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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百二十四話 帝都への帰還

 ウィンドドラゴンを討伐した僕達は睡眠時間を奪われて昼夜が逆転してしまったので、1日だけ休みを取ろうということになった。とは言え、散策するわけでも無く交代で眠るだけだ。山頂は風がキツいが魔物は居ない。ただ休むだけなら恵まれた環境だが、万が一ということもあり、見張り交代は実行した。ちなみにテントは跡形もなく消えていた……。


 翌日、下山する際に通り道である元盗賊拠点を見て行った。戦場となったそこはまだ血の後が残っていた。あれがウィンドドラゴンの血かブラッドエイプの血か盗賊の血かは分からない。何か生まれそうな雰囲気があるが……。

 もう一度彼等の墓に手を合わせてから、僕達は帝都へと足を向けた。



  □   □   □   □



 行きよりもゆっくりとした帰還の途中、僕達は東の山の調査に向かう軍とバッタリ出会った。彼等も無視出来ない噂の真偽を確認するとのことだったが、その真相は僕達の鞄の中に詰め込まれていた。


「……という訳です。噂は本当でした」

「そうですか……しかし貴方達だけで討伐したとは……」


 俄に信じられませんね。なんて言葉が続きそうな顔をしている彼ではあるが、なら見せてやろうじゃないかとウィンドドラゴンを取り出そうと鞄を降ろした所でダニエラが僕の肩を掴んだ。


「信じられないなら自分達の目で見てみると良い。戦場はあるし、盗賊を弔った墓もある。何よりこの鞄の中には首がある」


 ダニエラが掴んでいた鞄を持ち上げる。


「……分かりました。我々もこの目で見てきたいと思います。一応、此処まで来てしまった手前、じゃあ帰るかという訳にもいきませんので」


 信じていない訳ではないですよ、と苦笑交じりに言う彼に此方も少し苦い笑みを返した。


「討伐報奨等のやり取りはギルドでやってもらえればしっかりと換金してもらえますので、どうぞよろしくお願いします。ではこれで」


 ピッと敬礼をして、彼は止まっていた隊の中へと駆けていった。


 ゆっくりと動き出した軍隊が東の山へと向かう様子をボーッと見ていた。何だかんだで帝国で初めて見た軍の行進だ。統率の取れた動きは見ていて気持ちが良かった。あれならパレードとかもやりますと言われても納得出来る。


「……帰るか」

「そうだな」


 軍の後ろ姿を眺めているとダニエラがクイ、と僕の服を摘んだ。促され、僕は視線を帝都方面へと戻すと、ゆっくりと歩を進めた。



  □   □   □   □



 そうして帝都に戻ってきたのが1週間前だ。この1週間は珍しくダニエラとは別行動が多かった。この世界に来て久し振りの1人だ。けれどまぁ、特に何をすることもなくただブラブラと帝都を歩いていたり、時々立ち止まって街の様子を眺めたり、そんなことの繰り返しだった。とは言え、何もしなかった訳ではないけれど。


 帝都に帰ったら少し別行動がしたい。という事はダニエラに帰り道で伝えていた。ダニエラも察してくれたようで快く頷いてくれたのが凄く嬉しかった。嬉しかったので心が軽くなった僕は走りたくなったので、走った。ダニエラを抱えたまま走っていたらいつの間にか帝都に着いていた。行きは2日。帰りは1日だ。


 帝都に帰ってきた僕はその足でギルドへ向かい、調査報告をしてウィンドドラゴンの解体を頼んできた。

 そして解体は翌日には終わっていた。どうも竜種ということで解体員達が張り切ったらしいが、それは何処も一緒かと思うと頬が緩む。しかし張り切ってくれたお陰で服飾店への持ち込みが予定よりも早く出来たのは良かった。


 解体が完了したウィンドドラゴン素材を持って僕はギルドで聞いたオススメの服屋さんへ行き、今と同じような服を作ってもらえるようお願いした。最初は胡散臭そうに僕を見ていた店員さんだったが、素材を見た途端に目の色を変えてやる気を出してくれたので良かった。職人というのはやはり素材が命なんだろうな。

