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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百六十四話 再訪

 鍵もあることだし、もう一度戻って文句を言ってやろうと鞄から鍵を取り出したところで、どうやって使うかを聞いていないことに気付いた。


「……ったくもう……」


 1人で壁の前でプンスカするが、端から見ればおかしな奴だった。


 さて、どれくらい時間が経ってるか分からないがここにずっと居ても仕方ない。ということでダニエラと合流しようと方針を決めて僕は昨日行った衛兵詰所に向かうことにした。



  □   □   □   □



 詰所は相変わらず真っ白で、目立った汚れが見当たらない。綺麗なもんだ。その建物の正面玄関から中へ入り、カウンターでベーコンの名を出す。すんなりと面会の許可が下り、僕は指示された部屋へ進む。『応接室』という単語に変な汗をうっすら掻きながらノックをする。


「トントン」

「誰だ、口からトントン言ってノックする馬鹿は」

「アサギです。ダニエラに会いに来ました」

「なんだアサギか……」


 なんだとはなんだとプンスカしているとガチャリと扉が開いた。開けたのは勿論、ベーコンだ。


「よ、昨日振り」

「呼んでないんだが」

「まぁまぁ」


 グイ、とベーコンを押して部屋に入るとダニエラが退屈そうに座っていた。


「どっこいしょ……」

「用事は済んだのか? アサギ」

「まぁな。後で報告する。とりあえず暇だし来ちゃった」

「まぁゆっくりしてればいい。今ベーコンがお茶を用意する」

「あのな、俺は一応此処を任された隊長なんだぞ? ちょっとはこう、遠慮とかないのか?」


 ベーコンが何か言いながらカチャカチャとお茶の準備をしている。それから間もなくお茶が僕とダニエラの前に置かれた。


「いただきまーす。…………ぬるい」

「仕方ないだろう。ここはただの詰所だ。茶が出るだけ有難く思えってんだ」


 そういうものか……仕方ないので小石くらいの大きさの氷を生成してダニエラとベーコンと僕のコップの中に入れる。お茶の温度で勢い良く溶けるが、すぐに温度が冷えて減りが遅くなった。


「よし、冷えたぞ」

「ありがとう、アサギ」

「アサギ、お前凄いな……」


 ベーコンが驚きながらゴクゴクと飲み干した。


「ん? ステカに載ってるだろ。氷魔法が使えるって」

「一日に何人ものデータが報告されてくるんだぞ。一々目を通してたらそれだけで日が暮れてしまうよ」

「じゃああの読み取りって何かあった時に遡る為の保険なのか?」

「あぁ、そう思ってくれて良い。あとはステカに表示はされないが、犯罪記録なんかがあればこっちの読取機には出るぞ」


 それは初耳だった。そんな隠し機能があったとは……ま、僕はやましいことはしていないので問題ないが。


「それで、話は終わったのか?」


 僕は冷たいお茶を傾けながらベーコンに尋ねる。


「あぁ、ダニエラさんの説明のお陰で詳細は分かった。改めて2人には感謝するよ」


 其処がずっと気になっていた。何故、強硬策に出なかったのか。イヴ1人であれば、帝国軍を出せば何とかなったんじゃないのか?


「アサギ達はまだ来たばかりだから知らないかもしれんが、ニコラを乗っ取られたのは実は最近の話でな。今は密偵が内部調査をしている段階だったんだ」

「内部調査……あっ」


 なるほど、あの3人のおじさん達……。


「敵戦力が分かれば攻めやすいってな。そういう通達があった。だから俺達は対岸で警戒してたってことだな。だから手は出せなかったんだよ」


 軍と衛兵……組織が違うということは立場も違う。ざっくりとした解釈しか出来ないが、その辺の話は結構デリケートなんだろうなと思い、僕は口を閉じる。


「ま、そういう諸々の問題があって、ニコラには手が出せなかったんだ」

「なるほどね……」

「どちらにしても軍が動けばニコラの賊も終わりだったよ」


 ニコラを出歩く人間の殆どが盗賊になってしまうまで手が出せなかったというのも、な……ま、もう終わった事だ。


「じゃあこれで全部終わったってことで問題ないな」

「そうだな。時間を取ってしまってすまなかった。協力感謝するよ」


 立ち上がってベーコンが敬礼をする。何だかんだ言って様になっていたので、僕達は少し感心しながら詰所を後にした。



  □   □   □   □



 町に戻り、屋台街をブラついて、空腹を満たしてから予備をいくつか買い足して宿に戻る。

 部屋でお茶を飲んで人心地ついたところでダニエラに今日あったことを報告することにした。


「この虚ろの鞄の製作者に会った」

「ほう。それはフィラルドのラッセルが盗賊から回収した物だろう? それなのにどうやったんだ?」

「あぁ、製作者だと分かったのは後からだったんだが、実はな……」




 全ての説明が終わった頃には日も暮れていた。途中で腹が減ったとダニエラが屋台飯を食べ始め、それを見ていたら釣られて僕の腹も減ったので、お互いに食べながら話し続けた。

