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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百十六話 急展開の帝都ぶらり旅

「ご馳走様でした」

「旨かった」

「はい、ありがとうございました」


 お代の銀貨60枚を支払って店を出た僕達。意外とすんなり手続きが済んでいき、今日の用事は全て終わってしまった。この持て余した午後をどう過ごすか……。まぁ一先ず腹ごなしに散歩でもいかがですか?


「そうだな。意外と量があった」


 ぽんぽんとお腹を撫で叩くダニエラの同意の元、ぶらぶらとその辺を歩くことにした。




 西区北西方面の半分は闘技場関連の施設だ。治療院があったり、武具防具を軽く整備できる小さな鍛冶屋が点々とあったりする。ふむ……治療院と言えば僕はスピリスでレックス達が仕留め損ねたワイバーンを狩った後に運び込まれたっけ。そこで僕は初めて医療魔法という物を目にした。あれは属性で言えば何属性なのだろう?


「なぁダニエラ」

「なんだアサギ」

「医療魔法ってあるだろ。あれって何属性?」

「医療魔法は無属性だ。生活魔法とか医療魔法は大体無属性。だから扱える人間が少ない」

「あーなるほど。だからポーションが大量に生産されてるのか」

「そういうことだな。ちなみに医療魔法を使ったポーション生成という魔法がある。医療ポーションの力は絶大だ。私の千切れかけた腕もくっつくくらいにな」

「それって……」


 あのウィンドドラゴンの時に使ったポーションか。


「あの時は本当に危なかった。ポーションが無かったらと思うとゾッとするよ」

「そうだな……でも医療ポーションとなると色も鮮やかになっていくのか?」

「あぁ。聞いた話に拠ると不純物が少ない程、色が澄んで鮮やかになるらしい」

「ほー……つまり、回復効果のある草から作ったら繊維とか不純物が多くて、魔法一本で作ったらそういうのが無いわけか」

「そうらしいな」


 なるほどね……草から作ってるから苦いっていうのもあるかもね。勉強になった。


「無属性か……使えたら何でも出来るな」

「無とは限りがない。魔法という万能に近い力を最大限に使える属性かもな」


 無属性チートは今後、転生してくる主人公属性キャラに譲るとして、僕は氷属性と水属性を極めることにしよう。いいじゃないか、氷属性。氷点下にまで気温を下げ、相手の動きを鈍くした空間でAGI無双……良いかもしれない。まだまだ魔力は少ないけれど、いつか再現出来るようになりたいな。


 んー……水属性ならどうだろう。水……水分はどこまでも細かく出来る。藍色の大剣(シュヴァルツ・テンペスト)のようなウォーターカッターも良いが……そうだな。攻撃では無く補助に特化した魔法というのも面白いかもしれない。思えば攻撃魔法ばかり考えていたしな。

 水分といえば朝霧の名にある霧だ。霧を展開して敵を惑わすというのはどうだろう。そこに《気配遮断》のスキルを加えれば効果は爆発的に増大するだろうな。ついでに氷魔法で氷像なんかを使って囮にも……あっ、これ結構良いかもしれないぞ?


「『霧幻霧像(ミスティックミスト)』……良いかもしれない」

「また恥ずかしい名前を思いついたのか?」

「恥ずかしくないもん!」


 ちょっと本気で考えてみることにしよう。上手く行けば帝剣武闘会で使えるレベルにまで仕上げられるかもしれないしな。



  □   □   □   □



 西区をフラフラと歩いているといつの間にか貴族街の近くにまで来ていた。大きな壁が聳え立っている。あれを越えたら捕まってしまうんだろうな……。


「ん?」

「どした?」

「壁の向こうに気配が……」

「ん……あ、本当だ」


 僕も段々と気配感知を使いこなしてきたので、上方向へも使えるようになった。スキルレベルが上がったのもでかいな。

 そんな僕の感知は壁の向こう。斜め上に小さな気配があることを示している。見たことないけど壁の向こうはギリギリまで建物が生えてるのかな。


「あっ」

「ほう……」


 僕達が見ている前で壁がパコッと開いた。あんなギミックがあるのか。でもこの壁、石だと思うんだが……なんて考えていたら壁の中からスルスルとロープが伸びてきた。近くには誰も居ない。誰かを導き入れる為のロープではないだろう。ということは……


「拙いぞダニエラ。すぐに此処を離れよう」

「何故だ?」

「面倒事の匂いがする!」


 絶対彼処から誰か降りてくるに違いない。貴族街の中からだ。身分の高い馬鹿が出て来るに違いない。ならば関わり合うのは絶対に避けたい。

 ロープが地面に到達する前に僕はダニエラの手を引っ張ってその場から逃げ出した。絶対に関わるもんか!




