第二百十四話 続・忙しい日
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盗人冒険者がドナドナされていくのを尻目に僕達は何事もなかったかのように『質問・その他』のカウンターの列に並ぶ。一連の騒動を見ていた冒険者達はその後も僕達をチラチラと見ていたが、一々気にしていられないので何処吹く風と無視を決め込んだ。スリに気付かなかったのが恥ずかしかったのもあるけどね!
「はい次の方」
「すみません、ランクアップしたいんですが」
「それでしたらあちらの『各種手続き』カウンターにどうぞ。はい次の方」
一蹴されてしまった。今の僕は頬に傷を持つ強面なのに……。渋々列から外れてギルド員さんに教えてもらったカウンターを探す。すると一番端に『各種手続き』と書かれた看板を見つけた。中央詰所と一緒だ。分かりやすい……けど今までの冒険者ギルドには無かったカウンターなので気付かなかった。今までなら、頼めば気軽にしてくれたが、こう大規模なギルドになると区分けしていかないと忙殺されてしまうんだろうな……なんて勝手に納得して並び直した。
「ようあんちゃん、見てたぜー。油断大敵ってやつだな」
と、今まで誰も絡んでこなかったところを勇敢なおじさんが絡んできた。ヘラヘラ笑いやがって。ぷんぷん。
「別に油断してた訳じゃないです。どんなもんか確認してたんです」
「ははは、まぁそういうことにしておいてやるよ!」
む、上から目線……身長的にも上から目線だ。
「俺はサルガス。あんちゃんはあのアサギだろ?」
「どのアサギか分かりませんが、アサギですよ」
「んで、こっちの嬢ちゃんがダニエラだな」
「そうだ」
あーあーもうヤだねー。自己紹介する前から身バレとか終わってるね。僕の平穏な人生はもう帰ってこないんだ。ボルドーマジ許さねぇ。
「新進気鋭の二つ名コンビ、『白銀の風』に出会えるとは運が良いぜ」
「其奴は良かったですね。ほら前詰めて」
「あんだよ、悪かったって。そう怒んなって」
前が捌けて開いた空間を押して詰めさせる。
「んでよ、出るのか? 武闘会」
「出ますよ。その為に大急ぎで来たんですから」
「そうか。予選とかあるから急いだ方が良いぜ」
「そんなのあるんですか?」
詳しくサルガスに聞くと、どうやら人数によって分けられたグループの中で戦って勝ち抜き戦をやるらしい。バトルロワイヤルだな。
「まぁアサギのあんちゃん達なら問題無さそうだけどな」
「油断はしませんよ」
「そうだな。さっきみたいなことになるからな」
「ダニエラ……」
もう許してください。
□ □ □ □
「次の方」
「お、俺だな。じゃあまたな。俺は武闘会は観戦組だから、頑張ってくれよな」
「はい。色々ありがとうございました」
「世話になった」
何だかんだで色々教えてもらったので感謝の意を示す。手を振りながらカウンターへ行き、遅いと怒られる姿は何だか情けなかったが。でもまぁ、感謝感謝だ。
「そういえばほら、推薦状貰っただろ? あれって何の推薦だったんだ?」
「とても強いから予選の必要はない、とかかもな」
キラリカから貰った推薦状は封がしてあったので読めなかったのだ。《神狼の眼》を使っても、見えないようになっている場所は見えない。スカートの中は覗けても、ズボンの中は覗けないのだ。入口があれば何処だって見通せるのだ。夢だった女湯覗きも夢じゃない。
まぁ、ダニエラに出会う前なら僕もそんな阿呆なことに使ってたかもしれないな。
「ところでアサギ」
「なんだダニエラ」
「先程、盗人冒険者の背後が見えていたような事を言っていたが……あれがそうか?」
「あぁ、僕のもう一つのスキル《神狼の眼》だ」
世界を旅し、世界を見通した神狼の眼は千里を見通す。
「なるほど、それでお前の目の色が変わってたんだな」
「え、色変わるの?」
「あぁ。綺麗な銀色になっていた」
