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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百五十七話 竜殺し

「ゴァァァァァァァ!!!」


 吼えるウィンドドラゴンの頭が見えた。抱くダニエラと視線を合わせればダニエラはしっかりと頷いた。


「此処までで良い」

「分かった。でもその前にこれ持ってけ!」


 ダニエラの手に衛兵おじさんに貰ったポーション、その最後の1本を渡す。魔力回復ポーションだ。


「これを何処で?」

「とあるおじさんに貰ったんだ。魔力回復するぜ」

「ありがとう。でも私もとある男に同じ物を貰ってな。まだ魔力は十二分に残ってる」

「え!? 男!?」

「という訳で、行ってくる!」

「ちょ!?」


 まだ話の途中だっていうのにダニエラは僕の手を離す。まだ詳しく聞いてないんだが!?


 ダニエラは僕に手を振ると爪先に翡翠の風を生み、空を滑り降りていく。あれ格好良いな……僕も今度真似しよう。


「……っとと、そんなこと考えてる場合じゃないな」


 今も僕を睨んでいるウィンドドラゴンと目が合う。奴め、僕のことをしっかり敵と認識しているな。

 奴の顎には今も僕の大剣が突き刺さったままだ。あの手じゃ抜けないのだろう。思い切り突き立ててやったから頭を振っても抜けないはずだ。


「ハッ、食べにくそうだな!」


 僕もダニエラのように……とはいかないがちょっと意識しつつ滑空する。するとドラゴンが大きく翼を広げた。飛ぶつもりか!


「その前に……!」


 速度を上げ、更に距離を詰める。どんどん両足は風速を増していき、やがて再び僕は景色を置き去りにした。

 僕を見失ったウィンドドラゴンは翼をはためかせるが、飛ぶには至らない。彼の顎の下で手放した大剣の柄を握り、魔力を流す。


「返して貰うぞ!」


 水刃が今度こそウィンドドラゴンの上顎を貫く。


「ゴギャァアァアアァァアアアア!!!!」

「ふん……ッ!」


 そのまま体を捻り、《森狼の脚》を制御して姿勢を変え、剣を背に背負う形で固定し、そのまま力任せに振り抜いた。全てを裂く藍色の刃は竜の顎を縦だけでは無く横にも開くように加工した。


「ギャオアアアアアアアアアアア!!!」


 竜の血は大剣に逆巻く水に洗い流され、清潔さを保ちながら僕の手に戻る。ウィンドドラゴンは口から大量の血を流しながら痛みにのたうち回る。僕はそれに巻き込まれないように離れながら、《器用貧乏》先生を起ち上げて何通りかの攻撃方法をシミュレーションいた。


「ん、いやそれは悪手だ先生……んー、うん、それが良い。やっぱりシンプルなのが一番良いな」


 先生との相談結果を更にシミュレートし、精査する。そして最終的にそれしかないだろうという結論が出た。やっぱり僕と先生は息ピッタリだな。ダニエラの次にだけど。


 結論が出たと同時にウィンドドラゴンがのたうち回るのをやめた。どうやらもう必要ないらしい。流石は竜種、それも成体と言ったところか。僕が裂いた上顎と下顎はほぼくっついていた。瘡蓋か、ミミズ腫れのような痕を残しているが、血は止まっている。だが、そんなことは殺してしまえば何の障害にもならなかった。


「男には必要なものがある」


 僕は大剣を担ぎながらウィンドドラゴンと対峙する。


「誰もが必要なものだ」


 僕を見据えたウィンドドラゴンが縦に口を開き、溜め動作に入る。ワイバーンのような大きく息を吸い込む動作では無く、体に巡る魔力を開いた口腔へと収束する。


「一つだけでも良いし、沢山あってもいい。僕は多い方が好みだな」


 歩きながら銀翆の風を纏う。コツは掴んだ。一気に風速を上げて他を寄せ付けない風圧を生み出す。


「必殺技だ」


 ウィンドドラゴンの口がカッと光る。それと共に超々高密度に圧縮した風が極細の槍となって僕を貫いた。


 が、それは僕であって、僕じゃない。残像だ。


 僕は瞬きよりも早く、ウィンドドラゴンの頭上へと走った。今も放つ成体となった竜種のみが許されるブレスを、俯瞰で見ながら《器用貧乏》で得た解答通りに体を動かす。


「『上社式・壱迅風閃(カミヤシロシキ・イチジンフセン)』!!」


 水の流れというものは自由な物だ。ならこの剣に流れる水刃だって自由であるべきだと、《器用貧乏》先生が教えてくれた。その流れを弄れば、大剣の幅が広がる。30cmだった幅が60cmへ、そして120cmへ。更に広がり、240cmへ。その剣幅に比例して剣身は長く伸びる。

