第百七十二話 続・ダニエラの防具探し旅
店に入って最初の印象は『薄暗い』だ。日光に当てると色が変わってしまう物とかはよくあるけれど、きっとそんな商品が置いてあるのだろう。窓の僅かな隙間から差す陽の光にキラキラと埃が輝く。
店内には所狭しと防具が乱雑に積み上がっていた。テレビで見た『掃除が出来ない人』の部屋によく似ているが、『骨董品屋』と言われると何となく納得してしまうのは言葉の強さだろうか。
そんな防具と防具の隙間を縫うように歩き、体がぶつかってしまわないように気をつけながら奥へ進むとダニエラが店主らしきお爺さんと話をしていた。
「此処に私の為の小手があると思うんだ」
「そうかいそうかい……」
「しかしこれだけあると見つからない。場所だけでも教えて欲しいんだが」
「そうかいそうかい……」
ダニエラと話すお爺さん……完全に呆けてるんじゃないかな……。
店の端でダニエラと作戦会議をすることにした。
「あの店主は駄目だ」
「いや駄目ってのは流石に……」
「ああなってはおしまいだ」
急いでいるだけに若干辛辣なダニエラ。
「だが此処に良い防具があるのは間違いない。私の勘がそう言っている」
「そうなのか? まぁダニエラがそう言うならあるとは思うんだが……」
思わず周りを見回してしまう。
「この中から探すのは骨が折れるぞ……」
「だから私も店主に聞いてとっとと見つけてしまいたかったのだが、あれではな……」
ダニエラが防具の隙間からコックリコックリと船を漕ぐ店主を見て溜息混じりに首を横に振る。
「ダニエラ、ここは手分けして探そう。まずは小手コーナーを見つけ出す」
「だな……よし、早速行動に移ろう」
「待てダニエラ。これを……」
虚ろの鞄から綺麗な布を取り出す。それを持ってダニエラの口と鼻を覆うように被せて頭の後ろで結んでやる。埃対策だ。僕も同じように口と鼻を覆う。
布の具合を確認し頷き合い、別々の方向に進む。僕は入口に背を向けて左側の捜索だ。ダニエラは右側。ついでに少し防具を詰めて店の中央に空きスペースを作っておく。いざ小手が見つかった時に検証する為の場所が無いと困るからだ。
「……うん、こんなもんだな」
適当に1m四方の空間を作り、少し遅れて捜索を開始することにした。
□ □ □ □
店の端から手を付け、ガサゴソと防具を出来る限り丁寧に扱いながらどけて、更に手を突っ込んでガサゴソ。
それをひたすら繰り返して数時間。ずっと曲げていた腰の痛みにググ、と伸ばしながた店内を見回す。あっちこっちに動かしていたつもりが、最初に見た時より整理されているような気がする。無意識に整頓していたのかもしれない。
「品物整理だと思うと職業病みたいなのが出てくるのかもな……」
魂に刻まれた動きを無意識にしてしまうのは仕方のないことなのだ。この調子で整理……じゃない、捜索をしていこう。
ちなみに、小手のコーナーは無かった。そもそもコーナーという概念がこの店にはないらしく、あっちこっちから色々な防具が転がり出てくる。鎧の中から盾が出てきたり、ブーツの中から小手が出てきたり……だから整理整頓の血が騒いでしまうのかもしれないな。
そんなことを考えながら、僕は再び捜索に没頭することにした。
それからまた数時間。空きスペースにある程度の小手が集まってきた。そして日も暮れてきたので今日はここまでにしようということにしたかったのだが……。
「アサギ、照明の魔道具があっただろ。出してくれ」
「まだやるの……?」
「あぁ」
ダニエラは真面目な顔で言う。本気で探す気満々だ。なら、付き合うしか無いじゃないか……。
鞄から照明の魔道具を取り出して店内に吊るすと、薄暗かった店内がパッと明るくなる。これなら最初から出しておけば良かったと今更に思う。日光じゃないから防具の劣化も抑えられるだろうしな。
ということで延長戦が始まった。今度は左右を入れ替えて探していく。お互いに見過ごしている場所を探す形だ。もう見つからないだろうと諦めた場所。無意識的に此処には無いだろうと見過ごした場所を2人で手分けして探していく。照明の力もあってか、一度探した場所にも関わらず、結構な数の小手が見つかった。
時計の針が天辺を差す頃に漸く捜索が終了した。店主のお爺さんはいつの間にか店の奥へと引っ込んでもう寝てしまっている。そういう習性だけが残っているのだろうか……。
「はぁぁ……疲れた……」
「じゃあ明日、鑑定眼鏡で調べていこう」
「だな……おのお爺さんもまさか片付けたりしないだろう」
これまでの散らかり具合から何もしてこなかったのがよく分かる。今更この小手を見て何か始めることもないだろう……ということで、店の戸を閉めて宿に戻ることにした。鍵はダニエラが風の精霊にお願いして掛けてもらっていた。
□ □ □ □
翌日。アスク12日目の朝。僕達は早速昨日の骨董品屋に出向く。
「ん……もう開いているのか」
