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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第二百一話 ギルマス対談

 ユッカに来て9日目の朝は簡易ベッドの上で迎えた。起きてから自覚する体の重さに溜息を吐きながら天幕から出ると、衛兵達がお片付けをしている最中だった。どうやら少し寝過ごしてしまったらしい。


「起きたか」

「おはようございます。サラギさん」

「おう。元気そうでなによりだ」


 テキパキとお片付けをしているサラギさんの手伝いをしようとしたら断られた。衛兵の仕事を取ったら俺達は何もすることが無くなっちまうだろう、と。まぁそれもそうかという事で僕は天幕の裏で顔を洗う。水魔法が使えて良かったなぁといつも思うね。


 片付けもさっさと終わり、僕はまたダニエラの後ろに乗せられてユッカへと戻った。とりあえず宿に戻って血で汚れた装備と服を洗ってもらい、その日はずっと宿でゴロゴロしていた。




 翌日、僕はギルドに呼び出された。朝起きたら従業員さんがギルドからの手紙を持ってきてくれたので、その場で開けると『『銀翆』アサギ=カミヤシロ殿、『白風』ダニエラ=ヴィルシルフ殿。至急ギルドまで来られたし』と書かれていた。


 面倒だが、まぁルーガルーのことだろう。衛兵隊から報告が行ったのだと思う。とりあえずダニエラを起こして身支度をして、僕達はギルドへと訪れた。


「ふぅ……今日もゴロゴロしたかったんだけどな」

「アサギはすぐに怠ける。クエストの一つでもした方がいい」

「えー……」


 そんな風に話しながら入ると、ちょっと生意気そうな女の子が目の前で通せんぼしてきた。何だ此奴。この傷が目に入らんのか?


「君がアサギ君?」

「おいおいキッズ、年上には敬語を使えとママから教わらなかったのか?」

「はぁ? ボクの方が年上なんですけど?」

「寝言は寝てから言え」


 どう見たって女児だろう。此処は冒険者ギルドであって学校じゃあないんだぜ。


「いや、アサギ。彼は年上だ」

「彼? 年上?」


 見た目との情報が何一つ一致しないんだが。


「ダニエラさん、ボクの事は女の子だと思ってくださいね」

「男を女と思うのは難しいな」

「難しくても!」


 訳知り顔でやりとりするダニエラと女の子(?)だが、誰か状況を説明してくれないか?


「あ、マスター!」


 ギルド員さんが此方に駆けてくる。マスターってギルマスのことかな。何処だろうと辺りを見回すが、それらしい冒険者は居ない。


「此方にいらしたんですね。アサギ様とダニエラ様をお連れしようと思ってたのですが」

「うん、待ちきれなくてね。気にしないでいいよ」

「はい、分かりました。では続きはマスタールームでお願いします。皆さん、気になるようですから」

「あーうん、そうだね。ごめんごめん。じゃあ行こっか」


 僕の認識が間違っていなければ、ギルド員さんがマスターと呼んだ相手は女の子で、女の子がギルドマスターだと。ナナヤさんが『うちのギルマスは男の子』と言ってたが、目の前に居るのは女の子で、それでもダニエラは男だと認識している。

 それらの情報を照らし合わせると、ナナヤさんが言ってたのは『男の娘』で、目の前のギルマス疑惑の女の子は、ギルマスの男の娘となる、と。


「なるほどなるほど」

「何の納得だ? アサギ」

「諸々の情報の合致かな」

「ふぅん。まぁ良い。ギルマスの後に付いていこう」

「りょーかいだ」


 あと一つ、年上という謎が残っているが、ギルマスの髪を見る。ピンク色だ。どうせ、桃エルフとかそんな所なんだろう? んで、見た目の割りには年上でしたとかそんな所なんだろう? 分かってる分かってる。

 もう何があっても驚かんわ。




「改めまして、ボクが冒険者ギルドユッカ支部ギルドマスターで桃エルフの『炎雷』キラリカ=ロズシルフだよっ」


 やっぱりな。


「はい、『銀翆』アサギ=カミヤシロです。よろしくお願いします」

「『白風』ダニエラ=ヴィルシルフだ』

「えー、何か固くない?」


 お前が敬語使え言うたんやろがっ。


「まぁ良いや。今日呼んだのは他でもないルーガルーのことなんだけど、お疲れ様でした。実は割と困ってたことだったから超助かった。マジありがとね!」


 何か軽いんだよなぁ。ピンク髪が尚一層軽々しく見える。口調もさっきより軽くなってる。


「元々、興味本位で見るだけのつもりだったので討伐してしまったのは偶然です。あまりそう頭を下げられても困ります」

「アサギちん固すぎない?」

「すみません、年上は敬うタイプなんです」


 ダニエラが信じられないようなものを見る目で見ている。


「あっそ。まぁそれはそれとして、何だかんだで討伐してくれたんだから報酬は用意しないといけないからね。これ貰ってって」


 と、キラリカがテーブルの下から何か重そうな革袋を取り出した。それも2つ。


「中を確認させてもらっても?」

「いいよー」


 許可を得たのでその場で袋を開いて、ダニエラと一緒に覗き込む。


 あぁ、予想はしていたけれど、綺羅びやかな金貨様が沢山だ……。


「こんなに貰えません」

「貰ってよ。感謝の気持ちは受け取るべきだとお姉さんは思うなー?」


 男だし子供だし何か腹立つな……」

「声に出てるんですけど?」

「おっと失礼。でも流石にこれは」


 亡くなった被害者の遺族への補填とか、そういうので使って欲しいな。


「あぁ、その点は大丈夫。死んでったのは流れの冒険者と馬鹿な冒険者だから。ボクはすぐに上に掛け合って衛兵には手を出さないように指示させたから」


 そうは言ってもなぁ。


「まぁ金はいくらあっても邪魔にはならない。貰っておこう」

「……ダニエラがそう言うなら」


 ダニエラが言うなら貰うか。まぁでもぶっちゃけどっかの孤児院にでも寄付したい気分だぜ。


「んで、詳細とか聞きたいんだけど良い? 何であんなバラバラ死体だったの?」

「あー……こう、飛び上がって来たところを氷魔法で作った剣で凍らせて、両手の剣で縦斬りをズバンとやって、んで落ちたらバラバラになりました」

「はー意味わっかんね」


 ムカつくガキだな!