 大通りに出てきたところでダニエラの手を離した。ついでに呼吸を整えてからそっと振り向く。……うん、付いて来てもいないし見つかってもいないようだ。危なかったぜ……。


「あれはきっと貴族が出て来て僕達に『自分を楽しませろ』とか言うパターンだぜ」

「確かにそれは面倒だな……」

「だろう? 君子危うきに近寄らずって言葉があるんだ。自分から首を突っ込むのは馬鹿のやることなんだぜ」

「聞いたことがあるな。古い勇者語だ」


 さ、面倒事は何処かの誰かに任せて僕達は散歩を続けよう。それにしても散歩というにはそれなりに歩いたな。そろそろ何か目的地が欲しい所だ。


「それならアサギの防具を見つけに行こう」

「あっ、そう言えばそうだ。忘れてたわ」


 良い機会だ。20日の猶予があるとは言え、以前と同じ竜種装備を加工するとなったら時間は掛かるかもしれない。でもまぁ、白百合服飾店の服職人、トゥリアは1週間で作ってくれたし大丈夫か。


「私の服に素材を全部使ってしまったのは悪手だったな」

「いや、まさか僕も自分の力で服がボロボロになるとは思ってなかったし」

「アスクで売りさばいた素材が此処まで流れていてくれたら買えるんだがな」

「自分で売った素材を買うのは情けないよなぁ」

「仕方ないさ。都合良くウィンドドラゴンが出て来るはずがない」


 そんなご都合主義は漫画の中だけだ。こうして町を歩いている最中に『ウィンドドラゴンが出たぞー!』なんて聞こえてきたらこの世界はおしまいだ。町中にドラゴンが出るかよ。


「おい聞いたか? 東の山のドラゴンの噂」

「あぁ、そういえば最近よく耳にするな……なんでも、南の大陸から渡ってきたドラゴンが住み着いてるとか……」

「そうそう。でもドラゴンの種類は聞いてないんだよな……」

「俺はウィンドドラゴンって聞いたが……」

「マジかよ……ウィンドドラゴンはきついぞ……」


 そんな会話が聞こえてくるはずがないが、まさかと思って声を頼りに辺りを見回すと近くのテラス席で軽食を食べている帝国市民がそんな会話をしていた。


「でも珍しいよな。ドラゴンがこっちまで来るなんて」

「ドラゴンといえばニコラでも被害があったそうだ」

「近いな……鎮圧出来たのか?」

「誰かが討伐したらしいぜ……ドラゴンが出た日にバッサリやったらしい」

「うわぁ……どっちがバケモンか分かんねーな……」


 悪かったな、バケモンで。いやいやそんなことはどうでもいい。何なんだ? ドラゴン?


「ま、帝国軍なら何とかしてくれるだろうさ」

「まだ噂程度の話だろう? 軍が動くのか?」

「まだ分からんが、動けばドラゴンはおしまいだろうな」

「それもそうか……おっと、もうこんな時間か。そろそろ行こうぜ」

「ん、ちょっと待て。もうすぐ食い終わる……」


 市民の会話を聞いた僕とダニエラはお互いに顔を見合わせる。信じられないが、火のない所に煙は立たない。その真偽を確かめる為にも、軍より早く動く必要がありそうだ。

 僕達は急いで装備を整える為に宿泊施設へと戻った。大慌てで着替えて、少しの間留守にする旨をハイペリカムさんに伝えてギルドへ走った。クエスト板を隈なく探し、『東の山の調査』のクエストを見つけた。それを受注して、その後は商業街で合宿準備だ。まずはテントをということで二手に別れて探すことにした。金に糸目をつけている場合ではないので、効率優先で良いテントを探す。僕は予てより欲しかったワンポール式のテントを見つけたので即金で購入した。ダニエラはドーム型の広く使える物を見つけてきた。これは状況によって使い分けることが出来る。

 あとは、屋台街やテイクアウト出来る店で片っ端から購入して門が閉まる直前に帝都を抜けた。


「善は急げとは言うが、これは流石に急ぎすぎだな……」

「備えあれば憂いなしという勇者語が身に染みるな……」


 息を整え、僕達は東の山を目指す。居ると良いな、ウィンドドラゴン。まったく、ご都合主義は最高だぜ!

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