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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百八十七話 ウェーイ系男子(嘘)

「元々僕は主とやり合う為にあの湿地に居たのさ。奪われた槍を取り戻す為に」


 乱入者、アエネウスは床に転がった湿地の主の首を足で転がしながら言う。


「三叉槍のアエネウス、なんて名前で呼び始めたのは誰だか知らないけどね。まぁ、僕もそれなりに気に入ってたのさ。そんな僕がサハギンの主に槍を奪われる……恥ずかしいったらありゃしない」

「それでアンタはずっと町に戻らず、湿地で待ち伏せを?」

「ははっ、そうなるね。元々あの槍は兄の形見だったからね。三叉槍のアエネウスとは関係無しに取り戻したかったのさ」


 アエネウスはチラリと僕の背後に立て掛けてある槍……三叉槍を見る。


「そうか。正当な理由があるなら、これは返す。元々拾い物だ。持ち主が現れたなら返却するのが誠実に生きるコツだからな」


 僕は件の三叉槍を手に取り、アエネウスに渡した。三叉槍を手に取ったアエネウスはそれを愛おしそうに撫で、抱き締める。


「ありがとう、アサギ君。君は僕の恩人だ」

「気にしないでくれ。救うつもりがあって拾った物じゃないからな」


 偶々、ボスサハギンが持っていたそれを拾っただけだ。まぁ、良い槍だとは思っていたが。


「そうもいかない。恩には礼を、が僕が生きる上で大事にしている信条だ」


 そう言うとアエネウスは振り向いて観衆を見渡す。


「聞いていただろう、皆。悲しい行き違いによって起きた乱闘だったけれど、こうしてアサギ君の誤解は晴れ、そして槍は僕の手に戻ってきた。ならば、もうこうして囲う必要はないんじゃないかな?」


 諭すように、しかし有無を言わせない圧力をアエネウスは纏いながら周りのボケ共改、冒険者達に言い聞かせる。


「そう、だな……アエネウスさんは無事だったんだし」

「その、悪かった……」


 それを皮切りに冒険者達が僕達の前に立ち、各々が謝罪して満足して去って行く。僕としては殴り足りないし蹴り足りないのだが。ダニエラを纏めてぶっ飛ばすと言った奴、それに賛同した奴。全員を二度と冒険出来ないように叩きのめしたかった。


「アサギ、私はその気持ちだけで十分だ」

「……顔に出てたか?」

「あぁ、絶対に許さないって顔をしていた」


 クスリと笑ったダニエラが僕の握った手を解いていく。1本1本、指を広げて解いていく。


「ほら、アサギの綺麗な手が真っ赤じゃないか」

「ん……」


 ずっと握り締めていた手は自分の爪が食い込んで血が出ていた。手の甲は手の甲で血が付いていたが。


「さぁ、私達は何しに来たんだ?」

「……そうだな。金を受け取りに来たんだ」

「そうですよー。乱闘騒ぎは迷惑ですねー」

「あ」


 ギルド員さんがそれなりに膨らんだ革袋を持っていつの間にか傍に居た。


「アサギさん、やっぱ強いんですね。あたし、強い人大好きなんですよー。良かったら今晩どうです?」

「悪い。気持ちとその金だけ貰っておくよ」

「ちぇっ」


 悔しそうに顔を顰めるが、口端は笑みの形になっているギルド員さんが伸ばした僕の手の上に革袋を置いてくれる。


「なんだ、アサギ。気持ちも受け取るのか?」

「え、まぁ、好意は受け取るべきじゃない?」

「行為もしましょうよー」

「何言ってるんだ……」

「やぁ、蚊帳の外だねぇ」


 4人で突っ立っていながらアエネウスは知らん顔だ。元々、此奴がサハギンなんかに槍を取られるのが悪いんだ。おまけに恥ずかしいからって町にも戻らないで……お陰でいい迷惑だ。


「そんな顔しないでくれよ、アサギ君」

「ふん、あれもこれもアンタの所為だ」

「悪かったよ。ほら、お詫びにご飯、驕るよ」

「そういえばそんな時間か。行くぞ、アサギ」

「お前は本当にチョロい奴だよな」


 ご飯と聞いてダニエラが待ちきれないとばかりに歩き出す。


「ナナヤ、君も行くかい?」

「え、いいんですか? いくいくー」


 ギルド員さんこと、ナナヤも誘うアエネウス。まぁ、金を出すのは此奴だ。僕は何も言うまい。


「じゃあ行こっか、アサギさん」

「腕を組まないでくれ。胸を押し当てないでくれ。股間を撫でないでくれ」

「アサギ、後で話がある」

「ふえぇ……」


 こうしてユッカギルド乱闘事件は幕を閉じ、ダニエラとナナヤに挟まれたふえぇ系男子の後ろで爽やかな笑みを浮かべるアエネウスという奇妙な4人組は地元民の巧みなナビゲートに乗せられ、まんまと食事処へと連行されたのであった。



