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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百二話 さようならユッカ

 ユッカのギルドマスター、キラリカに呼び出しを食らった朝から少し時間は流れる。


 実は今、僕とダニエラは帝都へ向かう商隊の護衛クエスト中だ。ダニエラのクエストやれ指令を受けて調べていたら、ちょうど旅立つ日に出立する小規模な商隊の護衛クエストがあったのだ。スムーズに宿を出られるし、幌馬車2台の護衛とかいうチョロいクエストで金も貰える。これは渡りに船だということで少し使いすぎた端材の調達と、ダニエラが食い散らかした屋台飯の補充をして旅立つことになった。


 キラリカには帝剣武闘会に参加する旨を伝えて推薦状を書いてもらった。ダニエラの熱いプッシュによる参加だ。


「出たい。きっと面白いぞ」


 そう言いながらずーっと僕に甘えてくるのだ。これを無碍にする勇気は僕になかった。断ったらどんな地獄を見ることになるか、想像するだけでも恐ろしい。


 全ての準備を終えた僕達は世話になった衛兵隊のラミーさん、サラギさん、カナツキさんと、ギルド員さんのナナヤさん。それと冒険者、三叉槍のアエネウス。槍を売ってくれたシキとお弟子さんに別れの挨拶をしてきた。

 アエネウスに帝都に行くことを伝えると、僕も武闘会に出たいとか言っていたので、もしかしたらまた会えるかも? なんて思った。


 余談だが、初めてこの町のギルドに来た時に絡んできた冒険者が居たことを覚えてるだろうか。僕とダニエラに絡んできたのでボコボコにしてやった奴等だ。彼奴等、僕がキラリカに呼び出されたのを見ていたようで、ついでに推薦状を書いて貰った時に仲良くしているのを見て敵わないと思ったらしく、謝ってきた。まぁ僕も鬼ではないので? 快く許してやったさ。


「次ふざけたこと言ったら全裸でギルドの入口に逆さ吊りにしてやるから覚えとけよ」

「そしてその粗末な物の余った皮をナイフで少しずつ切り刻んでやるから覚えておけ」


 ちょっとしたお約束を交わして仲直りだ。




 そうした短い時間の中で僕はハーフパンツとなってしまったウィンドドラゴン製のズボンの代わりを探して右往左往していた。


 ユッカ名物でもある不思議屋根店舗の中でもズボンの形をした屋根のお店を中心に回ってみたが、結局お眼鏡に叶うズボンは見つからなかった。

 文字通り鑑定眼鏡を掛けて探し回ったのだが、まぁ、駄目だ。せめてAGI上昇の付与があればと思ったがそれすら無い。適当なズボンを持ってレイチェルの元へ行って『付与してくれよ』とは

言えない。ぶっ殺される。

 松本君のスタンピード効果も此処、帝国にまでは影響がないらしく、竜種装備すら見当たらなかった。手持ちのウィンドドラゴン素材はダニエラの服に使ってしまったし……はぁぁ、って感じだ。


 結局僕はちょっと良い素材程度のズボンを履いてクエストへと望んだのだった。



  □   □   □   □



 ユッカ東門を出て2日間は、ちょくちょく魔物やら盗賊やらの襲撃を受けながらも、予定が狂うこと無く進んでいた。まぁそれも僕とダニエラのお陰である。ちょっとズボンがショボいからってその辺の奴等に負ける僕ではない。


 そして3日目の昼の休憩をしてから進んでいたら、ちょっとした魔物の大群に遭遇した。森の方から現れて僕達に遭遇した魔物は、ちょっと迷う素振りを見せながらもなりふり構わずといった様で襲ってきた。商隊はワーワー言いながら幌馬車の中に隠れるが、僕とダニエラは首を傾げながら、向かってくるゴブリンやフォレストウルフ、どこから湧いてきたのかコボルトなんかを処分していく。


 結局半分程始末したところで魔物達は通れないことを悟って出てきた反対側の森の中へと逃げていった。


「意味わからんのだが」

「……あまりいい予感はしないな」


 こういう時はより強い魔物が湧いているとか、そんなことがよくある。と、ダニエラ先生が教えてくれてなるほど、と手を打った。


「……えっ、じゃあ此処に居るのは拙くない?」

「拙い、な」


 ジッとダニエラが魔物達が現れた森の方角を睨む。僕も気配感知を広げようとしたところで幌馬車から商隊のボス、ミスターが顔を覗かせた。彼はミスター古美術店のオーナーなので敬意を払ってミスターと呼んでいる。多分、僕の世界との意味合いは違うと思う。此方ではただの呼び捨てだ。


