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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百九十七話 黒狼・ルーガルー

「さて……どうしてこうなったかの原因探しは後にして」


 殺したはずのルーガルー。それが実は死んでなくて、憎悪によって自己進化した……まぁ、そんなところだろう。前例がないだけで不可能ではない。そんなことがこの世界には沢山ある。


 だがまずは、ダニエラを傷つけた落とし前を本人につけさせねばならない。


「レイチェルの眷属になって良かったよ……」


 ユニークスキル《神狼の眼》。それは、世界を飲み込んだフェンリルの眼だ。つまり、世界を股にかけたその眼。世界を見通す神狼の眼。千里眼だ。


「……見つけた」


 最後に見た時の奴の姿は血に塗れた銀狼だった。だが、今の姿は血に塗れた黒狼。どす黒い体毛に変化している。如何にも憎しみの力で進化しましたって姿だ。

 そんな黒狼、ルーガルーは森の奥に流れる川の傍をよろよろと歩いていた。今も尚、夥しい量の血を流し、川は奴が歩いた傍から赤黒く染まっていく。


「これじゃあ水質汚染だ」


 色んな意味で、早く殺さないと拙い。


 振り返るとサラギさんの隊はもう町の方へ戻っていて最後尾しか見えない。一応辺りを見回し、人影が無いことを確認して木の陰で着替えることにした。




 ばっちり装備を身に着けたことを確認して、次は武器をどうするか悩んだ。大剣が一番良い気がする。が、相手は腐っても森狼。速さだけは僕と同レベルだ。進化しているのなら、尚更速くなっているはずだ。なら、大振りの大剣は選択肢から消える。

 槍ももってのほかだ。良い槍だが、まだ使いこなせる自信がない。咄嗟の動きが出来ないのであれば、使うことは自分の首を絞めることになる。当然、却下だ。

 片手剣と短剣の二刀流。二刀流は有りだ。上手く扱える自信もある。だが、短剣の刃渡りでは奴に一撃入れるのも一苦労だ。短剣も、候補から外れる。


「という訳で……まぁ、消去法でこうなったな」


 左側に下げる鎧の魔剣(グラム・パンツァー)。そして、右側には古代エルフ(エンシェントエルフ)の剣。最硬の魔剣と、最強の剣。


 二つの剣による二刀流。これが最適解だと《器用貧乏》先生もおっしゃっている。僕ならばそれで戦えるということだろう。


 ちなみにこの古代エルフの剣。宿でゴロゴロしていた時に鑑定眼鏡で鑑定してみたところ、銘があった。


『琳翠星鉄の森剣 エルフにより作り出された剣。魔法のみの工程で作り出された為、製造方法は遺失している』


 とまぁ、こんな感じだ。琳翠星鉄(リンスイセイテツ)とは、大昔に空から落ちてきた鉄隕石と琳翠石という石の合金らしい。僕の知らない鉱石なので、まぁ、ファンタジーストーンということだ。他の武器も、同じ材質だった。作り方は気になるが、それもまたファンタジー製法ということで納得しておいた。




 閑話休題だな。そんなことはどうでもいいんだ。今はまず、ルーガルーを仕留めるのが先だ。


 怒りも恨みも後悔も、全てをこの剣に乗せて奴を斬る。それで全部終わりだ。


「よし……」


 深呼吸して、両足に白銀翆の風を纏う。いつもの半分の風速。だが、それでも普段の全力に近い速度を出せるのだから《神狼の脚》は異常だ。


 大地を踏み込み、1歩踏み出すだけで景色は後方へ吹っ飛んでいく。空を踏みつけ、飛び出して眼下の森を睨む。僕の進行方向に森の切れ目が現れ、そしてすぐに川が見えてきた。その川に沿って視線を滑らせると、そこには……


「ルーガルー……!」


 よろよろと歩く黒狼の姿が見えた。生意気にも首を回して僕を睨んでいる。気配感知の力か、憎しみに染まった嗅覚か。兎に角一刻も早く殺すべく、僕は左右の剣を抜いた。


「ゥラアッ!!!」

「グラァァッ!!」


 右手に握った魔剣に渾身の力を込めてその首目掛けて振り下ろす。だが、黒狼も4本の脚に風を纏わせて滑るように後方へ逃れる。その脚に纏う風は黒金だった。綺羅びやかは金色のはずが、ドロドロとした憎しみにまみれて目を疑うような鈍い光を放っている。あれは金色と呼べない。が、金色以外の表現の仕方がない。


「よくもダニエラを……!」

「ガァァア!!」


 避けるルーガルーを追って振り向き様に左手の森剣を振るう。切っ先が僅かに奴の鼻先を掠める。敏感な部分を斬られ痛みに鳴くが、そもそもの傷の多さに大したダメージには思えなかった。


