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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百九十一話 ルーガルー

「おはようダニエラ! いい朝だな!」

「んぁぁ……なに……えぇ……まだよるじゃないか……ねかせろ……」


 目が覚めた僕はダニエラを叩き起こすが、ダニエラの言うようにまだ日は出ていない。でも朝だ。夜に寝て、起きたらそれはもう朝なのだ。


「ほら、ルーガルー見に行こう」

「うっさい……」


 ダニエラはご機嫌斜めだ。だが待っていられない。僕の独自調査ではルーガルーのような人狼は夜行性なのだ。なら夜に探せと言われるが、こんな朝方が、一番油断する時間だ。だって凄く眠いはずだもん。


 ということで顔を洗ってしゃっきり目を覚まさせ、防具を身に着ける。久しぶりに身に着けるが、着心地は以前と変わらず最高だ。


「そして……」


 虚ろの鞄から取り出したるは霧氷石の槍だ。銘はコキュートス・ランス。3本の候補者の中から選ばれた新メンバーだ。そして暫くは僕の相棒としてレギュラー入りしてもらう。

 まぁ、今出しても邪魔なだけなので再び虚ろの鞄に収納する。そして鞄を背負ったら準備完了だ。


「よし、行くぞダニエラ」

「ぐぅ……」

「……」


 絶賛二度寝中だった。こうなってしまっては起きないだろうなぁ……無理矢理起こしても一日中機嫌が悪いこと間違い無しだ。

 なら、1人で行くしかないか……。


「じゃあ行ってくるからな」

「ん……すぅ……」


 返事なのか、寝息なのか……。とりあえず、書き置きだけしておこう。それが終わったら出発だ。



  □   □   □   □



 宿を出て、ギルドへ向かう。一応、クエストとして発注されているなら受けておこうくらいの気持ちで向かう。開いてなかったら、まぁそのまま出るだけだ。

 そして案の定というか、当たり前というか、ギルドは明かりを消しておやすみモードだ。扉を叩くことすら遠慮してしまうくらいに真っ暗だった。じゃあ、もうギルドは良いとして、町の外へ向かうとしよう。


 流石に門は閉じられていたが、ギルドと違って人は居た。門番だ。


「止まれ。何用だ?」

「ルーガルーが見たいから外に出して欲しい」

「はぁぁ……」


 盛大に溜息を吐かれた上社朝霧です。よろしくお願いします。


「ルーガルーが見たい。ルーガルーを仕留めたい。そう言って町の外に出た人間は誰一人帰ってこなかった」

「なら、まだルーガルーは森に居るって訳だ」

「そうだな。そして次の獲物を待っている」


 腕を組み、門に背を預けた門番が僕を馬鹿を見る目で見る。


「なら好都合だ。さ、早く手続きをしてくれ」

「俺も仕事だから敢えて分かりやすく言わせて貰うが、お前みたいな阿呆をホイホイ外に出す訳にもいかないんだ。何故か分かるか? それが、仕事だからだ」


 まるで馬鹿相手に話すように話す門番だが、そんな馬鹿野郎はこの場には居ないはずだ。


「僕も魔物の危険性を排除するのが仕事だ。そして知的好奇心の信徒でもある」


 ステータスカードを門番に渡す。再び盛大な溜息を吐いて、仕方なくといった足取りで門番は詰所へ向かう。中の読取機でステータスを見てくれれば、僕が馬鹿野郎では無いことが分かってもらえるはずだ。


「……ほう、なるほどな。ただの死に急ぎ野郎かと思っていたが……」


 そんな声が詰所から聞こえる。日の出前のこんな時間に町から物音は聞こえないので、そんな呟きも丸聞こえだった。照れるね。

 と、ステータスの写しを持った門番が詰所から出てきた。


「Cランク冒険者、アサギ。良いことを教えてやろう。レベルが71を越えたらBランクに昇格することが出来る。お前はもう79だな。81からはAランクになるのでしっかりとギルドで手続きをするといい」

