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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百六十九話 職人街の服屋さんへ

 宿にはその後、フラフラしているうちに着いた。やっぱり歩いていればどこかしらで着いちゃうものなんだな……その日は良い感じに歩き疲れたのでそのまま寝てしまった。


 次の日、アスクに来て4日目の朝だ。今日もギルドに顔を出す予定だ。ウィンドドラゴンの素材が売り出されて、その売上金を受け取りに行くのだ。何割かはギルドが手数料として取るが、それでも大金が僕達に入ってくる。

 いつもより少しそわそわした雰囲気のダニエラはさっさと朝食を食べて出掛ける準備をしている。僕も遅れないように腹に詰め込んで外行き用のラフな格好をする。


「アサギはそんな格好だから舐められるんだ」

「えー? でも動きやすいし涼しくて気持ち良いし……」

「まったく……」


 ブツブツとダニエラは言うが、でもあんまり重ね着をすると暑いしな……今日行く服屋で何かあれば買おうかな。


 宿を出て通りを真っ直ぐと歩いてギルドへ行く。朝一ということで活気があって賑やかだ。でも賑やかなクエスト板には寄らず、『換金』カウンターへと行く。朝から並んでいる人間も居ないので待つこともなくギルド員さんの前に到着した。今日の相手もセーヌさんだ。


「おはようございます、セーヌさん」

「おはようございます、アサギ様。換金が済んでおります。此方へどうぞ」


 すぐにセーヌさんは立ち上がり、いつもの『応接室』へと向かう。胃が……。


「アサギ様?」

「なんでもないです」



  □   □   □   □



「さて、早速ですが此方が代金となります」


 応接室に入ったセーヌさんが懐からパンパンに膨れ上がった革袋を取り出した。何処に仕舞ってたんだ?


「ウィンドドラゴンの鱗、皮、翼膜、鬣、角、爪、牙、骨、そして眼球、心臓を始め、内臓諸々……それら全ての状態は最良。欠損部位も無く、極めて完全な状態での出品でしたのでその全ての部位に最高金額が付けられました」

「それで、お値段は……?」


 思わずゴクリと唾を飲み込む。


「金貨2000枚です」

「2000!!!」


 とんでもない金額じゃないか……!


「竜種自体が非常に珍しい存在です。中でも成体をあれほど傷もなく仕留めることはほぼ不可能です。この『ほぼ』というのはアサギ様だけに向けられる言葉だと思ってください」

「じゃあつまり、市場にあれだけのウィンドドラゴンが出たことは……?」

「皆無です」


 ううむ……史上初、いや、市場初の状態のウィンドドラゴンであれば、それだけの金額がつくのも納得出来……るのか? 思わずダニエラの顔を伺う。


「……いや、私を見られても困る」

「でもだって、こういうのはほら、ダニエラでないと分からんし……」


 異世界の市場事情なんて分からん。


「まぁ、そうだな……市場に昔流れた竜種、アクアドラゴンの角が殆ど傷のない状態で金貨300枚だった気がする。アクアドラゴンの角は嵐を呼ぶとされていて貴重な点も踏まえてだがな」


 ふむふむ。


「それを基準として、ウィンドドラゴンの各素材に金額をつけていくとしたら……まぁ、妥当なんじゃないか? ギルドが手数料を差し引いての2000だから、実際はもう少ししたはずだ」

「そうですね」


 なるほどな。


「まぁ、アサギが狩ったドラゴンだ。それだけの値段がつかないとおかしい」

「いやそれは買い被り過ぎだからな」


 だいぶ本気出した結果があれだから。なんてったって必殺技だからな。必ず殺さないと必殺技にはならない。


「兎に角、此方がアサギ様の受け取るお金になります。金額が金額なので早くその鞄に仕舞った方がよろしいかと」

「それもそうですね。では……おっも」


 金貨1枚が30gくらいだとして、2000枚だから……60kgか。米1俵かよ。本当にセーヌさん、どっから出したんだ?