 しかしそのやる気を持ってしてもやはり服作りというのは時間の掛かる作業のようで、付与無しでも出来上がるのに1週間は掛かると言われた。帝都に戻ってきた翌日に持ち込んだので、服が出来上がるのは明日の予定だ。今からワクワクが止まらないが、邪魔する訳にはいかないので店には行けない。悶々とする……。




 悶々として仕方なかったので町に出てみた。ギルドに行って適当なクエストでもやってみようかなーとも思うが、ウィンドドラゴン装備は服屋さんに預けているので防御力が心許ない。何をしようかな……。


「あれ……此処どこだ?」


 なんてことを考えながら歩いていたら良く分からない場所に来てしまった。場所的には西区の何処かだとは思うが……。


 キョロキョロと辺りを見回すが目印のようなものはない。仕方ない……。


「よっ……と」


 《神狼の脚》で傍の建物の屋根の上まで飛ぶ。迷ったらこれに限るぜ。


「ふんふん……あー、貴族街の傍か」


 見れば東の方に貴族街の壁が見える。僕が居た場所からは建物の陰になって見えなかったようだ。


「此処からだと帝城がよく見えるなー……」


 黒金の城『レヴァンス・レーヴ帝城』。その名の通り、メインの黒に差し色として金色のラインが尖塔の先等に塗られている。厳つく、雄々しい城。そんなイメージが僕の頭の中に浮かぶ。そんな帝城を屋根の端に腰掛けてボケーッと眺めていると視界の端に動くものを捉えた。


「……子供?」


 幼女だ。ふわふわの服を着た幼女が1人で歩いている。お召し物から貴族臭がぷんぷんするぜ……。

 上から観察していると、どうも迷ったような雰囲気が伝わってくる。頻りに辺りを見回したり、心細いのか、時折ギュッと両手を握っていた。


「あんな姿を見て無視は出来ないよな……」


 僕だって鬼じゃないんだ。まさか幼女を助けただけでとんでもないことに巻き込まれるなんてことも無いだろうし……ちょっと貴族街の入り口まで連れて行ってあげるだけ。それだけだ。


 僕は屋根から降りて建物の陰に隠れる。此処から何でもない風に歩いていって幼女を見つける作戦だ。

 ポケットに手を突っ込んで散歩スタイルで幼女の元へ歩いて行く。視界にはもう幼女の姿は映っている。


 その幼女を挟んだ向こう側からこっちに向かって歩いてくる2人の男の姿も。


「……」


 僕もこの世界の住人になってそれなりの時間を過ごしてきた。そんな僕の勘というものが警鐘を鳴らしている。あれはお付きの者ではないし、かと言って堅気の人間でもない。


 でも僕はさり気なく路地へと曲がり、一瞬だけ姿を隠して《気配遮断》を発動させる。そして陰からそっと顔を出した。

 もしかしたら厳つい顔の護衛かもしれないしね。勘を頼りにできるほど経験積んでないしね。


「さて……」


 本当にあれが悪い人間か、良い人間か。僕の勘の答え合わせといこう。


「うーん……どっちかなぁ……」

「お嬢ちゃん、迷子かい?」

「えっ?」


 接触した。やはり迷子だった幼女が、声を掛けられ男を見上げた。


「えっと、はい。通りへ向かいたいのですが道に迷ってしまって」

「此処は入り組んでるからな。どれ、俺達が案内してやるよ」

「まぁ、それはご丁寧に……どうもありがとうございます」

「良いってことよ……」


 厳つくない方の顔の男がニヤリと笑う。うーん、人相で決めつけるのも悪いが……。

 と、様子を伺っていると幼女の手を掴んだ厳つい方の男が歩き出した。通りとは逆の方向に。


「近道かもしれないしな……」


 頭ごなしに『この人攫い!』と怒鳴るのも褒められたもんじゃないしね。だからこうしてコッソリと後をつけるのも仕方ないことだね。


 僕は《気配遮断》を過信し過ぎないように注意して距離を空けながら男達と幼女の後をついていくことにした。

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