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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百二十二話 ウィンドドラゴン討伐戦

 僕の考えた作戦は人道的なーとか、倫理的なーとかを差し引いた作戦だ。


 ブラッドエイプを盗賊団にぶつけて騒ぎを起こさせ、ウィンドドラゴンの餌として提供し、引き摺り下ろす。


 我ながら頭おかしいと思う。だけど、これしか無いだろうとも思う。《神狼の眼》で確認したところ、数は十分だったし。


 大量の『餌』に気付いたウィンドドラゴンは僕達の事なんて忘れてやってくるだろう。そこで両翼を削ぐ。手足を落とし、首を刎ねる。それで終わりだ。あとは襲ってくるブラッドエイプや盗賊の対処をしつつ、帝都まで逃げる。スマートな作戦と言わざるを得ないな。


 ブラッドエイプでも盗賊でも餌となりえるのだから素晴らしい。


 さて、そんな盗賊諸君は僕のお願いとは裏腹に一目散に逃げ出してしまった。これでは駄目だ。散り散りになってしまってはブラッドエイプがやってくる前に誰も居なくなってしまう。


「『氷縛り(フロストヘイム)』」


 アイスドラゴンの氷魔法威力増加の使い勝手は素晴らしい。威力が上がるということは魔力が上がるということだ。つまり、体内で魔力を練り上げる速度・量が増える。こうした作用で全体的に威力が上がることに繋がる。

 ということはこうして瞬時に体内で練り上げた氷属性の魔力を地面に流して瞬時に魔法を発動。凍結させることが出来るのも造作もない。まぁ、魔法を発動させる前にアイスドラゴンの鎧に魔力を与えて付与を励起させる必要があるが。


「大人しくしてろって」

「くそ……あぁぁ……」

「動けねぇ……!」

「てめぇ、ぶっ殺してやるァ!!」


 氷縛り(フロストヘイム)は床に流した氷属性の魔力を媒介に発動する魔法で、地面に触れている場所から氷漬けにする。今回は慌てて逃げた所為か、不格好な状態で固まった連中が大半だ。見てると現代アート的なものを感じる。奥が深いのか、浅いのか。


 気配感知では此方に向かってくる大群とデカい反応がはっきりと分かる。団体様は言わずもがな、ブラッドエイプ。でかいお一人様はウィンドドラゴンだ。

 ウィンドドラゴンは山頂から逃げた僕達を追って南東の森周辺を捜索していた。しかし、僕が広範囲に魔力を流した事でこれを感知。此方に向かってくる。速度的にはどうだろう……殆ど同着だろうか。


 しかし奴が森を捜索している事で《気配遮断》の効果がはっきりと把握出来た。このスキルはやはり僕周辺の気配を消すスキルだ。僕だけを消すのであれば、ダニエラは感知されるはずだ。今も、魔力を目標に目指しているのでダニエラがバレた訳ではないことがはっきりと分かる。


「使い勝手の良いスキルだな……」


 剣で肩当てをカンカンと叩きながらポツリと呟く。これは町中でも常時発動させてレベルを上げたいスキルだ。


 スキルレベルを上げたいと言えば、場面的に仕方のない事なのだが、槍術スキルを上げられないのが悩みだ。どうしても未熟故、大事な場面では片手剣に頼ってしまうところがある。そういう場面でこそレベルを上げるべきだとは思うが……どうも相手が悪い。こればかりは運が悪いとしか言いようがないな。ま、明日から本気出すさ。


「……と、来たな」


 風魔法『風速移動(ブラストボード)』(と名付けてあげた。ダニエラは喜んでたよ?)で大群の先頭を突っ走るダニエラが見えた。そしてそれとは別の方向。東の上空からはウィンドドラゴンが降りてくる。南東の森から僕の魔力を見つけて空を飛んできたようだ。ダニエラが率いるブラッドエイプ集団に釣られなくて良かった。


 僕は改めて周囲を眺める。悪事を働く盗賊団は地面に縫い付けられている。彼等は遠くない未来、軍によって討伐されるだろう。今、此処で僕が私利私欲の為に殺すのは間違っていると理解出来ているし、どうせ殺されるなら有効活用するのも手だとも考えている。最近、この異世界が日常となってきて自分でも毒されてきたなぁと思うが、こうでもしないと生きていけない世の中だというのも理解している。