 それでも足に力を込めて瞬動で距離を詰めようとするが、力加減が上手く掴めない。奴の背後に移動するつもりが大きく距離が開いてしまった。


「クソ! 馴れないことはするもんじゃないな!」


 苦し紛れに『氷剣・直線射出(フロストソード・ストレートショット)』を放つ。がむしゃらに放ってしまい、狙いが反れて奴の目の前の地面に突き立ててしまう。


 が、それが運良く追撃しようと踏み出した奴の1歩目を邪魔することになった。これを逃す程僕は馬鹿じゃない。


 もう一度、《器用貧乏》で最速で演算しながら風速を制御する。両足に力を込めて地面を蹴れば、完璧な位置へと移動することが出来た。僕のAGIは演算処理をも加速させるのかもしれない。


「ハッ!」


 後方へ伸ばした左手を振り、下から斬り上げる。翡翠の一閃は黒狼の3本の尾を全て切り飛ばした。


「グギャァァァア!!!」

「オラァ!!」


 そのまま振り上げた剣を振り下ろす。が、剣が届く前に奴の国金の風が爆発し、その勢いに吹き飛ばされる。


「いづっ……!」


 その時、左目に痛みが走った。目が開けられない。左手の甲で抑えてみると、ぬるりとした感触があった。多分、鎌鼬で斬られた。


「くそ……」


 《神狼の脚》で距離を開けながら無理矢理目を開いてみると、赤くぼやけていたが、景色は見えた。どうやら眼球までは斬られていないらしい。でも傷が残ったら嫌だな……。


「いや、ダニエラだって傷を負ったんだ。僕だけ無傷は不平等だろう」


 ダニエラの綺麗な体に傷がついたんだ。なら僕だって傷ついてやるさ。


「しかし左目は駄目だな……見えん」


 ぼやけた視界では反って危ない。仕方ないので自然と降りるままに瞼を下ろした。


 右目だけで黒狼の姿を探す。奴はまだ痛みに呻いている。国金の風も失い、裸同然だ。なら、今はチャンスだ。


 もう一度両足に力を込める。逆巻く風は超音波のような高周波音を奏でながら異常なまでに風速を上げる。そしてそれをじっくりと制御してやる。全部の力を使って。


 すると風は急に音を消した。しかし視界には荒々しくも制御された風が渦巻いている。人間の耳で聞き取れない程の音域にまで達したらしい。なるほど、これが神狼の全力か。


 ジッと黒狼を睨む。奴も痛みの中でゆっくりと立ち上がり、此方を睨む。初めての最大風速の制御に時間を掛けすぎてしまった。奴も脚に風を纏う。


 見下ろす僕と、見上げる黒狼。


 先に動いたのは黒狼だった。空を踏みつけ、駆け上がってくる。その開いた口からは暗色の炎が見えた。黒狼だけのスキルだろうか。良いものではないのは確かだ。


 その黒狼を睨みながら脳内で《器用貧乏》の演算が終了した。攻撃のタイミング、攻撃後の体捌き。周りに与える影響。全てが見えた。


「これで終わりだ!」

「グロォォアァァァアアア!!!」


 顎から溢れた炎がそのまま風に巻き込まれて燃え上がり、その身を包んだ。暗色の黒狼。


 その巨体に向かって両の剣を振り上げた。そして全力の魔力を込めた1本の『氷剣』を生成する。折れず、曲がらず。切れ味は鋭く、切った物全てを凍てつかせる氷製の名剣。名を付けるのならば、『氷凍零剣(ニヴルヘイム)』。格好良い……。


 その3本の剣での一撃(・・・・・・・・)


「『上社式・終霜三赤(カミヤシロシキ・シュウソウサンジャク)』!!」


 前面に構えた氷凍零剣(ニヴルヘイム)の攻撃により瞬間凍結。それと同時に放つ二閃の斬撃により3分割され、死に至る。

 3つに別れた体を凍った血が繋ぐが、その生命までは繋げない。力を失ったルーガルーは地面に叩きつけられ、凍った血をバラ撒いた。


 神狼の風速により、僕は地面へと叩きつけられた。何本かの木の枝をクッションにしたが、それでも殺せない勢いが僕を転がす。計算通りだ。

 最終的に大木に体を強かにぶつける。そして地面滑りは終わった。


「計算通り……だ」


 ぶへっと血を吐きながら何とか体を起こして背中を大木に預ける。だいぶ離れてしまったな……。でも、殺してやった。仇……じゃないな。恨みは晴らしてやった。

 ジクジクと裂けた左側頭部が痛む。打ち付けた体も痛い。いつの間にか木の枝で頬を切ったらしい。それもジンジンと痛む。

 痛みに、スゥっと意識が遠のくのが分かる。此処で気を失うのは簡単だが、後処理が必要だ。


 僕は痛む体を動かし、立ち上がる。両手に握ったままだった剣を鞘に仕舞って、僕はルーガルー目指して歩き始めた。

※氷凍剣を氷凍零剣に変更しました。

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