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異世界に来た僕は器用貧乏で素早さ頼りな旅をする  作者: 紙風船


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第百五十三話 決意、そして反撃の時

 ダニエラが見つからない。屋根伝いに隠れながらの捜索だが、全く見当たらない。ここから見えないとなると、どこか建物の中に身を隠したのか? てことは体がやっぱり上手く動かないのかもしれないな……あまりうかうかしていられない。


「居たぞ!」

「チッ……」


 対照的にさっきから見つかってばかりの僕だ。隠れながらの癖に見つかってしまう辺り、隠密というのがド下手なのかもしれない。スキルとして生えてくれることを祈りつつ、再び屋根の上を走って追手を撒いていく。逃げ足ばかり早いのが遣る瀬無い。


「しかし本当に見つからないな……衛兵……いや、盗賊に捕まったって声も無いし、上手く隠れられているのかもな」


 しかしその潜伏場所を早く見つけないと安心も出来ない。気持ちばかり焦ってしまうが、ここは原点に戻るべきだと考える。つまり、詰所だ。


 再び屋根伝いに、今度は人目を気にしながら走る。それにしても何でこんなに見つかるのかね……下からは見えないはずなんだが……。


「こっちだー!」

「えぇ……」


 いよいよ自分の隠密性に自信が持てなくなってきた。この世界に来る時に不具合でも起こしてるんじゃないのか?

 舌打ちをしながら詰所方面に向かって走る。屋根を飛び越え、軽く撒いたところでふぅ、と溜息をつく。流石に疲れた……。


「んっ、ごく……ごく……はぁぁ……ん?」


 掌に水を生成し、一気に飲み干す。球体の水をそのまま飲むと、何だか無重力の宇宙船の中みたいだ。喉を抜ける清涼感に吐息を漏らしながら空を仰ぐ。すると視界の端に何か建物が見えた。そちらを見ると、それはどうやら塔のようだった。簡素なものではあるが、あの上から見れば街全体が見渡せるだろう。あそこからならダニエラも……いや、誰か居るな。あれは…………


「げぇっ! 盗賊!」


 塔の上から此方を見ていたのは盗賊だった。あそこから見ていたら屋根の上を走る僕なんて丸見えじゃないか!

 ダニエラを探して下ばかり見ていたから全く気付かなかった。あぁ、今も声を張り上げている様子が見える。流石に此処までは聞こえないが、下の人間に指示している雰囲気だ。


「ダニエラより先にあそこを落とした方が良いな……」


 これじゃあおちおち探していられない。隠れているのであれば、それを信じて僕は脱出経路と敵勢力の力を削ぐのが仕事だ。

 という訳でプランを変更して一直線に塔を目指す。階段を駆け上がるように上昇していくと、塔の上の盗賊が焦ったように引っ込み、そして槍を手に戻ってくる。が、そんな物は僕には届かない。


「『氷矢(アイスアロー)』」


 塔の盗賊は見える限り4人。ならば僕は4本の氷の矢を生成し、盗賊目掛けて射る。放たれた矢は吸い込まれるように盗賊達の肩を射抜く。全く反応出来なかったのは光の加減で見えにくいのかもしれない。研究すれば見えない矢とか剣とか出来そうな気がするが、地頭の精度がポンコツなので気がするだけで、出来る気はしない。

 盗賊が床に転がって空いた空間から中へとお邪魔する。慌てて槍を手に立ち上がろうとするが、鬱陶しいので『氷縛り』で背中と床をくっつけてやる。


「クソ、離しやがれ!」

「やなこった」

「てめぇ……ボスがこのことを知ったら……」

「知らんわ」


 会話する気もないので塔を制圧していく。まずは唯一の出入り口である階段を氷で閉ざす。昔、写真で見た南極だか北極の氷の壁くらいの分厚いのを用意してあげたので魔力供給を解いても溶けるまでかなり掛かるはずだ。

 そして最上階に居たのはやはり4人で、空いたベランダのような場所から下を見ると矢が飛んできた。おぉ、怖い怖い。怖いから中に戻ろう。

 最上階フロアには弓矢とか武器が置いてある。傍の木箱の蓋を開けると中は食料だ。此奴はラッキーだ。旅装のままなので虚ろの鞄も背負ったままだ。邪魔な木箱も3人のおじさんに渡してきたので容量もある。今は戦闘中だし、戦力を削ぐことに繋がるからこれらは朝霧選手が回収してしまおう。ということでポイポイと鞄の中に入れていく。


「てめぇこの野郎! 俺達がボスに隠れて集めたサボり用のオヤツをよくも!!」

「知らん知らん。今は戦時中なので聞こえません」

「クソーーー!!」


 どんだけ悔しいねん……。


「あの厳しい監視から隠れて漸くここまで運んだっていうのに……」

「あぁ……俺ら、結構頑張ったよな……」

「ボスに見つかったら怖いけれど、此処までは滅多に来ないから穴場だったんだよな……」

「それが、此奴等の所為でめちゃくちゃだ!」

「よくも俺達が愛したサボり場を潰してくれたな!!」

「知らねーよ!! お前等実はイヴ嫌いだろう!?」


 全く従っている素振りが無い!