「……あ」


 ジッとセーヌさんの服を見る。あのポケットから出してたな……さては……。


「アサギさん、それ以上はいけませんよ」

「はい」


 氷の微笑と共にポケットを右手で隠すセーヌさん。内緒らしい……。まぁ、何かの縁でレイチェルが何かしたのだろう。僕は何も見てないし知らないよ。

 虚ろの鞄を逆さまにして革袋に被せて仕舞い、何もなかったかのように席に戻る。


「では以上でアサギ様から依頼されたウィンドドラゴンの解体、及び買い取りを完了とさせていただきます」

「長々とありがとうございました。凄く助かりました」

「ありがとう」

「いえ、此方も稼がせてもらいましたので」


 そう言って今度は柔らかく微笑むセーヌさん。彼女は一体いくつの微笑みを持っているのだろう。そんな疑問と共に応接室を後にした。



  □   □   □   □



「さーて、金も手に入ったことだし、ダニエラの服を買いに行かなきゃな」

「防具もな」

「分かってるって」


 ぶらぶらと町を歩く。向かう先は職人街。セーヌさんに描いてもらった地図を頼りに曲がり、登って、曲がって下ればカンカンカンと金属を叩く音が響いてくる。この通りが職人街なのだろう。並んだ店を見ながら歩けば、活気と熱気が充満していることに気付く。此処は良い場所だ。きっとダニエラに似合う服が見つかるに違いない。正確にはダニエラに似合う服を作る人、だが。


 何軒か店先から覗くと、どこも冒険者が武器や防具の品定めをしている姿が見えた。曲刀や槍、軽鎧に重鎧。様々な装備が並んでいて男の子としてはテンションが上がらざるを得ない。


「ちょっと見てきても良い?」

「駄目だ。私の服が先だ」

「うん……」


 後で、後であの店は絶対に覗く。と、決めた店が3軒になった時、服屋を見つけた。店のマドからは可愛らしい服から実用的な服まで様々な物が置いてある。


「なになに……『白百合服飾店』?」

「ふむ……花の名か」

「百合か……」


 きっと此処はいい服があるはずだと、僕の勘が囁いていた。




「いらっしゃいませ!」


 店内に入ると元気よく店員さんが出迎えてくれる。彼女はただの雇われ販売員なのか、服飾関係の人なのか。見た目では分からない。


「すまんが服を作って欲しい」


 ダニエラの服なのでダニエラが積極的に店員さんに立ち向かっていく。


「はい、ありがとうございます! 素材の方は持ち込みですか?」

「あぁ、使って欲しい物がある。アサギ」

「はい、此方に」


 まるで執事の様に後方で控えていた僕は、まるで執事の様に言われた物を出す。


「この皮と鱗、鬣と翼膜で冒険者用の服を頼む」

「これは……! しょ、少々お待ち下さい!」


 素材を目にした店員さんが慌てて奥へと引っ込んでいった。見ただけで何かわかったのだろう。なかなか見る目があるようだ。


 素材を持ったまま待つが、待ったという程の時間も経たずに店員さんが戻ってきた。その手には誰かの腕が掴まれている。掴まれた人は眠たそうに目を擦りながら引き摺られている。大丈夫だろうか……。


「トゥリアちゃんトゥリアちゃん、ほら! 竜種素材だよ! 本物だよ!」

「んぇぇ……セグラちゃん声大きい……頭に響く……」

「だからあまり飲むと明日辛いよって言ったじゃない!」

「だーかーらー……声を小さくしてよ……」


 どうやら引っ張られてきた方は絶賛二日酔い中らしい。


「はぁぁ……頭いて……」

「もうトゥリアちゃん、お客さんの前だよ?」

「セグラちゃんが引っ張ってきたんでしょ……」


 実に仲が良さそうだが、これでは話が進まない。


「すまないな、調子が悪いのに出てきてもらって」

「あぁいえ……この子が竜種素材の持ち込みがあったと言ってたので、私が出てこないと駄目なので気にしないでください」

「そうか? じゃあとりあえず此奴を見てくれ」


 ダニエラの言葉に僕は素材を持って一歩前に出る。籠のような入れ物の中には採れたてほやほやのウィンドドラゴン素材がわんさか入っている。


「うっわ本物だ……」

「ね? だから言ったでしょ?」

「しかも最高品質……やばい、酔いが覚めた」


 半眼だったトゥリアの目が見開かれる。うん、職人の目をしている。素材を見て目を輝かせる人間なら安心して任せられそうだなと僕は声に出さずに思う。


「これで私の服を作って欲しい。今の服とあまりイメージを変えない感じで」

「……1週間ちょうだい。最高の服を仕上げるわ」


 トゥリアがガシッとダニエラの手を握って宣言する。ダニエラはうむ、と頷くと僕へ振り返る。僕は執事のように素材をトゥリアへと渡す。


「よろしくお願いします」

「お願いされたわ。吉報を待っていなさい!」


 自信満々に胸を張ったトゥリアは素材を受け取ってにっこりと笑みを浮かべた。

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