第十八話 名誉挽回
さて、因縁の森へ来た。僕は気配が読める程ベテランじゃない。周りにフォレストウルフはいるのだろうか?
「そうだな…この辺りにはいないだろう」
「そっか。じゃあステータスチェックしようか…と思うんだけど、パーティー間でのチェックは禁止だったりする?」
「いや、そんなことはない。君のAGIも気になるしな。チェックしよう」
ダニエラからも許可が出たのでステータスカードを取り出す。お互いにいつもの文句を唱える。
「ステータスオープン」
◇ ◇ ◇ ◇
名前:上社 朝霧
種族:人間
職業:冒険者(ランク:E)
LV:21
HP:236/236
MP:170/170
STR:90 VIT:83
AGI:276 DEX:125
INT:75 LUK:12
所持スキル:器用貧乏,片手剣術,短剣術,槍術
所持魔法:氷魔法,水魔法,火魔法
受注クエスト:フォレストウルフ駆除依頼
パーティー契約:ダニエラ=ヴィルシルフ
装備一覧:頭-なし
体-革の鎧
腕-革の小手
脚-なし
足-革の靴
武器-鉄の剣
-鉄の短剣
装飾-なし
◇ ◇ ◇ ◇
名前:ダニエラ=ヴィルシルフ
種族:白エルフ
職業:冒険者(ランク:C)
LV:67
HP:689/689
MP:678/678
STR:364 VIT:263
AGI:268 DEX:400
INT:351 LUK:29
所持スキル:新緑の眼,気配感知,細剣術,弓術
所持魔法:風魔法,土魔法,水魔法
受注クエスト:フォレストウルフ駆除依頼
パーティー契約:上社 朝霧
装備一覧:頭-森の民の面
体-森の民の軽鎧
腕-斑狼の小手
脚-灰鴉のレギンス
足-森蜥蜴の革靴
武器-死生樹の細剣
-死生樹の弓
装飾-森の民のケープ
-森の民のペンダント
◇ ◇ ◇ ◇
速報、ダニエラ、めちゃくちゃ強い。ていうか……
「エルフ?」
「あぁ、白エルフだ。言ってなかったか?」
「うん、聞いてない」
「そうか」
エルフかぁ……ファンタジーだなぁ。確かに耳は尖ってたけど。まさか、って感じだ。ていうか白エルフってことは白以外にもいるんだろうな。
「こんなに強いならあの時公園で囲まれても問題なかったんじゃ?」
「確かに敵にはならなかったが……町中での戦闘は、な。それに普通、あんなに大勢で囲まれることもない。油断していた」
「それもそうか……ま、ダニエラには期待だな」
こんなに強いなら敵も余裕だろう。とは言え、パワーレベリングは趣味じゃない。自分で出来ることは自分でしよう。
「まぁ、本気を出す場面では頑張るが、基本的にはアサギに合わせるつもりだ。それにしてもアサギのAGIは高いな……私より速いじゃないか」
「速いだけだよ」
「いや、速さは馬鹿に出来ない。想像してみろ。目にも止まらない速さで一方的に攻撃される様を」
「……きっついな」
「だろう?」
想像するだけでチート感が凄い。主人公補正なんて無いはずなのに。
「魔法覚えたてにしてはMPが高いな……いや、魔力を意識したことで数値が引き上げられた感じか」
「確かに今まで感じなかった自分の魔力を感じるよ」
自分の中に宿る魔力。今までになかった感覚だ。こう、ふわっとした感覚だが……。
自分のふんわりとした感覚より、他人のステータスが気になるお年頃の僕はダニエラのステータスに記載された《新緑の目》というスキルが気になった。見た感じ、ユニークスキルだろう。
「ダニエラのそれもユニークスキルなんだろう? そんなに珍しくないのかな」
「そんなことはない。滅多にいないぞ。私達はたまたま二人とも持ってるだけさ」
「なるほど……僕のスキルは手にした物の扱い方や体捌きが頭の中にイメージとして湧くやつなんだ」
「じゃあ初めて手にした武器でも最善の動きが出来るってことか?」
「まぁ……そうなるな」
「それって、凄いんじゃないか?」
「器用、ならいいんだけどね。器用貧乏ってのが引っかかってる。まだ全部分かった訳じゃないんだ」
