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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百九十五話 ルーガルーの正体

 真正面から放たれた矢がそう簡単に相手に届くこともなく。


 見てから回避余裕なルーガルーは軽く軸をずらすだけで躱して正面から突っ込んできた。


「ハァッ!」


 それをまた馬鹿正直に『氷盾』で正面から防ぐ。目の前に急に現れた盾に驚くルーガルーだが、ぶつかることなく上へと跳んで、襲いかかる。


 が、それを許すダニエラではない。番えた矢を放ち空中に居るルーガルーを射る。しかしそこは森狼。得意の風で避けるが、僕もそれを許さない。同じスキルを使っているんだから、どう動くかも理解出来る。

 逃げ場を塞ぐように複数の『氷矢』を放ってやった。


「ぐおぁ……!!」


 運良くそのうちの2本がルーガルーの背と腹に突き刺さる。痛みに踏ん張ることが出来なかったルーガルーは突っ込んできた勢いのまま、地を滑る。


「僕が行く!」

「援護は任せろ!」


 剣を手に走れば、背後でダニエラが弦を引き絞る音が聞こえる。安心して背中を預けられるから、僕はこうして突っ込むことが出来る。

 結構な勢いで突っ込んできたルーガルーが地面に爪を立てて踏ん張ろうとするが、力が入らないのか、そのまま横滑りして木にぶち当たる。大きく揺れた木から沢山の葉が落ちてくる。


「くそ、人間めが……」

「個人的にはお前には親近感が湧く所だが、殺す気なら死んでもらう!」

「抜かせ!!」


 防具が無いというのが非常に辛いところではあるが、AGIの高さをフルに活用して距離を詰め、立ち上がろうとしたところに剣を叩き込む。しかし首を落とすつもりで振ったその一閃はギリギリのところで躱される。が、それでも無傷では無く、右前足の付け根部分を切り裂いた。


 背に刺さった矢傷からの血と、腹の矢傷。今しがた付けた切り傷から溢れる血。その量に周囲が生臭く、そして鉄臭くなる。

 どうやら今の攻撃のお陰で足に力が入らなくなったのか、震えながら起き上がる。その隙を狙って、頭の中で《器用貧乏》を起ち上げて、先程得た新スキルのシミュを開始する。4分割された画面の中で飛び跳ねる4人の僕の基礎的な動きをコピーする。どうやら旧スキルとそれ程の違いは無いらしい。だが、明らかに出力が違う。高威力で、低燃費。これはお買い得だな、とレイチェルに心の中で礼を言う。存外、眷属化も悪いことばかりではないらしい。


 と、背後から矢が放たれる。僕の横を素通りしてルーガルーの脇腹に突き刺さった。人語を解すルーガルーではあるが、突然の痛みにはギャンと鳴くしかないらしい。


「今だ!」

「あぁ!」


 ダニエラは本当に頼りになる。僕が突っ立っていても、それが脳内で《器用貧乏》の演算中だと理解してくれている。ばっちりのタイミングで突き刺さった矢。そして生じた隙。

 用意された隙を逃す僕ではない。僕は集中して《神狼の脚》を発動させる。すると慣れた両足を纏う風の感覚が帰ってくる。視界に入った風の色はやはり銀翆。だが、いくらか銀色が白みを帯びているように感じた。白銀色だ。翠も心なしか透き通るような鮮やかさが加わったような気がする。


 が、そんなことは後だ、後。今は目の前のことに集中しなければいけない。


「貴様……やはり、狼の……!」


 僕の風を見たルーガルーが忌々しげに睨む。僕はそれを無視して踏み込む。その移動はまさに瞬動のそれだ。一気にルーガルーと僕の間合いは縮まる。驚くルーガルーの目を僕の目が合う。その顔に剣を叩き込んでやった。


