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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第十九話 新しい力と賑やかな夜

 因縁のフォレストウルフ戦から数時間。ちらほらとまとまって行動するフォレストウルフの群れを壊滅して回る僕達はそろそろ日も傾いてきたということでフィラルドへ帰ることにした。僕は疲れた足を動かしながらダニエラに戦闘について色々と教わった。剣の使い方、短剣の振り方、投げ方。四足の敵と戦う為の立ち回り、囲まれた時の対処の仕方。そして魔法の使い方。


「とりあえず魔法で攻撃するにはどうしたらいいと思う?」

「あー……そうだな。相手に当たらなきゃ意味は無いな」

「そう。つまりは射出だ」


 魔法で氷や水を生成したり、空気中を温度を下げるだけなら余裕だ。仕組みを知っているからな。

 主に空気中の水分を使って魔法を行使しているが、大抵の魔法使いは魔力を水分子に変換して水生成、氷生成するらしい。その分、魔力の消費は激しいそうで。つまり僕の場合は省エネということだ。

 しかし省エネだからといって氷を沢山作っても仕方ない。それを相手にぶつけて初めて攻撃だ。


「魔法で氷を作り、飛ばして、敵にぶつける。それが氷魔法攻撃の基本だな」

「相手をガチガチに凍らせたりは?」

「ふふ、アサギならすぐに出来るかもしれないが……」

「まずは基本、だな」

「そういうことだ」


 頷くダニエラ。僕は言われたとおりに魔法を行使する。


「んん……っ」


 空気中の水分を前に伸ばした指先の前に集める。小さなそれから熱を奪う。パキパキと透明の氷が指先に出来上がる。それに魔力を乗せて高さを維持。先に見える太い木の幹を狙い……


「よっし……いけっ!」


 指先に集めた魔力を一気に弾けさせて射出する。瞬間、消える氷の弾丸。前方の木からドキュ、という音が聞こえてきた。上手く命中したらしい。拳銃を持ったことはないが、バイオなゲームはよくやってたからな。イメージだけなら簡単だ。


「アサギ……今のは、何だ?」

「えっ?」


 ダニエラがジッと氷の弾丸がぶつかった木を見つめながらぼそりと言う。


「何って、魔法で出来た氷を飛ばしたんだ」

「あんなに速く、か? 見えなかったぞ……」


 二人で的の木まで歩く。幹の真ん中には氷の弾丸が作った小さなクレーターが出来上がっていた。周りの皮もはじけ飛んで薄茶色の部分が見えている。深さから見れば芯までは届いてないようだ。氷は勿論、砕けて残ってない。


「木がこんなに……。氷の生成までは見ていた。あんな小さな氷の礫からここまでの威力が出せるのか……」

「イメージの違い、かなぁ」

「良くも悪くも、な」


 僕の魔法は特殊なんだろうか。他の魔法を見ていないからあまり分からない。ダニエラは驚いているようだけど……。

 さて、木ばかり見ていても仕方ない。狼狩りも終えたし、帰らねば。


「荷物、持つの交代するよ」

「すまないな」

「いいよ」


 ダニエラからジャラジャラと音の鳴る革袋を受け取る。此奴の中身はフォレストウルフの牙だ。今回受注したクエスト、『フォレストウルフ駆除依頼』の回収対象だ。討伐した証としてフォレストウルフの犬歯を2本抜く。それをギルドに提出すれば、クエスト完了になる。牙は良い武器素材になるそうだ。その相場と量、質を見て計算し、それが報酬となる。やったらやった分だけ、お金へと変わるのだ。やりがいがあるってもんだ。達成報酬も基本的に用意されているしな。この仕事は思っている以上に収入がある。


 重みのある革袋を抱えながらホクホク顔で落ち葉を踏み締めながら歩いてたその時だった。視界の端で何かが動いた。


「ん……?」

「どうした?」

「いや……」


 見間違いか? 気の所為か?


「今、大きな狼の姿が見えた気がしたんだ。そっちの方に」

「ふむ……見当たらないし、気配もない。気の所為じゃないか?」

「そうかな……そうだな。結構デカかったし気の所為だ」


 きっと傾いた日が照らした木漏れ日が狼に見えたんだろう。狼ばっかり狩ってたからな。今日は狼しか見ていない。ゴブリン、本当にこっち側はいないんだな。


「気にしても仕方ない。日が落ちる前に町へ戻ろう」

「あぁ、夜の森は危険だからな」


 僕とダニエラは並んで木々の間を抜けてフィラルドへの道を急いだ。



  □   □   □   □



 もう少しで日が暮れるというギリギリで町へ転がり込んだ。


「よう、アサギにダニエラ。もう少し遅く帰ってきてくれたら門を閉じられたんだがな」

「冗談きついよ、ラッセルさん」

「まったくだ。木の上で夜を過ごさなきゃいけなくなる」

「ぶははははははは!!」


 今日の門番はラッセルさん。定番の樹上野宿ネタで笑ってからその場を後にしてギルドに向かう。

 夜のフィラルドは相変わらず賑やかだ。並ぶ屋台からはいつもいい匂いがする。肉の焼ける匂い、甘い果実酒の香り……しかしこれに釣られてはいけない。春風亭でならサービス価格で腹いっぱい食べられる。貯金大事。

 匂いに釣られて立ち止まるダニエラの手を引きながら何とかギルドへ到着した。やはりここも夜は賑やかだ。一仕事終えた荒くれ者達が酒の入ったジョッキを打ち鳴らし、テーブルを叩く音、床を踏み鳴らす振動が僕の耳を襲う。


「よーうアサギー!」


 上機嫌なネスがでかい声で僕を呼ぶ。


「よう、ネス!」

「おう! 飲もうや!」

「まず此奴を出してからな!」


 騒がしい酒場へ僕も負けじと大きな声で答えて革袋を掲げる。ネスは頷いてジョッキを掲げる。乾杯じゃねーよ。

 苦笑しながらダニエラと一緒に報酬受渡カウンターに向かう。カウンターの向こうに座るフィオナと目が合った。あっという顔で僕を見て、そのまま隣のダニエラを見て、眉間に皺が寄った。


「面白い顔ですね。とりあえず此奴をよろしくお願いします」

「アサギくん、その子誰?」

「気安いですよ。冒険者とギルド員なんですから」

「誰って聞いてんの!」


 何だかお怒りの様子だ。これ説明しないと受け取ってくれないのかね……。


「あー、彼女は『彼女!?』……ダニエラです。パーティー組んでます」

「冒険者仲間? 彼女じゃなくて?」

「はい」

「……ダニエラだ。アサギとはパーティーを組ませてもらっている」

「はー……びっくりしたー……。あっ、ダニエラ様、よろしくお願いしますね!」


 ビックリしたのはこっちだ。


「とりあえずこれ、お願いしますよ」

「りょーかーい!」


 カウンターに乗せたフォレストウルフの牙入り革袋を受け取って奥へ歩いていくフィオナ。随分砕けた感じになったが……何事だ? さては惚れたか?

 なんて馬鹿なこと言ってても仕方ない。さっきからネスが呼ぶ声がうるさい。溜息をつくとダニエラと目が合う。お互いに苦笑が漏れ、仕方なく連れ立ってネスの待つ酒場へ向かった。

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