「ちょっとその剣作ってみてよ」

「あー、すみません。アイスドラゴンの防具ないと出来ないです」


 あの剣、『氷凍零剣(ニヴルヘイム)』はアイスドラゴンの防具による氷魔法威力上昇効果が無いと、ギリギリただの『氷剣(フロストソード)』になってしまう。INTが上がれば多分防具無しでも作れるかもしれないけれど、まだまだ先の話だろう。


「そっかー、なら仕方ないね。まぁ出来るってことなら出来るんでしょ」

「ですね」

「まぁありがとね。実際に倒した本人から話聞きたかったからさ。で、その傷が名誉の傷?」


 言われてそっと左目に出来た傷を撫でる。


「一晩経ってだいぶ薄くはなったんですけどね」


 あれからポーションが効いたのか、深かった傷は昨日よりも薄くなっている。でもまぁ、傷は傷だ。今は左目というより、左頬の傷と言った方が分かりやすい。


「綺麗な顔が台無し……ってほどでもないね。アクセントになったんじゃない?」

「ですね」


 ほっとけこのガキ。可愛い顔して毒吐きやがって」

「声に出てるんですけど?」

「おっと失礼。可愛い顔ですよ」

「其処は良いけど」


 なんてくだらないやり取りをほんの少し。話は桃エルフということに移り変わっていった。


 キラリカは帝都に住まう桃エルフの貴族出身らしくて、貴族貴族した生活が嫌で飛び出して冒険者としてやってきたらしい。年は今年で121歳。ダニエラが聞き出した。人間で言えば12歳程度だ。


「僕に言わせれば、立派な老人ですよ」

「人間で言えばね。人間で言えば。エルフは君達とは違う尺度で生きてるから」

「そうだぞアサギ。年の話はよくない」

「300歳だもんな」

「年の話はよくないって言っただろう!」


 まぁエルフと言えば年齢弄りは基本だよね!

 でもまぁあんまり弄るのもよくないだろう。何だかんだ気にしてるし……。


「それにしても、ルーガルー退治出来る冒険者って少ないんですかね」

「んー……彼奴、超速かったからね。君のスキルと同じくらいでしょ?」

「あ、知ってるんですね。まぁ、はい。黒化してからは前の僕より速かったです」

「じゃあ勝てないよ。スピードってのは無敵だからね。どんなに攻撃力が高くても当たらないし、どんなに防御力が高くても僅かな隙を突かれる。君もそういう戦い方をするといいよ」

「まぁ……考えておきます」


 僕自身、まだ瞬速の世界に片足を突っ込んだだけだからまだまだ使いこなせない。理想的ではあるけどな。


「それに今の時期、強い冒険者は皆帝都に行っちゃってるからね」


 キラリカがソファの背凭れに体重を預けながらぼやく。


「帝都で何かあるんですか?」

「あれ、知らないの? 来月は帝都で帝剣武闘会があるんだよ」

「帝剣武闘会?」


 聞きなれない言葉にダニエラをチラ見するが、ダニエラもハテナを浮かべている。


「えっ、ダニエラさんは知ってそうだけど」

「いや、知らんな」

「マジで? 何の為に長生きしてきたの?」

「……」


 静かにキレるダニエラだが、今は置いといて。


「その帝剣武闘会ってのは何なんです?」

「うん、ぶっちゃけただの武闘大会。帝国各地から集まってきた猛者の中で一番強い奴を決める大会だね」


 読んで字の如くとはまさにこのことだったな。いや字面が分からんかったが。


「それが来月にあると」

「だね。出るの?」

「いや、まだそれは……」


 ダニエラをチラ見する。あ、ちょっと出たそうな顔してる。


「まぁ出るなら推薦状書くよ? ユッカを出るまでに来てくれれば渡してあげる」

「じゃあその時はよろしくお願いします」

「はいはーい」


 そんな感じで呼び出しからの対談は終了した。廊下に出てダニエラと話しながらエントランスへ戻る。


「帝剣武闘会か……賞品とあるんかな」

「帝剣という単語には聞き覚えがある」


 腕を組みながらダニエラが思い出すように天井を見る。


「確か、帝国に伝わる宝剣だったような気がするな……」

「まさか、優勝者にはその宝剣を授けるとか? 宝剣なのに?」


 はは、ないない。


「宝剣授与と同時に皇帝にさせられたりしてな」

「おい怖いこと言うなよ。僕達は冒険者だぜ」

「ははっ、もう優勝した気になってるのか?」


 大した自信だなとダニエラに笑われた。いやもしもの話よ。


 でも帝剣武闘会か……ちょっと興味がある。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] (内心の性格はどうあれ)外面的には丁寧だったアサギ君はもう居ないのか・・・ 初対面の見た目幼女に高圧的な態度取るとかマジ引くわ~ [一言] どんどんアサギ君が乱暴者になっていきますね(…
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