第二百三十四話 予選終わってお祭り騒ぎ
会場から出た僕達はお祭り騒ぎな帝都を歩く。香ばしい香りに包まれながら散策していると、飯以外の屋台を発見した。興味本位で覗いてみると、色んな人達が手に持った何かを投げていた。投げた先には的。なるほど、あれに当てれば良いのか。丸い的には点数が書き込まれていて、高得点を取れば景品が貰えるらしい。面白そうだ。
「ダニエラ、レモン、勝負しようぜ」
「ふふ、この私に挑んだ事、後悔するがいい」
「負けませんよー!」
ノリの良いエルフ2人が参戦してくれたので3人で屋台の主に声を掛ける。
「すみません、3人分ください」
「お、勝負かい? はい、この8本の串をあの的に向かって投げてくれ! 高得点なら景品も出るよ!」
「ふむふむ」
僕は受け取った串を8本ずつ、ダニエラとレモンに渡す。こんな串を投げてあの的に? 普通に考えたら難しいだろう。貰った串は鉄製のようだが……上手く刺さるにはコツが必要だろう。だが……
「こういうのは得意なんだ」
「アサギ、謀ったな?」
「はっはっは」
《器用貧乏》先生を使えばコツなんて一瞬で身につくのさ! 嗚呼、素晴らしきかな、ユニークスキル。
レモンは僕とダニエラのやり取りを見て首を傾げるが、よく分からなかったようで、切り替えてやる気に満ちた顔で的を睨むことにしたようだ。
「じゃあ一番点数が低い奴が、一番高い奴の言うことを一つ聞くってことで」
「え、それは」
「はい始めー」
レモンの抗議を無視して僕は脳内映像通りのモーション、力加減で鉄串を投げる。まっすぐに飛んだ串は的のど真ん中に突き刺さった。初っ端から刺さり、尚且つど真ん中ということで周りからどよめく。
「はっはっは」
「クソ……」
ダニエラが僕を睨む。が、視線を逸し、屋台の屋根付近を見てから串を投げた。驚く程まっすぐに飛んだ串を的に突き刺さる。
「え、マジで」
「ハッハッハ」
そんなスキルあったっけ、と考えた僕の肌を不意に風が撫でた。あ、此奴まさか……。
「ダニエラ、お前……」
「何だ? 普通に投げただけだが?」
ドヤ顔のダニエラだ。確定だな。風の精霊に頼ってやがる。クソ、狡いぞ!
ダニエラに抗議の視線を送っていると、スコン! と気持ちの良い音がして、見れば的のど真ん中に串が刺さっていた。思わずダニエラと顔を見合わせ、投げたであろう本人を見ると、こちらもまたドヤ顔で腕を組んでいた。
「ふふん、私、投擲スキル持ってるんですよ」
「「狡いぞ!!」」
そこからは泥沼だ。《器用貧乏》、《新緑の眼》、《投擲》のスキルをふんだんに使った本気の試合だった。どんどん串は的に刺さり、最終的には的が耐えきれず、3つともパカンと半分に割れて店主に泣かれて試合終了だ。申し訳なかったので景品は辞退して店を後にした。
「引き分けだな」
「的が割れなければ私が勝っていた」
「いえ、私も自信ありましたよ?」
先程の勝負に花咲かせながら僕達は帝都を歩く。どこもかしこも賑やかで、こういう雰囲気は久し振りだからとても楽しい。日本に居た時もお祭りはあったが、そういう時は大体シフトが組まれてたから酔っぱらいや、羽目をはずした若者相手の接客で良い思い出はあまりない。異世界に来て心から祭を楽しめるというのも皮肉なもんだな……。
□ □ □ □
それからも別の的当てや軽食を取ったりと祭を満喫していた。気付けば夕暮れで、もう夕食だなとダニエラが言ったが僕とレモンの腹は既にいっぱいだった。がっかりするダニエラを引っ張って南区の宿までレモンを送り、そこでまた明日会う約束をして別れた。
「じゃあまた明日な」
「はい! おやすみなさいですー!」
「おやすみ、レモン」
手を振るレモンにダニエラと2人で手を振り返し、僕達は帰路に着く。
「はぁ……」
「まだ落ち込んでるのか……もう、そんなに溜息ばっかり吐くなよ」
「そうは言ってもアサギ、食事をしないで床に就くなどありえないことだ……非常識だ……」
「あぁぁぁもぉぉぉ」
こうなったらダニエラは明日の朝まで同じことを繰り返す。僕が折れるしかないんだ……とは言え、お腹いっぱいだ。
「とりあえず店に行くぞ」
「アサギ大好き」
「……」
ギュッと腕を組んでくるがこんなもんまやかしだ。今のダニエラは胃袋で動いている。ご馳走してくれるなら誰でも良いのだ。
「さ、早く食堂に行こう。私は腹ペコだ」
「はいはい」
打って変わって僕を引っ張り始めたダニエラに引き摺られるように町を進む。何処もかしこも酒に酔い、正にお祭り騒ぎ。夜はこれからだと言わんばかりの大盛り上がりだ。
そんな盛り上がりを眺めながら引っ張られていると、大きな人集りが出来ていた。何かの催し物だろうか?