そんな変化があったのか。自分じゃ自分の目は見えないから全然気付かなかった。あれ、じゃあ《夜目》も変わるのかな。
「ダニエラ」
「ん? うわ、目が黄色いぞ」
「これ、《夜目》スキル」
「夜しか使わないから知らなかったな」
「これぞ『魔眼《ナイトメア・シーカー》』!!」
「格好悪いからやめておけ」
「……」
憧れだった魔眼もダニエラの一言に一蹴される。《神狼の眼》なら『魔眼《ディスタンス・サイト》』だ。
「次の方」
おっと呼ばれた。心の病を霧散させて距離を詰める。サルガスはいつの間にか居なくなっていた。
「ランクアップをお願いします。僕と此奴の」
「畏まりました。ステータスカードを」
「はい」
鞄から出していた僕とダニエラのステータスカードをカウンターの上に置く。ダニエラもランクアップが必要らしい。何だかんだで僕達、そういう手続きやってなかったしな。お互いにその辺は無頓着だった。
「アサギ様がAランク。ダニエラ様がAランクですね」
「お、並んだな」
「やっと追いついたか」
結構1人で経験値稼いでるところあったしな……でも漸くか……感慨深いものがあるな。
「では処理がありますので、あちらの待合室でお待ち下さい」
「待合室か……分かりました」
忘れもしない。あの喫煙所のような閉鎖空間。暇を持て余した僕のくだらない遊びの所為でちょっとした騒ぎになったんだっけ。今回は自重する。
ギルド員さんにステカを渡して僕達は待合室で重苦しい空気の中、暫く待つことになった。待合室というのは、何処の町でも一緒なんだなと改めて思った。息苦しい。
「此方がランクアップ処理が終了したステータスカードです。Aランクおめでとうございます」
「ありがとうございました」
「ありがとう」
受け取ったステカをダニエラに渡して列から外れた。いやぁ、これで漸く僕もダニエラと同じランクか……さっきも思ったけど、やっぱり嬉しい。
「今日はお祝いだな」
「全部済んだら飯食いに行こうぜ」
「あぁ」
「何にする?」
上機嫌の僕は満面の笑顔でダニエラの答えを待つ。ダニエラは神妙な顔で一言呟いた。
「……肉だな」
「……」
□ □ □ □
ギルドを後にした僕達は手持ちの案内図を頼りに北西へと歩く。角を曲がり、道を進む程、冒険者の数が増えてくる。もうすぐだ。この角を曲がれば……。
「おー、デカい」
「圧巻だな」
目的地の帝都闘技場。正式名称『ラディリア・シュヴェイン闘技場』は円形の巨大施設だ。コロッセオに近いが、此方の見た目は無骨だ。剣と盾が彫り込まれた壁。筋肉ムキムキマッチョマンが天井を支える柱。いやぁ、暑苦しい。
闘技場から視線をずらすと、平屋程の大きさの建物が傍にあり、冒険者達や軍人が出入りしていた。彼処がエントリー会場だろう。ダニエラと一緒に其処へ向かうことにする。歩きながら鞄から推薦状を取り出すのを忘れない僕。油断もしないぜ。
入口で屯する暑苦しいおっさんと露出の激しいお姉さんという対極を抜けて中へ入ると中もまた暑い。人が多すぎるんだよ……。
中は幾つかの長テーブルが用意されていて、皆、テーブルの上で何かを書いている。書けない奴は代筆してもらっているしあれがエントリー用紙であることは間違いないな。
僕とダニエラも籠の中にあった紙を取る。長テーブルの上に転がっているペンを取り、必要事項を埋めていく。履歴書みたいだな、これ。
ダニエラと僕は書き終わったそれを手に辺りを見回す。書いたは良いが、何処に出せばいいのやら……。
「アサギ」
「ん?」
肩を叩いたダニエラが奥を指差す。其処には扉があり、紙を持った男が出て行く後ろ姿があった。見ているとどんどん其処から人間が吐き出されていく。
「彼処から出たところに何かあるに違いない」
「何かも何も提出場所だろ」
きっと其処で審査とかがあるに違いないね。僕とダニエラもゆっくりと書いている人の邪魔にならないように気を付けながらその扉へ向かった。




