はい、なんでしょう?」

「その女を差し出せ。白エルフは同じ白エルフと共に歩むべきだ。君のような短命の種族と私達長命の種族では反りも合わないだろう。ほら、金貨をやろう。これで引き下がってくれ」


 あまりにも唐突で意味不明の言葉に一瞬頭の中が真っ白エルフになった。


 え? 金貨をあげるからどこか行け。ダニエラは私のものだ? そう言ったのか?


「おい色白イケメン……言っていいことと悪いことがあるって知ってるか……?」


 ボン、と沸いた怒りに声が震える。


「君こそ口を慎め。君の前に居るのは選ばれし種族、エルフだ」

「選ばれた種族? 確かにダニエラは素晴らしく綺麗で良い人だ。白エルフというのは素晴らしい種族だろうな……」

「そうだろう? ならば……」


 何を勘違いしたのかアドラスがダニエラに手を伸ばす。僕はその手首を握りつぶすつもりで掴んだ。


「だがお前はその見た目に反して中身はクソの掃き溜めだ。カス以下の以下だな!!」

「今すぐその手を離せ。さもないと……」

「さもないと何なんだ?」


 上から見下ろすアドラスの魔力が吹き出した。脅しのつもりだろうか。馬鹿野郎が、そんなものでダニエラを渡す程臆病じゃない。


「貴様、殺すぞ?」


 容易く吐かれた言葉に頭が沸騰しそうになった。この世界で一番軽々しく口にしてはいけない言葉だ。日本ならまだ売り言葉に買い言葉で出来もしない罵り合いになるが、此処では本当に命が消える。

 既にキレていたが、本当にブチギレそうになる。足元から冷気を帯びた魔力が溢れ出てしまう程に。


「殺してみろよ?」


 パキパキと地面が凍り始める。アドラスの魔力に遮られ、アドラス本人は凍らないが、凍結範囲はどんどん広がっていく。

 だが、誰かが僕の肩を叩いた。見ればそれはダニエラだった。頭に血が昇りすぎて気付かなかったが、ダニエラも相当キレていた。魔力の漏れが半端ない。


「そこまでだ。それ以上私のアサギを愚弄するのであれば容赦はしない」

「ふん……貴様がアサギか。新参の冒険者風情が私に楯突いたこと、簡単には許しはしない」

「許していらないね。二度と外を歩けない顔にしてやるから覚悟しろ」


 最後に渾身の力で握ってから手首を離してやる。チッ、折れてないか。無駄に頑丈な奴め……。


「ダニエラ。後で迎えに行く」

「来るなら遺書を書いてから来い」

「ふん、手厳しいな……ではお先に」


 と、アドラスは手続きも無しに会場の中へと入っていった。顔パスかよ……ルールは守れよ。


「……アサギ様はご存知ありませんか?」

「周りが彼奴をアドラスと呼んでいたことしか分かりませんね。何なんですか? 彼奴は」

「彼は前回、前々回の帝剣武闘会優勝者です」

「優勝者?」


 担当さんに振り返りながら首を傾げる。


「はい。『流転』のアドラス……水魔法のプロフェッショナルですね。彼も本戦出場選手ですよ」

「水ねぇ……」


 悔しいが水魔法は優秀だ。形無い物は何にでもなれる。使い道は無限大だ。攻撃にも防御にも使えるしな。僕よりも上なのは確実だろう。だが……


「水なら凍らせれば良いだけですよ」


 僕は足元の氷を踏み砕く。温度を奪う事に特化した氷属性の真価を見せてやろう。形があろうが無かろうが僕には関係ない話だ。


 必ず奴を跪かせて謝らせる。人の女に手を出そうとしたことを後悔させてやる。


「行くぞダニエラ。予選が始まっちまう」

「だな。さぁ、切り替えていくぞ」

「おう!」


 グッと握りこぶしを突き出される。それに僕の拳をゴツ、と合わせる。それだけで僕とダニエラの心は通う。僕達2人を裂こうなんて考えることそのものが間違いだと思わせてやる。


 よし、Cグループの予選を観戦しに行こう!

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