「当たり前だろう!?」

「あんな恐ろしい女、他には知らない……」

「この間も規律違反した奴が拷問されたって聞いたぜ……」

「俺達だって好きでこんな町に居る訳じゃないしな。行く宛がなかったっていうか、流れ着いたっていうか……」


 此奴等も事情があるのだろう……まぁ、だからと言って助けるつもりはないが。僕と盗賊はどこまで行っても平行線、交わることはない。一瞬、此奴等を懐柔して手下にしようかとも考えたが、きっと裏切られる。こっちが劣勢だと思えばすぐに手のひらを返すだろう。


「お前等が誰を嫌いでどんな事情があったって僕には関係ない。僕はお前らのボスに絡まれたから喧嘩してるだけだしな」

「お前と、もう1人の白エルフか。通達は来ていたが……」

「あぁ、相方が絡まれたんだ。見つけたら僕達は町を出て行く。つまり、大人しくしてりゃ危害は加えないってことだ」

「もう、射られてるんだが……」


 それはお前等が槍持って邪魔するからだ。顔狙わなかっただけ有難く思って欲しいね。


 それはそれとして、司令塔は潰した。もうここからの指示は出せないはずだ。あとは此処から詰所へ向か……うっわ!?


「やべぇ!!」


 慌ててベランダのような場所から反対側まで逃げてその場に伏せる。程なくして爆音と共に爆風が塔の屋根を吹き飛ばした。


 僕が見たのは詰所方面から真っ直ぐ塔へと向かってくる爆炎を無理矢理球体に押し込めたような火炎球だ。あんなのイヴに決まっている……。もう此処がバレたのか?

 伏せた僕の背に塔の破片なんかが伸し掛かって来て非常に重いし、打撲とか出来てると思う……骨が折れなかっただけマシ、か。


「おい、お前等……」


 そういえば盗賊を転がしたままだったと顔を上げるが、4人とも死んでいた。爆炎に焦がされたり、瓦礫に押しつぶされたり……。僕が転がした所為だとは思わない。結果、そうなっただけだ。こうして手を合わせたからといって許されるとも思わないが。


「胸糞悪いな……」


 手下諸共潰しに掛かってくるか……最低だな。ダニエラと同じエルフとは思えないね。ダニエラの方が何百倍も良いエルフだ。


「ていうか、飛んできたのは詰所方面か……あっちに行くのは拙いな」


 本格的な殺し合いが始まってしまう。魔法勝負は相性的に不利だが、不意を突けば殺せる自信がある。だが、本当に殺してしまってもいいのか? ダニエラは一直線に殺しに行ったが……。

 しかしこうして考えている間にもダニエラにまで魔の手が迫っているかもしれない。殺すくらいの気持ちでいかないと本当に大事な物をこの手から取り零してしまうかもしれない。そうなっては僕は正気ではいられないし、死ぬまでこの世界で暴れてやる自信がある。


「殺そうとしたんだ……殺されたって文句は無い」


 スゥッと背中が冷える。鏡を見たら、きっと今の僕は殺人鬼の目をしてるだろう。


 殺される前に殺す。奪われる前に命を奪う。


 そう考えただけでどんどん心が冷えていくのがはっきりと分かる。

 ただその反面で、ダニエラを助ける。ダニエラを守りたいという気持ちも湧き出てくる。冷えた心に温かい気持ちが流れ込み、心という容量の中で二つの気持ちが鬩ぎ合う。


 人を殺したくない。ダニエラを殺されたくない。殺される前に殺す。ダニエラを助け出す。


 そうして混ざりあった気持ちと感情が一つの答えを導き出す。


「殺してでも、守る……!」


 ちっぽけな僕の、小さな決意。でも、その気持ちがスーッと体に染み込んでいく。すると不思議なことに、傷だらけの体に力が湧いてきた。立ち上がり、外へと出られる唯一の場所へ進むことに、何の躊躇いもなかった。今なら、あの火球も蹴り飛ばせそうだ。

 虚ろの鞄から藍色の大剣(シュヴァルツ・テンペスト)を取り出し、フードを深く被る。すると恐ろしい程の集中力が僕の体を制御してくれる。今なら、見えない剣も作れそうだ。

 噴き出た銀翆の風が服をバタバタとたなびかせるが、それすらも気にならない。寧ろ、風が心地良い。今なら、空も飛べそうだ。


 さぁ、反撃だ。イヴを倒してダニエラを取り戻す!

アサギが盛り上がっているその頃、ダニエラは目玉焼きを食べていた。


ダニエラ「モグモグ……焼き加減が素晴らしい……」

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― 新着の感想 ―
[一言] 盗賊から魔石を奪うのは良心が許さないのに一応本物の衛兵から食料を奪うのは許されるのか
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