「グオォォォォオオォォオォオォオオオオオ!!!!!」


 雄叫びを上げながらのた打ち回るルーガルー。乱暴に手足を振り回すので慌てて距離を取り、ダニエラの傍へと移動する。


「ますます早くなるな」

「これもう早いとかそういう次元の話じゃない気がするわ」

「そのことについては、後で話そう」


 ギリギリと引き絞る矢が風を纏う。僕の周りに十数本の『氷槍(アイスジャベリン)』が生成される。的が大きすぎて矢での止めは難しいと判断した。狙うは森狼・ルーガルー。ベオウルフと同種の個体ということで思うところはあるが、まぁ、仕方ない。


「クソがぁぁぁああああ!!!!」

「悪いな。死ね」


 別れの言葉と共に、風矢と氷槍が放たれる。ズドドドドドと、地響きのような音を立てて突き刺さる幾つもの止めに、ルーガルーは最後まで僕を睨みながら、そして死んだ。



  □   □   □   □



 暫く、その場に立ち尽くしてしまった。ふと空を見上げれば日も高く、朝方に出てきたと思っていたのに結構な時間を使ってしまったようだ。


「ちょっと疲れたな……座ろう」

「そうだな。流石に肝を冷やした。防具も何も無い状態だったからな……」


 改めて自分の姿を見る。ルーガルーの噂の疑問については頭の隅に軽く残っていたが、レハティと出会ったことで完全に油断していた。普通に外行きの格好に剣帯を身に付け、剣をぶら下げただけだ。ダニエラも同じで、ちょっと可愛いワンピース姿にパンチラ防止の五分丈レギンス姿だ。普通に可愛い。そこに剣帯を身に付け、細剣と、弓を装備している。ダニエラの剣帯には弓も付けられるようで、そこに付属された弾帯のような筒付きのベルトに矢が何本か刺さっていた。見ようによってはオシャレに見える。これも、『白百合服飾店』謹製の品だ。ちょっと女の子のオシャレに本気を出しすぎな気もするが、まぁ可愛いから仕方ない。


「服の品評をしてる場合じゃないんだよな」

「見過ぎだ、馬鹿」


 ちょっと照れたダニエラがスカートの裾を握る。可愛い。


 どうにも変な縛りの中での死闘を終えた反動の所為か、思考が馬鹿になっている。切り替えなくては。今は、ルーガルーの事を考えないといけない。


「とりあえずは衛兵に報告だろうな」

「んー……解体は任せた方がいいかな」

「自分達の手でやらせた方が良い」


 チラ、とダニエラはルーガルーを見る。


「なんせ、今まで散々冒険者や市民を食い散らかされた怨敵だからな」


 そうか。偶々僕達が仕留めたけれど、此奴はこのユッカの界隈を怯えさせた元凶だものな……。

 なら、さっさと伝えに行くべきだ。


「じゃあひとっ走りで行ってくる」

「あまり飛ばしすぎるなよ」

「分かってるって」


 さっきは多分、無意識に力を込めすぎたんだろう。改めてシミュレーションしてみると、いつもの半分の力で、今までと同じ動きが出来ていた。なるほど、やる気を出した時の力を今の状態でやると、本気を出した時と同じ動きになる訳か。やっぱり《森狼の脚》の上位互換だ。完全にレベルアップを果たしている。

 問題は、ステカに表示されるスキルの変化をどう言い訳するかだが……ま、なるようにしかならないかね。



  □   □   □   □



 南門まで走ると、壁の上から声を掛けられた。


「おーい、アサギー!」

「ん? サラギさん?」


 見上げると、手にした槍を振っているサラギさんの姿が見えた。


「生きてたかー!」

「あぁ、元気だよ!」

「今開けさせる! 待ってろ!」


 そう言うとサラギさんは引っ込んだ。そして何やら門の向こうでガチャガチャと音が聞こえてきた。何をしてるんだろう。そこの扉を開ければ済む話なのに……なんて思っていると、そんな音がしなくなり、代わりに重厚な音が響いてきた。


「おぉ……なるほど、これは良いな……」


 大きな門の中央に縦一直線に切れ間が入る。その小さな隙間から差した光が、舞った塵を反射させる。キラキラと光る粒の向こうの切れ目の幅は広がり、どんどん向こう側が見えてくる。


「絶景だな……」


 大きく開かれた南門。その向こう側に広がるのはただの町並みだが、それはとても綺麗に見えた。

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