 いつも僕は頭で考えてばかりだ。そして答えの出ないまま、しかし幾つも答えを出しながら前へ進んでいる。どれが本当か分からない。が、どれも本当だ。


「考え続けるというのは難しいな」


 僕は僕の為に消えていく命に心の中で手を合わせながら非人道的作戦を開始した。



  □   □   □   □



 ダニエラの到着と共に《気配遮断》を発動させる。僕と密接したダニエラの気配が消えた事でウィンドドラゴンとブラッドエイプは標的を失う。


 しかし、それよりも多い気配を見つける。何故か地面に寝そべる盗賊達だ。


 ブラッドエイプは真っ先に目の前のご馳走に飛びつく。


 しかしウィンドドラゴンは消えた僕を探す。だが、すぐには見つからない。探そうにも此処には気配というものが多過ぎるから。

 やがて、見失ったウィンドドラゴンも目先のご馳走に目標をシフトする。盗賊とブラッドエイプだ。魔力は乏しいがその分、量はある。


 こうして全ては僕の作戦通りに進む。


「い、痛い! 食べないでぇぇ!!」

「ギュギィ!」

「誰か助け……うぼぉぉふ……!」

「ぐ、げ……がはっ……」

「ギキィィ!!」

「あぁぁっぁあぁぁぁぁああぁぁっぁぁぁ……」


 僕が望んだ光景はまさに地獄だ。こうなるとは思わなかった……なんてことは言わない。望んで得た結果だ。だがあまりにも酷い光景だと、僕の中の僕が歪めた口から漏らした。


「アサギ」

「あぁ……」


 ダニエラの声に僕は空を見上げる。大きく翼を広げたウィンドドラゴンが降りてきた。もう、僕の魔法射程距離だが、まだ手は出さない。確実に着地してから、まずは片方、翼を切り落とす。大きすぎて片手剣じゃ2つ同時は無理だ。藍色の大剣(シュヴァルツ・テンペスト)を使えば可能だが、魔力を感知されては奇襲が成り立たない。この距離なら僅かな魔力でも反応するだろう。


「嘘だろぉぉぉ!!! ドラゴンだーーー!!」

「ギィ! ギィィ!」


 空から吹き付ける風圧に気付いた盗賊の1人がウィンドドラゴンを見つけて叫ぶ。叫びを聞いて見上げた盗賊達は諦めて抵抗しなくなった。そんな盗賊の頭にブラッドエイプが齧り付く。彼等の低い知能は目先のご馳走しか興味がないようだ。


 そんな酒池肉林についにウィンドドラゴンが降り立った。


 周囲を睥睨した翡翠のドラゴン。こうして間近で見ると、僕がニコラで戦ったドラゴンよりも大きい。イヴでは小さなドラゴンしか手懐けることが出来なかったのだろう。それでもワイバーンよりも大きかったが。


「グルァァアアアアアア!!!」


 それはまるで『俺の餌に触るな』と言わんばかりの咆哮。奇襲し易い位置に移動していた僕も思わず耳を塞ぎそうになるほどの大音量だ。

 その大音量にブラッドエイプ達は一瞬、動きを止めた。固まったようにウィンドドラゴンを見上げる。


 僕はその光景から『拙い』と思った。


 あの咆哮に散り散りになって逃げてしまうのではないかと。餌として用意したのに無くなってしまうのではないかと。


 僕が体内で魔力を練ろうと身構えたその時。僕の考えとはまるで逆方向に事が進んだ。


「ギキャアア!!」

「ギィギィィィ!!」

「キキャァァァ!!」


 まさかの展開。ブラッドエイプ達が吠え返して、更にウィンドドラゴンに向かって爪と牙を突き立てた。


 ありえないだろう。猿と龍だぞ?


「此奴等って馬鹿野郎なのか?」

「頭に血が昇ってるんだろうな。自分たちの餌を奪う奴が現れたからキレてるんだ」

「それにしてもだろう……相手は竜種だぞ?」

「所詮魔物ということだ」


 その程度の知能しかないということか。いや、これはこれで面倒臭いが好機とも言える。


「作戦通り行くぞ」

「了解」


 僕は魔力を使わないスキル《神狼の脚》で空へと上る。剣を抜き、構えて準備をする。そこでダニエラが僕から離れて落ちていく。僕から離れた場所で風速移動(ブラストボード)を発動させる為だ。その発動までに僕は《神狼の脚》で距離を詰める。一気に、目にも止まらない速さで。


 僕の気配感知がダニエラの魔法の発動を捉えた。それと同時に長い首でブラッドエイプを捕まえて咀嚼していたウィンドドラゴンが振り返った。ダニエラの魔法に気付き、標的にする為に飛び立とうと翼を広げる。が、もう僕は剣を振り下ろしていた。

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