 最早、大剣と言っていいか分からない剣らしき物を手に、突きの構えで真っ直ぐ藍と銀と翠の尾を1本に束ねながら地面へと飛ぶ。速さだけが取り柄の僕が為せる技だ。

 そして剣と地面の間にあった首を、全くもってシンプルに、ウィンドドラゴンの首を切断した。


 ブレス放射真っ最中の首はブレスの反動のまま、宙を舞う。そんなウィンドドラゴンと目が合った。


「悪いな。技名を考える時は全力で中二感を出せってのが古い家訓なんだ」


 驚愕か、それとも何も分かっていないのか。ウィンドドラゴンは首だけで空を飛び、何回か回転して地へと墜ちた。それから間もなく、首から下も地へと伏せる。


「そろそろ僕も主人公感、出していくべきだよな」


 誰ともなく呟き、剣を振るう。バシャリと水が散り、その中から藍色の剣身が顔を出した。


「次は決め台詞でも考えようか……」


 と、馬鹿な事を考えながらダニエラの気配を探る。あまり離れていないようだ。ここからなら1分もせずに辿り着ける。勿論、僕の足ならだが……と、《森狼の脚》を発動しようとするが、様子がおかしい。扇風機の微風程度の風しか起きなかった。涼しいが、今はそんな場合ではないのだが……。


「ひょっとして酷使し過ぎたから、か……あ?」


 微風が霧消し、続いて体の自由が効かなくなり、背中からウィンドドラゴンと同じように地面へと倒れてしまった。此奴は拙いな……意識ははっきりしているのに、体が動かない。どうやらユニークスキルでも使い過ぎると限界があるらしい。初めて知ったが、今更どうしようもない。ダニエラの気配を感じながら、体が動くようになるまで僕はその場で待つしか無かった。



  □   □   □   □



 空を滑り降りていくと、無数の火炎が私へと飛来する。それを体重移動で躱し、体を捻り、飛び越えながらイヴの元へと滑空する。


「アサギの動きを見ていて良かったな……」


 あの立体的な動きは私も見たことがなく、実に刺激的だった。ならば、真似したくなるのが道理というものだろう。こっそり夜の見張り時間中に練習した甲斐があったというものだ。


 火炎を避け、そして足の裏でスピードを殺しながら地面へと着陸する。うむ、練習通りだ。


「待たせたな」

「チィッ……生きていたか……」

「生憎、まだ死ぬには早い。行きたい場所もあるしな」


 細剣を抜き放ちながらイヴを睨む。


「だが、お前の人生はここで終わりだ」

「抜かせ! 死ぬのはお前だ!」


 突き出した掌から突風を放ちながらイヴは空いた手で剣を抜く。幅広の曲刀だ。刃は片刃だが、恐ろしく切れ味が鋭い。100年前に見た武器と同じなら、要警戒武器だ。あれはただの武器ではない。


「死ねェ!!」


 走り込んできたイヴが曲刀を振り下ろす。それを細剣で流し、その流れで肘を入れる。猪突猛進のイヴの鳩尾に肘鉄を入れながらそこから裏拳を顔に入れる。が、それを魔法を放った手で防がれた。


「チッ」

「クソが!」


 私の手を掴んだままイヴが引っ張る。その動きに抵抗せずに、しかし手首を返して拘束から逃れ、距離を取る。そのままアサギ式の移動術で更に距離を開けながら素早く弓を手にする。矢は無い。


「食らえ!!」


 弦を引き、風を集めればそこには翡翠の矢が生まれる。風を圧縮させ、束ねた特性の矢だ。昔、矢が尽きた時に編み出した技だ。それを放てば通常の矢よりも一段増した矢速で飛んでいく。風魔法の特性を加えた矢はただ貫通するだけでは無く、触れた物をズタズタに切り裂く。考案した私ですら引く程にだ。


