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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第十六話 騒動は終わる

 朗報だ。上社朝霧は魔法が使える。属性は氷と水。あとちょっと火。やったぞ、此奴は凄い。僕みたいなコンビニアルバイターでも魔法が使えるのだ。でもどうやって使うんだろう。念じれば良いのか?


「魔法に必要なのはイメージだ。心に浮かんだイメージが魔力を糧として事象となる。詠唱はそのサポートだな。イメージさえしっかりしていれば詠唱は必要ない。ちなみに私も無詠唱だ」


 無詠唱チートはないんだな。魔法使い達も日々努力しているのだろう。僕もちょっとやってみよう。

 まずはそうだな……氷が得意ということだから、空気中の水分を冷やして温度を下げてみよう。


「ん……むむむ……っ」


 じわじわと魔力を周囲に放出するイメージ。さらに空気中の水分の熱を奪い、冷やしていく。


「アサギ」

「んん……!」

「アサギ」

「むぐぐ……なに?」

「寒い」


 おぉ、息が白くなってる。成功だ。意外と出来るもんだな。効果が出るのも割と早い。氷の高速生成とか出来るようになったら楽しいかも。

 温度を常温に戻るように意識して火魔法を行使してみると、無事に息はまた透明に戻った。暑すぎない温度にして魔法を終えた。


「アサギは飲み込みが早いな。イメージもしっかりしているし、アサギならすぐに沢山の魔法が使えるさ」

「そうだといいな」


 実際、この魔法の行使も《器用貧乏》が作用しているはずだ。目に見えない力だからはっきりといつもの4分割された脳内映像は出てこないが、今まで魔法のない世界にいた僕があっさり使えるとは素直に信じられない。主人公補正があるわけでもないしな。

 なので精々、平々凡々に魔法が使えるくらいが関の山だろう。でもだからと言って悲観はしない。何せ魔法だからな。夢のようだ。


 それからダニエラと魔法について色々聞いていたら、ダニエラがこっくりこっくりと船を漕ぎ出したので、ベッドへ連れていき、僕は机に突っ伏してそのまますぐに眠った。何だかんだ言って疲れが溜まっていたのかもしれない。夢は見なかった。




 鉄格子越しに見る朝日は良いものじゃない。なんだか気分が滅入るからだ。身に覚えのない罪で投獄された気分になる。

 溜息一つ、立ち上がって体をほぐす。ダニエラはまだベッドの中で丸まって気持ち良さそうに寝ている。この寝顔を見れただけでベッドを譲って正解だったなと、頬が緩む。凝り固まった体を解し、さぁどうするかと思案していると扉がノックされた。


「はーい」

「アサギか。おはよう。よく眠れたか?」

「おはよう、ラッセルさん。えぇ、気持ちの良い机でしたよ」

「はっはっは、なら良い。聞け。今朝方お前にちょっかいを出していた冒険者共は全員捕縛した。揃って今は檻の中だ」

「流石、ラッセルさん」

「奴等、散々この町を走り回ってな。走り疲れたところをはっ倒してぐるぐる巻きだ。ちょろいもんさ!」


 豪快に笑うラッセルさん。衛兵隊長は違うな。あの衛兵くんも見習ってほしい。

 と、笑い声にダニエラが目を覚ました。


「ん……なに……うるさい……」

「おはよう、ダニエラ」

「んぁ……アサギか……おはよ……」


 どうやら朝は弱いみたい。昨日見たキリッとした美人はどこにもいない。そこには寝癖を付けた半眼で緩慢な生き物しか居なかった。


「ほら、起きて。顔洗いに行くぞ」

「ん……」


 手を引っ張って立たせて、僕が初めてここに来た時に借りた詰め所裏の井戸へ向かう。もうここは慣れたもんだ。

 顔を洗ってからラッセルさんの部屋を訪ねて、一度、春風亭へ戻って朝食を食べる旨を伝えてから詰め所を後にした。ダニエラは宿に泊まっていないらしいので一緒に朝ごはんだ。


「すまないな……あの後、宿を探すつもりだったんだ」

「いや、ダニエラは悪くない。逆に僕のいざこざに巻き込んで悪かった」

「気にしてないさ。お互い無事で何よりだ」


 そう言って微笑むダニエラに寝起きの面影はなかった。



  □   □   □   □



 春風亭でマリスさんに事情を話した。マリスさんは僕が迫害されなくなったことを大層喜んでくれた。その流れでダニエラを紹介したらダニエラの宿泊も決まった。


「アサギの紹介なら安くしとくよ!」


 安定の知人割りで、ダニエラも即決だった。

 その後は朝食を食べてから詰め所へ向かった。詰め所と言っても先程までいた南門詰め所ではなく、町のほぼ中心にある冒険者ギルドの向かいの中央詰め所だ。ここの地下にクズ筆頭を初め、阿呆な冒険者共が仲良く相部屋で宿泊しているらしい。その面通しがここに来る理由だった。

 詰め所の事務カウンターで昨晩の騒動の件を伝えると、すぐにラッセルさんに話が通されて奥に案内された。いくつかの扉を過ぎた後に続く廊下の先の階段を降りると、ひんやりとした空気が辺りを包み込んだ。


「アサギ、此奴等で間違いはないな?」

「はい。全員、僕とダニエラに危害を加えようとした奴等です」


 太くて硬い鉄格子の向こうで縛られ、座らせられている冒険者の顔はどいつもふてくされていて、反対に僕の気分は上々だ。いいね!


「まったく、馬鹿なことしやがって……はぁ。此奴等、どうする?」

「どう、とは?」

「俺の権限で縛り首にも出来る。此奴等は剣を抜いたんだ。殺す覚悟があったってことは殺される覚悟もあったってことだ」

「あー……」


 正直、殺人未遂で死刑は日本人感覚で言えばやり過ぎなんじゃないの? って感じだ。やるか、やられるかの世界に居るのだが、どうもその辺の感覚がまだ抜けない。


「殺す以外の方法は?」

「犯罪奴隷制度がある。南のアレッサ山へ鉱山ツアーだ」


 なるほど、奴隷制度があるのか。そこも21世紀の世界を生きていた僕にはうーんといった感覚だったが、殺すよりはまだ後腐れがない気がする。勿論、僕の中でだ。


「ダニエラ、どうするのが良いと思う?」

「そうだな……私も無闇矢鱈に首を落とすのは好きじゃない。アサギが良いのであれば奴隷堕ちで良いと思う」

「ん、僕もそう思ってたところだ。ということでラッセルさん」

「了解した。彼らは冒険者資格を剥奪、アサギとダニエラの温情により犯罪奴隷としてアレッサ鉱山での作業10年とする」


 僕とダニエラに向き合い、ビシっと敬礼をして、ふっと微笑む。


「お前さんは優しい人間だ。だがその優しさを利用されないようにな。何かあったらいつでも来い。俺はずっとお前さんの味方だ」

※死に設定だった魔術師、魔道士設定を消去しました。今後、どこかで絡んでくる可能性はありますが、積極的に絡んでくることはほぼないです。ご迷惑をおかけしてすみません。

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