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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百八十六話 キレるアサギ、キレるダニエラ

 日も暮れ始めてきた午後4時頃。観光兼迷子を終えた僕達はギルドへとやって来ていた。いつも通りの並びのカウンターを眺めて、『質問・その他』カウンターへと並ぶ。報奨金ということだったので『報酬引渡』カウンターでも良かったのだが、こういったやり取りで報酬を貰うのが初めてだったので、その他かなと。ダニエラと2人で相談して決めた。まぁ、そっちに並んでくれと言われたら並び直せば良いだけの事なので気にしない。時間もあるしね。


「次の方ー」

「はい」


 やや軽い感じで迎えられた先に居たギルド員さんはパツキンのチャンネーだった。いや、別に金髪が珍しいって訳じゃないのだが、こう、ギャルギャルしいというか……主に着崩した制服から見える巨乳がデカい。


「どこ見てるんですかー」

「あ、すみません」

「いえー、慣れてるんでー。で、御用は何でしょうかー?」


 グイッと足を持ち上げて組んで見せるが、ミニスカがヤバい。


「えーっと。衛兵隊から盗賊討伐の報奨金がギルド経由で支払われることになってるんですけど、どのカウンターに並んだらいいか分からなかったんで」


 と、僕とダニエラのステカを提示しながらギルド員さんに尋ねる。


「あーはい。ちょっと待って下さいねー」


 ステカを受け取ったギルド員さんは手元の読取機にステカをセットして中身を印刷する。吐き出された紙と僕を見比べながらふんふんと読み進めていく。なんか品定めされてるみたいで恥ずかしい。


「あー、はい。アサギさんとダニエラさんですねー。じゃ報奨金持ってくるんで、その辺で待っててくださいねー」


 それだけ言うとステカを僕達に返却し、ギルド員さんは何処かへ行ってしまった。離れる際に大人しそうなギルド員さんを捕まえてカウンターを指差してたので、僕の後ろに並んだ人達が放置されることは無さそうだ。


 大人しくカウンターを離れて、しかし離れすぎずに見える位置で待機する。


「さっきのギルド員の胸と足がアサギの好みなのか?」

「あんまり見ない格好だったからビックリしただけ」

「ふーーん」


 ダニエラが薄目で僕を見ながら疑ってくるが、僕はダニエラ一筋なのだ。見惚れることがあっても見初めることはない。

 それよりもあんな格好のギルド員はなんというか初めてだな。だいぶ砕けた感じというか……地域ごとに違う感じは見てて面白いな。

 と、手にステカを握ったままなのを思い出した。


「そうだ。ステータスオープン」



  ◇   ◇   ◇   ◇



名前:上社 朝霧

種族:人間

職業:冒険者(ランク:C)

二つ名:銀翆(ギンスイ)

LV:79

HP:773/773

MP:738/738

STR:398 VIT:393

AGI:827 DEX:419

INT:392 LUK:38

所持スキル:器用貧乏(-),森狼の脚(-),片手剣術(7/10),短剣術(6/10),槍術(2/10),弓術(2/10),大剣術(6/10),気配感知(7/10),夜目(4/10)

所持魔法:氷魔法(8/10),水魔法(7/10),火魔法(2/10)

受注クエスト:なし

パーティー契約:ダニエラ=ヴィルシルフ

装備一覧:防具

     頭-なし

     体-なし

     腕-なし

     脚-なし

     足-黒瞬豹(アクセルパンサー)革靴(ブーツ)

     武器-なし

        -なし

        -なし

     衣服-幻惑綿花の黒染めシャツ

        -悪戯芋虫の黒染めスボン

     装飾-なし



  ◇   ◇   ◇   ◇



「ふむふむ……」


 久しぶりにステータスの確認をする。元々DEXが高かったが、これが影響したのか大剣術も2から6へと上がっている。うん、大剣は良い感じになったな。体力も筋力も魔力も、平均的に上げられている。これも《器用貧乏》先生の為せる業か。手先だけ高いのが相変わらずという感じ。