  □   □   □   □



 騒がしい。


 実に騒がしい。


「アサギくん、アサギくん……このやりはね、ほんとうにだいじなものだったんだ……うぅ、

あのときはどうなるかと……」

「あっはっはっは! アサギさーん! ほら此奴! あっはっは! アンタにボッコボコにされた冒険者!!」

「ナナヤさん……勘弁してくださいよ……」

「ぁあ? てめぇ、あんだけの騒ぎ起こしといて勘弁してくださいだ? 舐めてんのか? 冒険者資格剥奪すっぞ?」

「マジ勘弁してください……」

「もぐもぐ……ゴクン。ん? おかわりはまだか? すみませーん」


 本当に騒がしい……もっとこう、静かな場所で4人でつまみでも突きながらちびちび酒でも飲むもんだと思ってたのに……。これじゃあまるで学生が居る居酒屋の風景だ。


「ねぇ、きいてる? アサギくん、きいてる?」

「はいはい聞いてるって……もう飲むのやめたら?」

「そうはいかない……ぐぅ……これはやりがもどってきたおいわいなんだから」


 今ちょっと寝たよな、此奴……。


「ねぇねぇアサギさん、ちょっと」

「はい?」

「ねぇ、ちょっと、疲れちゃったから外出ない?」

「出ない」

「チッ」


 このギルド員なんなの……怖いんだけど……。


「アサギ、これ旨いぞ」

「ん? どれ……はむ、もぐ……もぐ……うん、本当だ。結構イケるな」


 ダニエラが差し出してきた何かの生地で巻いた何かを囓る。すると中から肉の甘味とピリッとしたソースが口の中で弾けて混ざる。生地ももちもちしてて美味しい。


「すみませーん。これ、持ち帰り用に30個程ください」


 あまりに旨かったので虚ろの鞄のストック用に注文してしまった。なに、金なら増える一方だ。旨いもん食う為に使ってこその異世界旅行だ。ま、貯蓄もするけどね。


 改めて周囲を見る。ここは居酒屋『花提灯』。そのお座敷だ。靴を脱ぐ文化があるのかと驚いたが、ナナヤが『靴を脱がないと汚れるって煩いのだけが面倒ね』とぼやいていたので、店主が決めたルールのようだ。

 そのお座敷の隣。簾のような仕切の向こうに居たのは先程、僕に喧嘩を売ってきた冒険者だった。しかも最初に話し掛けて、最初にぶっ飛ばしたグループだ。思わず睨んでしまったが、向こうはすっかり意気消沈してたのか、此方を見ないように顔を伏せるが、ある程度飲んで酔ったナナヤが今更のように気付いて首根っこ捕まえて此方まで引っ張ってきた。


 アエネウスは泣き上戸というか、絡み酒というか、非常に面倒臭い酔い方をする奴だったらしく、先程から如何にこの槍が大事かという話を延々と聞かされている。もう本当に面倒臭い。


 だが、飯と酒は素晴らしかった。先程食べたピリ辛なつまみも最高だし、酒も程良い口当たりで飲みやすい。メニュー表を見ると、ランチもやっているらしいので今度ダニエラを誘って来るのも良いかもしれないな。


「はぁぁ……でもさ、アサギさんが強くて本当に良かったよ。あんな乱闘騒ぎ、収められる人居ないもん」


 酒の力か、随分と砕けた雰囲気のナナヤが呟く。衣服も砕けた感じになっているので非常に目のやり場に困る。


「いざとなればギルマスとか出てくるでしょ?」

「あー、あの人は魔法系の人だから……」


 間に入ってじゃ無理があるか。


「止めようとして魔法放ったら建物が無くなる」

「あぁ、そっち……」


 まとめて吹き飛ばしてしまうパターンね……なるほど、ユッカのギルドマスターは危険人物、と。


「まぁ、良い人よ。優しくて可愛いし」

「可愛い? 女性なのか?」

「ううん、男の娘」

「男の子って、子供がギルマスなのか。帝国やべぇな……」

「ん? んー……まぁ帝国だしね」


 世の中、才能ってのはある奴にはあるもんだしな……僕みたいなのには遠い遠い世界だ。


 ふと、改めて周りを見る。アエネウスは冒険者に槍の大事さを話している。ナナヤは僕をジッと見て微笑んでいる。ダニエラはそれを横目につまみを食べている。時々、僕を睨みながら。


 まったく、騒がしいことこの上ない。が、こういうのも偶には良いなと思いながら僕はコップの中身を飲み干した。

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