 それがイヴの足を貫いた。アサギとの戦いで負傷した体で避けられるはずがない。


「グゥゥァァァッァアアア!!!」


 血を撒き散らしながら後方へ転がるイヴへ向けて再び矢を放ちたいが、この風編みの矢は燃費が悪く、魔力を相当食うのが欠点だ。連発していては私が先に倒れてしまう。いくらヴェントがくれたポーションのお陰で魔力が溢れていたとしても、無駄遣いしては意味がない。

 再び剣を抜き、イヴの元へと走る。血が溢れる足を抑えながら此方を睨むイヴに向けてアサギ式で距離を詰めて、剣を突き出す。


「ハッ!」

「……ッ!!」


 しかしそれをイヴは左手を突き出すことで躱す。片腕を犠牲にし、血に塗れた右手から火炎を放つ。それを姿勢を低くして前方へ飛び込んで躱し、イヴの背後から再び剣を突き出す。が、またしても左手で防がれる。しかし今度は左手首が千切れ飛んだ。


「うぅぅ……!」

「もう防げないな!」


 私は剣に風を纏わせ、幅広の片手剣へと変えて振り下ろした。それをイヴは曲刀で防ぐ。クソ……風が曲刀に触れた途端、霧散した。


「相変わらず面倒な剣だ!」

「あはははは! 魔素散らしの剣は竜の風すら切り裂くぞ!」


 そう、あの曲刀は触れた魔法を魔素へと還元する力がある。大昔の、超魔導時代の遺産らしい。あの剣の所為で今一歩、大きいのが入れられない……。しかし、私も昔のままじゃない。魔法が駄目なら、純粋に剣の勝負で勝つだけだ!


「死ね、イヴ!」

「殺してやる、ダニエラァ!」


 死生樹の細剣を引き、鋭い突きを繰り出す。しかしイヴはそれを尽く打ち払う。ならばと突きに薙ぎを交えてやるが、それも払われる。であれば搦手だ!


「ハァッ!」


 突きと共に地面を踏み込む。そして足の裏から地面へと琥珀色の魔力を流し、土魔法を発動させる。地面から突き出した鋭い棘が、イヴを襲う。正面からの突きと、足元からの魔法の2段攻撃だ!


「うぐぅ!!」


 突きに対応してしまったイヴの足の肉を土の棘が削ぐ。此処が好機だ!


「ハァァァァ!!!」


 剣では無く、私の体に風を纏わせる。風のブーストにより、常人では出せない速度の突きをイヴへと浴びせる。両足から大量の出血をするイヴが懇親の力で曲刀を振り打ち払うも、払われた傍から突きを繰り出す。

 そして連続の突きがイヴの右腕を切り裂いた。


「あぁっ!!」


 痛みに曲刀を手放すイヴ。


「これで終わりだ……ッ!!」


 今度こそ剣へと風を纏わせ、渾身の突きをイヴの心臓へと突き出した。武器もなく、魔法も放てないイヴにそれを防ぐ術はない。


 死生樹の剣身は、真っ直ぐにイヴの胸元へと突き刺さった。


「……」


 無言のイブは私を睨みながら、開いた口から血を吐いた。


「ゴハッ、あ……くっ……」


 剣を抜き、離れれば胸と口から血を流しながらイヴが地面へと倒れる。


「終わりだな。ここがお前の終点だ」

「クソ……クソクソクソォ……この、私が……お前に……!」


 私を睨むイヴ。呪詛を聞く趣味がない私はもう一度胸へと剣を突き立てた。


「あっ……」


 一言漏らしたイヴは、そのまま脱力し、息を引き取った。


「100年越しか……」


 あの崖で別れた勝負の行方は、私の勝ちということで結末を迎えた。血の付いた剣を払い、鞘に収める。死んだイヴを一瞥し、背を向けた。

 先程から実に静かなのだ。アサギはウィンドドラゴンを屠ったのだろうか。


「ま、彼奴が負けるはずないか……」


 なんてったって、私の相方なのだからな。さぁ、出迎えに行くとしよう。


「じゃあな、イヴ」


 私の言葉は風に掻き消され、イヴには届かないだろう。だが、それでも私の人生に関わった者の死を、忘れることはしない。それが命を奪った者の責任だと、私が決めたからだ。

 別れは告げるが、忘れることはない。いつか私が死ぬ時、今際の際でそれを思い出しながら死ぬ為に、私は忘れることはない。

※132話とタイトルが被っていたので変更しました。『決着』→『竜殺し』

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