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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百五十六話 守り合う戦い

今回は短めです

「あはっ、あははははは! あーっはっはっはっはっはぁぁ!!!」


 高笑いするイヴの声が耳に障る。僕の視線は魔法陣から現れた竜種に釘付けだ。


 現れた竜種の色は翠。風属性の色だ。2枚の翼はワイバーンよりも大きく、尾は太く鞭のように長い。四肢はどれも力強く、その先にある爪は剣のように鋭い。そして牙だ。並んだ多くの牙がダニエラの腕を噛んでいる。閉じきっていないのはダニエラの抵抗か……。


「今助ける……!」


 剣を手に走る僕を竜種が睨んだ。体色よりも濃い翠色の目が僕を見据えた瞬間、暴風が僕を襲った。これはただの風じゃない。竜の魔力の篭った風だ。

 吹き飛ばされそうになるが、剣を地面に突き立てて耐える。纏う服に魔力を流すことで風の勢いが少し弱まる。その様子を見ていたのか、またイヴが笑い始めた。


「あはははははは!! 見たか! これが私の切り札、黒エルフに伝わる魔法、召喚魔法だ!!」

「くっ、召喚魔法だと……!?」


 秘伝の魔法なのか、ダニエラ先生の授業でも聞いたことのない魔法だ。


「ふふふふ、召喚魔法は秘匿された古代魔法の一種だ。貴様が知る由もないだろう! そして、召喚したのはウィンドドラゴン、その成体だ! 貴様如きじゃあ、天地がひっくり返っても倒せないだろうよ! あっはははははははは!!!」


 なんてこった、此奴は僕の装備の上位互換さんか。いや、予想はしていたが……。


「それでも、助ける!」


 今も必死に剣を突き立てて抵抗するダニエラを見据える。ポタポタとウィンドドラゴンの牙の隙間から血が流れ出ているのがここからでも見える。ダニエラの抵抗もいつまで保つか分からない。だが残された時間は僅かばかりなのは確かだ。


 両足に銀翆の風を纏わせ、手にする大剣に藍色の魔力を流す。水刃と化した剣ならば、ウィンドドラゴン様でも斬ることが出来るはずだ。


 《森狼の脚》の暴風を、密度を極限まで高めながら制御する。出し惜しみは無しだ。相手が竜種ならば、本気を出さざるを得ない。

 この後、どうなってもいい。ダニエラを助ける。そして守り抜く。四肢が弾けようともこのドラゴンを、斬る!!


「ああああああッッ!!!」


 剣を腰溜めに構え、烈帛と共に飛ぶ。ヒィィィンと、人間が聞き取れる限界の音を出す両足の風が僕をかつて無い速さでウィンドドラゴンの元へ飛ばす。地面が砕ける音がしたと同時に、僕は竜種の眼の前まで移動する。文字通り、一瞬だ。

 そして勢いに任せて大剣を、ウィンドドラゴンの下顎へと突き立てた。硬い鱗を裂き、分厚い肉を貫いてそれは口内へと貫通し、さらに伸ばした水刃が上顎をも傷付けた。上顎の貫通には至らなかったが、重傷だ。


「ゴルァァァアアアアア!!!!」


 堪らずウィンドドラゴンは泣き叫び、暴れる。そして開いた口からズルリと、ダニエラの腕が外れて宙に放り出された。


「ダニエラ!」

「グッ……!」


 ダニエラが呻き声を漏らしながら地面に落ちていく。僕は剣を根本まで突き込んでから手を離し、ダニエラを空中で拾ってそのまま距離を取った。イヴとウィンドドラゴンの反撃があるかもしれないと、一旦見えなくなるまで逃げる。

 崩れた家屋の屋根にしゃがみ込み、ダニエラを寝かせ、上半身を支えてやる。

 噛みつかれた左腕はズタボロだ。酷い……血に塗れた皮膚の中に白い骨が見え、背筋が凍る。防具や服は喰われている。しかし、千切れてはいない。間一髪、ダニエラの抵抗が腕の切断を防いでいた。なら、衛兵おじさんに貰ったポーションがきっと効くはずだ。

 懐から緑色のポーションを取り出し、栓を開ける。


「アサ、ギ……それは……」

「多分、滲みるぞ」

「う……」


 皮の無い場所に薬液をぶっかけるんだ。痛くないはずがない。ダニエラがグッと下唇を噛んだのを見て瓶を傾ける。中の液体が瓶の口から流れ、腕に落ちると白い煙を上げた。


「うぅぅぅぅ……!!」


 ダニエラが痛みに耐える。僕はこんな風に煙を上げる場面を見たことがないので、一瞬これが酸か何かかと焦った。が、よく見れば先程まで見えていた骨が見えない。赤い肉で覆われる。そこに更にポーションを流せば、そこには元通りになったダニエラの白い綺麗な腕があった。


「な、治った……!」

「はぁっ……はぁっ……」


 額に脂汗を浮かべたダニエラがガクリと脱力する。


「ダニエラ、残りも飲んどけ」

「あぁ……ん……」


 口元に持っていてやると先程までボロボロだった腕で持って飲み始める。良かった、イヴとの戦いで出来た細かい傷も癒えていくのが見える。


「ふぅ……すまない、助かった」

「気にすんな。まさか竜種を召喚するとはな……どうする?」


 竜種はダニエラのトラウマだ。まともに戦えるかどうか……。


「ここで決着をつける。あのウィンドドラゴンも放置しておけないだろう」

「でもダニエラ、お前竜種は……」

「……だが、戦うしかないだろう」


 確かに竜種を放置しておけば被害は甚大になるだろう。でも、僕はそれでもダニエラの命の方が大事だ。もしここでダニエラが竜種にやられてしまうなんてことがあれば……いや、考えたくない。


「竜種は僕が引きつける。ダニエラはイヴを」

「1人でどうにかなる相手じゃないぞ!」

「なるさ。ダニエラを守る為なら僕は何だって出来る」


 そう。決めたんだ、誰が相手だろうと立ちはだかる者を倒して、身に降りかかる危険を排除すると。ダニエラの為に、殺す覚悟をしたのだ。


「アサギ……お前が私を守りたいように、私もお前を守りたいんだ」

「ダニエラ……」

「それを忘れてくれるな。お前が死ぬところなんて、見たくない」


 ダニエラも、同じ気持ちなんだな……そう思うと、自然と笑みが溢れる。


「大丈夫だ、ダニエラ。僕は死なない。お前も死なない」

「……そうだな。私達はどんな時だって2人で乗り越えてきたんだ」


 そう、どんな敵だって2人で倒して前に進んできた。今回も同じだ。


「僕達ならやれる。そうだろう?」

「あぁ、私達に倒せない敵など居ないな」


 その時、竜の咆哮が町に響いた。


 どうやらウィンドドラゴンも、僕達を見過ごすつもりはないらしい。


「よし、掴まれダニエラ。全力で倒すぞ!」

「あぁ!」


 ぴょんと跳んだダニエラがお姫様抱っこの形で僕の腕の中に収まる。そして腕を僕の首に回し、ギュッと掴まる。掴まれとは言ったが、そういう風に来るとは思いもしなかった……が、よく受け止めたぞ僕。ここで落としてしまったら情けないどころの話じゃないからな!


「ふふ、お前は私が守る。安心して戦え」

「あぁ、お前は僕が守る。安心して戦え」


 コツン、と額と額を合わせる。やる気が沸々と湧いてくる。今なら、竜種も余裕で倒せる気がするぜ。

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