「……えっと、アサギさん、ダニエラさん。終わったんですかね……?」

「いや、まだ隠れていた方が良いかもしれません、ミスター」

「場合によっては先に走ってもらうぞ」


 僕とダニエラの雰囲気が違うことを察したのか、真剣な顔で頷くミスター。いつでも走れる準備だけしておいてくれと伝えてから僕は気配感知を広げる。最近、スキルレベルが上がったのか範囲の広がりを感じる。多分、ダニエラのちょっと手前くらいまでは広がってるんじゃないかと思う。


「……分かるか?」

「あぁ、なーんとなくヤバい雰囲気は伝わってくるぜ……」


 ダニエラがしっかり認識出来る範囲は、僕がふわっと認識出来る範囲。それくらいの違いだが、遅れをとることなく反応出来るようになった自分を良くやったと褒めてやりたいところだ。


「まっすぐこっちに向かってる。油断するな、アサギ」

「あぁ、油断なんてしないさ。ただ、使う武器は此奴だ」


 僕は手にした槍をグッと握り締める。今回の護衛クエストで槍の訓練も行おうと、ユッカを出た時点で持ち替えていた。この霧氷石の槍(コキュートス・ランス)で魔物や盗賊を相手の練習は中々良かった。小型、動物型、人型といい練習になった。が、やはり盗賊相手というのはまだまだ慣れない。それでも最初よりはスムーズに体が動いたのは……良いことなのか、悪いことなのか。


「来るぞ!」

「ッ!!」


 殺した盗賊のことに思考を割き過ぎた。緩んだ手を再び握り、カシャリと構える。気配感知ではもうすぐそこだ。


「グルルル……グルルルルルァァァァァァア!!」


 咆哮と共に現れたのは4足歩行の……何だ? 狼? ドラゴン? いや……人、か?


「グレンデル!!」

「グレンデル!? 何だ其奴は!」

「平たく言えば巨人! 長く生き、数多の種族と無茶な交配をして血を汚した巨人の成れの果てだ!」

「なるほど、それでめちゃくちゃな姿をしてるんだな!」


 人のような手足をしながら、姿勢はまるで4足歩行の動物。全身を覆う体毛の中から突き出た背びれや角、鱗。まるでキメラだな……。


「私が囮になる。ミスターは私の合図でひたすら走れ。必ず追いつけるから遠慮せず走れよ」

「は、はいっ!」

「アサギは私と一緒だ。嬉しいだろう?」

「あぁ、嬉しすぎて涙が出そうだ!」


 ミスター自らが御者席に座り、興奮する馬を宥める。後ろの馬車も準備だけは良いようだ。


 何方を襲うべきかと悩んでいたグレンデルに、ダニエラが矢を放つ。当たれば良いやくらいに放った矢はグレンデルの肩辺りに届いたが、刺さらない。余程硬い鱗を持っているのか、それとも此方を向かせる為にダニエラが力を抜いたのか。

 しかし目的は達成した。グレンデルは標的をダニエラに絞ったようで、吠えながら手足を上手く使って突進してきた。それを綺麗に躱したダニエラが声を上げる。


「行け!!」

「お二人とも、ご武運を!

「頑張ってください!」


 ミスターと御者さんからのエールを胸に、僕は槍に紺碧色の魔力を流す。白い半透明の柄はその濁りを無くし、真っ白の槍へと変化する。大型の刃と、鍔の意匠から伸びた飾り布からはダイヤモンドダストが溢れる。コキュートス・ランス、その真価だ。


「さて、置いていかれないようにとっとと片付けるぞ」

「僕の足にかかればどんな距離でも余裕さ」


 僕の軽口にダニエラがフッと笑う。


「なら、ゆっくりと確実に仕留めるぞ」

「りょーかい!」


 吼えるグレンデルに向かって飛び出すダニエラの後に続いて、僕も飛び出した。グレンデル退治になるとは思わなかったが、これもお仕事だ。きっちりこなして、給金貰うぞ!

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