そう、未だにこの《器用貧乏》という言い回しに引っかかっている。このスキルに頼って武器を振るっていたら、いつか手痛いしっぺ返しを受けるんじゃないかと戦々恐々としている。色んな武器が使えるからと言って色んな武器に手を出さないのはそこだ。触ったことのある武器は槍と片手剣と短剣。その剣術スキルが生えていた。前回のチェックでは生えていなかったが……スキルとして把握されるレベルではなかったのかな。まぁ、まずは片手剣と短剣をマスターするつもりだ。
今もゴブリンと戦っている時に脳裏にふっと体捌きが過る時があるが、そいつを無くすのが目標だ。まずはスキル無しで完全に動きを物にする。ある程度の動きは分かるんだから、それほど時間が掛かるとは思っていない。出来るだけ早くマスターして次の武器へいきたい。
「ちなみにだが」
「ん?」
「私のユニークスキル《新緑の目》は森や平原で暮らしている種族に時々発現するスキルなんだが、風の動きや風の精霊が見えるんだ」
「精霊とかいるんだ?」
「いるぞ? ほら、今、アサギの頬を撫でてる」
そっと風が頬を撫でていく。これが精霊さんの仕業なのか。
「ふふ、気持ち良いな」
「アサギは精霊に愛されやすい体質なのかもな」
「是非とも氷や水の精霊さんと仲良くなりたいもんだ」
ついでに火の精霊もな。
お互いのステータス、スキルの確認をしてからしばらく歩いた時だった。
「アサギ、伏せろ」
声に出して応えるより早く森の地面に伏せる。隣でダニエラも伏せて目の前の茂みの奥を睨む。
「こちら側は風下だからバレていない。見ろ、フォレストウルフだ」
「どれどれ……」
茂みの隙間からその先を見つめる。ふんふんと鼻を鳴らしながら地面を嗅ぐ薄い緑の体毛の狼がいた。忘れるものか、あの姿。僕をさんざっぱら追い回してくれたフォレストウルフだ。憎き狼が茂みの向こう50mくらい先に6匹の群れで歩いていた。餌でも探しているのだろう。頻りに地面を嗅いでは辺りを見回している。
「どうする?」
「風はほんの微風だ。まずはこの距離から弓で射る。どうだ、アサギ、この弓は貸せないが今度やってみるか?」
僕のスキルがどういうものか知っているダニエラ僕に提案する。だが僕は首を横に振る。
「いや、まずは剣の使い方をマスターしてからだ。何でもかんでも手を出すと全部が中途半端になる。それこそまさに器用貧乏さ」
「ふむ、それもそうか。悪かった。スキルに振り回されない考え方は立派だぞ」
微笑みながら弓に矢をつがえて弦を引き絞る。そして前を向いた時には微笑は消え失せ、鋭い視線で狙いを定める。先程見たステータスに表示されていたその弓の名は『死生樹の弓』。白紫色の弓は一切の音がしない。特殊な木から作られたからか、それとも風魔法の効果か。引き絞る音も、放つ際の音も。
その無音の弓から放たれた矢は真っ直ぐに相変わらず地面を嗅ぐフォレストウルフの首へと吸い込まれた。矢の威力に吹き飛びながら絶命する。
「よし、行くぞ」
「おう!」
立ち上がり、茂みを越えて走りながら抜剣し、全速力で接近して一番近い狼の首を落とす。流石お弟子さん、相変わらず良い武器だ。大将の武器が楽しみになる。
期待に頬を歪めながら油断無く周りを見る。我に返ったフォレストウルフが吠えながら背を向けて走り出す。いきなり2匹が死んで不利と見たか、だが逃しはしない。
その背を追いかけてバッサリとやる。ダニエラを見ると突進と共に細剣を突き出してフォレストウルフを串刺しにしてる。素早く引き抜いた後の両方の穴から鮮血が吹き出し、倒れる頃にはこちらへ走り寄っていた。
「ふふ、見惚れている場合か?」
「格好いいぞ、ダニエラ」
「ば、馬鹿なことを言うな!」
自分から言っておいて照れるなんて可愛い奴め。
残りの2匹を追い掛ける。なかなか速い。が、僕とダニエラの方が速かった。あっさりと追いつき、苦しませないよう一撃で首を切り裂く。ダニエラも心臓を一突きだ。
初めてのフォレストウルフ戦は完勝。雪辱を果たした僕は一人、天に向かって拳を突き上げていた。