 腹もいっぱいになり、話すこともなくなった。そして僕らの座る椅子の間のテーブルの上にはレイチェルが残した鍵が置いてある。


「残る謎は此奴の使い方なんだ」

「ふむ……鍵は鍵穴に挿すものだが……」


 ダニエラが鍵を手に取り弄ぶ。


「入れる穴が無いと鍵の役目を果たせないんだよなぁ」

「そうだな……」


 ダニエラが鍵の頭の部分を持ってジッと見つめる。


「これ……ひょっとして魔道具じゃないか?」

「魔道具?」

「レイチェルが用意した鍵だ。ただの鍵ではないのは当たり前だろう? ならこれが何の鍵かという問題が出て来る。大昔からある何かを開く鍵か、レイチェルが作った何かを開く鍵か」

「レイチェルは出処は言ってなかったけど、出入り可能になると言ってたな」

「ならやはりこれはアサギが入った空間へ行くための鍵だな」

「でも鍵穴が無い」

「其処は魔道具としての発想をするんだ」


 ふふん、と笑うダニエラが鍵に魔力を流し始めた。すると鍵はうっすらと光り出す。


「そしてレイチェルは次元魔法使いだ。なら、空間魔法はお手の物だろう」


 ダニエラが鍵を何もない空間に差し込む(・・・・)。先端が何もない空間に消えた。


「えっ!?」

「やはり正解だな」


 そのままダニエラは手首を捻る。するとガチャリ、と音がして空間が裂けた。慌ててダニエラの後ろに回り込んで覗き込むと、其処には先程まで居た空間、あの路地が見えていた。


「ダニエラ……天才だな……」

「ふふふ、もっと褒めろ」

「ダニエラ凄い、格好良い!」

「そうだろうそうだろう」


 ダニエラはご満悦の様子でドヤ顔が止まらなくなっている。僕はそんなダニエラを可愛く思いつつ、路地へと進む。目の前にはレイチェルが居た部屋の窓がある。


「この中で飯食ってたんだよ」

「開いてみよう」


 何の躊躇も無くダニエラが窓を開……こうとして手が止まった。


「どうやって開けるんだ?」

「あぁ、この世界ってスライド式の窓じゃないもんな」


 魂レベルで刷り込まれてたから懐かしく思うこともなく、当たり前のように見ていたが、これって現代的な窓だな。

 ガラガラと横へスライドさせて窓を開く。中はさっきと同じ四畳半。しかしレイチェルの姿は無かった。


「どっか出掛けてるのかな」

「……待て、人の気配がする」


 ダニエラが鋭く部屋の中を覗き込む。ゆっくりと音を立てずに入ろうとするダニエラの腕を掴んで、首を振る。不思議そうに此方を見るダニエラに靴を指差してやると、合点がいったのか、脱いでから再度、侵入をする。

 その後に僕も続いて侵入し、変わったところがないか確認する。レイチェルがお茶漬けを食べていた丸いちゃぶ台。それと畳まれた布団。それだけだ。まるで独房だなと思いながらダニエラを見ると襖をジッと睨んでいた。どうやらこの先に行きたいようだが、ドアノブが無くて困っているようだった。それを苦笑しながら見つつ、開いてやる。スーッと横にスライドし、タン、と端まで開くとダニエラは小さく『おぉ……』と漏らした。


 襖の向こうは廊下だった。普通の日本家屋のような廊下だ。一気に懐かしさが溢れてくるが、今は懐かしんでいる場合でもない。

 ふと、ダニエラの歩みが止まる。扉を指差している。どうやらこの先に誰かが居るらしい。僕は頷き、そっと扉を開く。


 其処は脱衣所だった。


「……ダニエラ、此処は拙い」

「そのようだな……退散しよう」


 脱ぎ散らかされた服を見ながらダニエラとヒソヒソと話して撤退を決める。これ以上は拙い。


「まぁ待つが良い。もうすぐ上がるから」


 と、レイチェルの声がした。やっぱりバレていたのかと溜め息を吐いた。ダニエラは驚きながらも警戒する。

 バレちゃったならもう良いやと諦めた僕はレイチェルに声を掛ける。


「居間に居るからな」

「うーい」


 適当な返事しやがって……さっき僕を空に落としたこと、忘れてないからな?

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[一言] 幼女の風呂は覗くもんだろ
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