「だから、私はルール違反等していない!」
「確かにそうかもしれんがな、やり過ぎだと言ってるんだ!」
「ふん、多勢で囲って叩こうとした癖に何を言ってるのかしら」
「この……ッ!」
どうやら喧嘩らしいな。ルールとか多勢とか、何の喧嘩だろう?
「邪魔だな……鬱陶しい」
そう呟いたダニエラがまっすぐと進み始めた。
「ん? ダニエラ、避けないと」
「向こうに食堂があるんだ」
「いやいやいやいや」
ダニエラが人集りの向こうの食堂の看板だけを見て歩いている。うわ、『肉肉肉肉』だ。くそ、昨日も食ったじゃねぇか!
じゃなくて、わ、ちょ!
「な、なんだ!?」
「うわっ!」
「いてぇ!」
「すみませんすみませんっ」
問答無用で突っ切るダニエラが人を押し退けながら先へと進む。勿論、進路の人間は他の人にぶつかりながら道を開ける。ちょっとダニエラさんどうしちゃったの……。
「邪魔だ」
「あいてっ!」
最前列の人間を無理矢理退かせて道を作るダニエラ。ついに切り開かれて騒ぎの中心へと躍り出た。躍り出てしまった。
「何なの貴女……」
「何だお前?」
言い合いをしていたのは冒険者風の男と、おっと、Bグループの予選を勝ち抜いた貴族女だった。なるほど、さっきの言い合いは予選での事か。
「邪魔だ。どけ」
「はぁ? 何で私がどかないといけないの?」
「そこに食堂があるからだ」
「ふざけんな。他所を当たれ」
さっきまで言い合ってた男と女がダニエラの道を阻む。いや、今のダニエラの邪魔はしない方が……。
「私の邪魔をするな」
ジロリと2人を睨むダニエラから暴風が発生し、目の前の2人は勿論、周囲の人間も風に押し倒された。僕も一瞬浮く程度の強さの風だ。ダニエラに掴まれていなかったら転んでいたかもしれないな。
周囲から驚いた声や悲鳴が上がるも、ダニエラは睥睨してふん、と鼻を鳴らすだけだ。ダニエラのことだから怪我をさせるような風は飛ばしてないだろうけれど、空腹のダニエラ程恐ろしいものはないなと改めて思う僕であった。
「な、何、貴女……」
「何者なんだ……?」
一番身近でダニエラの風に煽られた2人は喧嘩も忘れて僕達を見上げていた。
「ただの冒険者だ」
それだけ言うと再び歩き出す。主人公ぽくて格好良いが、向かう先は焼肉屋だ。勿論、それに引き摺られて僕もついて行く。踏みそうになるのを注意しながらなのがみっともないと言うか、何と言うか。
「悪いな二人共。此奴お腹空いてるから」
「余計な事は言わんでいい、アサギ」
「うわっ」
グイ、と腕を引っ張られて隣に並ばされる。もっと優しくしてくれよな……。
まぁ、何はともあれ店に着いた。2日連続で肉という部分に思う所はあるが、此処で反対なぞしようものなら僕まで吹き飛ばされる羽目になる。それか、明日の朝までグチグチ言われるかだ。
「今、アサギって……」
「アサギ……ひょっとして、銀翆?」
そんな声が後ろから聞こえてくるが、一騒動あった所為で変に腹の減った僕は聞こえないふりをすることに決めた。ダニエラめ、ちゃっかり僕の名前だけバラしやがって……あぁ、もう。嫌な予感しかしないぜ……。