「あー、まぁ、そんなに町に居ることが少ないからな。そのレベルもニコラで上がったんだろうし」


 ウィンドドラゴンの経験値は相当に美味しかっただろうな。きっと6レベルくらいは跳ね上がってるはずだ。


「ふむ、やはりお前が銀翆か。噂は聞いてるぞ」

「それはどうも」


 肩を竦めて返事をしてやる。悪名と尾鰭だけは自信を持って提供出来る。


「俺も昔は冒険者だったが……膝に矢を受けてしまってな」

「はぁ、大変でしたね」

「だからお前がルーガルーに憧れる気持ちは良く分かる」


 元冒険者の門番は扉に手を掛ける。


「それだけの実力のある冒険者がルーガルー退治に出たことはない。まぁ、死なずに帰って来てくれると嬉しい」


 此方を見て微笑んでからゆっくりと扉を開けてくれた。勿論、門の傍の小さな出入り用の扉だ。


「ありがとう、門番さん」

「よしてくれ。心は今でも冒険者だ。だから、俺のことはサラギと呼んでくれ」

「では改めて。通してくれてありがとう、サラギさん」


 サラギさんは擽ったそうに笑う。


「行って来い、冒険者。ルーガルーの真実を教えてくれ」

「はい!」


 会釈してサラギさんの横を抜ける。扉の向こうにはまだ夜の闇に包まれた森が静かに佇んでいる。


 此処は深緑都市ユッカ、開かずの南門。男前な元冒険者、サラギが守る門。ユッカに訪れた際には、話し相手になってあげて欲しい。きっと、心躍る冒険譚を聞かせてくれるはずだ。



  □   □   □   □



 さて、森は入った僕は早速槍を取り出した。そして取り出してから気付いた。木とかに当たって凄く邪魔だった。


「意味ねーな……」


 どうやら今回はお留守番のようだ。剣帯に下げた鎧の魔剣(グラム・パンツァー)でやりくりするしかないようだ。文句は無いが、がっかりした。


 がっかりしながら森を歩く。まだ道だった名残があるが、落ち葉で隠れて見えにくい。その様子から、それほど前からルーガルーが此処を縄張りにしていた訳ではないことが分かる。もっとここが荒れて、道の名残も消えていれば随分前から居たことになるが……。


 そんな道を、時々《森狼の脚》の風で落ち葉を払いながら先へ進む。地図だと確か、ユッカの南には廃村があったはずだ。まずはそこを目指すことを目標にした。


「……ん?」


 その時、微かに気配感知に反応があった。反応からしてそれは魔物? のようだ。見たことがない反応。それが1匹だけだった。方向は森の中。暗い空と茂った葉のお陰で月明かりも通さない闇の中だ。その暗闇の中を蠢く反応。これはひょっとしたらひょっとするかもしれないな。


「行ってみるか」


 逸る気持ちと上がるテンションを無理矢理抑えつけて僕は森の奥へと踏み込んでいった。手にした剣で邪魔になる草を刈りたいところだが、そうしてしまうと居場所がバレかねないのでグッと我慢する。この際、『気配遮断』のスキルとか生えたらいいなぁと思いながらステルスゲーのように地を這い、息を殺し、周囲を警戒しながら進んで見る。まぁそんなことでスキルが生えるなら誰もがやるだろう。そんな光景を思い浮かべてゾッとした。




 あの木の向こう。ここから見える限りでは周囲より明るいようだ。多分、拓けた場所なのだろう。僕は占めたとばかりに剣を鞘に仕舞い、虚ろの鞄に収納する。そして代わりに霧氷石の槍(コキュートス・ランス)を取り出す。穂先が誰かを傷つけないように覆った鞘を外して鞄に仕舞う。槍術士アサギの誕生である。


「さて……」


 大きな木の影から向こう側を覗く。やはりそこは予想通りに拓けていた。拓けているので木もない。しかし草が生え放題茂り放題という訳でもなく、綺麗に一定の長さに刈られている。動きやすくしているからだろうか。


 その中心。不自然な森の中の草原の中央。そこに僕の気配感知が見つけた何かが居た。


 それは空を見上げていた。そろそろ日が昇る暁の空を眺めるその姿は。


「人狼……」


 二足歩行。長い尾。蒼銀の体毛


 その姿はまさに人狼。ルーガルーだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] なにがどう悪名なのか未だに理解し難い。 いい加減自分の過去の功績とか立ち位置を理解してしかるべき期間を過ごしてると思うのだが。
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