 さてさて、僕はゲームでも平均的にレベルを上げて来たタイプなので、大剣は一旦ここで満足しておいた。となると次に使う武器だが……。


「んー……」

「何か悩み事か?」


次に使う武器に悩んでいることをダニエラに伝えるとダニエラはそれなら、と僕の鞄から何かを取り出す。背中側の出来事なので見えない。


「これを使えばいい」

「ん? おぉ、此奴か」


 それは湿地の主から鹵獲した槍だった。そういえば此奴があったな。弓か槍で悩んでいたが、これがあるなら槍にするべきだろうな。


 と、次に使う武器が決定したことで誰かが前に立つ。報奨金の準備が出来たかな。


「なぁ、ちょっといいか」

「はい?」


 しかし顔を上げると、そこに居たのは知らない冒険者だった。


「その槍、俺は見たことがある」

「はぁ、そうなんですか」

「其奴はこの町でも有名だった冒険者、アエネウスさんの物だ」

「そうですか。でも持っていたのは湿地の主ですよ」

「証拠はあるのか?」


 証拠、と言われると実はない。あの後、エラの回収はしなかった。というより、僕はクッソ眠かったし、疲れて忘れていた。ダニエラは寝ていたし。それに歩き出してすぐに大雨が降り出してエラのことなんかすっかり忘却の彼方だったのだ。


「ない。けれど湿地に行けば分かる。彼処にもう主は居ない」

「そんなことが証拠になるわけねぇだろ。俺はあの人に憧れてたんだ。返してくれ。お前みたいな余所者が持っていていい物じゃない」

「はぁ? 憧れるのはアンタの自由だが、だからといって此奴を渡すつもりはない。消えろ、ぶっ飛ばされんうちにな」


 横柄というか、横暴というか。無茶苦茶な事を言う奴にはそれ相応の態度で接することが冒険者として生きるコツだ。コンビニ店員だった僕は謙ってばかりだったが、もう僕は陽の光の下で働く立派な社会人なのだ。自分の地位というものを守っていかねばならんのだ。


「てめぇ……アエネウスさんを殺して奪ったんじゃねぇだろうな!?」

「はぁ!?」


 此奴の頭の中はお花畑かよ!? んなわけねー!


「皆、ずっと姿が見えなかったアエネウスさんの行方が分かったぞ! 此奴が殺したんだ! あの人の槍を持ってる!!」

「ちょ、待てこの野郎、ふざけんな!!」


 僕達のやり取りを遠巻きに見てた冒険者達が立ち上がり、こっちにやって来る。おいおいおい、どうなってんだ……。


「ダニエラ、どうする」

「騒ぎになるのは避けられんな……とりあえず私も言い掛かりを付けられて頭に来ている。ぶっ飛ばしてやろうか」

「へっ、ぶっ飛ばされんのはテメェ等の方だ。よくもアエネウスさんを……」


 パキポキと関節を鳴らす冒険者。しっかり防具も着込んでやる気満々だ。まぁ、クエスト帰りなのだろうけれど。

 それに対して僕達はデートの途中に寄っただけだ。服も普通のガイア服だ。素材も魔物製ではない。ちょっと特殊でその辺には生息していない生き物と植物から紡いだ糸で織った服だとトゥリアさんが言っていた。


 どんどん集まってくる冒険者。アエネウスとやらは慕われていたようで羨ましい限りだが、同時にクソ面倒な事を起こしてくれて恨めしい。


「此奴がアエネウスさんを?」

「その槍、アエネウスさんのだ! 俺も見たことあるぜ!」

「よく見りゃ卑怯そうな顔してやがる。きっと後ろから襲ったに違いない」

「よくもアエネウスさんを……!」

「女も共犯だ! 纏めてぶっ飛ばしてやる!」


 カチンと来ていた僕の感情はプチンと切れた。まぁ、僕は素早さしか能がない人間だから、それなりの戦い方をするしかない。それが卑怯だと言われてもまぁ、受け入れるさ。それが顔に出ていたとしても受け入れるさ。

 だけど、ダニエラは無関係だろう。ダニエラはこんなにも綺麗で、強くて、格好良くて、可愛くて、あと食いしん坊で……。そんなダニエラを纏めてぶっ飛ばすだ?


