第十七話 新たな日常
黒兎騒動は終わった。と、思う。これから向かう冒険者ギルドでの反応次第だ。
ダニエラとパーティーを組むことになった。
中央詰め所から出た後に話したこの騒動の始まりの部分、それがきっかけだった。
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「初めてこの町に来た時さ、フォレストウルフの群れに追い掛けられてたんだ。転がり込むように西門に飛び込んでさ、その様子を見た冒険者が僕の様子と髪の色を見て『まるで黒兎だ』って言ったのが始まりだったんだ」
「群れだと? 大丈夫だったのか?」
「あぁ、僕、あとから知ったんだけどAGIめちゃくちゃ高くてさ。あ、その時はそれほどでもなかったんだけど……兎に角追いつかれること無く逃げられたのさ。その時に助けを求めたのが……」
「ラッセル隊長、か」
「正解。ラッセルさんが門の近くにいなかったら多分、食い殺されてた」
あの時は本当にやばかった。また死ぬのかと思ったね……。
「なるほどな……。ふむ……アサギ、私とパーティーを組むぞ」
「ん?」
「ん?」
「いや、どうしてそうなった」
「君は見てて危なっかしい。冒険者初心者のくせに無茶なレベルの上げ方をしているだろう?」
鋭いな…僕は居住まいを正してじっと見つめる。
「どうしてそう思う?」
「当時はそれほどでもなかった、ということは今はそれなりに高い訳だろう? 初心者ならまだ戦闘も数回のはずだ。なのにアサギ、君は積極的に戦ってるだろう?」
バラしてたのは僕だった。思わず視線を逸してしまう。
「……」
「ふふ、君の話をちゃんと聞いていれば分かるさ。それをやめろとは言わない。だが心配だ。なので、一緒に戦おう」
「良いのか?」
「あぁ」
「じゃあ……よろしく、ダニエラ」
「こちらこそ。背中は預けるぞ?」
「はは、まだ早いって」
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そいう経緯があった。なんてことはない。ダニエラは僕のことを心配してくれたのだ。昨日、夜店の前でぶつかっただけだった僕のことを。
この世界に来て、嫌なことは勿論あった。木の上で寝るのも、歩き続けるのも、魔物と戦うのも、黒兎って呼ばれるのも。
でもそれと同時に僕を気にかけて、優しくしてくれる人も多かった。
何だかんだ言って恵まれてるなぁ。人と人との縁こそが生きる上での大切なコツだと、改めて実感した。
いつものように冒険者ギルドに入ると、そこにはガルドとネスが僕を待ち構えていた。
「アサギ、すまなかった」
「本当にすまなかった!」
そう言って二人とも頭を下げる。ギルドの空気が静止してシンと静まり返る。
「ガルド、ネス」
「お前ェに『釘を刺しておいてくれ』って言われたのに何も出来なかった。助けにもなれなかった」
「俺が酔っ払って、吹聴しちまった所為でこんな大事になっちまった。謝るだけじゃなくて、自分でどうにかするべきだったんだ……」
「なぁ、二人とも、頭を上げてくれ」
「だけどよう……」
「良いんだ。もう終わったことだ。騒いだ奴等は捕まったし、二人も謝ってくれた。それに、これからまた黒兎って言う奴がいても二人が何とかしてくれるんだろう?」
そう言うと二人は顔を上げる。その表情は申し訳無さでいっぱいで今にも泣きそうだった。
「ほら、そんな顔するなよ。二人はここに来て初めて出来た冒険者仲間なんだ。あの時も心配して駆けつけてくれたじゃないか。感謝してるんだよ」
「馬鹿野郎…あれは、衛兵の手伝いだ!」
ガルドが顔を背けて言う。ネスは赤くなった目を袖で擦る。
「アサギ、本当にすまなかった! これからはもう、仲間だ!」
「あぁ、お前ェと俺達は対等な仲間だ! 悪く言う奴はいねぇよな!?」
ガルドが酒場をキッと睨む。昨日の騒動には参加しなかったが、僕を黒兎を囃し立てていた連中はガルドの視線から逃れるようにテーブルを見つめる。
「これで一件落着、かな」
「アサギ、良かったな」
ダニエラが僕の肩にそっと手を置いて言う。
「あぁ、ダニエラもありがとう」
「良いさ。私も君と対等の仲間、だからな」
ふふ、と優しく笑うダニエラに思わず顔が赤くなる。さ、さては惚れたな?
「ところでアサギ」
「なんだ、ネス」
「そこの美人さんは誰なんだい?」
ネスがいつものヘラヘラ顔でダニエラを見る。立ち直り早いな。
「あぁ、紹介が遅れた。彼女はダニエラ。昨日の騒動に巻き込まれちゃってさ。それから訳あって僕とパーティーを組むことになった」
「ダニエラだ。よろしく頼む」
お互いに手を出して握手するダニエラとネスとガルド。僕は冒険者としての縁が広がっていくような感覚を感じた。
□ □ □ □
二人と別れてから、僕はダニエラを二人で登録受付カウンターに来た。今日の担当ギルド員さんはあの時の文学少女、フロウだ。
「お久しぶりです」
「あ、アサギ様。お久しぶりです。とは言ってもギルド内では見かけていましたが。本日はどのようなご用件で?」
見られていたらしい。まぁ僕が来る度に騒がしくなるから当然か。
「はい、今日はここにいる彼女とパーティーを組みたくて」
「はい、パーティー登録ですね。ステータスカードの提示をお願いします」
ダニエラから受け取ったステータスカードと僕のステータスカードをフロウが手に持つトレーに乗せる。
「ありがとうございます。すぐ済みますのでその場で少々お待ち下さい」
そう言って奥に引っ込むフロウ。その小柄な後ろ姿を見送ってからダニエラと適当に話していると数分で戻ってきた。
「お待たせしました。パーティー登録完了です。ステータスカードをお返ししますね」
トレーに乗せられたステータスカードを受け取り、ダニエラにも渡す。
「ありがとうございました」
「いえいえ、お仕事ですから」
小さな口を手で隠すように上品に笑うフロウ。最初はつまらない奴等の所為で変な感じになっちゃったけれど、今はもう普通に接してくれる。ありがたいな。
そんなフロウに礼を言って、ギルド内の酒場に移動した。二人で並んでバーカウンター席に座ってマスターにつまみと果実水を頼む。しばらくして出された料理は川魚のムニエルだった。この酒場、荒っぽい連中が多いのに料理は変に上品で不思議だ。
二人で料理を突っつきながら、今後のことを話す。
「僕はフォレストウルフを狙おうと思ってる」
「フォレストウルフか。二人なら多少の群れでも何とかなるだろうな」
小さな骨を皿の隅に追いやりながらダニエラが言う。
「フォレストウルフの住む森は北に広がっているんだけど、ダニエラはこの町にきたばかりだっけ?」
「あぁ、商隊と一緒に東の平原を抜けてきた。そちらの平原はグラスウルフばかりだったな」
「グラスウルフ?」
「平原に住む狼が魔物化した奴だ。フォレストウルフと違って黄緑色の体毛だな」
なるほど、じゃあ僕が食った狼はただの狼か。
そんな話をしながら料理を完食した。さて、そろそろ森へ行こう。ダニエラと二人でクエストを受注した僕達は西の門を抜けて森へ入った。
2日続けての豪遊で更新が遅れました。明日からは通常営業です。