「年寄りの朝は早いから」
「そういうものか」
朝4時に軽トラでコンビニに来ていた老夫婦を思い出す。朝の納品と共にやって来るあの爺さん婆さん、今も元気にやってるんだろうか。
「すみませーん」
一応、声を掛けながら戸を開く。すると店主のお爺さんは昨日と同じ位置に座っていた。店内が整理されて此処からでも見えるようになっていて少し笑った。
「アサギが居ると捜索が整理整頓になってしまうな」
「癖なのかもな」
そんなことを話しながら店の中央に集められた小手の元へ行く。うん、昨日のままだ。
「……よし、ここからは鑑定眼鏡で調べていくぞ。素敵な小手があったらこっちの箱に置こう」
「了解」
ダニエラの指示に従い、虚ろの鞄から鑑定眼鏡を取り出す。此奴は風化した建物の下に隠されていた古代エルフの遺跡から発見した魔道具だ。掛けて何かを見ればそれが何か鑑定してくれる優れ物だ。一緒に自動人形も見つけたが、今はまだ鞄の中である。
とりあえず一番傍にあった小手を持ってジッと見る。
『鎧兎の小手 一部破損』
と、表示される。ここでこの『鎧兎』という文字を意識的に注視するとその単語の説明文が表示される。
『鎧兎 Cランク相当の魔物。背中に硬い鎧を持つ。美味』
こんな感じだ。これで高ランク魔物やレア鉱石で出来た小手を探していくのが今日の予定だ。とりあえず此奴はハズレということで、確認済みの箱の中に入れる。これを何度も何度も繰り返していくんだから、今日は昨日より重労働だ……さぁ、気合を入れて探していこう。
……と、気合十分に探し始めたのが朝。今はもう夜。本気で気合を入れすぎて時間の経過が分からなかった。それはダニエラも同じようで、流石に自分の装備ということで普段よりも増しに増して本気を出しているのが伺える。それに当てられた感じだな……。
でもお陰様で素敵な小手が見つかった。厳選に厳選を重ねて今は4つの小手が手元にある。
『風蛇の小手 一部破損』
『白化した風鉱石の小手 魔力欠乏』
『地狼の小手 一部破損』
『鎖縛石の小手』
以上の4つだ。魔物由来の物は説明不要だろうと思う。白化した風鉱石は魔力が無くなるとこうなるらしい。再び翡翠の魔力を込めれば風鉱石としての力を取り戻すらしい。ただし、結構な量だそうだ。4つ目の鎖縛石の小手がちょっと骨董感のあるもので、実に珍しい鉱石らしい。
「此奴はあまり世に出回らない鉱石だ」
「なんで?」
「魔力を込めると鎖で縛られたように動けなくなる石なんだ」
「それはまた変な能力のある石だな……」
これを使った事業が昔、流行ったらしい。
「これに魔力を込めて相手に向ける。すると伸びた鎖状の魔力が相手を縛るんだ」
「ふむ……」
「そうして多くの奴隷が出来上がった」
そう、奴隷狩りに使われた鉱石だ。かつては多くの亜人種の子供や女性が捕まえられたらしい。ダニエラの種族もその追手から逃れて出来上がった部族らしい。逃げて逃げて、草原の種族になったと。
「私が生まれた頃にはこの鉱石を危険視した団体が世界中で破壊し回ったらしい。噂ではその団体を起ち上げたのが勇者だったという話だ」
「勇者ね……」
今のところ、都合よく現代日本からの転生者と出会えているが、もし同じ時代から来ているとすれば、納得出来る話だ。その時代には奴隷は存在しない。奴隷の身分に堕ちた人間を見たら助けてしまうのは道理というものだろう。
「お陰で多くの奴隷商人が廃業に追い込まれたが、一部では今も裏稼業として動いているという噂もある」
「人身売買は、金になるからな」
悲しい事に、人というのはそれなりの値段になってしまう。労力も価値も、無視出来ない。ただ殺すよりは労力にというのが今の鉱山奴隷だ。人は生きてるだけで何かの価値があるのだ。
「この小手が万が一、そういった人間の手に渡ってしまったら大変なことになる。だから私はこの小手にしよう。使い方を間違わなければこれは良い物だからな」
魔物へ向ければその動きを縛ることが出来るのだからな、とダニエラは言う。確かにそうだ。どんな物でも使い方一つで良くも悪くもなる。ならば、良い方向に使うべきだ。そうすることで、この鎖縛石も報われるだろう。
「じゃあこの小手をお買い上げだな」
「あぁ、店主に見せてくる」
「僕は此処を片付けておくよ」
ダニエラに財布を渡して僕は小手を纏めて置く。軽鎧コーナー、重鎧コーナーと、いつの間にか各種防具のコーナーが出来上がっていたので小手コーナーも作っておいた。これで見やすいだろう。改めて店内を見回すと、最初の散らかり具合が嘘のように綺麗に整頓されていた。照明の魔道具も一部寄付ということで天井から吊り下げておいた。うん、これで客も増えることだろう。
と、満足しているとダニエラが戻ってきた。
「いくらだった?」
「金貨8枚だった」
あの爺さん、どうやら金の事となると呆けなくなるらしい。全く、きっちりしてやがるぜ。