「おいお前ら……死んだぞ!!」


 ブチ切れた僕はなりふり構わず正面に立っていちゃもんを付けてきた奴の顎を蹴り上げた。血を吹いて吹っ飛ぶ其奴へ追撃はせず、ダニエラをぶっ飛ばすと言った野郎の頭を蹴り飛ばす。


「てめぇ!」

「やっちまえ!!」


 遅れて反応してきた冒険者がそれぞれ拳を握り締めて殴りかかってくる。それを躱してカウンターの蹴りを入れてやる。と、そこで油断してしまった。背後から殴られて床を舐める。


「クソが!」

「アサギ!」


 冒険者の1人を鞭のような蹴りで床に沈めたダニエラが僕を殴った奴を蹴り飛ばす。


「僕が何したって言うんだ!」

「アエネウスさんを殺したんだ! なら俺達に殺されて当然だ!」

「ぁあ!? だから殺してねーって言ってんだろうが!!」


 ふざけたことを抜かす馬鹿野郎を殴り飛ばす。


 そのまま喧嘩をしていると増援が見えた。野次馬だった奴等が喧嘩に加わり始めたのだ。ふざけやがって、祭りじゃねーぞ!

 更に繰り広がる喧嘩。僕も殴られながら蹴り飛ばし。蹴られながら殴り飛ばす。ダニエラに殴り掛かる奴を優先的に排除する。


「はぁ、はぁ……クソが……」


 血の混じった唾を床に吐いて拳で口元を拭う。


 僕とダニエラの足元には殴られ蹴られ、気絶したり呻いている冒険者達が転がっている。其奴等を踏み越えて向かってくる奴は居ない。


「なんだ此奴等……めちゃくちゃ強ぇぞ……」

「だからアエネウスさんを殺したんだ!」

「だから、殺してないって、何べん言やぁ分かるんだボケ共が……!」


 一向に信じない連中にイライラし、どんどん頭に血が上る。


「次にぶっ飛ばされたいのはどいつだ……?」


 一歩、前に出る。踏まれた冒険者が呻くが無視した。


「次からは本当に容赦しないぞ」


 前に出した足に銀翆に風を纏わせると、ザリザリと風が足の下の冒険者の軽鎧を削る。すると、今更のようにざわざわとどよめきだす周囲。


「おい、あれ……」

「銀と翠の風って、まさか」

「や、やべぇ……!」


 広まった悪名が尾ひれのついた噂を纏って勝手な妄想が伝播していく。それを常に煩わしく思っていたが、此処でこんな展開になるとは僕も思っていなかった。抑止に繋がるなら、今は受け入れよう。


「やぁ、彼が言っているのは本当だよ」


 と、その場の空気を裂くような明るい声が聞こえてくる。どこか楽しんでるような声だ。


「ほら、彼が殺した湿地の主だ」


 と、観客の向こうから何かが投げ込まれ、ゴトンと床に落ちる。周囲の視線がそれに集まる。勿論、僕とダニエラの視線も集まる。


「サハギンは槍を使う魔物だ。同じ槍使い同士、戦ってみたんだがね。やぁ、不意を突かれて槍、取られちゃった」


 声の主が観客を押し退けて割り込んでくる。まるで槍の持ち主のようなセリフだが……。


「あんた……反対方向に行ったはずだろう」

「やぁ、別に反対方向に行ったのは主が出て来るのを待ち伏せする為で旅じゃないよ」


 僕の前で楽しげに笑う乱入者。それはあの湿地の道ですれ違った男だった。

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